ハジケリストの出がらし   作:字だけを載せる。

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ボーボボ達は昼食をすました後、それぞれ自由行動をしていた。






電化製品スケートの、巡るめく恐怖! 奥さん、冷えた白鳥はいかがですか?

喫茶店のテーブル席に座っている、二人。そこでは、ちょっとした修羅場が起こっていた。

「な、ボボ子。この通りだからよお…」

「や! もう別れるもーん」

ボボ子はプイッとそっぽを向いて、アイスコーヒーをストローですすった。

「そんなこと言うなよ、あいつとはもう別れてきたからさ…」

「パッチン、それ前にも言ってたじゃん! もう信じられないよ…」

パッチンと呼ばれたオレンジ色の彼は、焦った様子で頭をかく。

「マジで、ほんとにマジで浮気なんかしないって」

「なら、ボボ子のいうこと聞いてくれる?」

「お、おう。もちろん!」

引きつった笑顔を浮かべて答えると、彼は下を向いてほくそ笑んだ。金づるはまだ逃がすわけにはいかない。ほかの女と遊ぶためにも、財布のひもが緩いボボ子をここで手放すわけにはいかないのだ。

「それじゃあねえ、えっとー、確かこの辺にー…」

彼女は自分のバッグを探ると勢いよく大きい何かを取り出し、目の前にいるパッチンに投げつける。

「その冷蔵庫に乗って、町内一周して来いや!!」

「バハマ!!」

いきなり出てきた電化製品を受け取ることができず、彼は冷蔵庫とともに喫茶店の窓を割って飛び出していった。外を歩いていた数人が、彼の巻き添えを食らう。それを目撃した人々はその周りを取り囲み、だんだんと騒がしくなっていく。首領パッチは何事もなかったように起き上がって軽く体をはたくと、深く息を吸った。

「見せもんじゃねえんだよ!! 失せろやボケェ!!」

彼は目を血走らせながらわめくと、その場にいた人々は悲鳴を上げて逃げていく。

「ったく、野次馬どもが」

ブツブツと文句を言いながら冷蔵庫にまたがろうとしていると、急に腕をつかまれた。振り返ると、ボーボボがそこに立っている。

「お前、本当にジョッキーになるつもりか」

「チッ、またてめえかよ」

舌打ちをしながら、彼の手を振り払って再び冷蔵庫のドアに手をかける。だが今度は脇を抱えられてしまい、冷蔵庫から離されてしまった。首領パッチはジタバタと暴れるが、逃げることができない。

「こんの野郎、邪魔すんなって言っただろうが!」

「考え直せ! まだお前には若すぎる! この馬は、お前なんかじゃさばけない代物なんだぞ!」

「うるせぇ!! オレをなめんなあああああああ!!」

相手のあごを蹴り上げて拘束を解いた彼は、冷蔵庫にまたがって側面をたたく。すると冷蔵庫が馬のようにいななき、ひづめの音をさせながら滑り始めた。

「わらわは、あなた様には不釣り合い…どうか、分かってくださいませ」

首領パッチは涙をいっぱいにためながら、着物をなびかせて冷蔵庫に運ばれていく。その後ろから、甲冑を着込んだボーボボが色違いの冷蔵庫に乗ってこちらへ向かってきた。

「どこへ行くのですか、姫――――――ッ!! 私はあなたを! いつまでもお慕いしているのです―――――!!」

ホラ笛を吹きながら冷蔵庫の側面をバシバシとたたくと、冷蔵庫は苦しそうにいななきながら姫の方へと猛スピードを出して向かっていく。ようやく隣に並ぶと、ピストルがこちらに向けられていた。

