彼らの巣立ちを見守るために   作:ふぇいと!

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最終特異点の重大なネタバレにご注意ください




『浪漫』

 

 

 

 

出発してから、何日がたったのだろうか。

 

道中、幸運にも獣に襲われることはなく、食料も飢えない程度には見つけられた。いい水場も見つけたし、此処を取り敢えずの拠点にしようかと思う。

 

近くに大きな無花果(いちじく)の木がいっぱいあって、それも決め手の一つ。秋になったら実るだろうし、それを気長に待とう。

 

此処は冬が明けたばかりだというのに、雪が残っていない不思議な場所だ。大して暖かいとも感じないけれど──なにか不思議な力が働いているのかもしれない。

 

僕がいるのは、見つけられたのが運命に感じられるぐらい木々で巧妙に隠されていた小さな湖の近く。

 

五感が冴えている動物たちでさえ見つけるのは困難なのか、此処にやってくる獣は数えるぐらいで、とても静かだ。

 

狩りの事を考えるなら動物が来ない水場はどうかのかと思うけど、寝床とする分にはこれ以上ない秘境。

 

近くには此処とは逆に動物たちでごった返している水場があるらしくて、それもこの湖が知られていない原因だろう。

 

そして勿論、そっちの水場では狩りがしやすい。つまり、二つの『いい水場』を同時に見つけることができたということ。やっぱり僕は運がいい。

 

──でも、寒いのは変わらない。

 

もうすぐ春になるというのに、やっぱり凍えはおさまらなくて。

 

体の芯から冷えるような心地。冬みたいに身震いしちゃうわけじゃないんだけど、この感じは『寒い』と表現するのが一番合っている気がしたんだ。

 

──ああ、暗くなってきた。取り敢えず、薪を集めよう。

 

光の無い夜は怖い。寝ている間は無防備なんだから、その間に襲われては堪らないんだ。

 

僕より強い動物たちだって、寝るときは皆で寄り添って──あるいは、見張りを立てて寝る。

 

でも、僕には彼らのような野生の勘も、鋭敏な五感も、寄り添ってくれる仲間も居ないんだから仕方がない。

 

今は木を使って作るこの『光』が唯一の頼りだ。動物たちはこの『光』を嫌う。非力な僕が持てるただ一つの武器。

 

子鹿にだって蹴られたら死にかねない僕だ。

 

…本当に非力。僕以外に僕と同じような生き物を見かけないのは、きっとそれが原因なのかもしれない。

 

実力のない存在はこの世界で生きていけない。僕には鹿たちのように長時間走る力もなければ、狼のような鋭い牙も、熊のような圧倒的腕力もない。

 

つまりは、劣等種。ともすれば僕は、最弱の種族最後の生き残りなのかもしれない。

 

──ああ、寒い。

 

くるりと鹿の毛皮に包まる。そのまま草の上に横になった。

 

願わくば、今日も平穏な眠りを。

 

次の朝日を見ることが出来ますように。

 

 

 

 

 

 

「うん、いい感じだ。それにしても不思議だね、英霊でありながら成長するっていうのはさ」

 

カルデア内の霊基修復室──通称『合成部屋』で、アダムは種火の魔力を霊基に注入されながら言った。

 

現在、種火集めから帰ってきた日の夕方。

 

とは言っても、カルデアは世界の狭間を航行する存在であるが故に夕日こそ拝めず、なんなら時間すら曖昧なのだが──取り敢えず、人理焼却前に則って時間のカウントを行っている。

 

なんにせよ、今は夕方なのだ。カルデアでは、マスター達が食事や入浴をするこの時間帯に種火による英霊の強化や霊基再臨を行っていて、今はアダムが霊基の強化を受けていた。

 

『成長──とは少し違うと思いますよ、Mr.アダム。ご存知でしょうが、英霊は成長しない。貴方もそれは同様です。今やっているのは、貴方が持つ本来の霊基の復元に過ぎませんから』

 

「わかってないなぁ、ドクター。『復元』よりも『成長』のほうが浪漫があるだろう?それでよく『ロマン』を名乗れるね」

 

はぁ…と、心底呆れた様子で溜息をつくアダム。いつも人に優しい彼の辛辣な言葉に、ロマンはウッと唸った。

 

『…おっと、まさか今回も貶されるのか?『人』を愛しているアダムなら優しく接してくれると思ったのに…!』

 

「聞こえてるよ」

 

