ルイズは有頂天だった。
喉から手が出るほど使いたかった普通の魔法が、とうとう出来るようになったのだ。
夢中になった。
勿論、徹夜した。
魔法中毒という病気が新たに発見されたら、感染源は間違いなくこの瞬間のルイズだろう。それほど、彼女はひっちゃけになって魔法を練習した。
パチュリーが、読書を始める前にアドバイスをくれたのも大きかった。
それは丁度、【ロック】の魔法に続いて【アンロック】を習得しようとした時の事だった。
「覚え方が雑。」
続けざまにコモン・マジックを習得していき、天にも昇るような感覚を味わっていたルイズは、気分を台無しにされた。本気で呆れられている事が分かったので、結構傷ついた。
「…いきなり茶々入れしないでよ。練習くらい、好きにさせて?」
「はじめから色々手を出すよりも、一つのことを極める方が今後に活きるのよ。表面だけ撫で回すような真似は、少々品が無いわよ。」
「いいの、これはこれで!色々な魔法を使えた方が、カッコイイんだから。」
「……騙されたと思って、焦らずゆっくり練習してみなさいよ。イメージを膨らませながらね。下手に色々覚えるよりも、余程楽しいわよ?」
これは意外だった。まさかこのパチュリーが、楽しさを口にするとは。そこまで考えたルイズは、これが彼女なりの気遣いである事に気が付いた。
まぁ、こうも諭すように言われてしまうと反発心すら湧かない。ルイズは渋々とではあるが、素直に【ロック】だけをひたすら練習してみた。言わんとする事は、この中で自ずと明らかになった。
これだけを徹底的に理解し尽くせば、その逆をやる事は然程難しくないだろうと予測がついたのである。【アンロック】を覚える方が手っ取り早いが、遠回りを覚悟すればその必要が無くなるのだろう。
力んだり脱力してみたりと色々やっていくうちに、何となくそういう気がしてきたのである。実際に【ロック】だけを応用して解錠できる様になるのは、当分先のことだろうが……
教科書通りに魔法を使う必要なんて、どこにも無い。パチュリーならば、書き足すくらいの気持ちで読め、くらいは言って来そうなものである。
何となく考え方のコツが分かってきたルイズは、とりあえず今出来るコモン・マジックだけを、色々とやり方を変えて試してみた。
【ライト】は、かなり危険な魔法だという事が分かった。どれだけ明るくなるか試したら、強烈な痛みと共に目の前が真っ白になったのだ。こんな大事な注意書きが抜けているとは、あの教科書はちょっと不親切じゃ無かろうか。ハンカチで涙を拭き取りながら、ルイズはこの魔法を暫く使わない事にした。魔力のコントロールを上達させないと、何かの拍子で失明してしまいそうだ。
【ロック】に関しては、随分と考察が進んでしまい、ちょっと自己嫌悪に陥った。どんどん理解を深めて行けばやがて、扉以外のもの……例えば不都合なことを言う口を閉じさせる事も出切る気がしたのだが、考え過ぎだろう。この魔法の深堀りは後回しである。
【サモン・サーヴァント】は……教科書以上の事はわからなかった。何しろコレは、一回限りの使い切りを想定しているのだから。このままでは二回目以降を試しようが無いのである。コレを一回見ただけで改良するアイディアが浮かんだパチュリーは、今のルイズから見れば何かと紙一重である。
こうした中で、今のルイズでも何とか深掘りが出来そうなのは、小物を動かしたりする為の【念力】だった。
応用も何も無くコレは、自分を浮かせることも出来るんじゃない?
