「視界良好、周囲に風なし」
壁の上に腹ばいになると青年は望遠鏡を改造して作られたスコープを覗き込む。
外壁の外には幾つもの巨大な影がある。
巨人だ。
だが…彼はそれに対して何の感慨も抱かずに自分の構える相棒を見る。
長さにして二メートル、重量にして12キロ以上ある鉄の塊である。バレット M82A1…本来ならばこの世界にあるはずの無い超大破壊力を誇るスナイパーライフルである。
ドキドキと心臓が高鳴るのを感じながら慣れた手つきで遊底を操作し辞書のように巨大な弾倉から初弾をチャンバーに送り込む。
「くたばれ化け物」
そう呟きながら引き金を弾くと耳が痛くなるような大きな銃声と共にスコープの中で赤い花が咲かせて巨人は倒れる。
バレットが撃ち出した12.7mmNATO弾が弱点であるうなじを吹き飛ばしたからだ。
いくら中型の巨人と言えども装甲車や戦車すら撃ち抜くバレットの前では紙も等しいものと言える。
「―」
蒸気を上げながら消滅していく巨人を一瞥すると青年は銃把を握りしめてセミオート機能によってチャンバーに装填された銃弾を引き金を弾いて撃ち出す。
青年の名はミハイル・レイトマン…。
駐屯兵団‐技術班に所属する転生者であると同時に武器の開発から販売まで手掛ける敏腕の武器商人であった。
彼の死因は試作銃の暴発によるもので、気がつくとこの世界―即ち進撃の巨人の世界へと生を受けていたのだ。
生前のミハエルは多くの兵器を開発、販売し戦場で多くの命を奪う事に加担した…。
この転生は神がミハエルに与えた罰だと悔やんではいたが、とりあえず気持ちを切り替えて生前の世界で自分が蓄えた知識と経験をこの世界で役立てないものかと奔走するようにしたのだ。
「中型巨人を一撃とは…相変わらず凄まじい威力ですね…。
ミハエル隊長」
轟音で鼓膜が破けるのを防ぐためにしていた耳栓を外したミハイルに同じく耳栓を外しながらそんな事を告げたのは亜麻色の髪を持ち、浅黒い肌をした女であった。
「グレイス、二人でいるときは呼び捨てで良いって言わなかったか?」
「そう言えばそうだったねー
ついついー」
頭を掻きながらニャハハハハと女は笑い声を上げる。
グレイス・リッカー。
ミハエルの同僚であり、幼なじみでもある。
「いや…まだまだだな、出来ることならシガンシナに現れたような超大型巨人を殺せるだけの武器を作りたいし、歩兵が携帯出来るものを作りたいな…」
地面に転がる大型の薬莢を拾いながらミハイルは呟く。
「それは難しいんじゃないの?」
「いや、材料さえあれば、威力の高く、尚且つ歩兵でも持ち歩く事が可能な新兵器を作ることは可能だ」
そう言いながら、ミハイルは手袋を嵌めてバレットを分解し始めてグレイスの視線に気づく。
「どうかしたか?」
「あっ、うん…あれからまだ一年しか経ってないんだよね…」
感慨深げに言うグレイス。
『俺にとっては一年も経っただよ…』
っと、ミハイルは思い強く拳を握る。
その一年があれば救える命もあったかもしれない…。
ミハイルはそんな事を考えながら目を瞑り一年前の出来事を思い返し始める。
今から一年前のある日。
工場都市付近の村でその日、ミハイルは祖父が鍛冶屋を営むグレイスの元へと訪れていた。
「しかし今までお前さんが持ち込んでくる構図を元に色々と作ってきたが…今回ほど無茶苦茶な代物を作らされるとは思ってなかったわい…」
作業台にに置かれた物を見て唸るように言葉を紡いだのはグレイスの祖父であるライズだ。
グレイスも彼と同様に先ほど完成したそれを見て、吐息を漏らす。
作業台に置かれたもの、それは銃である。
銃は現在、主流とされているマスケット銃に似ているがいくつか異なる点も見受けられた。
火打ち石がある部分にそれはなく、その変わりにレバーのような部品が取りつけられている。
そして、その脇には真鍮で作られた筒のようなものも見受けられた。
一週間前に「マスケットの威力を遥かに上回る銃を思いついた」と設計図を持ち込んでライズに作ってもらったのものだ。
「本当にこんなのでマスケットよりも威力は高くなるの?
