艦これ 転生するジオンの意思 作:ジオン十字勲章
「……卑怯者め」
短刀を手にした、漆黒の長髪を持った少女はサイ・ハルノエを睨め付けながら呟いた。
「暗殺をけしかけたヤツに言われたくはないな……とりあえず、その物騒な物を捨ててもらおうか」
「……クズが」
黒髪の少女は短刀を投げ捨てる。
サイは左手で掴んでいた大淀――黒髪眼鏡の少女の右手首を離す。大淀は逃げるようにサイから離れ、もう一人の少女の側による。
サイは拳銃を少女たちに向け、口を開く。
「好きなだけ言うといい。だが……まずはこの状況の説明をしてもらおうか?」
漆黒長髪の少女は苦虫を噛み潰したような顔をして語り出した。
「なるほどな。それでこのような愚行に出たというわけか」
「そうだ……だからお前を、お前たち提督を、絶対に許さない」
サイは少女たちに向けていた拳銃を下ろし、黒髪長髪の少女に名を聞いた。
「……長門型1番艦、長門だ」
「長門、なら聞くがこの愚行はお前単独の犯行か?」
サイは少なくとも大淀、その他にも協力者はいるだろうということは既にわかっていた。だが敢えて長門に聞く。
「私だけだ。私が勝手にやったことだ」
「――いいだろう。大淀」
大淀は怯えを全面に出しながら口を開く。
「な、なんで、しょうか?」
「お前も共犯だと思って手荒なことをしてしまった。すまなかったな」
サイは大淀に対し頭を下げ、大淀と長門は予想外の行動に驚いたのか顔をキョトンとさせていた。大淀は言葉を発する。
「え、あの……えと、あ、はい」
サイは凄味をきかせた声で「さて……長門」と言い、続ける。
「覚悟は出来ているな?」
サイは長門の真正面に立ち、長門はサイを睨めつける。
「普通なら軍法会議にかけて銃殺刑だが――」
サイは右手を振り上げ、
パン! と長門の頰を平手打ちした。
「今はこれくらいで勘弁してやる」
長門は叩かれた反動で後ろに2、3歩下がる。その間も彼女はサイにガンを飛ばしていた。サイは長門の視線を気にもとめず大淀の名を呼ぶ。
「な、なんでしょうか?」
「今から着任の挨拶をしたい。艦娘たちを集めてくれ」
「り、了解しました」
大淀は逃げるように執務室から出ていった。
庁舎前、現在約20人の艦娘が集まっている。彼女たちは10人ごとに横一列に並び、それを前後に2列作っている。そして彼女たちは一様にとある人物を注視していた。
「今日よりこの鎮守府に着任したサイ・ハルノエだ」
提督――私たち艦娘にとっては悪魔に近い存在。私はそんな悪魔の侵入を許してしまった。
またあの悪夢が、生き地獄が始まってしまう。嫌だ、怖い、あんな思いはもうしたくない。
長門を含めこの場にいる全員はお先真っ暗の未来を想像する。
目の前に立つ悪魔が言葉を続ける。
「俺が諸君らに言うことはただ一つ」
この場にいる艦娘の目には絶望しかなかった。どのようなことをしたらここまでなるのか、とサイは思う。
そこまで俺が、提督という存在が怖いか。
サイは後ろ手を組み、言葉を続ける。
「生きることをあきらめるな!!」
艦娘たちは一様に我が耳を疑う。
今、この悪魔は、何と言った?
生きることをあきらめるな……そう言ったのか?
悪魔であるハズの提督が何故……
「どんな絶望的状況になっても生きることをあきらめるな!!」
サイの声に熱がこもり必然と声量があがる。
「飲む水がなければ泥水をすすれ! 食うものがなければ屍を喰らえ! 足がなければウジ虫のように醜く這え! 腕がなければゴキブリのように滑稽に走り回れ!」
艦娘たちは鬼気迫るその言葉をただただ耳に入れる。
「どんなに醜くなろうが生きることをあきらめるな! 死を思わない限りその姿を俺は否定しない! だから決して絶望をするな! 精一杯、力の限り生き抜け! 諸君らはたった今から俺の部下になった! そうなったからには、勝手に死ぬことは俺が許さない! ……以上、解散していいぞ。それと長門、話があるから後で執務室に来い」
「……了解」
こうして、サイはこの場を後にするのであった。