突拍子もない考えに思わず苦笑いを浮かべてしまったが……それとなく聞くと正解だと教えてくれた。
お陰でルイズは、喜び勇んで成功まで漕ぎ着けることができた。なかなかうまくいかず、タンコブだらけになってしまったが。
【念力】で空を飛ぼうとするなど、普通のメイジとは程遠い気もするが……ルイズは自ら進んで、コモン・マジックの深みに嵌まっていった。便利で効率の良い系統魔法に手を出してしまったら、二度とこの境地には戻って来れないと、本能的に感じたのだろうか。少なくともこの発想が、ハルケギニアでどれだけ稀有な事かくらいには、気がついたのである。
千載一隅とは、正しくこの事だろう。
ルイズは何度も何度も壁や天井との激突を繰り返して、ついにフヨフヨと浮くことに成功した。
そうして、今後開けていくであろう様々な【念力】の応用方法に想いを馳せるのだった。
「凄いわね……将来的には【エア・ハンマー】あたりまで代用できちゃいそうだもの。成る程、これはやり甲斐あるわ、ありがとね、パ……」
ルイズが感動をそのままに御礼を言おうとすると、パチュリーはとっくの昔に読書中だった。
いよいよ本格的に本を読み進めており、完全に物言わぬ人形と化している。こうしていると、アルヴィー並みに可愛い。思わず頬ズリしたくなるくらいだ。
そんな事を考えてしまうくらい、パチュリーはリラックスしており、無防備に見えた。いつも通りの仏頂面で、未だに外見からは何を考えているか分からないのだが……雰囲気が恐ろしく柔らかいのだ。恐らくコレが、此方へ来る前のパチュリー・ノーレッジの姿だったのだろう。
漸く、この世界の本に触れ、目的の一部を果たし始めたのだから、こうなって当然だと思えた。思えば随分と長く、自分に付き合わせてしまったものである。
ルイズはそぅっと扉を開け、部屋の外に出ようとし……この配慮の無意味さに気がついた。そんなタマじゃないだろう、と思い直したのである。目の前で戦争が起きても平然と本を読んでいそうなのが、この同居である。
何よりも……彼女の側にいる方が、魔法が上手くなる気がするのだ。そう思いたいだけかもしれないが…魔法はイメージだ、ならばこの直感には従った方がいいだろう。
「ちょっと煩くなるかもしれないけど、我慢してよね。」
ルイズはそう呟くと、いよいよ練習に集中し始めた。とりあえずの目標は、【念力】を極めることに決めたのだ。今の段階で浮くことにすら難儀しているのだから、道のりは長い。一秒たりとも時間を無駄にしたくは無かった。
その没頭ぶりは、どこかしら似た者同士な雰囲気を醸し始めていた。
こうして……ルイズ・フランソワーズの完全徹夜明けが出来上がった。人生初の事が重なり過ぎて、それはもう酷いものとなっていた。
ルイズは【念力】で浮かぶことをマスターして大変満足していたが、何故かそれ以上に満足げなパチュリーが目に入った。
自分の成長を喜んでくれているのだな、と思うと朝日の様な笑顔が浮かんでしまう。丁度、地平線が黄色く照らし出された時間帯だった。
「貴女もよく見ると、可愛いとこあるのよね。私に対する思いやりとか、そこはかとなく感じられてイジらしいわ。」
「……そこまで無防備だと、最早何の躊躇いも感じないわね。つまらない死に方されても拍子抜けだから、悪いけど私なりに対処させて貰うわよ。」
「はいはい、貴女が一体いつ何を躊躇わなかったのか、教えて欲しいくらいだわ。つまらない死に方って、一体何のことよ。」
「毒殺とか睡眠中の暗殺ね。」
「朝から爽快な話題を、どうもありがとう。」
ルイズは今、稀に見る精神状態なので、この程度の言葉のジャブは気にもならなかった。
それよりも、今。重要な問題が生じたのである。この時点で少しも何も感覚がおかしくなっていたと、後々後悔する事になるのだが。
「ああもう、貴女が食欲を刺激するようなこと言うから、お腹が空いちゃったじゃない。ちょっと早いけど、食堂に行ってくるわね。貴女のぶんも、こっちに手配するように言っておくわよ。」
