僕と彼女の恋の色   作:AZΣ

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7話 修学旅行

僕達の学校の修学旅行は何故か早い。場所は普通に沖縄だが季節を考えると、何だか可笑しい気がする。

 

しかし行かない訳にもいかないので、早起きをして準備をする。

 

「はぁ~……何もこんな暑い時に行かなくても……」

 

けれど文句を言っても旅行の日程は変わらない。仕方なく、準備を済ませ、忘れ物がないか確認をする。……どうやら大丈夫だ。

 

溜息(ためいき)をつきながら、僕は家を出て鍵を閉め、ゆっくりと学校へ向かって歩き出す。

 

新緑の草木を眺めながら歩いていると、ある違和感に気付いた。いつも僕を振り回している彼女の姿がないのだ。

 

(あれ、あいつ今日は絡みに来ないのか……なんだか後々何か起こりそうで不気味だけど、今は胃痛の種がない静かな時を楽しんでおこうか)

 

そう思い直し、僕はさらに歩を進める。そうしてすぐに学校の形が見える。そう思えば、やはり近いのはいいなと思う。

 

しかし、例えば人と会いたくない時に家に引きこもっていると、学校からすぐさま連絡が来るであろう。違う側面から考えれば、家と学校が近いのは便利な反面、面倒な所もあると気付く。

 

僕はこんな風に、自分の中で色々な事を考え続ける時間が好きだ。いつも一人でいたから身に付いた考え方なのか、他の人には理解がしにくいようだ。特に沢山の人の中心にいる人達には。

 

彼女もそうだが、あんな風に人に愛想笑いを振り撒いて、一体なんの得がある? その時は持て(はや)されるけれど、結局は疲れるだけでいずれ自分から皆離れていく。

 

そんな分かりきった正解を探すのに一体何年掛けるつもりだ。分かっているのに孤独が耐えられない人もいるから否定はしないが、僕には正直な所、真似は出来そうもない。

 

こんな考え方をするようになってからは、人もさらに離れていくようになった。それでも僕は元々友達なんていなかったし、心を許せる人など今も皆無だ。

 

必ず人と関わる事になるイベントは早く終わらせるに限る。主に体力の温存のため、それと読書の時間に費やしたいのもあるが。

 

 

 

 

 

 

 

こんな風に自分と向き合っていると、すぐに時間が過ぎていく。いつの間にか僕は自分のクラスの列に並んでいて、同じ班の人達と、空港行きのバスに乗り込んでいた。

 

この学校は基本、男女合同の班編成だが、今年は学園長の鶴の一声で、女子よりも三時間は早い時間で男子は動く事になっている。多分、自分の娘に近付く輩が我慢ならないのだろうと、僕は考える。

 

過保護にも思えるが、それがきっと普通なのだろうと納得する事にした。僕には、普通の家庭がどんなものか分からないから。

 

そんな事を考えているともう空港に着いてしまった。ここでも班行動をする事になっていたので、この時僕は初めて自分の班の人達を見た。

 

しかし僕の周りには最早人はおらず、必死で少し先にいる学生服の団体を追いかける。

 

男子三人の班で纏められているのだから……そう思い僕は旅のしおりなるものを凝視する。すぐに僕の名前を発見すると、黒崎君が僕と同じ班だった。もう一人は黄村君という人らしい。

 

僕が慌てて彼等を探すと、黒崎君がこちらへ走ってきた。向こうも僕を探していたらしい。彼の後ろから眼鏡を掛けた男子も走ってきた。彼が黄村君だろう。

 

黄村君は、中肉中背で平均的な体つきをしていた。しかし髪が少し黄色がかっているのと、その日本人離れした顔が僕の目を引く。そして、彼が掛けている眼鏡と相まって、とても知的に見える。

 

「君が赤嶺君だよね? 僕は黄村(きむら) 龍馬(りょうま)。これからよろしくね!」

 

「あ、ああ、うん……」

 

彼はその知的な見た目からは、想像もつかない程親しみやすく、面食らった。しかし急に距離を詰めてくるのはあいつと黒崎君で慣れている。

 

そのまま少し遅れたが、僕達は無事に空港でパスポートを見せ、飛行機に乗り込む事が出来た。初めて空港からどこかへ行くためにかなり慌てた事は、僕の人生の汚点、即ち黒歴史として、永久に皆の記憶から抹消したいと思う。……決して叶いはしないのだが。

 

僕達の班は後ろの方で、僕は窓際、黒崎君が隣、そして僕の正面に黄村君の形で、指定席に座った。

 

人生で初めての飛行機だったが、黒崎君は女子がいないなんてつまらないと言って眠り、黄村君は他の班の男子達と、表情を目まぐるしく変えながら話している。

 

僕はと言えば、読書に時間を費やす。一応ゆっくり読もうと持ってきた、全八百ページは越える本を読み始める。

 

しかし、黄村君達の笑い声や奇声等で落ち着いて読めたものじゃない。仕方なく、僕も黒崎君を見習って、沖縄に着くまで眠る事にした。

 

一時間位眠っただろうか。時計を見ると十二時を回っており、皆が荷物を持って座席から立ち始める。そして紫藤先生の声が、僕に向かって響く。

 

「赤嶺! 早く降りろ、置いてくぞ!」

 

そう言いながらも僕を待っている先生。まぁ、生徒の誰か一人でも置いていった場合、この先生のクビは確定だろう。しかしここは、先生の顔を立てておこう。

 

そう思い、僕は一人、遅れながら飛行機を降りる。

 

上を見上げると、天気は生憎(くも)っており、写真で見たような空の青さを、この目で確かめる事は出来なかった。

 

しかし、こんな暑い時期に、一番暑い場所へ来ているという事を思い出して、晴れてなくて良かったと安心する。

 

