ハピメアーone's light mindー   作:zero beyond
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前回のあらすじ



部活動とアルバイトを休んで病院を訪れた和真、十年前から世話になっている精神科医の小野田 翔太郎に夢の中での出来事を打ち明ける。そこで小野田から告げられた明晰夢の存在、和真は小さなヒントを頼りに明晰夢についての関心を寄せた。
途中、和真はとある病室に立ち寄った。そこにいたのは幼き頃に自分を救ってくれた恩人のユウコだった、それでも彼女はあの頃から眠ったままで目覚める兆候がなかった。そこで偶然にも出会ったユウコの母親の佳乃に明晰夢の事を話す、そこで再び背中を押された和真は就寝前に昨日と同じような状況で眠った。
目覚めた先にいたのは見知らぬ一人の少女、有栖だった。彼女は夢を渡り歩くという不思議な力を持った存在で和真は一度、有栖に救われている事を思い出した。そんな時に伝えられる悪夢の存在、否定したい気持ちを他所に有栖の言葉に図星を突かれて困惑する。そこで突如として現れる梨花、呑み込まれるかのように深い口づけを交わし、和真の体に異変が訪れた。
和真の体から現れた青い光、それはやがて形を変えて形成されていく。そこにいたのは和真と同じ姿をした何かだった。


第五話

目の前に現れたそれに俺は言葉を失くした。有栖も驚きのあまりと言った感じだった。ただ、姉ちゃんだけは平然としていてどこか待ち望んでいたような期待に満ちた表情をしていた。

「なんだ、なんなんだよお前!」

「ん?ああ、こうして会うのは初めてだね」

目の前のそれは帽子を取り、黒のコートを脱いで椅子にかけた。袖のボタンを外して、首元のネクタイを緩めると脱力して椅子に座った。

顔は俺と全く同じだ、でも違う点もある。

金髪に碧眼、それで眼鏡とおまけに長身…明らかにイケメンが持ち合わせるような髪と目の色をしている。

「初めまして、藤宮 和真。僕はもう一人の君、『本心』だよ」

「本心、だと…?」

「長い話になるからお菓子やお茶でも飲んで話そうよ。姉さん、頂いても?」

「ええ、もちろん。あなた達の為に用意したんだもの」

「やっぱり姉さんは優しいね、会えてよかったよ」

俺の本心と名乗るそれは笑顔を見せて、姉ちゃんに身を寄せて頬にキスをしていた。

「それで?お前の目的はなんだ、俺に何を求める」

「そんなに気張らなくてもいいさ、本当はビビってるくせに」

優雅に紅茶を飲みながらそいつは俺の態度を見て、ため息を着いた。俺はなるべく平静を装いながらのアプローチしたつもりだったが、どうしてそれがこいつにバレたのか。焦りを隠せなかった。

「なんで…」

「そう言った時点で、もう答えを言っているようなものじゃない?さっき言ったでしょ、僕は君の本心なんだって。君の考えている事は手に取るようにわかる」

ティーカップを置いて、呑気にクッキーを齧っていた本心は取り皿を手にして目の前に置かれた菓子類を眺めると、そこからドーナッツやクッキーを選んで皿に乗せて姉ちゃんの前に置いた。

「あなたが食べていいのよ?」

「一緒に食べたいんだ。ダメ…?」

「良いわよ。はい、あーん」

「あーん」

そう言って二人は仲良くお菓子を食べさせあっている。側から見れば、仲の良い姉弟だが自分の姿をしている何かが死んだはずの姉と一緒にいると考えてしまうと、どうしても受け入れられなかった。

チラリと有栖を見るが有栖もどうするべきか迷っているのか、顔をしかめていた。

「僕は君の本心だ。人間は自然に口に出た言葉とは裏腹に抱く感情があるだろう?それこそが本心、つまり僕は君の心の中に抱いた感情だよ」

そう言って、紅茶を飲み干した本心は空になったティーカップに再び紅茶を注いだ。別のティーカップに紅茶を注ぎ、それを俺に向かって差し出した。

「それっぽく言うなら…僕は君で、君は僕だ」

「どこのマ○○ィ○○ザーズだっての」

「いいね、大○○してみる?」

「しても良いけど、やめておく」

際どい会話をしながら俺は本心から紅茶を受け取っておく。ソーサーをテーブルに置いてカップに口を付ける、ミルクや砂糖を入れていないストレートの味と淹れたばかりの熱が口に広がっていく。

