今回は琥珀ちゃん視点です。
昨日の夜、黒崎君からメールが届いた。内容はさりげなく、だけどどこかキザっぽさを残したもので、一緒に商店街まで出掛けようというデートの誘いだった。
時間はお昼からで、商店街の入り口で待ち合わせ。この町の商店街はかなり広いので、多分ショッピングにでも連れていってくれるんだろう。
(う~ん……気は乗らないけど、折角誘ってくれたんだし、行こうかな)
とりあえず、彼にOKと返事を送って、明日の服を選ぶ。服を出そうとクローゼットを開けようとした時、ふとある事に気付いた。
(あ、あのカレー……絶対作ったのにあいつの所に持っていってないや……)
すっかり忘れていたので、気持ちの整理等も兼ねて、彼の家までジョギングに出掛ける事にした。
さっそく走りやすい青いハーフパンツと、いたらしい。白いシャツをクローゼットから取り出して、さっきまで着ていた桃色のパジャマを脱ぐ。
着替えを終えてから階段を降り、パジャマを洗濯機の中に放り込む。そしてすぐさま台所に向かい、棚から大きめのタッパーを取り出す。
続いてカレーの入った鍋の前に行き、玉じゃくしでカレーを
これで準備は出来た。さぁ、樹にこのカレーを差し入れて、どんな顔をするのか見てやろう。
カレーを袋の中でこぼさないように、ゆっくりと小走りで彼の家に向かう。時間を見ると、まだ六時を少し回った所だった。
この時間を選んだのはちょっとした気晴らしと、彼が十年前と変わっていないのならば、朝は苦手なはずだからという、ちょっとした悪戯心も込めてある。
あいつの生活は昔から、まるで機械のように決まっている。何時に何をするのかという予定が、全て
素直に尊敬出来るけれど、私から見ていると、まるで何かにがんじがらめに縛られているようで、正直つまらないし、落ち着かない。
でもあいつには、友達がいないし、探す意欲もないから、予定を乱す人が誰もいない。
それなら私が乱してやろう。乱して乱して乱しまくって、あいつが皆と話すようになる位、コミュニケーションを強要してやろう。
そう決意を固めた所で、樹の家に着いた。この時間では恐らく彼は寝ているか、起きたばかりだろうと予測して、あえてインターホンを鳴らす。
インターホンを鳴らして少し待つと、中から人が動く音が聞こえてくる。この家には彼しかいないから、音の発生源はすぐに分かる。
しばらくすると、明らかに不機嫌な顔をした樹が出てきた。やっぱり昔と変わらず朝が苦手なようで、慌てて着替えた感じが出ている。
彼も私が来たという予想はしていたんだろう。嫌な予感が的中したと思っているのが簡単に読める。案外難しい事を言っているようで、彼の思考は単純なのだ。
そして、そんな彼に明るく言葉を掛けながら、袋を差し出す。
「ようっ! この私が、休日に予定がない、可哀想な樹君に差し入れを持ってきてやったんだぜぇ。さぁ、ありがたーく受け取りなさい」
彼は露骨に嫌そうな顔をするが、流石に思い切り言うのは気が引けたのか、オブラートに包んで返事を返す。
「はいはい、ありがたや~、ありがたや~……で、これには何が入ってるの?」
「感謝の気持ちが足りないなぁ~、ほら、もっと心を込めて! じゃなきゃ教えなーい」
若干やり過ぎたかと思ったけれど、彼はそんな事を気にする性格ではないので、冷たいまでのスルーをする。流石の私でも不機嫌が顔に出ているだろう。
彼も、ここで私の機嫌を損ねる事が損な事は十分に分かっているようで、形だけを丁寧にした感謝の言葉を口にする。
「はいはい、誠にありがとうございます……で、一体何が入ってるの?」
ここですぐに答えてやる程、私は甘くない。少し間を置いてから、袋の中はカレーだと教える。彼はそれを聞いた瞬間、呆れたような表情をしたが、いつもの事だ。
「有り難く食べろよ~、後で取りに来るからな~、じゃあね!」
彼の返答を聞かずに、私は走り出す。この後の黒崎君とのデートを思うと気が重くなるので、その気を紛らわしておこうという考えだ。
ジョギングをして、心を落ち着かせた後、黒崎君との待ち合わせの時間が近付いている事に気付いて、少し驚いた。
正直な所、そこまで長く走った覚えはなかったのもあるけれど、樹の家でかなりの時間を過ごしていたみたいだ。
