弟はマのつく自由業、私はメのつく自由「いえいえ、王たる夫に永久就職です!!」 作:紗代
そして今回も真剣なシリアス。そろそろシリアルコーンフレークが書きたいよ・・・
夢を見た。
現代じゃ動物園かアフリカくらいでしか見れないようなライオンの群れ。
もうほとんど見れない神殿や歴史的建造物。それらを一通り確認して《俺・私》は一息つく。そしてそこに鮮やかな緑の髪の親友と最愛の夫がやってくる。三人で冒険したり、今日あったことを話して笑い合ったり次は何をしようかと話し合う。
それからしばらくして、子供が出来た。最愛の人との間にできた愛しい我が子。元気に生まれてきてくれることを毎日祈り、生まれてくる日を心待ちにする。
生まれてきたら、真っ先に「はじめまして」「生まれてきてくれてありがとう」と声をかけよう。抱き上げて、眠れなければ子守唄を歌おう。気が早いのかもしれない、でもそのぐらい《俺・私》にとってうれしくて待ち遠しいことなのだ。
《彼女》は愛された。人にも神にも世界にも。幸せだった。
場面が切り替わる。《彼女・私》は殺された。名も知らぬ神によって。牡牛を殺した責任を取れと。神をも殺す毒が身体を蝕む。《私》のことはどうでもいい。それよりもお腹の子がどうなってしまうのかが恐怖だった。毒が下にいく前に我が子にありったけの加護を与え力尽きる。もう何も見えない中で《私》は確かに聞いたのだ我が子の産声を。
出来ることなら、抱き上げてやりたかった。母親らしいことをしてやりたかった。しかし、もう産むこと以外で我が子にしてあげられることなどない。無力な自分を恥じた。
そして、そこで俺も目が覚めた。おそらくあれは、シールダーの過去だ。
俺は最初これを見た時、なんて報われないやつなんだろうと思った。全てから愛され全てを愛し、待望の子供まで授かったというのに。彼女の愛想は仇で返され、実の子の顔も知らないまま出産と同時に力を使い果たし死んだ。
これではいくら愛されたと言っても割に合わないどころじゃない。
シールダー。バーサーカーの代わりに召喚され(バーサーカーもちゃんと召喚されていたが)俺たちを救ったサーヴァント。最初こそ邪険に扱ってしまったもののそれでもこんな俺の人となりを認め受け入れてくれたあいつに俺は絆され、同時に惹かれていたんだ。
じゃなきゃきっと俺はシールダーを使い魔として扱って極力話すこともせず、過去のことを聞いたり彼女が一人で行こうとするのを止めたりしない。
「はは、また報われないのか」
葵さんといいお前といいなんでこうも報われない恋をしたがるのだろうか、俺も。
「でも」
――――――だというのに葵さんの時と違って、どろりとした感情はほぼない。夫への嫉妬もある、なのにこんなに晴れやかな気持ちのままでいるのだ。
不思議なものだ。ひょっとしたらシールダーがああいうふうに俺をちゃんと見て理解してくれているからなのかもしれない。
――――――そろそろ俺もけじめつけないとな。
*****
遠坂の家に呼ばれ帰って私に待っていたのは、自分だけが知らない、自分にとって最悪の真実だった。
あの後どうやって禅城の家に帰ったのか、まったく覚えていない。ただ、両親を問い詰めたところ思い当たることがあるようで否定してくれなかった。
本当に、私の今までは一体なんだったのだろう。愛する娘を手放し、愛する夫に裏切られ、極めつけに自分以外の周りが自分の体質について知っていたことが・・・私だけが何も知らず今まで綺麗な箱庭で生きていたことがひどく私を追い詰めた。
そんなふうに沈む私に凛が近づいてきて覗き込んだ。
「お母さま、大丈夫?」
「大丈夫よ、凛。・・・・ねえ、凛はお母さまを置いていかないって約束できる?、あなただけはお母さまと一緒にいてくれる?」
「うん、約束する!置いていったりしないって!」
「そう、いい子ね、凛」
そう、約束したはずなのに。
*****
夜の公園。そこに彼は待っていた。