「えっと……」

「ああ。なぁーー」

「もう新しく淹れてあるから座ってよ」

どうすればいいか迷って、立ち尽くしている有栖を見て俺は本心に紅茶を催促しようとするが既に別のティーカップに紅茶が淹れられていて湯気が立って、逆に本心は有栖を座らせようと催促した。

「まぁ、取り敢えず座れ」

「……失礼します」

おどおどとしながら有栖は椅子に座ると俺は新しく本心が淹れた紅茶を有栖に差し出す。

「全て筒抜けってわけか…」

「まぁね。僕に嘘を吐いても、騙そうとしても無駄さ」

そう言って本心は紅茶を飲んで、カップがソーサーの上に置くと居住まいを正して俺を見た。

「ねぇ、彼女をどう思う?」

「どうって…?」

「いいから」

そう言われて、暫く考え込む。有栖、彼女とはこの夢で会ったばかりだ。面識もあるわけじゃない、彼女の事は何も知らない。

「快活で天真爛漫、かな…?」

名前とは裏腹に彼女には元気なイメージを持つ。清楚なんて言葉が似合わないくらいに…。

「でも、バカっぽいよね。単純そう」

「「なっ⁉︎」」

本心の口から出た言葉に俺と有栖は同時に声を上げた。有栖が声を上げるのはわかる、俺が声を出した理由は『全く同じことを考えていた』からだーー。

「アタリ、でしょ…?」

「……チッ」

ようやく、こいつの言うことがわかった。というよりも、理解させられた。口で言っても分からない、だからこいつは試すように有栖の印象を俺に聞いたんだ。

「私はバカじゃないもん!」

「本当かな…」

「図星を突かれると大概は否定するから当たってるだろ」

テーブルを叩きつけて立ち上がる有栖だが、俺と本心は彼女の言葉に疑いを持った。

「さて、彼女の頭の緩さがわかったところで…」

「緩くないもん、バカじゃないもん……」

パン、と手を叩いて立ち上がる本心。有栖は泣きそうな声でつぶやいている。

「君は言ったね、僕の目的と何を求めるかって」

「ああ…」

いよいよ本題だ、俺の中で緊張が走る。目の前の本心はそれさえも分かっているのだろう、下手な小細工なんて通用しない。

「僕の目的はーー」

「「……ゴクリ」」

本心の言葉に耳を傾けて、俺と有栖は生唾を飲み込む。

「動ける体を手に入れることだよ」

「………は?」

肩透かしを食らって、気が付けば俺は変な声を出していた。だって、動ける体って……あいつは今、こうしてここでーー。

「そう、僕はこうして君から離れて動いている。つまり、僕の目的は既に達成されているんだ」

「ふぅん…」

納得した風な声を出すが、俺はまだ半信半疑だった。こうもうまくーーというか、こうもあっさりしているものなのかと…。

「でも、僕の主人はあくまで姉さんだからね?姉さんのおかげで僕はここにいるんだから」

そう言いながら本心は隣にいる姉ちゃんの肩を抱き寄せると、姉ちゃんはそれに微笑みながら体を摺り寄せている。

なんか、見てたらイライラしてきた……。

「羨ましいの?」

「…別に」

そうだ、こいつは俺の本心だっけ。つまり、あいつの言葉や行動がーー俺の本当の願いや思いなんだろうな……。

「後でしてあげるよ?」

「いいって!」

便乗したみたいに姉ちゃんが声をかけてくる。きっと優しさからなんだろうけど、どうしてか声を大きくしてしまって立ち上がっていた。

だが、俺はまだ肝心なことを聞いていなかった。

「結論だけ聞くぞ」

「うん、いいよ」

「お前は、俺の敵か?それとも味方か?」

こいつが俺の内面である事はイヤという程、理解したつもりだ。でも、結局はこいつが俺にとってプラスかマイナスかどうかを知りたかった。

俺はこいつの真意を知りたい、と言っても自分の本心だ。俺の予想と同じかもしれないが、この空間では俺とこいつは別人だと思っている。

小細工なし、腹を割った探り合い。さぁ、どうなるーー。

本心はスッと立ち上がって、俺を見据えていた。

「味方だよ……今はね」

「今は、か」

白でもなく、黒でもない。信用が半分の疑惑が半分、どちらでもない曖昧な答えだった。

まだ焦るとこでもない、俺は自分に言い聞かせるように紅茶を飲んで間を空ける。

「それで…?」

「なに?」

「お前が俺の敵になったらどうなる?」

俺は本心を見据えて尋ねた。俺の真剣さが伝わったのかわからないが、さっきまで笑みを浮かべていた本心の顔が引き締まって笑みが姿を消した。