急いで家に戻って着替える。私がこっちに来てから、もう一ヶ月も経っているからかなり暑い。とりあえず、涼しそうな服装を選ぶ。
結果、私が選んだのは、薄いブルーのワンピースと、白いスカート。この服にした理由は、これが一番最初に目について、
服を決めたらすぐに着替えて、待ち合わせの時間に遅れないように靴を早めに選んで、歩き出す。
十分程余裕を持って商店街の入り口に着くと、既に黒崎君がそこに立っていた。
彼の服装は白いシャツにジーンズ。左手に赤い上着を持っていたから、暫く待っていて、暑くなったから脱いだ感じだろう。
「白沢さん、早いね。まだ十二時には少し時間があるのに……」
彼は私が早めに来た事に驚いたような顔をしていた。私以外にも、何人もの女の子と付き合ってきたんだろうけど、この反応から見て、皆は時間ギリギリに来たようだ。
「ううん、黒崎君も早いじゃん」
私がこう返すと、彼は笑いだし、そのまま二~三分は笑っていた。多分、女の子を待たせる訳にはいかないとか言うんだろうなぁ……
「女の子を待たせる訳にはいかないからさ。じゃあ行こうか!」
彼は私の予想通りの言葉を口にして、歩き出す。私もすぐに後を追うが、その前に彼が歩幅を私に揃えてくれた。
最初に立ち寄ったのは、予想通りのショッピングモール。私としてもオシャレはしたいので、黒崎君のこういった気遣いは凄いと思う。
……本当は顔と運動神経だけでモテてるんだと思ってた事は、彼にはこの先ずっと隠していないといけない。
そしてお店の中に入って少し経った頃、一着の服が目に留まった。
真っ白な、細かいフリルのついたワンピース。私は自分の名前に白という字が入ってはいるけれど、そのせいであまり白は好きじゃない。むしろ嫌いな方だ。
理由はこの髪の色とも被るし、遠くから見たら、光を反射し過ぎているんじゃないかと心配になるから。だから上には基本的には着ない。
でも、このワンピースからは、何故か不思議と目が離せなかった。自分の嫌いな色が、初めて好きになれた瞬間だった。
私がそのワンピースを見つめていると、いつの間にか黒崎君が横に立っていた。思ったより長い間、このワンピースに
「これ、欲しいの?」
黒崎君は私に優しく問い掛ける。正直欲しいけど、人に払ってもらうのは気が引ける。
私が大丈夫だと断ろうと思った時、黒崎君はもう、店員さんに声を掛けていた。
「すいません、この服いくらですか?」
「黒崎君! 大丈夫だよ、人に払ってもらってまでは欲しくないし……」
すると黒崎君は私の方に向き直って、こんな言葉を口にした。
「良いよ、折角一緒に来たんだから、払わせてよ。白沢さんみたいな綺麗な女の子に着てもらった方が、このワンピースも喜ぶよ」
相変わらずキザっぽさが目立っていたけれど、この時の彼の目はいつもよりも本気で、私は思わず口をつぐんでしまった。
その隙に黒崎君はワンピースを購入し、その袋を私に差し出す。
「黒崎君、ごめん……! 後で絶対に返すから!」
もう買ってもらってしまったので返す訳にもいかず、私は袋を受け取った。そしてそのまま、同じショッピングモールの中にあった、喫茶店に入った。
彼と二人、向かいあって座り、メニュー表を見る。やっぱり喫茶店なんだからケーキが主だった。
私はチョコレートケーキ、黒崎君はチーズケーキをそれぞれ注文した。そして、ケーキが来るまでの間は、学校での皆への態度の話をする。
「女の子達に好かれるのは嬉しいんだけど、たまに大変なんだよな」
「あ~……、確かに色んな人に好かれ過ぎても大変なんだよね~」
こんな話題でも話せるのは、私達が皆から話し掛けてもらえるからなのは分かっているけれど、たまに全部吐き出したくなる。そんな彼の気持ちはよく分かる。
そんな事を話していると、二つのケーキがやってきた。チョコレートケーキは小さいながらも、美しい見た目になるように、細部にも細かい装飾がされている。
チーズケーキも同じように、細かい装飾が施されており、見ているだけでも楽しい。食べるのが勿体ない位だ。
(今度、樹と来たいなぁ……あれ!? 何で今、あいつの顔が思い浮かんだの!?)
