艦これ 転生するジオンの意思 作:ジオン十字勲章
この纏わりつくような暑さ……どうにかならないのだろうか?
サイ・ハルノエはそんなことを思いながら呉公民館前に到着した。
今は8月――日本では夏であり、スペースノイドであるサイにとっては苦痛でしかなかった。
公民館の前でスーツ姿の女性がサイを出迎える。
「ユーが新しい提督デスか?」
喋り方に若干クセがある女性だった。髪は栗色で腰あたりまでの長さがある。容姿は端麗——というか、呉鎮守府に所属している榛名という艦娘に似ている。
まるで榛名の姉妹みたいだ。
とサイは思った。
「サイ・ハルノエだ。階級は大佐、これからよろしく頼む」
サイはスッと右手を差し出すが、眼前の女性はその右手を
「その手を握り返してほしいならせいぜい頑張ることデース。……とりあえず私について来て下サーイ」
「了解した」
サイは女性の後について行く。
「もう少し……もう少しでわかる――」
呉市長は色が薄くなった金髪を弄りながら呟いた。
サイが案内されたのはとある一室、そこには20人前後の男女がいた。室内には椅子が並べられ、彼らはそれに腰掛けてサイを待っていたようだった。
室内は重くるしい静寂に包まれていた。まるでパンパンに膨れた風船のように張り詰めた空気、少しでも変な刺激を与えれば破裂してしまうことだろう。
サイが室内に足を踏み入れると、殺意のこもった視線が彼に突き刺さる。サイはそれに臆することなく待っていた人たちの前に立つ。
沈黙――
サイはその場に跪き、
「すみませんでした‼︎」
とただ一言、土下座した。
数秒、時間が止まったのでないかと疑う程、何もかもの音が聞こえなくなる。そして――
「ふざけるな‼︎ 謝って済むと思っているのか‼︎」
1人の男が叫び、それを皮切りに数々の罵詈雑言がサイに浴びせられる。
「ふざけるのも大概にしろ‼︎」「この人殺し‼︎」「提督ってのはどいつもこいつも‼︎ 次は何をやらかす気だ‼︎」「この街から出ていけ‼︎」「死ね‼︎」「あんなヤツをかばうのか‼︎」「このクズ‼︎」「あの子が何をしたって言うの‼︎」
サイは頭を上げずに言う。
「すみませんでした‼︎」
「謝って済むなら警察はいらねーんだよ‼︎」「そうだ‼︎ そうだ‼︎」「鎮守府はこの街から出ていけ‼︎」「早く地獄に落ちろ‼︎」「悪いと思うなら死んで詫びろ‼︎」
サイに対して様々な物が投げられる。
空き缶、残飯――そして金槌が投げ込まれる。不幸中の幸いかそれはサイの頭に当たらず右肩に当たる。
サイは頭を上げずに言う。
「すみませんでした‼︎」
「だから……謝って済むと思ってんじゃねぇぞ‼︎ このクソ野郎‼︎」
1人の男が立ち上がりサイに近づき、その腹に対して思い切り蹴りを入れた。
サイの口の中に胃酸が上がってくる。彼はそれを飲み込み、頭を上げずに言う。
「ず、すみませんでした」
サイのその態度に男は余計腹立てた。
男は――呉市長は別室でカメラを通し、その光景を見ていた。
あの提督は、サイ・ハルノエは何故頭を上げない?
いや、そんなのわかりきっていることじゃないか。
最初は同姓同名だと思った。
だから理不尽な条件を突き付けた。
次は他人の空似だと思った。
だからあの提督の立ち振る舞いを観察しようと思った。
最後にあの人だと確信した。
20年前、お世話になったあの人――
不死鳥隊隊長 サイ・ハルノエ大佐‼︎
サイさん、あんたがそこまで頭を下げる理由はだいたい想像つくよ。
おそらく自分の部下のためだろう?
あんたが何故、20年前から見た目が変わってないのはわからない。
何か特別な理由があるのかもしれない。
だけどこれだけはわかる。
あんたが相変わらず部下を愛してるってことだ。
20年、長かった。
ようやくあんたに一言言ってやれる。
バカ野郎ってな‼︎
呉市長――アレン・ラックスの目から涙が溢れた。