「それは、その時のお楽しみーーということで」

「…………」

急に笑みを浮かべる本心に俺は若干の恐れを感じながら、溜息を吐いた。そんな俺たちのやり取りを見て有栖が睨みを効かせている。

「まぁ、良いか。つまりは仲間なワケだしな」

「ちょっと、信用していいの!?」

有栖が声を上げる、有栖の言い分も尤もだ。信用が不十分な相手を味方と判断するのは、確かに早計かもしれない。

だが、俺には確信があったーー。

こいつは俺だ。そして、俺があいつなんだ。二人に分かれていても根っこは同じ、藤宮 和真という人間なんだ。

「自分を信じれないヤツに明日は来ない」

「ッ!」

「BY藤宮 和真ーーだろ?」

その瞬間、俺たちはお互いに噴き出していた。

「とりあえずよろしく、えっと……」

「和真でいい」

「わかったよ、和真」

そう言って俺たちは拳を作ってぶつけ合う。なぜだろう、ここに来る時には不安しかなかったのに今は、なんだか楽しい。

自分の本心と向き合う、普通ならそれは精神論みたいなもので自問自答で正解を導きだすんだろう。でも、ここでは本当の意味で本心と会話ができる。だって、普通じゃありえないことなんだ。

「お前は、そうだな……とりあえず俺の本心だからーー」

期待に満ちた目をして本心は俺に視線を送る、でも実際はその期待に応えられるような名前は思いついていない。

けど、その一瞬で閃いたーー。

「お前が俺で、俺がお前だから…相棒、そうお前は今日からーー『相棒』だ!」

「なにそれ、変なの!ネーミングセンス無さすぎでしょ!」

俺の考えた名前に本心もとい相棒は腹を抱え、大きな声で笑いだした。それを見ていただけで俺も笑っていた。

「改めてよろしく、『和真』」

「ああ、こっちこそよろしくな。『相棒』」

どうにかわかり合えた、俺は心から安堵していた。今度は手の甲をぶつけ合うと、緊張の糸が切れて椅子に座り込む。

すると、懐から小刻みの振動を感じた。そう言えば、携帯電話が入っていたっけ。

携帯電話を取り出して画面を確認する。

「え、もう六時かよ!」

携帯電話の振動の正体はアラームだった。一人暮らしだから早起きして諸々の支度をしないといけないから、いつも早めのアラームをセットしていた。

「それじゃあ、今日はここでお開きだね」

「みたいだな」

まるで今生の別れみたいな言葉を残す相棒に俺は寂しさを感じる。そそくさと身支度を済ませた相棒は椅子に座って姉ちゃんを抱きしめた。

「またね、姉さん」

「ええ、またいつでもいらっしゃい」

姉ちゃんの言葉を聞いた相棒は現れた時のように青い粒子となって、俺の元に向かってくる。

俺はそれに対して、腕を広げて迎え入れる。ゆっくりと俺の中に吸い込まれていく青い粒子、それが完全に吸い込まれて無くなると俺は自分の腕を抱きしめていた。

「それじゃあまたね、姉ちゃん」

「ええ、今度はゆっくりお話ししましょうね…邪魔されないように」

姉ちゃんは最後にじろりと有栖を見る、有栖はそれに対しておくすることなく二人はにらみ合ったままだ。

「まぁ、あんな子はどうってこと無いけど」

「なぁ!?今のはさすがに聞き捨てならない!」

姉ちゃんの余裕を孕んだ挑発に有栖はカッとなって、また身の丈ほどのハサミを取り出した。

「ああもう、人の夢で物騒な真似すんなよ。俺は戻るから、お前も自分のところに戻れよ?じゃあな」

「………」

急に臨戦態勢をとった有栖を注意しつつ、入ってきた大きな扉を開いて部屋から出て行く。

その時、俺はまだ知らなかったーー。

有栖の表情が曇っていたこと、そして有栖の本当の正体をーーー。

 

 

 

 

 

「ん、んあ、うう…」

微睡みの中で、ゆっくりと瞼を開ける。いつもの自宅の天井だ、ふぅと息を吐いて体を起こす。

ーーズキ。

「っ、あぁ…」

前にはなかった突然の頭痛に唸った。

寝起きの体のだるさ、いつも通りの朝のはずなのになぜか違和感を感じる。ふと、気になって自分の右手を前にかざしてじっと見る。

気になったのはもちろん、相棒のことだ。本心と語ったのは初めてだ、そもそも本心と話すことなんてないだろう。佳乃さんには感謝しなきゃなら。それと、この事は小野田先生に話す必要があるかもしれない。

