艦これ 転生するジオンの意思 作:ジオン十字勲章
庁舎前、サイ・ハルノエがいなくなっても場は静寂に包まれていた。
「長門さん……」と吹雪型1番艦“吹雪”が曇らせた声色で静寂を払い、続ける。
「大丈夫なんですか?」
「わからない……どちらにしても私には執務室に行くという選択肢しか残っていない」
「提督の、あの悪魔の、命令だからですか?」
金剛型3番艦“榛名”が長門に聞く。
「そうだ……私たち艦娘にとって提督の命令は絶対」
長門は悲痛な笑みを浮かべ、
「罰を受けるのは私だけでいい」
と言い執務室に向かう。その場にいた艦娘たちはただ心配そうに長門の後ろ姿を見ていた。見ていることしか出来なかった。
反吐が出る。なんなのだ……この部屋は。
ここは本当に軍人が務めていたとこなのか?
サイは執務室内部を見渡す。
部屋の南には海を背景に司令官用の机があり、後ろからバルコニーに出られるようになっている。そして机の真向かい側に鉄格子で作られた檻がある。想像したくはないが、ここに艦娘を監禁して楽しんでいたのだろう。そして執務室の西側には提督専用の寝室があり、一人分にしてはデカすぎるベッドがそこに鎮座している。
どう見ても頭のおかしい道楽貴族の部屋にしか思えない。
早くこの部屋をどうにかしたいが、まだ無理だ。
長門に話をするまでは……。
コンコン
執務室のドアがノックされる。扉越しに長門の声がサイの耳に届く。
「長門……ただいま参りました」
「入れ」
「……はい」
扉が開き長門が執務室に入ってくる。サイは腰掛けに座りながら「さて」と話を切り出した。
「何故自分が呼ばれたかわかっているな?」
「はい」
今の長門はまるで死刑執行間近の受刑者に近い目をしていた。
「お前にチャンスをやろう。そうすればお前には手を出さないでおいてやる」
「………る」
「聞こえないな?」
「断ると言った!」
長門はサイを忌々しげに睨み付け言い放つ。
「貴様のことだ……どうせ共犯者を教えろなどと言うのだろう? さっきも言ったがあれは私が勝手にやったことだ! 他の者は関係ない! それに……仮にいたとしても……私が教えると思うか? 貴様のような悪魔に! 私はどうなろうとも構わない……だが……他の艦娘には手を出すな!」
その言葉を待っていた。
仲間を守る強い意思の言葉が聞きたかった。
「――いいだろう」
サイは立ち上がり長門の前にち、一方の長門は恐怖で目を瞑る。サイが長門の両肩に両手を置き、口を開く。
「よく言った……俺はその言葉を聞きたかったんだ」
長門はサイが何を言っているのかわからなかった。理解出来なかった。長門は恐る恐る目を開ける。
「長門……お前を試すようなことをしてすまなかった」
サイは長門から離れ頭を下げる。長門は今の状況を理解出来ず、口を金魚のようにパクパクさせている。サイは頭を上げ長門の目を見据えて続けた。
「暗殺未遂の件に関しては先の平手打ちでとうに清算している。お前を含め他の者たちをどうこうするつもりはないさ」
長門は多少落ち着きを取り戻したのか、言葉を紡ぎ出す。
「それを私が信用すると思うのか?」
「信用してくれとは言わないさ……信用してもらえるように努めるだけだ。それよりも――」
サイは長門の左肩にポンと右手を置き、長門はサイを睨め付ける。サイは構わず言葉を紡ぐ。
「よく仲間を庇った! よく仲間を守った! 今までよく仲間を守った! 今までよく耐えた! 今までよく生きてくれた! よく俺と出会ってくれた!」
長門はサイの思わぬ言葉に戸惑いを隠せない。なんでこいつはこんなことを言う? わからない。意味がわからない。何故、何故、何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故――
サイは最後の言葉を口にする。
「よく……頑張ったな」
その一言で、たったその一言で長門の中の何かが砕けた。
今まで抑えこんでいた恐怖、今まで溜め込んでいたストレス、今まで抱いていた絶望、その全部の感情が奔流となって長門に押し寄せる。
突如サイがバルコニーの方へ向き、
「さて……俺は外の空気を吸いたいからバルコニーに出る。おそらく机の上にハンカチを忘れるだろうから誰かに使われるかもしれないな」
サイはバルコニーに出て、長門は誰もいなくなった執務室でただ泣いた。
あいつは、あの人は何なのだろうか?
少なくとも前任とは違う……そう思おうとする長門だった。
「さてと……話の本題に入りたいのだが大丈夫か? 長門」
サイが執務室に戻り長門に問う。
「構いません」
「回りくどい言い方はやめよう。秘書艦になる気はないか?」
「何故私なのですか?」
「簡単だよ……お前の仲間を守る強い意思に共感したからだ。信じてもらえるかどうかはわからないがな」
長門はしばし考えこみ、「時間を下さい」と言った。
「構わない」
「私からも一ついいですか?」
そう、長門はこの質問をどうしてもしたくなった。この人は前任とは違う、そう確信を得たいために。
「あなたは私たち『艦娘』を兵器と見ますか? それとも人間と見ますか?」