ハピメアーone's light mindー   作:zero beyond
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前回までのあらすじ


昼休み、教室から姿を消す和真が気になって光は哲也に尋ねた。そこであらぬ誤解と真実が生まれ、騒然とするクラスで哲也は妙案を思いつき陽へ連絡を入れると放課後に光を誘ったのだった。
放課後になるとよそよそしい親友の態度に不信感を覚える中で、和真はアルバイト先である喫茶店「クローバー」を訪れる。中学生のこころに心配され、大学生の愛には会話を聞かれて揶揄われる始末、その二人の母であるあずきの笑顔に懐かしさを覚えた。
その後、陽と彼の父である誠に会う。クローバーは四宮 陽の実家でもあり和真は四宮家にも世話になっている。そこで四宮家の家族の温もりを見て羨望のまなざしを向ける。
バイトが終わると、誠からもらったココアシガレットを咥えながら自宅にたどり着く。すっかり脱力し、無気力になった和真を襲うインターフォンを耳にして和真は仕方なく起き上がる。
扉を開けた先にいたのは親友の哲也、そして光の二人。そして、遅れてやって来た陽を見て和真は流れを感じ取って三人を部屋に招き入れた。
夜も深まり、コーヒーを片手にベランダに佇む和真。光に家族のことを問われて、口ごもると意を決して親友たちに真実を話すことにしたーー。



第七話

部屋に戻った俺と琴浦。琴浦は椅子に座り、俺は台所で四人分のコーヒーを淹れる。

「ーー陽、哲ちゃん」

「どうした?」

「なに?」

二人を呼んで、淹れたコーヒーを机に持っていく。二人は互いに顔を見合わせて困惑した表情を見せている。琴浦はどこか納得した顔をして、俺の顔を見ていた。

それを敢えて見ないようにして、机にコーヒーを置く。陽と哲ちゃんが椅子に座る、準備が整ったところで俺は台所へ背を預けると三人を見据える。

「改まってどうしたの?」

「ああ、少しな。話しておこうと思ったんだ、琴浦もいるから丁度いいと思って」

ますます事態がわからないようで陽は首を傾げていた。俺は早くなっていく鼓動をなだめるように深呼吸して落ち着かせる。

「前に、家族の話をしたと思うんだけど…」

「離れて暮らしてるんだろ?琴浦みたいに」

そう、俺は陽と哲ちゃんに『本当のことを話していない』。琴浦に言われてようやく本当のことを話そうと決心した。

「実はさ、俺の家族ってーー『もういない』んだよ」

「え、それって…」

陽は察したような声を上げる。そこで俺はもう一度、深呼吸をして自分を落ち着かせる。本当は真実を知られることがとても怖い。でも、ここでジッとしていてもどうにもならないんだ。