このことを先生に話したらなんて言うかな。驚くかな、それとも冗談だって言うのかな。

まぁ、話してからのお楽しみだな。

「さてと…」

布団から出て、朝食と弁当の準備をしないと。いつもはこれくらいの時間に起きて、弁当を作る。

冷蔵庫に材料がちゃんとあっただろうか、一昨日からあまり気にしないで使っていたから心配だな・・・。

そう思って冷蔵庫の扉を開ける、中には野菜や肉などの食材が少なからずあった。

下の段を開けるとそこからこの時期にはまだ辛い冷気が流れてくる、下の段は冷凍庫なっている。最悪の場合、今日の弁当は冷凍食品で大半を占めるかもしれないな。

開けた冷凍庫の中にはミートボールやハッシュドポテト、惣菜などが残っている。

「これくらいなら何とかなるな」

俺はハッシュドポテトとミートボールを取り出す、この二つは温めておく必要があるからな。

ミートボールは一袋に六個、湯煎で温めておいて半分は朝食にして半分は弁当のおかずにしよう。

ハッシュドポテトは徳用の大きな袋に入っている。ミートボールと同じ数だけ出して、これは電子レンジで温める。

さて、次だ。

水を大きめの鍋の五分くらいまで張り、コンロに置くと今度は別の鍋を横に持ってくる。そこには水に浸かったジャガイモが二個、水を切ってまな板の上に出す。

さらに、冷蔵庫からキャベツを出して切っていく。ジャガイモもカットしてその二つを先ほどの鍋に入れていく。

そこでようやく火をつける、火は中火と弱火の間くらいにセットしておく。冷凍食品の二つはまだ終わらない、その間に洗濯物だ。

寝る前に洗濯機を回しておいて、起きたらすぐに干せる状態にしておく。これが俺流の鉄則だ。

洗濯機から脱水の終わった洗濯物を取り出して洗濯カゴに入れていく、それを持ってベランダの扉を開けた。そこから入り込む朝陽、寒さを帯びたそよ風が今日はすごく心地いい。

「よい、せっと」

ベランダに出て、カゴを置いて洗濯物を干していく。基本的に洗濯物はある程度の間隔を空けて干す、そうすることで日に当たる面積が多くなる。詰まるところ、乾きやすくなる。

そして、干す前にしっかりと洗濯物を端から端まで伸ばす。これは乾いた後に皺を残さないようにするため、小さい頃、一人暮らしを始めた時はよくわからなかった。けど、やっていくうちに一つ一つに意味があったことを知る。

ーー母さんはこんなことをいつもやっていたのか、とつくづく感心する。

「よし、終わり」

洗濯物を干し終わって、朝陽を見ながら朝の澄んだ空気を味わった。なんだか久々に気持ちの良い気分だ。

グツグツグツグツ、ジュー!

「おっと、忘れかけてた」

ミートボールを湯煎していた鍋からお湯が少し吹きこぼれた、その音で朝食のことに気づく。洗濯カゴを持って部屋に戻り、カゴを元の場所に戻しておく。

鍋の火を止めて、小皿に出していく。丁度その時、電子レンジからも音が鳴ってハッシュドポテトも出来上がった。

ミートボールを鍋から小皿に移し、同じようにハッシュドポテトも小皿に出しておく。ハッシュドポテトを出し終えて、キャベツとジャガイモの鍋に目を向ける、湯は沸騰しているが具材にはまだ火が通ってなさそうだ。

ここで、棚からコンソメのブロックを取り出して一つ入れる。言わずもがな、野菜のコンソメスープですよ。

さて、使い終わった鍋を退けてフライパンを置く。冷凍庫からベーコンとアスパラガスを出す。

アスパラガスは春から初夏が旬の野菜、八百屋に行ったら残っていたものがあって安く売ってもらったんだった。三本ほど出して数センチ間隔で切っていく、切った三本のアスパラガスをベーコンで巻いていく。最後にベーコンが外れないようにつまようじを刺しておく。