「その必要は無いわ。私も一緒に行くから。」
ルイズは幻聴が聞こえた気がして、思わず顔をしかめた。
「……ごめんなさい、よく聞こえなかったの。もう一度言ってくれる?」
「貴女に同行すると言ったのよ。」
空耳でない事を確認したルイズは、愕然としてパチュリーを見つめた。そして、自分の早とちりに気がついて顔を赤らめる事になった。
「そりゃ、こっちの食べ物は初めてなんだから……食べてもみたくなるわよね。ごめんなさい………てっきり、食べるのも面倒くさがって本を読み漁るかと思ったのよ。ああ、これだから徹夜なんてするもんじゃないのね、自分でも何言っているかワケわからないもの。」
「……貴女、意外といいとこ突くわね。生まれつきとしか思っていなかったけど、普通に生まれていてもこうなった気がしてきたわ。こういうのを…」
「…鶏と卵って言いたいんでしょう?その諺くらいは知ってるけど、相変わらず何を言ってるかサッパリだわ。最早同じ言葉を喋っているのが不思議なくらいよね。まあ……今更気にするだけ野暮な話か。ところで、ものは相談なんだけど……」
ルイズは【ロック】が全然手付かずだったので、仕方なく物理的に部屋の扉を開けていた。【念力】を使って、開錠操作を行ったのである。細かい作業なので、かなりの集中力を必要とした。
そこから先が、大問題だった。
「私、一体どうやって食堂まで行ったらいいと思う?流石に張り切り過ぎて、【念力】で浮き続けられそうにないのよ。食堂へ辿り着く前に、私の魔力がスッカラカンになっちゃうわ。」
こういうところが、コモン・マジックが深堀りされず、系統魔法ばっかり発展しまう理由なのだろうな、とルイズは分析していた。
コモン・マジックは文字通り汎用的で色々な事が出来そうだが、専門性では系統魔法に及ばないのだろう。<飛ぶ>という行為に関しては、【レビテーション】や【フライ】の魔法でやってしまった方が、効率が良いのである。
「諦めたら?そうして貰えると、私も動かずに済むし。」
「何でそんな簡単に諦めちゃうのよ。…我が身の事のように自慢するけど、ここの料理人の腕は一流よ?貴女もそう言われると、料理を食べてみたくなるでしょう?」
「全然?私は単純に、使い魔として貴女の食周りの
「……何だか大げさな気もするけど、真剣さは伝わってくるわね。でも、このトリステイン魔法学院の食堂に、そんな怖い事がある訳無いと思うのよ。一体何をそんなに心配しているの?」
「私が特に気にしているのは、衛生状態ね。食堂ということは、当然厨房もあるのでしょう?そこは病原菌の宝庫と相場が決まっているから、管理が成ってないと経口感染症が蔓延する可能性があるのよ。衛生的に安全かを検査させて貰って、100%の安全性が確保できない場合には、その施設を丸ごと
「やっぱり変な知識だけはあるのよね。どうせ杞憂に終わると思うけど。まあ……検査だけで済みそうだから、一度やっておくと良さそうな話かもしれないわね。メイジから直々にそこまでして貰えたら、彼らもきっと嬉しいでしょうよ。最悪の場合でも、施設の消毒だけで済むんでしょう?」
「……よくよく考えたら、彼らも丁寧に消毒する必要があると思えてきたわ。空気感染なんてされたら、堪ったものではないし。……まあ、あくまで最悪を仮定しているだけだから、あまり深く考えないで。私も、
「……何だか、今のパチュリーってちょっと怖いわよ。食べ物ひとつにそこまで警戒するなんて…」
「残念だけどルイズ、これも全て貴女の為なのよ。ここはひとつ、苦しいと思うけど理解に努めて頂戴。食事は気をつけないといけないの。貴女の食事に関しては、毒殺の可能性も含めて厳密に対処させて貰うことにするわ。」
ルイズは頭を抱えた。まさか、食事ひとつにこれほど神経を使うことになるとは思わなかった。心理的なハードルが跳ね上がってしまった。
おまけに自分たちはいま、その肝心の食堂へ到達する算段すらついていないのだ。
