そんな中でこっそり動く二つの影
その二人が向かう先にあるのは……
「司令官、ちょっと呑みすぎじゃない? ペース配分って知ってるかな」
「そういう響だって顔が赤くなってるぞ。そろそろ、水にしたらどうだぁ?」
どこぞの軽巡が騒がしくなる深夜近い時間、食事処 鳳翔で彼らは日々の疲れを癒すため、酒という道楽に興じていた。
ここの店主でもある軽空母の鳳翔さんは、間宮さんと新メニュー考案のために厨房にいる。
普段は艦娘たちが憩いの場として利用しているこの場所も、今日は珍しくお客がおらず、ガランとしている。
「自分の顔、鏡で確認してみたら? それと、明日の業務に支障があっても介抱しないからね」
そんなやり取りの中、店の扉がカラカラと音を立てて開いた。
「すいません、まだやってたりしますか?」
「おお、お客さんだぞ響。接客だ、接客! 駆逐艦、2名入りま~す!」
誰もいないはずのお座敷に向かって叫ぶ司令。その横から、手招きをする響。新たにこの鎮守府に加わった二人が困惑するのも無理なかった。
「それで、君たちの名前は……確か……」
頭を抱えながら指差す司令官の横に二人は座った。
「秋月っ!」
「照月だよっ!」
「初月だっ!」
「涼月です。提督」
名前を間違えられた秋月型の二人は怪訝そうな顔で答えた。
「酔ってて頭がうまく働かない。それを考慮しても今の発言は提督としてどうかと思うよ?」
「酔っとらんわ! 失礼だな、お前も……」
響の鋭い発言も酔いの回った提督に刺さることはなく、右から左へと流れていく。その横で用意してもらった簡素な夜食で腹を満たす照月と涼月。
「そういえば、提督。そちらの響さんとは長い仲なのかい? 他の艦娘たちから聞いたよ」
姉より先に盛られた皿を真っ白にした涼月が口を開く。それを見て、負けじとペースを上げていく照月。姉としての威厳を保とうとする姿がそこにはあった。
「比叡さんとか霧島さんからも聞いたよ! 自分たちが配属したときから二人は一緒だった、って」
頬にご飯粒をつけて語る照月。そこには、かわいいと思わせてしまう何かを感じた。
「そうか、比叡も霧島もあの事件の後から入ったんだったな。……最初は、こんなに仲良くなかったんだぜ? 俺と響」
「そういえば、そんなこともあったね。なつかしいな……」
互いに顔を見合い、しみじみとかつての出来事を思い出す。
そんな二人を見て、腹を満たした照月がぐいぐいと食らいついてきた。
「提督! 響さんとの出会い教えてくれませんか!? 私、気になるんです!」
「ちょっと、姉さん。そういう事は気になっても聞かないものだよっ!!」
姉より優れた妹など……という言葉があるが、この二人の間ではその意味をなさないようだ。
「まあいいさ。今は気分がいいからな。もう片方が拒否するならやめるけど……」
そのもう片方に目配せをする。
「私も別に構わないよ。逆に司令官がどうやってあの頃を話すのか、興味がある」
響からの合意は得た。聞き手の照月がワクワクを抑えきれない、といった様子が見える。先ほどまで反対していた涼月も姉と同じ反応をしている。やはり姉妹、ということを感じさせてくれた。
「えっと、確かあれは……三年、いや五年前の春だったか……」
「ここまでがこの鎮守府の施設の紹介です。何か分からないことはありましたか?」
こちらを振り返って大淀は髪を耳にかけながらそう聞いてくる。
「いや、大丈夫だ。あらかたの事は把握できたし、不明なところはこの書類に全部載ってる」
俺は手に持ったクリップボードを叩いてみせる。
それを聞いて彼女は、分かりましたとだけ言い、すたすたと廊下を歩いていった。
恐らくは、この後に控えている新司令官就任のための舞台を整えに向かったのだろう。
「さて、どうしたものか……」
手元にある予定表に明記してある時間までまだ少しある。
ここで早めに行って他の艦娘たちに迷惑をかけるのは気が引けるし、かといって提督室でジッと待機しているのもそれはそれで勿体無い気がする。
頭を書きながら外の景色に目をやる。
「…………あったな、行く場所」
「ここも大分変わったな……」
どこまでも広がる青い海と、その海が起こす波を一身に受け止める埠頭が目に入ってきた。
数年前の戦いから考えると想像も出来ない光景だった。
ふと、辺りを見ていると一人の少女が埠頭の先端に座って遥か遠くの水平線を見ていた。
肩まで伸びている髪は日本人のものとは違い、白く透き通っていて背格好はまるで小学生のよう。
頭にちょこんとのった帽子もそれを感じさせる。
周りに誰もいない、そんな状況と興味心から俺は彼女に声をかけた。
「それが俺と響の出会いだったなぁ……今思うと」
「提督はその時、何て言ったんですか?」
照月が見た目の歳に相応しい反応を見せ、グイグイと食いついてきている。
涼月からの仲裁もないということは、彼女も気になっているのだろう。
「そこまでです」
話さなければならない空気を遮ったのはこの店の主、鳳翔さんだった。
「駆逐艦のお二方はもう寝なきゃいけない時間ですよ」
時計を見ると、短針は1の数字に近づきつつあった。
「ほんとだ。お前たち、明日は鳳翔さんと一緒に海上護衛だろ?この話はまた今度な」
俺は艦隊の母から差し伸べられた助け舟にありがたく乗り込むことにした。
その言葉を聞いて、照月は唇を尖らせてみせて涼月とともにこの場を去った。
「自分で中断させておいて今になって後悔してきました……」
空になった食器を片付ける鳳祥が残念そうに、だが楽しそうに話す。
「あの後のことも、聞きだしておけばよかったですね」
俺は時々、この人がどこまで冗談を言っているのか分からなくなる。
どの発言が本当でどの行動が嘘なのか…………
「……それを聞いても誰も得しないし、雰囲気をぶち壊すだけだ。そう思ったから言わなかったんだ。たとえ、鳳祥さんが止めなかったとしてもその事実は変わらない」
俺が響にかけた言葉は……
その考えを遮るように酒を口に放り込む。
ちらと横を見ると、当の本人は頭を伏せている。
髪の隙間から見える赤く染まった耳を確認、頭を撫でて眠りを助長してやる。
再び俺は、酒に手を伸ばした。
お久しぶりです。
書き始めたのは去年の10月、出来上がったのは今年の5月。
約半年の間、何をしていたのか……
軽くスランプになって、二話くらいがボツになってました。
リアルが忙しくなったこともあり、その事情が積み重なって今に至ります。
さて、ここから物語を大きく動かそうと思っているのですが
この主人公の過去をこの作品の中でやるか、別の小説を作ってそこで書くか迷ってます。
個人的には後者を選んでいるので十中八九そうなるのでしょう。
さて、頭の中にはきちんとした線が引かれているのですがそれがうまくいくか不安でしょうがありません。
あと、戦闘シーンも挟みたいのでそこらも勉強しなきゃです……
次がいつになるか分かりませんが、あがってたら見ていただけると幸いです。
ではまた。