弟はマのつく自由業、私はメのつく自由「いえいえ、王たる夫に永久就職です!!」 作:紗代
しまった、と思った時にはもう遅い。
そんなの今に始まったことじゃないけど。
「ゴホ」
苦しくてせき込む。けどそれがまた更に苦しくさせる。
してやられた。この間あったイシュタルが首謀者の「天の牡牛事件」。あの時は天災以上の怪物としてしかあれを見ていなかったため私はよく知らなかったことなのだが、どうやら思っていたよりやばいものだったらしい。倒されたことで神様方が集まって会議を開くほどの重要案件化してしまうくらい。
その会議の中では直接倒してしまったギルとエルゥに処罰を与えるべきかどうかという話だった。しかしある神がこう言った。
『いえ、それよりも処罰すべきは落陽の女神の方ではありませんか。彼女が牡牛を弾き出さなければあの二人が本気で牡牛を殺すこともなくウルクで抑え込むだけで済んだかもしれません。それに元はと言えばイシュタル様とギルガメッシュによる彼女を取りあっての口論が原因でしょう』
「いやしかし」とか「だが」とか渋る他の神様たちをよそに着々と話を進め最後は無理矢理丸め込んで押し通したその神様はどうやら殺すことも自分ですると宣言したらしい。
そしてそのせいで今現在私はこうして苦しんでいる。
彼の神様は、私を確実に弱らせ殺害するために「神の毒」を使った。神さえ死に至る猛毒。そんな恐ろしいもの、普通は持っているはずがない。しかし「半神とはいえ神を殺すのだから」とろくに許可も取らないままエレシュキガルの冥界から持ち出したものなのだという。
会議に使者を送ることがあるエレシュキガルが水鏡でギルたちに教えてくれたけど。もうその時には遅かった。
普段なら権能で浄化したり毒が回るのを止めたりできたのだろう。でもこの間の結界で結構使ったし、妊娠してて力は安定しないし、その安定しない力もお腹の今にも生まれそうな我が子を守るのに全部回してるから自分には回せない。
「ね、ぎる、えるぅ・・・」
「なんだ」
「っ・・・」
二人とも泣きそうな顔をしている。ごめんね。抱きしめたいけどもう腕に力が入らない。視界が霞む。終わってしまうかもしれない恐怖。意識が飛びそうになりながらそれでもと続ける。
「このこ、生まれたら。まっさきにだっこ、してあげて。・・・わたしにはもうできそうにないから」
「ああ」
「それから・・・・えるぅ、わたしたちのしんゆう。だいすきなわたしの、ともだち。ぎるを、おねがいね。あなたも知ってのとおり、このひと、つよいくせにさびしがりだから」
「・・・うん」
「ぎる、だいすきよ・・・だれよりいちばんあいしてる」
「ああ」
「それで、さいごに、このこ」
まだ、生まれていない愛しい我が子。最後だからと、全部声にしようと溢れる涙をそのままにして言葉を紡ぐ。
「ほんとは、抱き上げたかった。なまえを呼んであげたかった。いっぱいいっぱい愛して世界で一番幸せな子にしてあげたかった。ごめんね。もう私があなたにしてあげられるのはこの世に生んであげることだけ。こんな母親でごめんね。絶対に、幸せに、なるんだよ」
そうしてもうほとんど感覚のない真っ暗な世界で、それでもたしかに私は聞いた。我が子の元気な産声を。
ああ。
生まれてきてくれて、ありがとう。
そのまま私の意識は完全に途絶えた。
*****
一方、冥界。そこには一人の神が立っていた。
「どういうことだ?なぜ彼女がいない!?」
あの時確実に神の毒で殺したはずなのに!!そう苛立っているのは他でもないイノリを殺すことを神々に提案した神だった。
何故彼がここにいるのか。理由は簡単、死んで冥界に来るであろうイノリをわが物にするためである。
彼は一目見たその時から彼女に焦がれていた。しかし純粋な神故のプライドから半神半人たる彼女に自ら話しかけるような真似はしなかった。
やがて旅から帰ってきた彼女が本格的に「ウルク一の美女」と謳われ、功績から祀り上げられ神殿を持つ女神となったその時には既にギルガメッシュに先を越され、他の神同様に様々なものを入れ込んだ物を送ったが見向きもされなかった。
どうすればいい、どうすれば彼女を自分の物にできる。そう考えていた矢先好機が訪れる。そう、「天の牡牛事件」である。
そうして作戦を決行し、首尾よく進み彼女が死んだのも確認済み。後は冥界にやってくるであろう彼女の魂を自分の物にするだけだった。
それなのに、冥界に来るのは普通の人間たちだけで彼女はいない。
「お困りのようですね、冥界に探し物でも?」
そんな中現れたのはこの冥界を支配する女神エレシュキガルだった。普段なら近寄ることさえ忌避するものだが今回ばかりはありがたかった。
「ああ、実は・・・」
他の神たちから手を離れたこの案件ももう既に終わったことだからと全て打ち明けた。全てはイノリ欲しさに全て仕組んだことだったと。それを聞いていたエレシュキガルの表情がだんだんと消え失せ能面のようになりながらも目ははっきりと冷徹な炎を灯していることに、彼は気づかなかった。
「それで探しているんだが、彼女の魂は今どこに?」
「残念ですが彼女の魂はここにはありません。いえ、元々ここに彼女の魂を置く予定そのものがありません」
「なぜだ!?」
「さあ、それはお父様のご意向でしょうし私にはなんの連絡もありません。それよりもあなたは人のことよりご自分のことを気にした方がいいのでは?」
「は?なにを・・・っ?!」
自分の手首を拘束した鎖を解こうとするも余計に絡まり上へと引き釣りあげられる。そして穴を抜け地上に着くと、そこにはエルキドゥとギルガメッシュがいた。
「捕まえたよ」
そう言ってエルキドゥが全身を同じ鎖で拘束する。そして前のめりになると今度はギルガメッシュが口を開いた。
「話は全て聞かせてもらった・・・我のものに手を出そうとするどころか殺した挙句魂をわが物にしようなどとんだ外道な神もいたものよなあ?」
「ああ間違えたな。最早貴様など神ですらないただの堕ちた男か。まあ良い。疾く失せよなどとは言わぬ、時間をかけ徹底的にいたぶり尽くしてやろうではないか雑種」
その後、一人の神が姿を消した。
一応神殿あって様々な功績があって権能持ってるんだし女神様枠にもイノリちゃんは入ります。
バッドっぽいけどまだ終わりじゃないですのでご安心を!終わるのは神代だけです。
後結局この神殺し事件でエルキドゥは死にます。ギルが一人になっちゃうのは原作と変わんないです。