「な、何!?」

「残念だったな、ボボボーネ。今日でてめえのハジケファミリーは、バァン! …壊滅さ」

いつの間にか着物を脱ぎ捨てていた首領パッチは、サングラスをかけて黒いスーツを決めていた。

「パッチーノ…裏切ったのか!」

「違うぜ、ボボボーネ。俺の名はドン・パッチーノ…我が新生ハジケファミリーの頂点に立つ男だ」

額にピストルを突き立てられるが、ボボボーネは不敵に笑っていた。

「フッ…お前がトップになったところで、ついてくる奴なんか一人もいねぇと思うがな」

「それはどうかな?」

パッチーノはサングラスを上にずらすと、前を向いた。そこには、見覚えのある人物が立っていた。

「ヘッポコーニ!? まさか! 奴は、ファミリーのナンバー2だったはず…!!」

彼はあたりをキョロキョロと見回して誰かを探しているようだったが、高速で近づいてくる二人を見つけ、目を飛び出させた。

「うわあああああ!! 何してんだ二人共――――――!?」

「あ、センパァーイ!!」

「は!? 先輩!?」

「きっと来てくれるって、そう信じてました――――――――!」

ボボ美が笑顔で手を振ると、横にいたパチ江が手を振り回しながら怒り始める。

「ちょっとアンタ! アタシのへっくんに、何色目使ってんのよ!!」

「ふーんだ! こういうのは、先に取った方が勝ちだもーん。っていうかー、パチ江先輩には彼氏いるじゃないですか~」

相手の言葉に、彼女は頬を染めて目をパチクリさせた。

「な、なんでアンタがやっくんのこと…」

「ウフ、やっぱりそうなんだ。ボボ美の勘、バッチシ当たっちゃった」

「あぁっ!? カマかけたのね、この卑怯者!!」

「てへ、ごめんなさいっ」

二つの冷蔵庫は二人の女子高生乗せたまま、勢いよくヘッポコ丸を追い抜いて行く。

「し、しまった!」

ヘッポコ丸は急いで冷蔵庫の後を追いかけ始め、ボーボボに向かって大声を出した。

「ボーボボさん、何遊んでるんです! あそこの喫茶店で待ち合わせって言ってたじゃないですか! ビュティさんも探してるんですよ!!」

しかし、答えが返ってこない。冷蔵庫の隣に並ぶと、彼らはようやく気が付いたようにヘッポコ丸の方を向いた。

「あなた、お弁当の販売が来たわよ」

「おお、本当じゃ。いやー、ここまで待ったかいがあったわい」

首領パッチは読んでいた新聞を畳むと財布から紙幣を出し、冷蔵庫から身を乗り出してヘッポコ丸に渡してきた。

「あのー、ミシシッピ弁当ないかのう。この駅の名物だと聞いておったんじゃが」

「ねーよそんなん!!」

「んだとコラァ! 駅弁のためにここまで来たんだぞ、なのに無いってどういうことだよテメー!!」

激怒した首領パッチは、相手の胸ぐらをつかんでぶんぶんと振り回す。それを見たボーボボが、困った顔をしてヘッポコ丸に話しかける。

「ごめんなさいね、この人駅弁大好きなのよ。だからそれのことになると、いっつもこうで…」

「ボーボボ!」

夫のことを愚痴ろうとした矢先、ヘッポコ丸の後ろからビュティが現れた。

「む、ビュティか」

「ビュティか、じゃないよ! 二人とも何してるの!?」

「よく聞いてくれた」

ボーボボは自分の口に作り物のくちばしをつけると、首領パッチと共に白い翼を広げた。

「僕たち、白鳥になろうとしているんです」

「無理だろ!!」

バッサリと言い放つビュティだったが、首領パッチは全く引かなかった。

「バカだな、信じりゃなんでも上手くいくっていうだろうが。何のためにオレ達がここまでやってると思ってるんだよ」

「見かけだけじゃん!!」

「形から入るのが基本だろうが!! なあ、ボーボボ!!」

同意を求めようとするが、彼は普段の姿に戻って首領パッチのことを見下すような目で見つめていた。

「はあ? 何言ってんのお前」

「ひどい…アタシとはお遊びだったのね! 死んでやる…アンタを後悔させるために、この中に入って死んでやるんだから!!」

泣きながら冷蔵庫のドアを開くと、天の助が体を折り曲げてぎっちぎちに詰まっていた。ドアが開かれたことに気が付いたのか、こちらに苦しそうな笑顔を向けてくる。

「お、奥さん…今夜のおかずに…ところてん、いかがですか…」

「何やってんの、お前!!」

ビュティが目を飛び出させながら驚いていると、首領パッチはその冷蔵庫を力強く蹴り飛ばした。

「ギャ――――――――――――!!」

彼を乗せた冷蔵庫は、空の彼方へと飛び上がって行ってしまった。

「天の助く――――ん!!」

「天の助――――――!!」

ビュティとヘッポコ丸が空を見て叫ぶが、冷蔵庫はもう見えない。どうやら、かなり遠くまで飛ばされてしまったようだった。

「アイツ、立派になったな」

「オレ達より先に白鳥になりやがるたぁ…ヘッ、見上げた根性だぜ」

冷蔵庫に乗っている二人も空を見上げ、なんだか寂しそうな顔をしている。

「首領パッチ君のせいだよ!!」

すかさずビュティがツッコミを入れると、彼女の前に新しい冷蔵庫が滑ってきた。

「え、何これ」

「それに乗るといい。次の町まではかなり距離があるからな」

「あ、ありがとう」

彼女は礼を言うと、目の前にある冷蔵庫に飛び乗った。後ろの方に座ると、ヘッポコ丸に声をかける。

「へっくんも、一緒に乗ろうよ。前の方、空いてるから」

「え!? あ…えっと」

ヘッポコ丸が顔を真っ赤にさせているのに気が付かず、ビュティは髪の毛を耳の上にかき上げながら隣の冷蔵庫に座っているボーボボの方を向く。

「いいよね、ボーボボ」

「うん、いーよ」

気の抜けた彼の返事に笑うと、ほら早く、とヘッポコ丸に再度声をかけた。彼は素早く冷蔵庫に乗り、高鳴る胸を押さえる。首領パッチはその様子を見て悔しそうにハンカチを噛んでいるが、誰も気が付いていない。

「ハイヨ、シルバー!」

ボーボボが叫ぶと冷蔵庫たちは一層スピードを増し、車道を滑って行った。

 

 

 

 

 


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