名探偵コナン〜新一の妹〜   作:桂ヒナギク

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29.ブラックジャック

 聡美と世良は駆け出す。

 悲鳴の元は女子トイレ。そこに、腰を抜かした女性と、個室に撲殺された遺体の姿があった。

「何があったんだね?」

 志村が遅れてやってきた。

「志村刑事、殺人事件です」

「何だって!?」

 驚いた志村が遺体を確認する。

「撲殺か」

「なんですか、今の悲鳴は?」

 店員が騒ぎを聞きつけてやってくる。

「あ……店員さん、実は……」

 志村が店員に遺体を見せた。

「……!?」

 驚く店員。

「な、何かの冗談ですよね!? ああ、ひょっとしてドッキリとか?」

 志村は首を横に振るう。

「残念ながら、本物の殺人事件です」

 志村は店員に警察手帳を提示した。

「私は警視庁の者です。すぐに店の出入りを封鎖して下さい」

「わ、わかりました!」

「ご協力感謝します」

 店員は駆け足で去っていった。

「さて、あなたのお名前を教えていただけますか?」

 志村は座り込んでいる女性に訊ねながら、立たせようと手を差し出した。

 女性は志村の手を取って立ち上がる。

米沢(よねざわ) 恵子(けいこ)です」

「遺体を発見した時の状況を話してもらえますか?」

「そ、その前におしっこの方を……」

 米沢は顔を赤らめながら言った。

「それでしたら、男性トイレをお使い下さい」

 米沢は男子トイレへと入っていった。

 志村は遺体を調べる。

 被害者は、小島(こじま) 百合子(ゆりこ)という名で、年齢は二十五歳。フリーのルポライターである。

 聡美は現場を調べ始めたが、特に気になるものはない。

「あれ?」

 聡美が現場を調べている間に、志村がいなくなっていることに彼女は気づく。

「蘭、志村刑事は?」

「志村刑事は平手さんに話を聞きに行ったよ」

「あ、そう……」

 聡美はスマホを取り出した。

 スマホで平手 歌子について調べる。

 平手 歌子は音楽活動をする際の芸名で、本名は公表していない。また、歌子には二卵性の双子の妹がいるようだ。双子の妹は、地方公務員らしいこともわかった。

 聡美はネットを閉じると、目暮に電話をかけた。

「なに? 平手 歌子を調べろだと?……うん、うん、わかった!」

 目暮が高木刑事に平手 歌子を調べさせると、双子の妹が米花駅前交番に勤務していることがわかった。その名は、伊上(いがみ) 恵子(けいこ)だ。

「ねえ、園子」

「なによ、聡美?」

「平手 歌子が盲目になったのって、誰かの仕業なの?」

「高校生の時にいじめが原因で失明したらしいわよ」

「それじゃあ、平手 歌子は今二十五歳……」

 聡美は考え込んだ。

「聡美、まさか平手 歌子を(うたぐ)って?」

「……ん? いや、違うよ。犯人の目星はついてるし」

「嘘でしょ?」

「本当よ」

 聡美が答えると、世良が問う。

「聡美は誰を疑ってるんだ?」

「伊上さんだよ」

「伊上? 誰だい?」

 そこへ、志村が戻ってくる。

「志村刑事、米沢さんが戻ってこないみたいだけど……」

「ああ、彼女なら体調を崩したんで、スタッフルームで休ませておるよ」

「連れてきてもらえますか? 事件の真相がわかったんで」

「なに? もうわかったのか?」

「はい」

「よし、それじゃあ連れてこよう」

 志村が米沢を呼びに行った。そして——。

「犯人がわかったそうですね」

「ええ。今回の殺害事件の動機は、平手 歌子が関係しています」

「平手 歌子?」

「盲目の歌手ですよ。お名前だけ伺ってると思いますが……、彼女が高校生の時にまで遡ります。彼女は当時、同級生にいじめを受けていた……」

「いじめ?」

「ええ。そして、そのいじめが原因で失明をしてしまった」

「それなら私も本人から聞いたよ」

 と、志村が言う。

「それを知った妹さんは、当時から調査していたのでしょうね」

「待って、聡美」

 と、園子。

「この場に平手 歌子の妹さんなんて」

「いるのよ。この場に。そして、その妹さんが、被害者を撲殺した。ブラックジャックでね」

「ブラックジャック?」

「袋状のものに硬いものをつめて作った即席の凶器のことよ。そうですよね、米沢……いや、伊上 恵子巡査!」

「……!? 私が殺人犯? ふん! バカも休み休み言ってほしいわ」

「あなたのことは全て調査済みです。あなた、平手 歌子の双子の妹さんなんですってね。今日は、被害者と歌子さんとあなたの三人でカラオケですか?」

「待って。私と平手 歌子? その人とは似ても似つかないじゃない」

「二卵性だから当たり前ですよ」

「……………………」

「あなたは被害者に対して強い恨み……歌子さんの失明の原因を作ったことへの復讐の念を持っていた。違いますか?」

「それが動機ってわけ?」

「ええ」

「ブラックジャックは? 凶器は何よ?」

「あなたが履いている黒い靴下では?」

「……!?」

 米沢、もとい伊上は膝をついた。

「彼女がいけないのよ? お姉ちゃんの視力を奪うから。それに、あいつ言ってたのよ? 本当はお姉ちゃんを殺すつもりだったって。酒を飲ませてベロンベロンに酔わせたら全部吐いたわよ。だから殺してやったわけ」

 ピシッ!

 聡美は伊上の頬に平手打ちをした。

「あなた、曲がりなりにも警察官でしょ? もっと他に方法がなかったの? 傷害でパクるとかさ」

「伊上巡査、あなたを殺人の現行犯で連行します」

 志村は伊上を警視庁へ連れていった。その時の彼女の目には、涙が浮かんでいたという。

 


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