「……まぁ、そこまでしてくれるのは大変嬉しいのだけど。ことはそれ以前の問題なのよ。そもそも貴女、検査したくとも検査しようが無いでしょう?私が案内してあげられない以上、食堂の場所すら知ることが出来ないんだから。これは困ったわね……昨日、面倒臭がらずにアルヴィーズの食堂を案内しておくべきだったわ。」
そうだ、そもそもの話である。食堂についてからどうするかよりも、まずは食堂にどうやって辿り着くか、そこに議論を集約すべきなのだ。
「そうよ。一先ず食堂に辿り着かない事には、話が始まらないのよ。私の【念力】が切れそうになったら、貴女が助けてくれればいいんじゃない?そこはちょっと、お願いするわよ。」
「ダメよ。私はこの問題に関しては、一切妥協するつもりは無いから。」
「何でそんなにムキになるの?良いじゃない、ちょっとくらいは。この通り、お願いします。お腹が減りました。」
ルイズは可愛らしく、ピョコリと頭を下げた。恐らく普段の彼女ならパチュリーが客人であるからこそ絶対にしなかった事であろうが…背に腹は変えられぬ気分だったのである。
「嫌よ。」
「何でよ、ケチ!ケチンボ!前言撤回だわ、貴女なんかぜんぜん可愛いくないわよ!可愛くないったらないんだから!」
「まあ、今の貴女が充分に可愛いらしいからね。釣り合いがとれて良いんじゃ無い?」
「クッ……そういう不意打ちは、ちょっと卑怯じゃないかしら?貴女、この問題の深刻さがわかってる?このままだと、二人揃って食事が取れないまま、餓死しちゃうのよ?!」
ルイズは色々と顔を真っ赤にしながら蹲り……そして、突如として閃いた。
「そうよ、歩けば良いんじゃない……」
何とも拍子抜けだった。そうだこんなのは、考えるまでもない。昨日までそうしていたんだから、その慣習に従えば良かっただけなのだ。難しく考え過ぎたのである。
ルイズは大きく息を吸って頭を切り替えると、胸を張ってこの新たな教訓を語った。
「そうか。成る程、そういうこと!貴女の言いたい事が良く分かったわ!」
「……別に何も言いたい事なんて無いんだけど。」
ルイズはフッと微笑んだ。
やれやれ、素直じゃないのはお互いさまねと、そう言わんばかりの達観した顔つきである。
「まだまだ貴女の領域には程遠いと、そう言いたかったのよね?いつの間にか魔法でどうにかする事だけ考えてしまっていたけれど……身の程を顧みず、浅はかだったわ。もう少し身の丈にあった思考を身につけるようにするわ。」
「……コレはちょっと、先行きが不安になってくるわね。今更寝ろとは言いたくないし……」
「ナメないで欲しいわね。今の私は、昨日までの私じゃない。使える物は、何でも使う。魔力が切れても、私にはこの肉体がある。そういう風にしていこうと思っているから。」
ちなみにルイズは今、大真面目な顔をして話している。本気で喋っているのだから当然だ。ルイズの頭の中では、間違った事は何も言っていないのである。
「別に貴女が飛ぼうが歩こうが、どっちでもいいわよ。」
「……ひょっとして貴女、私が羨ましいんじゃない?パチュリー、そもそも貴女は、歩いた事が無い。だから私のこの頑健な両脚に、嫉妬しているんだわ!」
「……最早ついて行けないんだけど。」
「しらばっくれる気?悔しかったら、その魔法を解いてみなさいよ?!怖くて出来もしないんでしょう?!まずはその、達者な頭を動かす前に足を動かしたらどうなのよ?」
「完全に意味不明ね。」
「恐怖を解き放つのよ、パチュリー!眠たげな顔をしている場合じゃないわ!目覚める時は、今…………ん?眠りを覚ます?…………あああああ??!!」
ここでルイズは、イキナ大声を上げた。まだまだ日が昇ったばかりの時間である。周囲は大迷惑だろう。狂人扱いされても、完全に言い訳出来ない状態である。
いきなり何だと聞かれるまでもなく、ルイズは勝手に喚き始めた。
「こうしちゃいられないわ!早起きの素晴らしさってものを、あの女に教えてやるのよ!」
