本来、夏イベ終了時に書き上げようとしてたんですが気づけば秋刀魚が終わった後になってしまった……。
まぁ、いい。
とりあえず、大まかなストーリーは作ったのでゆるいやつを交えながら進めていきますので、ゆっくりと見ていってください。
海防艦が出ない秋刀魚イベでした……
艦隊も忙しくなり、鎮守府内に人の姿が見えなくなる昼過ぎ。潮風が心地良いそんな時間帯に廊下を歩く二人の駆逐艦がいた。
「響さん! 聞いてくださいよ。しれぇがまたセクハラしてきたんです! どうにかしてくださいよぉっ!」
「残念だけどそれは無理な相談さ。あの人に目をつけられたら気が済むまで逃がしてはもらえないよ。やめてほしいんだったらまず、その服をどうにかすれば?」
「これは戦闘服です! しれぇからもらった大切な物なんですよっ!」
そんな話をしながら響は雪風と提督室の前で別れた。あんなことを言いながらも雪風は笑っていた。それはここの司令官だからこそ、と言えるからだろう。彼にとって、そのセクハラまがいの行為がスキンシップに近いものだということを皆知っていたからだ。自分にとって当たり前であることを考えながら、司令官のいる部屋のドアノブを回した。
「司令官、他の娘へのセクハラもいい加減にしないと私も怒るよ?」
そう言って入ったとき、響の目の前には知らない男が立っていた。
「あ、怪しい者じゃないよ?決して……」
怪しい。黒い帽子にサングラス、口を覆うマスクといういかにもな不審者がそこにはいた。
「へぇ、そうかい。じゃあ司令官の机を漁っていたのはなぜかな? 教えてもらえると嬉しいんだけど」
「それは……言えない」
ますます怪しいぞ。室内だけど、艤装を展開するか……。
「警戒しなくて良いぞ。あいつは俺のダチだからな」
頭にポンと置かれた手と同時に背後から声が聞こえ、その声に呼応して不審な男の顔に安心が見えた。
「お前が来る前に仕掛けを完成させようと思ったんだが……。そのお嬢ちゃんが入ってきて、ちと予定が狂っちまったのさ」
「わざわざそれを待ってやったんだ。感謝しろよ、不審者さん?」
「司令官、この人は一体全体誰なんだい? 紹介してくれないか?」
二人の会話を聞いたからなのか響も身を乗り出してきた。
「そうか。響は長期遠征で留守にしてたから知らなかったな。こいつは田辺 明弘(アキヒロ)。舞鶴の鎮守府を何故か指揮している提督で、俺とは昔からの馴染みなんだ。頭の固いやつが多いこの世の中では珍しく話の分かるいいやつだよ。」
皮肉の混ざった言葉をアキヒロは得意げにしながら聞いていた。
「提督だったのか。無礼な態度をとってすまなかった」
その発言からはとても反省しているとは思えないだろうが、これが彼女なりの謝罪の形だ。
「よしてくれ。それに勝手に忍び込んだこっちが悪いんだから。君が謝る必要は微塵もない」
「それで、”査察”のほうは順調か?うちの鎮守府はどんな評価になってるか教えてくれ」
響とアキヒロを遮って”うちの”司令官が間に割って入ってきた。
「黒か白かで聞かれれば、間違いなく白さ。後は、司令官様のセクハラがなくなれば汚れなき白になるんだがなぁ。まあ無理な話か」
司令官の問いにアキヒロは恨めしそうに、だが軽い口調で答えた。対して二人の友情に混ざることの出来ない彼女がいた。
「査察ってなんだい?仲がいいのは嫌と言うほど分かったから私も会話に入れるようにしてくれ」
眉をしかめる響を見てアキヒロは呆れた顔をしてみせた。
「なんだ、秘書艦なのに教えてもらってないのか。本当に困った司令官だな、お前は……」
照れながら頭を掻く司令官、それに対して咳払いを一つしてアキヒロは語りだした。
「さて、どこから話したものか……。さすがに君でも”ブラック鎮守府”という名前は知ってるよな? 俺は全ての鎮守府が黒くないか調べて回る調査をしてるのさ。つまり、俺の役職は提督兼捜査官ってわけさ。こう見えて出来る男なんだぜ?」
軽い自己紹介と自己評価を述べて誇らしげにする彼だったが、それと同時に自分が馬鹿な男だとアピールしている。少なくとも響には、そう見えた。
「そういえば、お前の秘書艦はどうしたんだ? 舞鶴でお留守番でもしてるのか?」
アキヒロが返答をしようとすると同時に、背後の扉が勢いよく開いた。