ーーそうだろ?『相棒』。

俺は思い切って全てを話す。たとえ、ここで親友たちを失ったとしても自分の選択に後悔なんてしたくない。

「十年前だ、事故で俺以外は死んじゃったんだ。俺がわがままを言ってキャンプに行ってさーー」

俺はこの時、全てを話した。本当のことを知られるという恐怖もあったが、それに対してようやく話せたという開放感や安心感もあった。

「それで、まぁ…今に至るかな」

話は一区切りついた、でも三人は何も言わない。顔を見れば三人とも曇った表情をしていた。

「なんで…」

嘘をついていたのたか、だろうな。なんとなく哲ちゃんの言葉や心情は理解できる。一年の頃から騙していた、怒らない理由がない。

「なんで一人で抱え込んでた!」

「……は?」

哲ちゃんの口から出た言葉に俺は呆気に取られて固まる。予想外だった言葉にしばらく思考がフリーズしてしまう。

「なんでそんな大事なことを黙ってたんだよ!」

「いや、別に言うようなことでもないし…」

「ふざけんなよ!」

机を叩いて椅子から立ち上がる哲ちゃんは台所まで歩いてきて、俺の胸倉を掴んだ。

「確かに俺じゃ何もしてやれない。けど、げとよ…」

俺の胸倉を掴んだ哲ちゃんの手が震えている。その表情はどこか悔しそうなものだった。

「話ぐらい、してくれたっていいだろ…!」

「僕も、哲也の言う事に賛成だね」

いつのまにか台所にいた陽は空になったカップにコーヒーを淹れると、俺と同じように台所に背を預ける。

「ごめんね、気づいてあげられなくて」

「いや、待て、ちが…」

陽が謝りだしてパニック状態だ。

違う、違うんだ…。

「俺、俺は」

「お前は恵まれているな」

視線を上げると琴浦が俺を見ていた。初めて琴浦と話したあの時と同じ感覚だ。

「お前を理解しようとしてくれる人間が周りにいるんだからな」

そう言ってコーヒーを飲む琴浦、しばらくその言葉の意味がわからなかった。

でも、一つだけわかったことがあるといえばーー。

「ありがとうな。哲ちゃん、陽」

ーーこんなにも親身になってくれる、信頼できる親友がいるんだ。

(よかったね、和真)

不思議と、もう一人の自分が嬉しそうに囁いた気がしたー。

 

 

 

 

 

新たに絆を深めた俺たちはコーヒーに飽きて、甘いものを求めて夜の街へ繰り出した。そもそも哲ちゃんがコーヒーをあまり飲まないから、哲ちゃんの一言で外に出ることとなった。

「ていうか、お前らよくコーヒーなんて飲めるな」

哲ちゃんの言葉に俺たちは顔を見合わせる。俺と陽は飲みなれているし、琴浦がコーヒーを飲めるのも少し前に知っていた。

「まぁ、家が家だしね」

「だな、琴浦も家で飲んでるのか?」

「そうだな、缶コーヒーよりも自分で淹れることが多いな」

「「「ふーん」」」

琴浦の口から語られる私生活に俺たちは相槌を打つ。面識のない人間との会話において緊張するのは最初だけで、一度でも話してしまえばいつも通りの態度で話せてしまう不思議な感覚。

「みんな、お財布の中は温かい?」

「まずまず、かな。てつy--」

俺が周りに尋ねると陽が自分の財布の中を確認する。その陽が哲ちゃんに目を向けるが、哲ちゃんの顔を見て怪訝な表情を浮かべた。

「哲ちゃん、もしかして…」

「違う、違うんだ」

「また自転車に使ったの?」

俺と陽の言葉に哲ちゃんは焦っているのか、挙動不審になっていく。哲ちゃんは休日に自転車でよく遠くまで出かける。メンテナンスも自分でやっているみたい、もちろん相応に金がかかる。

それは俺や陽にも言えることだけど、俺たち以上に哲ちゃんは出費が多いみたいだ。

「ちょっと、な…」

沈んだ様子の哲ちゃんを見て俺と陽は溜息を吐く。そんな哲ちゃんの肩を琴浦が叩く。

「根津の分は俺が払う、安心しろ」

「いいのか!?」

琴浦の言葉に顔を上げる哲ちゃん、琴浦は笑って頷く。

「誘ってくれた礼だ、気にするな」

「こ、琴浦さーーん!」

琴浦の見せる男気に抱き着く哲ちゃん、それを憂鬱そうに押しのける琴浦。そんな二人を見ていたら自然と笑みがこぼれる。結果、俺と陽と琴浦が金を払って菓子や飲み物を買って帰宅した。