素晴らしい事になっているのはルイズの頭の方なのだが、彼女はその事に気付けもしない。そもそも眠りもせず不健康な事をしているのは、自分の方なのに。
そうして、自室から文字通りに飛び出すと……隣屋の扉をドンドンと叩き始めた。【念力】で。
彼女は今、図らずも、これまで見下してきた魔法を無駄遣いするだけの貴族と全く同じ事をしていた。
これだけでも完全に狂気の沙汰であるのに、徹夜明けのテンションとは恐ろしいものである。
「起床〜〜!ゲルマニア人、起床〜〜〜〜!朝です!起きましょう!いつまでも寝ていては、不健康です!」
ルイズは嬉々として叫んでいた。
彼女の頭の中では今、悔しさにハンカチを噛み締めるツェルプストー家の才女の姿が、何十回も再生されていた。最早、シミュレーションは完璧である。
【アンロック】を覚えておかなかったのはこういう時に不便だったが…ルイズはそれでも、気を長く持って待つ事が出来た。
「うるっさいわね……昨夜から一体何なのよ……」
「おはよう、ツェルプストー。ご機嫌如何かしら?」
ルイズはウズウズしてきた気持ちを抑え、魔法を使う時を今か今かと待ち侘びた。そうだ、まだまだ眠いと零すであろうこの女を、【念力】でベッドまで運んでやるんだ!何て爽快な気分になる事だろう。
さあ、来い!言え!言うんだ!言いなさい!
「ああ……魔法が使えるようになったのね?良かったじゃない。」
「へっ?」
ルイズは全く予想外の反応に、ついて行けなかった。一体、何をどう間違えればこうなるんだ?!いやいや、そもそも何故、そのことを?
「な、何で、どうして……」
「じゃあ、出来ないの?」
「で、出来る様になったもん!見てなさいよね、今から、こうやって……」
「引っかかってくれたのは有難いんだけど、わざわざやる必要無いでしょう?」
ルイズは杖の様に見えるだけの棒切れを振って、逆に振り回されてズッコケた。コレは、昨晩のうちに持ち物から適当に見つけ出した、本物のただの棒である。異端視されるのを防ぐ為に急遽見繕ったのだが……実際に振り回すのは初めてだった。
屈辱だった。こんなの!こんな筈では……
「こ、こうなったらもう……こんなもの使わずにぃ……!」
「あのね。私も初めての後には病みつきになっちゃった経験があるから、そこらへんは良くわかるのよ。落ち着きなさいって。出来る様になったんでしょう?信用するから。」
「な、し、信用って!いいいい一体何を言って………!!」
「貴女が出来もしないことを、そんな自信有り気に事自慢出来る訳ないでしょう?」
ルイズは何だか、狐に化かされた様な気分だった。
それはそうだ。そんな器用な生き方など、したくもない!しかしこれは、一体どういう事なんだ?どんな魔法を使えば、こんな……
「あ、当たり前よ。そんな事するくらいなら……って、いつから知ってたの?!」
「昨日から。噂になってたわよ?ゼロのルイズが、メイジを召喚したって。その時点で一つ成功してるんだから、その後成長しても不思議じゃないでしょう?……まあ、そういう訳で、お休みなさいね。」
そう言われて内側から【ロック】を掛けられてしまうと、今のルイズにはお手上げだった。
くっそ!こんな筈では無い、こんな筈では無かったのに……!
全ての成り行きをただ見ていただけのパチュリーが呼び掛けてくるまで、完全に茫然自失としていた。
「一体何だったの?」
「……隣の家の人。」
「こういうのは、隣室って言うんじゃないの?何やら曰くありげだったし。」
「……もう、無くなったわ。少なくとも私の中ではね。さて、それじゃあ行くわよ、食堂へ。」
ルイズは完全に気勢を削がれ、しずしずと歩き出した。
こんな筈では無い、本来なら今頃、涙を流してこれまでの愚を詫びるツェルプストーに、苦しゅうないぞと言っていた筈なのに。……徹夜明けのそうした浮ついた気分は、最早蒸散し切っていた。
「……やむを得ないわね。」
思わぬ失敗に打ちのめされたルイズに、隣でフヨフヨ浮くパチュリーが密かに赤く輝いた事には気付ける筈もなかった。