空いたフライパンを火にかけて、水分を飛ばす。加熱が始まって水が音を立てて蒸発を始める。

それを見て、フライパンに油をひいて全体に広げる。そこにベーコンを巻いたアスパラガスを置いていく。先ほどの水分と同じようにアスパラガスが音を立てていく。

まだ、しばらくは大丈夫だろう。スープの鍋を見つめる、グツグツと沸騰して二つの野菜も火が通って味も染み込んだだろう。

小皿に一口、掬って口に含んだ。瞬間に広がる熱と塩気が下を通じて喉元を過ぎていく。

「まずまず、か」

スープの味見を終えて、鍋の火を弱くしておく。小皿に出した冷凍食品を弁当箱に詰めていく。あとはスープとアスパラの完成を待つだけだ。

まだ大丈夫だろうか、先日の目玉焼きのこともあって心配になった。箸を器用に使って、アスパラを返していく。

裏返したベーコンとアスパラはいい具合に焼けている、俺はコンロの火を消して皿に移し替える。

弁当箱を出してミートボールやハッシュドポテト、アスパラガスのベーコン巻きをを入れていく。弁当の半分はおかず、残りの半分はご飯を敷き詰めて良しとするかね。

「もういいだろ」

鍋の火を止めて、皿によそう。ついでにご飯もよそって机に持っていく。

「いただきます」

これでようやく朝食にありつける。ご飯、ジャガイモとキャベツのコンソメスープ、アスパラガスのベーコン巻き、冷凍食品のミートボールとハッシュドポテト、これが俺の朝食だ。

一人暮らしだから、米を炊く量も少なくて済む。ただでさえ小食だしな…。

いつも通りの少し早い朝なのに体は軽い、姉ちゃんや相棒にあったからかな?

それと有栖ーー。

現実でも会ったことのない子がどうして俺の夢の中に出てくるんだ?あいつは夢を渡り歩くって言っていたけど、正直に言えば半信半疑だ。

「うーーん……」

考えれば考えるほど、わからなくなってくる。あいつは一体ーーー。

「今度、聞いておくかな」

少ない朝食を平らげて食器を片付ける。歯を磨いて、顔を洗うと着ていたパーカーと履いていたジャージを脱ぎ捨てて制服に着替える。

家を出る準備はできたが、時間はまだ七時を過ぎたところ。こうも早く支度が出来てしまうと暇だな……。

そう思ってハーモニカを手に取る。メンテナンスは昨日のうちにやっておいたし、今は大丈夫だろう。ブレザーの内ポケットにしまい込んで、携帯を充電器から取り外してイヤホンと共にポケットへしまった。

後は香織を待つだけだが…最近、あいつとはギクシャクしている。原因はわかっているんだが、どうしても二の足を踏んでしまう。

「深く、考えない方がいいのかな」

椅子にもたれながら大きく息を吐く、幼馴染だからこそ踏み込ませるラインも知っているんだろうけどーー。

「会ったら謝っておくか。あ、ルーティー先輩にお礼しなきゃ」

そうして立ち上がると、俺はカバンを手に取って香織を待たずに家を出発したのだった。

 

 

 

 

 

「はぁ…」

学校に到着、したは良いものの……。

「…また一番のりかよ」

教室には誰もいない、今日も日直よりはやく来てしまったみたいだ。

とりあえず自分の席に着いて、授業の準備をしておく。課題は出てなかったはず、問題はない。

一通りの準備を終えて、俺は窓の外を眺める。天気は快晴、しばらく曇りの日が多かったから久々に青空を見て気分が良い。

「はぁ、日直は面倒だな…」

愚痴をこぼして教室の扉を開けて入って来たのは、哲ちゃんだった。

「あれ?和真じゃねぇか!」

「おはよ、今日って哲ちゃんが日直?」

「おお、意外と面倒なんだよな日直は」

そんなことを言いつつも、哲ちゃんは机に座って日誌を開いた。日直には意外と仕事がある、各授業の準備や黒板消しなどが主な仕事だ。他にもクラスの花の水替えとか、放課後の教室の清掃があったはずだ。