だが、おごりではなく建て替えという形なので後でキッチリと払わせるらしいーー。

帰宅した俺たちは早速、買ってきた菓子や飲み物を開けた。明日は休日だからということで哲ちゃんの気分が高揚して、泊まっていくことになった。

「それじゃあ、僕も泊まっていくよ」

「あいよ、布団とか持って来ないとな」

ベッドの側にあるクローゼットを開けてそこから敷布団と掛布団を乱雑に取り出していく。

「琴浦くんはどうする?」

「いや、流石にそこまでは…」

「遠慮するなって、泊まっていけよ」

「なんで、自分の家みたいに言ってるんだよ」

三人の会話を自然と聞いていて笑いそうになってしまう。笑いをこらえながら布団を持ってリビングに戻る。

「別に俺は構わないぞ?着替えは俺のものを使えばいいし」

「サイズが合わないんじゃない?」

「おい、サラッとバカにするな」

平然と俺の気にしていることを口にする陽を睨むが本人は悪びれもなく口角を上げている。

「あれ、和真は?」

「本当だ、どこ行った?」

急に立ち上がった哲ちゃんが辺りを見回すような動きをすると、陽も一緒になって俺を探すかのようなアクションをする。

「やめろよ!悲しくなってくるだろ!」

ここまでくるともはやイジメではなかろうか、ここの三人は背が170を超えているそのせいか俺の背丈の低さが浮き彫りになってしまう。

「俺だって好きで小さくなったんじゃないんだぞ!」

「俺たちに言われても…」

俺の心の叫びに哲ちゃんが困惑した表情を浮かべた。ふと、気づくと俺たちはこうしてまたバカなことで笑っている。

何気ないことだけど、これが最も価値のあるものなんだろうなーー。

布団を置いて寝床を広げる。

「そろそろ寝るか?」

琴浦の言葉に俺は端末の画面に表示される時間を見た。現在は夜の10時になるところ、良い時間と言えばそうなんだけど……。

俺は不安になって他の二人をちらりと見た。その予感が杞憂で終わることを願ってーー。

案の定、それはかなうはずもない。

「琴浦、お前…」

「何を言っているんだい?」

「……何かまずい事を言ったか?」

二人の眼付が一変、鋭くなって猛獣さながらのものになっていた。弱々しい口調で俺に助けを求める琴浦の顔を見て、俺は溜息を吐くしかなかった。

二人が泊まると九割方でこうなってしまう、哲ちゃんが盛り上がって陽がそれに便乗する。俗に言う深夜のテンションだ、しかも今日は琴浦がいるから哲ちゃんのテンションも数割増しだろう。

「和真、トランプ出せ!」

「UNOも一緒に出して!」

こうなるとしばらくは手が付けられない、どうしてかって…?