今は黒崎君といるんだから失礼だと思って、必死にケーキを食べる。ケーキはとても甘くて、口に入れたらすぐに溶けてなくなってしまった。
黒崎君のチーズケーキもそれは同じみたいで、彼も美味しそうにケーキを頬張っていく。
あっという間にケーキはなくなり、最後にコーヒーを飲んだ。コーヒーの心地よい苦味が、甘くなった口の中を程よく中和してくれる。
名残惜しいが食べ終わってしまったので、お会計を済ませてお店を出る。結局彼が全て払ってしまったので、申し訳なさが凄い。
お店を出た後は二人でブラブラと散歩をした。喫茶店で学校の話はしたので、この時にはお互いに好きな曲などの話を始める。
「へぇ~、白沢さんもその曲好きなんだな」
「うん、黒崎君も好きなんだね、格好いいよね~!」
意外な程に彼とは趣味が合い、話していて退屈する事はなかった。ふと時計を見ると、もう三時を回っている事に気付く。
そして、樹の家にタッパーを取りに行くと決めていた事も。あいつには、私の作ったカレーを美味しいと言わせなくては。
「ごめん、黒崎君! 私、これからちょっと寄る所があるから、先に帰るね!」
「あ、ああ! また一緒に出掛けような!」
彼の言葉に頷いて、私は樹の家に向かって走る。幸いな事に、黒崎君と別れたのは学校の前だったので、彼の家は遠くない。
樹の家の側まで来ると、彼が家の中に入っていくのが見えた。飲み物を二本持っていたので、多分誰かが家の中にいるんだろう。
(え? 樹に……あいつの家に人がいる!? あいつの家に来る人もいるんだぁ~……)
そう思いながら、私も玄関を開けて入ろうとすると、中から何かが倒れるような、かなり大きな音がした。
樹の家の居間にはいつも開いている窓があるので、そこから
すると中には樹と、なんと委員長の葵さんがいた。確かに葵さんが樹の家にいる事にも驚いたけれど、私が一番驚いたのは二人の体勢。葵さんが樹の身体を押し倒しているのだ。
(はぁっ!? 何がどうなってるの!?)
困惑しながらも、私は二人から目が離せなかった。まるで二人だけで全てが完成しているような、そんな景色に見える。……樹が彼女の下でもがいてなければ。
いつもなら、こんな状況を見ていると面白くて楽しいはずなのに、何故か心がざわついている。
あれこれ考えていると、樹と葵さんを見失った。どこかと探していると、玄関からとても楽しそうな顔をした葵さんが出てきた。
急いで隠れて、彼女の様子を
彼女が去った後、タッパーを取りに中へ入れてもらおうかとも思ったけれど、何故か入るのは気が引けた。
逃げるように私は家に帰って、週明けの旅行の準備をする。その後はお風呂に入って気分を変えようとした。けれど、心に残った、この嫌な感じは消えなかった。
それを忘れようと、私は二階へ行って、自分のベッドに潜り込む。しかし、いくら寝ようとしても眠くなる事はなく、その日は一睡も出来なかった。
そのため、自分のこの気持ちの正体を必死に考える事にする。一晩中考えに考えたけれど、今の私には、この気持ちの正体は分からなかった……
いつもにまして駄文ですかね、はい。まぁ、これが今の私なので、これから少しずつ上手く書けるように努力します。
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