確かに、装弾スピードは段違いになるとは思うけど」
っと、グレイスは訝しげな視線をミハイルに向ける。
「射程と弾速は間違いなく早くなっているはずだしな―
…ちょっと試し撃ちしてみようかね…」
っと言いながら超ご機嫌な足取りで銃と真鍮製の筒を幾つかを小袋に入れるとミハイルは移動を始めた。
耳をつんざく銃声と共に銃弾が撃ち出され、数百メートル先、木に引っ掛けられたら鉄板に穴が開く。
ミハエルはそれと同時に銃のレバーのような部品‐ボルト‐を操作して真鍮製の筒‐空薬莢‐を排出、既に小袋から装填済みだった実包を薬室へと送り込み引き金を引く。
それらはミハイルが前世の記憶を元に作り上げたライフルと銃弾である。
「なるほど…大した威力だわ。
でも、こんなものを作ってどうするつもりよ?」
そんな動作を見て驚きと怪訝な表情を入り交じらせてグレイスが口を開く。
完成した銃の威力を確かめるためにミハイルの後をついてきたのだ。
「確か明日にピクシス司令が会議の為にこっちの方へ来るだろ?
あの人にこれを見せて軍に取り入る」
「ちょっと待って…」
話についていけないとばかりにミハイルを手で制するグレイス。
「うん?どうした?グレイス」
「とりあえず、何の目的でそんなことする訳よ?」
「そんな事は決まってる」
尋ねるグレイスにミハイルは口元を愉悦に浮かべながら続ける。
「巨人を倒す兵器を造るために軍から支援を得るためにさ…」
「しかし…まさかザックレー総統の前でライフルの実演をさせられるとは思わなかったなー」
ウォール・ロゼ南端にある宿舎へと戻りながらミハイルは苦笑を浮かべる。
壁の外から兵団司令部に向かうピクシスへライフルを見せようとしたミハイルであったが会議までの時間が押しているとの事で彼に同行し、そのまま兵団司令部にある射撃訓練所で総統やら兵団のお偉い方の前で撃つことになったのだ。
「私はあの時、寿命が縮むかと思ったわよ」
等と言うグレイスも苦笑している。
「しかし…ライフルの増産も決まり、このまま行けば『バレット』も近いうちに駐屯兵団でも使われるようになるんじゃないかねー」
「それこそ、まだまだ気が早い話ね…」
玩具を前にした子供のように目をキラキラさせるミハイルにグレイスはやや呆れ顔だ。
だが、ミハイルの言うとおり威力、射程共に従来のマスケットをはるかに上回るライフル銃は現在、硬質ブレードや立体軌道装置に並ぶ対巨人用の強い切り札とは言い難いもののそこそこの戦果を挙げてはいた。
中、大型は無理でも小型種にはスチール・コア弾と呼ばれる特殊な銃弾を数発用いることで巨人を仕留めることが出来たのだ。
これまで、硬質ブレードと立体軌道装置を用いるか、榴弾を用いる以外に巨人に対抗する方法の選択肢が増えたのだ。
非常に喜ばしいことではあるがミハイルはそれで満足しない。
目標とすべきは持ち運び可能かつ一撃で巨人を仕留める兵器の開発。
そして全ての巨人の抹殺であった。
その目標に向けて歯車は静かに、だが確実に回り始めた。
もし、進撃の世界に現代の武器知識などを持ったキャラが転生したら面白そうだなっと思って書き始めた作品です。
話数は少なくなる予定ですが楽しんでもらえたら幸いです。