艦これ 転生するジオンの意思 作:ジオン十字勲章
「提督……執務室を私の手で吹き飛ばせたのは正直嬉しいです。が」
長門は提督として認める――信じることにしたサイ・ハルノエに聞く。
「提督はこれからどこで仕事をするのですか?」
「……考えていませんでした」
「あなたは阿保ですか」
「返す言葉もない」
長門は呆れのあまりサイをジト目で見る。
「工廠に行きましょう……妖精たちに修繕を依頼すればどうにかなるハズです。それに鎮守府内を案内して現在の状況を把握してもらいたいですし」
「わかった。よろしく頼む」
サイと長門は鎮守府内の状況を見てまわることにした。
「これは一体何が……」
榛名は長門の様子が気になり執務室に足を運んで来たが――
「執務室が無くなってる……」
こににはあの忌々しいあの部屋があったハズだ。なのに今は跡形もなく消し飛んで、見る影もない。硝煙と火薬の匂いが鼻をつく。むせる。
「誰がやったんだろ?」
おそらく……長門さんだ。
何があったかは知らないけど長門さんがやってくれたんだ。
だけど、もし、あの悪魔が生きていたら?
もしそうだとしたら――榛名は嫌な冷や汗が出る。
嫌な予感がする。
長門さんが解体される!
榛名は工廠に走った。
「ヒドイ有様だな」
場所は入渠ドッグ――本来なら消耗した艦娘たちを癒す場所なのだが、
「こんな状態でまともに機能するわけがない」
「その通りです……実際ここを利用する艦娘はいません」
入渠ドッグは本来ならば常に清潔に保たれ、いつでも利用出来るハズなのだが……現在はその間逆の状態となっている。壁は水垢などが原因で黄ばみ、浴槽(艦娘は入渠ドッグの浴槽に入浴することによって傷を癒す)にはカビが生えている。
「艦娘たちの傷を癒す場……早急に改善する必要があるな」
「お願いします」
サイと長門は入渠ドッグを後にする。
長門さんが笑っているところ、久しぶりに見たな。
もしかして提督を殺ったのかな?
清々しいって言ってたしきっとそうだろうな。
吹雪は物騒なことを考えながら庁舎内をフラフラ歩く。
長門さんにもう少し詳しく聞いてみよう……吹雪はとりあえず食堂に向かうことにした。
食堂はサイが思っていた以上に閑散としていた。現在は数人が食事をしている程度だ。
「なんだ……あの食事は」
食事の質があまりに酷すぎる。
ほんの少しのスープに味気ない固そうなパン、コップ一杯分の水、こんなものは前線で戦う兵士の食事ではない。死刑囚だってここまで酷くない。
「前任は私たちを完全に兵器としてしか見ていなかった……補給の燃料こそある程度は用意してくれましたが、食事はこの有様です。兵器に食わせる飯はない、それがあいつの考えでした」
「……」
サイは腹わたが煮え繰り返りそうになる。
彼女たちは人類の代わりに深海棲艦という未知の敵と戦ってくれる存在だぞ? 前のヤツはそれがわかっていたのか? 理解出来ていたのか? もし理解した上での仕打ちならとんでもない無能だ。そんなアースノイドなどこの俺が――
サイは自らをおちつかせるため一度深呼吸する。
「ここを任されているヤツと話がしたい。どこにいるかわかるか? 長門」
「こちらです」
サイと長門は食堂の奥に入っていく。
吹雪は驚きのあまり叫びそうになった。
なんで……なんであいつがまだ生きてるの?
なんで……長門さんがあいつと一緒にいるの?
なんで、なんで、なんでなんでなんで……なんで、さっき長門さんはあんな笑顔だったの?
長門さんがあいつに取り込まれた……から?
どうやって? わからない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう――榛名さんだ。とりあえず榛名さんに相談しよう。
吹雪は食堂を後にした。
食堂の奥には割烹着を着た女性が一人――彼女が一人で食堂を切り盛りしていたのかとサイは感心する。
「間宮」
長門が女性の名前を呼ぶ。
「何……長門さん……と、て、提督」
奥で作業をしていた作業を止め彼女が――間宮がこちらに来る。間宮の顔には疲れが色濃く出ており、若干やつれている。プラスでサイに対する怯えもあきらかに顔に出ていた。
「な、なんで長門さんが提督と?」
「まぁ色々あってな……この人の秘書艦をやることになった」
「長門さんが……」 と間宮は驚きの表情を隠せない。
「間宮、少なくともこの人はあいつとは違う。それは私が保証する」
「長門さんがそう言うなら……それで提督はどのような用件で?」
蚊帳の外だったサイが口を開く。
「聞きたいことがあってな。間宮、君は今この食事で満足出来ていると思うか? 満足出来ると思うか?」
「ま、満足して……います」と間宮は俯き気味に応え、サイは強い口調で言う。
「もう一度だけ聞く。君は、君たちは、本当に、今の食事で満足しているんだな?」
「……ない」
「なんだ? 聞こえないぞ」
「満足しているわけないでしょ!」
間宮の中に溜まっていた鬱憤が一気に爆発し、サイにその全てをぶつけるかのように彼女はヒステリック気味に続ける。
「こんな巫山戯た食事で満足出来ると思うの! 満足出来ると思っているならあなたは相当なクズね! 前任と何も変わらないじゃない! ここからいなくなって! 早く消えて!」
間宮は長門を睨み付けながら言う。
「長門さん……残念だけどその人はあいつと同じ。あなたは騙されているわ」
長門は口を開こうとするが、サイがそれを遮るように腕を長門の前に伸ばす。
「言いたいことはそれだけか?」
サイが間宮に問う。
「そうよ……悪い? 煮るなり焼くなり好きにしたらいいじゃない。一つだけ言っとくわ……私たちはあなたたちのおもちゃじゃない!」
「そんなことはわかっている」
間宮は予想外の言葉に押し黙り、サイは「それよりも」と続ける。
「ここの現状はよくわかった。後は俺に全て任せろ……数日以内に状況を一変させる」
「――へ?」
間宮は目を白黒させる。
この人は今何て言った?
「あ、あの罰は?」
「そんなものはない。行くぞ長門」
「はい」
サイと長門は食堂を後にする。間宮は暫しの間去っていく二人の姿を呆然と眺め、二人の姿が見えなくなって呟く。
「長門さんの言う通り……あの人はあいつとは違う」
間宮の頬は涙で少し濡れていた。