「ていうか、和真。琴浦から聞いたぞ?昨日、体調悪かったんだったな」

「え、あぁ。ちょっとね、琴浦から聞いたの?」

「ああ、お前が教室を出た後にな?心配だなって話をしてたら俺たちのところに来てさ、和真が体調悪いのになんで気づかないんだ〜って香織ちゃんに言ってた」

思い出すように哲ちゃんが話して、再び日誌に目を向ける。へぇ、と相槌を打ちながら俺は席を立って哲ちゃんの席に近寄った。

「あいつって意外と喋るだろ?」

「おお、意外とな。結構、ビビったわ」

琴浦のイメージを連想して二人で笑った。あいつは喋るようなイメージがないから、急に話しかけられるとビックリするんだよな。

「あいつ、他に何か言ってた?」

「起き抜けに戻して、飯も抜いてたって言ってた。和真、あんまり無理するなよ?」

「ああ、ごめんごめん」

あいつ、意外と話してるんだな。まぁ、話すなとは言ってないから何も文句は言えないし言うつもりもない。

そんな時に教室の扉が開いた。

「なんだ、またお前か」

「「うわ、出た」」

「おい、俺は人間だぞ」

噂をすればなんとやら、入って来たのは琴浦だった。俺と哲ちゃんは声を揃えて言うと琴浦も言い返して来た。無関心や、良く思っていないのなら無視すると思うが、こうして言葉を返すと言うことは向こうも俺たちのことを少しは良く思ってくれていると思いたい。

「藤宮、朝食はちゃんと食べて来たか?具合は大丈夫か?」

「大丈夫だよ、お前は俺のオカンか」

「昨日の今日だからな、心配だってする」

そう言いながら琴浦は席に着くと、途端に俺の机にビニール袋を置いた。

「一応のために、買って来ておいた。よければ食べろ」

「お、おう」

「お前ら、夫婦か」

「「違う」」

哲ちゃんのツッコミに、ついシンクロして返答する。まぁ、あいつも俺の心配をしてくれているのはよくわかった。あれは後で頂くとしよう。

そんなことをやっている内に生徒たちが登校してきて、学校にいつもの賑わいが訪れる。いつも通りの顔ぶれにいつも通りのホームルーム、俺はどこか安心した気持ちになった。

それから普通に授業が始まる。今日は体育もあったけど、いつも以上に体が軽かった。全力で走りすぎて、膝が大爆笑していた。

昼の授業が終わった昼休み、俺は弁当を持って教室を後にする。もちろん、ルーティー先輩のところだ。昨日は世話になったし、お礼だけでもしたかった。今度は何か持ってこよう。

「こんにちわ」

「あら、藤宮くんじゃない」

化学準備室の扉を開けるとそこにはルーティー先輩がコーヒーブレイクをしていた、いつもの調子で…。

この人は本当にぶれがない、そんなことを思っていると先輩がじーっと俺を見つめてくる。

え、なに?そんなに見られたら勘違いしちゃうんですけど……。

「具合、今日は良さそうね」

「え?あ、あぁ…おかげさまで。昨日はありがとうございました、迷惑かけてすみませんでした」

昨日と一昨日の事を謝りながら、俺は空いている椅子に座った。先輩はまだ笑みを浮かべてコーヒーを飲んでいた。

「気にしなくてもいいわ、流石にあの状態で放置するわけにはいかないもの」

「それでも、先輩にはお礼がしたかったんです」

そう言いつつもお互いに弁当の蓋を開けて、昼食にありつく。先輩の弁当は朝日が作ったものだ、いつ見ても美味しそうに見える。

「あれから、何かあった?」

「え、ああ…色々と、ありまして」

先輩に聞かれて、一つ一つ説明していく。突然、現れた相棒と有栖について話した。

「アリス?不思議な国の?」

俺の説明に先輩は童話の方のアリスを連想したらしい。まぁ、俺も最初はそっちを連想したけど…。

「なんか、夢を渡る事ができるみたいなんですよ。俺も詳しく話を聞いてないからよくわからないですけど」

「本当にファンタジーね」

どこか呆れるように先輩はコーヒーを飲みながら息を吐いた。それからは特に何か話したわけでもない、したとすればレポートや科学部の活動についてくらいだ。

午後の授業も近くなって俺は弁当を片付けて、部屋を出ようと立ち上がった。

「あ、和真!」

「はい?」

呼ばれて振り返ると先輩が何かを俺に向かって放り投げた。俺はそれをなんとか片手でキャッチした、よく見るとチャックのついた小さなビニール袋の中には怪しげな錠剤が入っていた。

「よーく眠れる薬よ、使ってみなさい」

言葉通り、きっとこれは睡眠薬か何かだろう。ここまで気を使わせてしまうと何だか申し訳ないと感じてくる。俺は苦笑いを浮かべながら頷いた。

「ありがとうございます、それじゃ」

「ええ」

感謝と短いやり取りをして、俺は今度こそ部屋を後にしたのだったー。




『と、いうわけだ琴浦。放課後、付き合えよ』



『あ、和真さん。こんにちわ』



『ただいま、「こころ」「姉さん」』



『いつものやつだ、取っておきたまえ』


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