「この……クズッ……! 私を……置いてくなんて……。なに考えてんのよぉっ!」
「噂をしたら来たぞ。遅かったな、霞」
アキヒロを罵る声の主の正体は朝潮型駆逐艦の9番艦、霞(かすみ)だった。両膝に手を置いて息を切らしている状態から見て走ってきたのだろう。上下する彼女の肩に手を置いてアキヒロが口を開いた。
「これがうちの秘書艦の霞だ。お前は知ってるだろうが、響ちゃんのために一応教えとくな。霞は口が悪い。何かあるとすぐに暴言を吐く娘なんだが、本人は悪気は無いんだ。誤解しないでくれ」
「構わないさ。私だって時々、相手を苛立たせる話し方をしているからね」
最初こそアキヒロに対して慎重になっていた響だったが、彼女の性格ゆえなのかすっかり打ち解けていたようだった。それを感じてかアキヒロは安堵の表情を見せた。
「心配は無用だったな。……それじゃ霞、帰るぞ」
「は? ……それ、本気で言ってるの?」
戸惑う霞を尻目にスイスイと扉まで歩いていくアキヒロには自由奔放の言葉が似合っていた。
「嘘をつく理由もないだろ。俺は長旅で疲れてるし、お前も疲れてる。つまりは、早めの休憩時間だってことだよ。……俺はしばらくこの辺にいるから、もし何かあったら訪ねてくれ。手助けは出来なくとも酒を酌み交わすことは出来るからな」
霞を強引に引っ張りながら話し、アキヒロは出て行った。
「それにしても、あのアキヒロ提督って色んな意味ですごい人だね。……秘書艦の方は大変そうだけど」
「まあ、あいつは場を和ませるのが特技だからな。酒とつまみさえあればあいつは無敵だろうさ」
昼に出会ったアキヒロについて、二人は書類を処理しながら話していた。陽はすでに沈み、外は暗く、どこぞの軽巡洋艦が騒ぎ出す時間になっていた。
「それと、司令官? 雪風にちょっかいかけるのやめなよ。他の人もそうだけど、結構な数の報告が来てるんだから……」
「しょうがないだろ。特に雪風は仕方ない。あんな服を着てるほうが悪いからなっ!」
「……それなら、もっとマシなのを着せればいいじゃないか。素直になるのが一番だよ?」
いつしか日常に変わった会話をする中で、響はある問題を胸に秘めていた。それは、アキヒロが去る間際に言った一言に大きく関係していた。
「司令官、”隷属鎮守府”って一体何なんだい?」
何かを思い出したらしく、アキヒロはすぐに戻ってきて司令官と響にこう告げた。
「あの”隷属鎮守府”のことは見張ってはいるが、気をつけろよ? 二人ともな」
初めて聞くその名称には少なくとも良い印象は受けなかった。そして、そう感じた理由はもうひとつある。
そのワードを聞いた直後の司令官の顔が今までに無いほどに怖かったのだ。そこには恐怖、怒り、憎しみといった表現よりも複雑なものが見て取れた。アキヒロのこともそうだが、今日だけで自分の知らないことがいくつもあったためか彼女の探究心が働いたのだろう。
最初は話すのを躊躇っていた彼だったが、響の押しに負けたらしくしぶしぶといった様子で口を開いた。
「……こういう話はあんまりしたくなかったんだが……。お前が知りたいんなら知識として教えるよ。ブラック鎮守府よりも質が悪く、大本営も手を出せない位置に存在している鎮守府の名称を”隷属鎮守府”と呼んでいる。そこでは酷い話だが、艦娘を……その……辱めたり、犯したりしているんだ。あそこは、人の尊厳とか権利といったものは一切存在しない無法地帯さ。俺たちが所属するこの横須賀にも、そういった鎮守府はいくつかある」
「……そういうことか。話しにくいことを強制させてすまない。……でもどうして、大本営は手が出せないんだ? そんなことは許されてはいけないはずだよ!?」
事の真相を聞いて響は珍しく興奮した様子だった。彼女は容姿こそ幼いが、想像はできる。こういった軍に関係するなら、なおさらの事だ。
「手が出せない理由はいくつかあるが、大きな点はそこが出している戦果だ。そういう連中は非難を避けるために必ず大きな利益を出す。そんな戦力を失いたくないために、上の奴等は力を行使できないんだ」
それを最後にその会話は終わった。それ以降、響からも指令からもその話題が振られることはなかった。
……だが後に、その鎮守府は予想だにしない形で耳に入ることになるのだが、それはまだ未来の話であった……