弟はマのつく自由業、私はメのつく自由「いえいえ、王たる夫に永久就職です!!」 作:紗代
これは一体どういうこと――――――。
目の前で起こっていることに頭が追い付かず衛宮切嗣の助手の一人であるエマは現実逃避も兼ねて振り返る。
本来、この時空に自分は、「エマ」などという人物は存在しない。
そもそも自分はこの世界に転生する前は普通のどこにでもいる一般人、そのなかでも俗にオタクと言われる部類の人種だった。そしてその世界にあった作品のなかでも一番嵌まったのがこの世界、fateシリーズ、特にこの「Fate/Zero」だった。だからこの世界に転生したと分かったときは内心歓喜した。それと同時に「私が救わなければ」と強く思った。なかでもとりわけ不幸だった衛宮切嗣と間桐雁夜を救いたい、そう思って私はここまで来た。
この年代では有り得なかったパソコンにインターネット、携帯にゲーム機器などがあることから私以外にも同じように転生してきた存在が多数存在していることを知り、原作通りに切嗣がセイバーを召喚した辺りから冬木ちゃんねるなどの大型掲示板などに書き込んで情報と救済策を求めた。しかし、間桐家の通りに住む住人のとある投稿から一変する。
――――――「今回の間桐家にはバーサーカーじゃなくてエクストラクラスが召喚されたらしい」
なんだそれは、そんなの原作乖離も甚だしい。原作通りにいかないと起きる出来事にも差が出かねない。ここまで考えてきた救済策が無駄になる。そして間桐家のことや倉庫街のことからギルガメッシュの王妃にして女神であった「イノリ」という人物だというのが有力だった。
そしてそんな臆測は海魔の戦いの際に確信になる。そしてそれと同時にある作戦を思い付いた。
そうだ、女神に浄化させたうえで聖杯にくべてしまえばいい。同じ半神半人のギルガメッシュでサーヴァント五機分、彼女が英霊の状態でそれなら令呪で女神に戻してくべればその倍あたりの魔力が確保できるのではないのかと。それを切嗣に伝えたあと、各掲示板に報告しに行くと全ての掲示板、ほぼ全員から止められた。
『FGOの人理を修復し終わった身としてはオススメできない』
『オケアノス案件っぽくなりそうだからやめろ』
『アークより聖杯のほうが方向性がなくて際限がない分たち悪そう』
『お前の女神への嫉妬に巻き込まれて死にたくない』
『聖杯で叶える内容もう一度確認した?』
『聖杯云々の前に英雄王がパーンする』
『今の騎士王じゃ英雄王には勝てんぞ、snで鞘が戻ってやっとこさで勝ったんだし。』
『つーか今回の英雄王まじ隙ねーもん。普段なら出し惜しみする奥さんの鏡、奥さんが召喚されてるって分かった瞬間から使ったっていうし』
などの押しとどまらせようとする意見が多かったがFGOなどしたこともないので全て無視し作戦に移った。
なぜ切嗣に伝える前に掲示板に報告し意見を求めなかったのだろう。そうすれば間に合ったかもしれないのに。
全ては、私の一人よがりな正義感と女神への嫉妬心が招いたことだった。
汚染は浄化され、女神がくべられたことで満たされる聖杯。アイリスフィールは異変を感じ自身から聖杯を取り出した。これにはその場にいた聖杯の仕組みを知るセイバー陣営全員が驚いた。
「アイリ、大丈夫なのか?」
「え、ええ。聖杯のなかの魔力の一部が心臓を造って生命活動を続けているわ、造って活動した時点で願いが叶ったとされて聖杯との接続は切れたけれど」
アイリスフィールに異常がないこと、心臓が出来たことで死なずに済んだこと。ここまではよかった。
アイリスフィールから出た聖杯は姿形を黄金の杯へと変え、大聖杯の中心へ移動した。おそらく聖杯が満たされたことで起きる儀式のような何かだと思い私は内心楽観していたのだ。しかしアイリスフィールの顔色は優れず表情も硬いままだった。
「有り得ないわ」
「え――――マダム、今、なんと」
「聖杯が黄金の杯へと変わるのは分かるの、けれど自分から自立して行動するのも大聖杯のもとへ行くのも、本来そんな機能を持っていない。むしろ魔力の無駄遣いになることだから殻に人格が宿っても聖杯そのものは無機物のままのはず。だからこの動作そのものがおかしいの」
その言葉に目を見開く。じゃあなぜ?私は間違えた、の?
そう思った瞬間、宙に浮かんだ聖杯から光輝く白銀の、七色の、透明の言葉に代えづらい美しい液状の魔力が溢れ出した。それはすぐに真下の大聖杯を満たしそれでもなお溢れ続けている。
大聖杯からも溢れたそれは大きな波となってこちらに向かって来た。思わず身を固くしてその衝撃に備える。しかし何も来ない。すると波は私たちを避けて大空洞の入口を壊し外へ流れ出ていった。
聖杯から溢れる魔力は止まっていないもののまた助かる保証はないので急いで外へ出た。
外に出た先は既に溢れ出た魔力が山を伝い住宅街へとなだれ込んだ。しかし、違和感がある。
山を覆っていた木が、植物が、魔力の伝った部分には一つも生えていなかった。いや、おそらく消されたのだ。
それを見てゾッとする。待て、たしか、魔力は、もう住宅街に―――――――
下では悲鳴、消える人間を見て逃げ戸惑う人々、ひょっとしたら魔力の通った家で眠ったまま消えてしまった人もいるのかもしれない。
「い、や・・・なんで」
「何故も何もあるまい」
背後で聞こえた温度のない声に振り返ると、そこには間桐雁夜を抱えたギルガメッシュが無表情で立っていた。
次回は恒例の英雄王による解説回になると思います。
ちなみに敢えてフォローするとエマさんは決して悪い人ではないです。ただイノリちゃんへの嫉妬と本人無自覚だけど切嗣さんと一緒にいた期間が長くて感化されて効率優先で手段を選ばないようになってしまっているだけで。