「今日こそ、今日こそは勝ってやる!」

「おいおい、しつこいヤツだな。陽、いい加減に認めろよーーお前じゃ俺には勝てないんだよ!」

この二人の間にはどうでもいい因縁がある、哲ちゃんのカードゲームの強さに嫉妬した陽が何度も挑んでは返り討ちになっている。

なぜかわからないが、カードゲームになると哲ちゃんは鬼のように強くなる。それは恐ろしいくらいの引きの強運だ。

UNOで言えば陽が残り一枚になった時にドロー系のカードを引き当てては逆転勝利を収めている。

不安そうに二人に視線を行き来させる琴浦、俺はそれを他所に新しくコーヒーを淹れなおす。

「放っておいていいのか?」

「ああ、いつものことだから。子供がじゃれていると思えばいいよ。コーヒーほしいか?」

「あ、ああ。頂く」

琴浦の返事を聞いて新しくコップを出して、お湯を沸かし始める。その間にコーヒーフィルターとドリッパーの準備をする。

コーヒーの粉末を入れて、後はお湯が沸くまで待機だ。

「ふぅ…」

「賑やかだな」

「ん?ああ、そうだな」

いつの間にか琴浦が隣に立っていて、声をかけてくる。シガレットの箱を差し出すと、そこから一つ抜き取って俺と同じように咥えた。

「まだだ、このドローにかける!」

「まだやるのかよ、早くしろよ」

勝利が見えているのか、哲ちゃんは余裕綽々といったところだ。陽は気が張っているのか山札に伸ばされた手が震えている。

「行くぞ!ドロー!」

気になって俺と琴浦はその引きに目を引かれる。陽が引いたカードを見た、途端に口角が上がっていくところを見るとドローのカードを引いたらしい。

「ドロー4!今度こそ僕の勝ちだ!」

「「おお!」」

この土壇場でドローのカードを出した。熱くなる展開に俺たちは声を上げ、隣を見た。その時、俺たちは瞬時に冷静さを取り戻した。

「ふ、あははは!」

「はは!」

俺も琴浦も同じだったらしい。変なところで俺たちは似ているみたいだ.。

「何を勘違いしている?」

「え?」

「「うん?」」

哲ちゃんの声に視線が集まっていく。哲ちゃんの手札は二枚、対して陽の手札は一枚。これなら陽の勝ちは確実だ。それなのに哲ちゃんは余裕を崩さない。

「いや、今回は僕の勝ちだ!ドロー4で哲也のターンは飛ぶ、つまり僕が色を選択して残りの一枚を出せば…」

「いつから俺の手札にドローがないと錯覚していた?」

「まさか…!」

哲ちゃんは二枚のうち、一枚を取って場に出した。そのカードはーー。

「ドロー、4…」

「お前の分と合わせて8枚、お前のターンが飛んで俺の番だ。緑、ウノで…上がりだ」

陽が呆然としている中、哲ちゃんはさっさとカードを出して上がった。その手際の良さに俺と琴浦は思わず拍手を送る。

「まだまだ弱いな」

「もう、ダメだぁ……」

「スゲエ!哲也さん神ってる!」

「それほどでもあるな、ブゥーハッハッハ!」

崩れ落ちる陽を放置して立ち上がる哲ちゃんのどこかの神にも似た勝利の叫びが轟く。敗北のショックが大きく、抜け殻のようになっている陽を見兼ねた琴浦が肩をたたく。

 

 

 

 

 

「さて、いい感じに勝ったから今日は寝るか」

「だね、ふぁ…」

コーヒーを飲んだにも関わらず欠伸をすると途端に眠気が訪れる。陽も勝負が終わって緊張の糸がほどけたみたいで大きく息を吐いた。

「和真はどこで寝るのさ?」

「そういえば…」

ふと気付いたように陽が俺に聞いてくる。哲ちゃんも言われてみれば、という表情で俺を見る。いつもなら三人でベッドに布団、ソファーと均等に寝床を確保するが今回は琴浦がいる。

「とりあえず琴浦はベッド使っていいから。それで、陽と哲ちゃんが布団とソファーを使えばいい」

「いや、だからお前は?」

「……椅子?」

寝床を求めて視線を巡らせるが、これといっていいところもなく椅子と机に行き着いた。そんな俺を見て三人が顔を見合わせる。

「ベッドはお前が使えばいい、そこには俺が行く」

「琴浦くんが気を使う必要ないよ、そこは哲也が行くから」

「お、おい!まぁ、いつも迷惑かけてるから仕方ないけど…」

三人して急に俺の心配している。そんなところで気を使うことなんてないと思うが…。

「いいよ、俺は大丈夫だから。それに…」

「それに、なんだ?」

特定の条件が揃わないとあの明晰夢は見れない、あの仮説が正しいかどうか試す機会でもあるわけなんだよな。チラリと三人を見るが、どこか不安な表情をしている。その不安を煽るようで悪いが夢のことも話してしまおうか。

「最近、といっても一昨日からだけど…夢を見たんだ」

「夢…?」

「ああ、明晰夢っていう夢だって自覚して見る夢なんだけど」

「……悪い、どういうことだ?」

哲ちゃんが渋い顔で首を傾げている。俺も詳しいわけじゃないし、説明がうまくできないんだよな。とりあえず俺は寝る準備のために鞄の中に入れたままのイヤホンを手にして椅子に座る。

「夢の中でも意識がはっきりしている夢、なんだって。病院の先生がそう言ってた」

「へぇー」

「複雑だな…」

「実際に明晰夢を見る人はいるみたいだよ?ただ少ないケースだから対処という対処が無いらしくて」

そう言いながらも、イヤホンを片耳に付けて音楽を流し始める。そのまま見た夢の話しを続けて、話し終わった頃には全員が沈んだ顔をしている。それを一瞥して俺は足を組んで、椅子に背を預ける。