彼の抱える娘は意識こそないものの、寝息を立てて眠っているようだった。
彼から凛を受け取り抱きしめる。
彼――――――雁夜くんから連絡が来たのは凛がいなくなって1時間ほどした頃だった。凛を保護したとき、最初は私たちのいる禅城の家に行こうとしたらしいが聖杯戦争のマスターである自分が冬木から出て桜や私たちに何かあってはまずいからと、この前会った公園を選んだらしい彼は凛を引き渡すと安心したように一息ついてその場を去ろうとした。
「待って!」
「葵さん?」
「待って頂戴雁夜くん・・・・あなたも知っていたの?私の体質を、だからあなたもこんなふうに私に優しくしてくれるの!?」
「それは違う」
「ならどうして・・「あなたが好きだったから」え・・・」
「あなたが好きだったからだよ、葵さん」
そういう雁夜くんはひどく澄んだ目で真っ直ぐに私を見る。
「でも、俺にはあなたにそれを伝える勇気はなかった。いや、あったとしても言わなかったと思う。間桐に入った人は皆結局用済みになると蟲の餌になったから・・・俺の母親みたいに」
「!」
「俺は時臣に嫉妬していたんだ、あなたと理想のような家庭をもっているあいつに。けどもういいんだ。もう、俺も見つけたから。「自分のやりたいこと」と「自分の幸福」を」
「だから」と雁夜くんは続ける。その澄んだ目で私から目をそらさずに。本当はやめてほしかった。だって彼の言う事に見当がついてしまっていたから。
「ありがとう、葵さん。あなたは昔の俺にとっての光でした。どうか、凛ちゃんと幸せに」
やはりそれは事実上の別れの言葉だった。
それだけ言って、雁夜くんは本当に去っていってしまった。こちらを振り返ることもしない彼を私はただ見送ることしか出来なかった。
*****
禅城の家に着くと疲れがどっと押し寄せてきた。
やっぱり、何も知らずにいたのは私だけだった。弟のように思っていたあの子は私の知らない間に成長していた。
私だけが何も知らずにいつの間にか取り残されていく。時臣さんも、そしてこの子も。
横目で眠る凛を見る。そしてふと、魔が差した。
この子にもいつか置いていかれる?私は、この子にまで置いていかれるの?
実際今日、私は目を離した隙にこの子に置いて行かれたのだ。行き先さえ告げられることなく・・・・約束したばかりだというのに。
「なんで、私ばかり・・・」
「お母さま・・・?」
凛が目を覚ましこちらを見てくる。あの人と同じ澄んだ青い目をした・・・あの人と、おなじ。
「あ、ぇ?・・・お母さ、ま?」
「愛してるわ、凛」
青い目が私に向かって見開かれる。ああ、本当にきれいな青い目、あの人にそっくりな本当に本当に・・・・
私の手が食い込むにつれて暴れる腕や足なんてどうでもいい。だんだんと凛の目から光が無くなって虚ろになっていく。ああ、もう少しね・・・もう少しであなたは私だけのものになる。もうこれで置いてかれるなんて思わずに・・・
「お嬢様・・・っ!?凛様!!」
「誰か!誰か来て!!葵お嬢様が・・・・」
近くを通った使用人に取り抑えられる。なぜ止めるの?もう少しなのに・・・と思ったところで我に返った。私の力を込めていた手は軽い火傷を負っている。そして離した手の形の痣が首に、その首を沿うようにして見ていくとそこには虚ろに目を見開いて焦点が合っていない凛がいた。私が、凛を・・・?
「嫌」
私が手を離したことで凛は床に倒れ、声を聞きつけ集まってきた使用人たちに運ばれていく。
「嫌、そんなの」
凛は、私のせいで・・・
「嫌、いやあああああああ、凛―――――!!」
という訳で雁夜さん吹っ切れと葵さんの回でした。
ちなみに葵さんの手が火傷していたのは凛が本能的に魔術で自己防衛しようとしたから。でも刻印まだ移植されてないので本格的なものじゃないです。その結果無理した魔術回路は暴走し色々後に響くようになっていきます。
というか私の書く葵さんは叫びまくっている可哀想な人になってしまっています・・・ごめんなさい。