小声で呟くロマンだが、高性能なカルデア製マイクは些細な音すらも見逃さなかった。結局はアダムに駄々漏れである。

 

「…まぁ、貶されてしまうのは諦めるべきだね。少なくとも理性を携える英霊であるならば、君に強く当たって仕舞うのは仕方のないことなんだ」

 

『えと、それは…つまり?』

 

よく分かってない様子のロマン。まあ、いきなり『お前がぞんざいに扱われるのはそういう運命だからだ』なんて言われて納得できる方が危ないので、当然ではある。

 

「英霊とは即ち『死んだ英雄』。生前に正義を成したか悪を成したかは様々だけど、此処に喚ばれている以上、人理修復を望んでいるのには違いないだろう?」

 

『…ええ、カルデアの召喚システム・フェイトは、基本的に人理修復に賛成する英霊のみを選出しますから』

 

「ま、だからだよ(・・・・・)

 

ズバリそれ、と強調してアダムが続ける。

 

「──だって、問題の解決法は『黒幕を倒すこと』だけなんだ。君の正体(・・)に気づいても気づかなくても、生前に英雄として培った勘は『コイツが怪しい』ってうるさく鳴るのさ」

 

だって、眼の前に元凶が居るのだから。全くの別人であってもね──と、アダムは締めくくった。

 

『──っ──いつから』

 

「召喚された直後──いや、座にいる時からかな。別に、君は上手く隠してたと思うよ?実際、ギルガメッシュやマーリンも直ぐに気づけた訳ではないようだったし。ただ──」

 

──ちょっとばかり、相手が悪かったね。とアダムは告げた。

 

「昔はどうだったのか知らないけど、今の君は『人』だから…知りたくなくても僕は知らされてしまう(・・・・・・・・)んだよね」

 

『──どうするおつもりで?』

 

別室で待機しているから見えはしないが、ロマンの強張った顔が手に取るようにわかったアダム。

 

暴露されるかもしれない──そんなロマンの危惧を、しかしアダムは一笑して否定した。

 

「まさか、どうもしないさ。先に挙げた英霊()達も黙っているんだ。僕とは段違いに思慮深い英霊()達だから、彼らが言わないならそれが正しいんだと思うし」

 

『そう、ですか…』

 

「それに、大事な決戦前だ。不必要に立香たちの心を乱すのは良くないだろうしね」

 

ただ、と。アダムは天井に取り付けられたカメラの方を見やる。画面越しに交差した視線に、ロマンはたじろいだ。

 

「後悔は残すべきではないよ、ロマニ(・・・)。次の戦場は文字通りの地獄。特異点全てを越えてきた立香でも、確実に生き残れるかと問われれば否だ。伝えたいことがあってもね、伝える相手が居なくては意味がないだろう?」

 

何処か悲しげな表情でアダムは言う。その表情は、今まで見せてきた『アダム()』としてのものではなく、何処か見た目相応の少年のようにロマンは思った。

 

『…ええ、その通りですね』

 

諭すようにして言うアダムの言葉。表情から『彼』の実体験なのかもしれない、と当たりをつけたロマンは、神妙に頷く。

 

よし、ならいいんだ──と、アダムは嬉しそうに笑った。

 

「…さて、そろそろ行こうかな。他の英霊()たちとも出来るだけ話しておきたいんだ」

 

『──あ、一つだけいいでしょうか』

 

ぐっと背伸びをして立ち去ろうとしたアダムに、ロマンが急に呼びかける。えぇー、と言いながらもアダムは立ち止まった。

 

「なんだい?」

 

『何故、僕の事をご存知だったのですか?霊基に関してもそうでしたが、どうやって知ったのかが分からなくて…』

 

「──ああ、そのことね」

 

出口に向けていた体を翻して、アダムは再びカメラへと向き直る。再びロマンと視線が交差した。

 

「スキルさ。『起源者(アンセスター)』たるサーヴァントに、聖杯から与えられるクラススキル。自分の子孫に関しての全てを知り、彼らの持つ技術・知識全てを会得できる──という風なね」

 

『えーと、はい?』

 

「悪い言い方をすれば、子孫の打ち立てた功績の横領さ。君の正体を知っていたのは、僕が君の祖先だとされている(・・・・・)から。霊基について知っていたのも、その理論を組んだ研究者たちが僕の子孫だとされている(・・・・・)から」

 