とりあえず皆に追い付こうと、僕は急いで係員の人にパスポートを見せ、ゲートへ向かう。

 

ゲートの前に着くと、皆が班ごとに整列をして、先生からの指示を待っているようだった。勝手に動くのは流石にまずいと、彼等でも分かっているのだろう。

 

数分で黒崎君達を見つけ、その横に紛れ込む。それからすぐに紫藤先生が追い付いてきて、僕達に指示を飛ばす。その指示に従い、またバスに乗り込んだ。今度はホテルに行くそうだ。

 

バスの中でも、やはり皆変わらず眠ったり、友達同士で話したりしている。僕もやる事がないため、もう一度眠る事にした。しかし、今回は寝入る前にホテルへ到着したらしい。

 

今度は遅れないように、しっかりと準備を整えておいた。皆に続いてバスから降り、上を見ると、雲の隙間から、少しだけ太陽が覗いていて、僕達を照らし始めている。

 

そうして暫く空を見ていると、先生の班ごとの部屋や、動きを指示する声が聞こえたため、慌てて空から目線を先生に切り切り替え、話を聞く。

 

 

 

 

 

 

 

先生の話が終わるとすぐに、僕達はホテルの中へと向う。しかし真正面から見ると、かなり豪華なホテルだ。規模が広く、西と東に別れている。

 

どこかの貴族が好みそうな荘厳な造りで、中に入ってエントランスを眺めているだけで、数々の美しい絵画が目に入る。まるで美術館並みだ。

 

この絵画は全てレプリカだと、従業員の方が教えてくれたが、それでも美しいと僕は思う。そして、本来このホテルに泊まるために必要な金額を思い浮かべて、気が遠くなった。

 

暫く経った後、黒崎君と黄村君が僕を待っているのに気付き、急いで謝って、部屋へ向かう。

 

僕達の班の班長は、いつも自信があると思う黒崎君に任せ、僕と黄村君はその後を付いていく。彼は少し不満そうな顔をしたが、拒否はしなかった。

 

先生の話によると、男子の部屋は東のほうらしく、僕達は階段を登っていく。三階まで登ってきて、漸く部屋を見つける事が出来た。

 

黒崎君が鍵を使ってドアを開けると、部屋の中に入る。部屋の中はベッドが三つあり、ちゃんとトイレもあった。そして、この部屋にもきちんと絵画が飾られている。

 

黄村君はすぐさまベッドの上に寝転がり、外を熱心に眺めている。黒崎君はベッドに腰掛けながら、スマートフォンをいじる。

 

「そんな絵なんか見て、何が楽しいんだよ? こんなむさ苦しい場所で……早く女子達に囲まれてぇよ……」

 

黒崎君が溜息混じりにそう言う。彼にはこの絵の美しさが分からないのだろうか。まぁ、そんな人もいるのだと納得し、僕も話を切り出す。

 

「まぁ、分からないなら仕方ないよ。それと黒崎君、質問したいんだけど、葵さんの事、どう思う?」

 

「葵? ああ~……あいつに誘惑でもされたか? いやまさかな……え!?」

 

彼は僕の顔色を見て察したらしい。驚きの声を発する。

 

「その顔色だと当たったみたいだな……で、悩殺されたか?」

 

「されないよ、君じゃないんだから……どうしたら良いと思う?」

 

すると黒崎君は笑いを堪えているような顔をする。何故かと聞くと、とうとう彼は吹き出した。

 

「ははははは! だってお前があいつとくっつけば、俺が白沢さんを狙えるじゃん? 敵に相談してどうすんだよ、全く……はははははは!」

 

「仕方ないだろ……まともに話せる男子は今のところ、君くらいなんだから……」

 

僕がこう言うと、彼はますます笑い転げる。そして、そのまま笑いながら話し出す。

 

「ははは……で、あいつをどうするか、か……正直な所は俺には分からん!」

 

予想外の答えに僕は驚いて、理由を尋ねる。するとまたもや、彼の返答は予想外だった。

 

「だってあいつ、俺の事嫌ってるもん! 女たらしは嫌いらしくてな! まぁ、俺もあいつは好きじゃないけどな。なんとなくだけど」

 

葵さんなら、彼にも手を出していると思ったんだけれど、お互いに嫌ってるって……理由を聞いて、同族嫌悪だと思ってしまったのは割愛しよう。

 

「そうかい……まぁ、ありがとう」

 

「いや、お役に立てたならなにより……っははははは!

いやー、良いネタだわ……笑いが止まらねぇ……」

 

黒崎君との話は終えたが、彼の笑いが暫く部屋の中に響き続けた。あまりに長かったので、黄村君が心配して僕に聞きに来た程だ。

 

彼は心配ないと伝えると、黄村君も安心したようで、顔に満面の笑みを浮かべる。その後、流れで彼とも話をしたが、意外にも本の話題で僕達は気が合った。

 

暫く話をしていて分かったが、彼の表情は目まぐるしく変わるので、話す方も楽しい。彼の話も聞いていて面白いものだったし、仕草もかなり大袈裟(おおげさ)だったので思わず笑ってしまった。

 

時間はすぐに過ぎ、夕方に女子達は到着したらしい。明日は班行動があるので、その時にあいつにも会えるだろう。

 

旅行一日目で、僕はやっと一人目の、まともな友人が出来たと思う。そして、出来ればこの旅行中に、あいつの機嫌も直せれば良いなと思った……




えー、時期を早めにした修学旅行です。夏は終わりますが、夏らしいイベントがこの先もあるかもしれませんので、悪しからず。
それと、相変わらず更新遅くてごめんなさい……もっと頑張ろうと思いますのでよろしくお願いします。

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