艦これ 転生するジオンの意思 作:ジオン十字勲章
今夜は寝られないかもしれない。明日も忙しくなるというのに……それもこれも前任が根っからのクズだったおかげだ。クソ、腹立たしい。
午前1時50分――サイ・ハルノエは鎮守府庁舎内にある客間を仮の執務室として仕事をしていた。昼間長門に執務室を吹っ飛ばさせてスッキリしたのはいいが、先のことを一切考えていなくてこの有様である。
「それにしても……どこもかしこもボロボロだったな」
サイ以外誰もいない部屋でポツリと呟く。
庁舎内がボロボロだった。
庁舎内施設がボロボロだった。
何より……部下たちが一番ボロボロだった。
ある者には一生消えないであろう裂傷が、
ある者には一生消えない火傷痕が、
ある者には一生消えない生傷が、
サイは彼女たちに憐れみを覚えない。
憐れみを覚えたということは彼女たちを下に見たということ。それは彼女たちの侮蔑に繋がる……サイはこう考えていた。だからサイは代わりの感情を覚える。
「さてと……仕事の続きをするか」
コーヒーを口に一口含みサイはペンを握る。
時間が流れ夜は更けていく。
榛名と吹雪は廊下を緊張した面持ちで、極力音を出さないようにゆっくりと歩く。あいつを征伐しにいく……それによる若干の高揚感があるが、それ以上の緊張感が彼女たちの行動を慎重にさせていた。
「もうすぐあいつのいるはずの部屋です……覚悟はいいですね? 吹雪ちゃん」
榛名は小さい声で吹雪に確認をとる。自分では小さな声を出したつもりだっだが、まわりが静寂に包まれている今予想以上に反響した。
榛名と吹雪は瞬間息がつまるが、あいつは寝ているから大丈夫、と自身に言い聞かせ気持ちを落ち着かせる。
そして、ようやくサイのいる客間兼執務室(仮)の前に着いた。
(ここにあいつがいるはず……長門さん待ってて下さい。榛名たちが必ず助け出します)
榛名は後ろを振り返り、吹雪に言う。
「それじゃあ見張り頼み……吹雪ちゃん? どうしました?」
吹雪は目を見開き驚いているようだった。榛名は何事かと思い吹雪の視線と同じ方向に目をやる。
そこには予想外の人物が腕を組んで仁王立ちしていた。
「来ると思っていたぞ、お前たち」
「「長門さん!?」」
榛名と吹雪は何故彼女がここにいるか理解出来なかった。
昼間、長門がサイと工廠に行った時――奥の部屋で明石と話している時にあることを聞いた。
吹雪と榛名が今夜提督を暗殺しに行くらしい、と。
彼女たちが何故そんなことをするのか? ……正直なところ、気持ちをわかってしまう自身がいる。私も立場が逆なら同じ行動をしている可能性がある。
おそらく吹雪と榛名はこう思っているハズだ。
私が提督に脅され仕方なく一緒に行動している……そう思う理由は簡単だ。
あの人が提督という立場にいる人間だから――私たちにとって元々提督は憎悪の対象でしかなかった。そんな相手を誰が信じる? そんな相手と誰が自ら望んで行動していると思う? 元来無理なハズだった。提督というものを信じることなど――そう、今までは。
今日のたった一日で自分がこんなに変わったことに心底驚く。
あぁ、本当……また提督というものを信じようとする日が来るとはな。
サイはまだ仕事を続けており、今は入渠ドッグの簡易設計図みたいなものを描いていた。
(やはりあいつらに意見を聞かないと駄目か)
サイはコーヒーを一口口にする。
(中途半端に温いと、コーヒーはやはり不味い)
榛名は思わぬ人物の登場に頭の中が混乱する。
何故長門さんが、このタイミングで、今、ここにいる? まるであいつを守るみたいに……何故私の前にいるの?
「な、長門さんはここで何を?」
榛名が考えの整理を行っている間、吹雪が長門に問う。
「お前たちを待っていた」
長門は榛名と吹雪に鋭い視線を送りながら続ける。
「お前たちの馬鹿げた行動を止めるためにな」
聞きたくなかった答えだった。
あいつを守るために長門さんがここにいるということ……即ち、あいつはこの暗殺を知っていたということになる。知っていた上で私たちを泳がせ、長門さんに――長門が榛名の思考を遮るかのように言う。
「一つ言っておく。あの人はこの件のことに関しては何も知らない」
は?
今……長門さんは何て言った?
あいつはこの件のことに関して一切知らない?
嘘だ……きっとあいつに言わされているだけだ。
「嘘です……だって、それなら長門さんがここにいるはずがありません!」
認めたくない現実を否定するかのように声を張り上げる榛名、その声は廊下の空気を予想以上に震わす。
「嘘じゃないさ。私は、私の意思で、今ここにいる」
長門は自身の心に誓うかのように声高に宣言する。
「私は……提督を、人間を、あの人を、もう一度だけ信じると決めたのだ!!!」
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘――
「嘘だぁあああああああああああ」
榛名は声を張り上げ艤装を展開、思わぬ行動に吹雪は目を見開き、対する長門も冷静に艤装を展開――客間兼執務室の扉が開く。
「お前らうるさいぞ……何やってるこの時間に? まぁ丁度いい、聞きたいことがある」
と部屋の中から