何でもない風にアダムは言うが、それはどんなチートスキルなのだとロマンは考える。

 

スキルでありながら、騎士王の『全て遠き理想郷(アヴァロン)』やヘラクレスの『十二の試練』にも匹敵する性能だろう。

 

そんな──人類全ての技巧の会得だなんて。『人』という枠組みにはカルデアにいるような万夫不当の英霊達だっているのに。

 

そんな彼らの振るえる力を──その全てを扱えるなどと。文武共に敵う者などいないだろう。

 

『…それはつまり、武術も知識も人間の作ったものならば全てを体得できるということですか?』

 

「ああ。というか、召喚された時点でもう会得している(・・・・)と言った方が正しいのかな。君が思っているように、とても便利なスキルだろうが──残念ながら、僕に限ってはそうじゃなくてね」

 

申し訳ないね──と今にも言いそうな顔で、アダムは苦笑する。ロマンはそんな彼に首を傾げた。

 

『それは、何故?貴方の口振りから『子孫』にしか影響が及ばないのは理解していますが、それこそ貴方は始まりの人です。歴史上全ての人類の能力を行使可能なのでは?』

 

「確かに、このスキルは(・・・・・・)そういう効果だし、ちゃんと働いてくれてるさ。問題は別にあるんだよね…」

 

ポリポリと頬を書きながら言いにくそうにアダムは言う。そんな彼に、ロマンは益々首を傾げた。

 

『──?』

 

「まあ、つまりは──おっと、誰か来たみたいだ」

 

今まさに話しだそうと言うところで、アダムはふと気づいたように言った。ロマンがその言葉を聞き確認すると、霊基修復室の前に3つの魔力反応がある。ロマンはモニターの映像を霊基修復室前の物に切り替えた。

 

 

『──ええい、鬱陶しいぞ立香。無駄に令呪まで使って、お前は今が決戦前だと本当に分かっているのか?』

 

『それは、スカサハが「アダム()とちょっとばかり殺し合ってくる」とか言い出したからでしょうが!ただの模擬戦だったら別に止めなかったのに!』

 

『スカサハさん、私も先輩に賛成です。それに、失礼ながら「決戦前だと本当にわかっているのか」とは私達のセリフだと思いますよ!!』

 

『たわけ、本気でない戦いになんの意味がある。殺しあってこそだろう』

 

『これだからカルデア1のケルト脳は!クーフーリン[オルタ](オルタニキ)の方がまだ常識的だよ!』

 

 

ちょっとよくわからない状態になっていた。

 

『何やってるんだ彼女たちは…』

 

ロマンは頭を抱える。

 

スカサハの死にたがりは把握していたが、まさかこのタイミングでこうなるとは。

 

流石、カルデア内で本当は狂化(バーサク)持ってるんじゃないかと裏で囁かれているランサーは格が違った。こと強敵との戦いにおいては血の気が多過ぎるのだ彼女は。

 

「──ははっ、そうかスカサハか。種火集めの時も戦いたがっていたしね」

 

『残念ながら、この部屋の出口はあそこ一つだけです。つまり裏口からの脱出など不可能ということ──彼女たちが諦めるまで、扉のロックをかけたままにしておきましょうか?』

 

「いや、いい。寧ろいい機会だろう」

 

『いい機会?』

 

予想に反してスカサハを受け入れる気のアダムに、ロマンは当惑する。ぽかんとしている元魔術王(ソロモン)に、アダムは笑った。

 

「僕の戦術的価値を早く知りたいんだろう?なら、丁度いいって言ってるのさ」

 

丸型の目を細めながら、アダムはなおも悪戯な笑みを浮かべる。

 

 

 

「──僕がどれだけ役立たずか、実際に見た方が早いだろう…ああ、もちろん死ぬ気は無いけどね?」

 

 

 

 

 

 

 




・起源 EX
後世の者の源流たる証。『起源者(アンセスター)』の持つクラススキル。
子孫の打ち立てた偉業や築き上げた功績が多い程ーーあるいはそれが偉大である程にランクが上がる。
自分より後の世代にある子孫の修得した技術・知識を身につけることができるスキル。対象とする子孫は生死を問わない。
また副次効果として、子孫に関する全ての情報を獲得し閲覧することが出来る。
ランクEXともなれば、地球上に存在した全ての人類の技巧を網羅していると言っても過言ではないだろう。




2017年7月12日 『起源』のランクを A+ から EX へと変更。

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