「まぁ、悪いことばかりじゃないけどね」

「どういうこと?」

「だって死んだと思ってた姉ちゃんと会えたんだ、自分自身とも対話ができた。万々歳じゃないか」

「「「………」」」

急にみんなが凍ったように固まる。俺は何がなんだかわからず、キョロキョロと全員の顔を見渡す。

「お前、それ本気で言ってるのか?」

「事実そうだろ?何も悪いことなんてないじゃん」

「藤宮!」

声を荒げる琴浦、大きな声に驚いて俺が肩をビクッと震わせると胸倉を掴まれる。

「目を覚ませ!お前のそれは…」

「幻想、悪夢かもしれないな。でもな…?」

俺の胸倉を掴んでいる琴浦の手に触れる、琴浦の目は少し潤んでいて、今にも涙が溢れそうになっている。

「夢の中で姉ちゃんに会えたことは良かったと思ってる。ずっと引きずるよりは、さ?」

そう言って笑ってみせるが琴浦は目を伏せた。逆効果だったみたいだ、そう思って今度は肩を叩いてやる。

「それにいいじゃねぇか」

「「は?」」

「ヤバい夢の中にいても、まだ生きてる。こんなスリリングな事があるか?俺はもう、嬉しくて嬉しくて!」

佳乃さんに言われた通りだ、まだ姉ちゃんと話して色んなことを知るべきなんだ。たとえ、親友たちに止められても俺はやめることなんてしないね。今まで、会えなかったことには理由があるのかもしれない。相棒と出会えたことにもきっと意味があると思う。

「和真ってそういうところあるよね」

「向こう見ずというか、怖いもの無しというか…」

ベッドとソファーに座る哲ちゃんと陽が大きなため息を吐く。期待を裏切ったような感覚で、心苦しいところもある。

「なんてことない、俺は好奇心旺盛な快楽主義者だよ。何かあったら俺の方から頼るよ、迷惑じゃなければな?」

「ああ…」

根負けしてくれたようで琴浦は手を離してくれた。後ろでは哲ちゃんと陽が仕方なさそうな顔をしている。

「まだ大丈夫だから、今は自分だけで頑張ってみるよ」

笑ってそう言ってみせるが、みんなの表情は未だにくらい。

「あ、そういやーー」

ふと、思い出したことがあった。俺のその声にみんなの視線が集まった。

「新しい布団、もらってたわ。知り合いから」

「「「おい」」」

さっきまでのくらい空気は一瞬で吹き飛んだ。みんがドッキリに合ったような感覚で仕方なさそうに笑い始めていた。

イヤホンを外して再びクローゼットの前に移動した俺は、もらった布団を持って寝床の支度を始める。

「それじゃ、寝るか」

「それで誰がどこに寝るんだ?」

琴浦の純粋な質問にハッとして気づく。結局、それをそっちのけで俺の話をしていたな。

「さっきの通りでいいんじゃない?琴浦くんがベッドで」

「陽と哲ちゃんが布団でいいだろ、おれはソファーで寝るよ」

机に置いた携帯を手に取ってソファーに倒れ込むーーその前にやる事を思い出して、机の傍らに置いてある鞄に手を伸ばす。

「どうした?」

「薬、飲み忘れるところだった」

鞄から取り出したのは先輩からもらった曰くよく眠れる薬、それを手にした俺は台所へ行ってコップに水を注いだ。

薬を飲む前にそれを眺める、これを飲めばしばらくは夢を見ずに済むのかな?どこか期待しているような、少しドキドキしている。

「まぁ、なるようにしかならないか」

意を決して、薬を口に放り込んで水を流し込む。喉元を薬が通っていくと、同時に水が腹を満たしていく。

薬を飲み込んで一息ついて、ようやくソファーにたどり着いた。

「じゃあ消すよ?」

「ああ」

「哲也、勝手に僕のところに来ないでよ?響子以外はお断りだから」

「バカ!俺だって朝日以外はノーサンキューだっての」

馬鹿な二人が幸せかどうか疑うような会話をしているが、あまり気にしない。容赦なく電気を消すと、その二人が急に慌てて布団に潜り込む。

「じゃあーー」

「「「おやすみ」」」

そう言って俺は目を閉じた。ここ最近は色々なことがありすぎてこうして落ち着いて眠りに就くのは久々だ。

また、姉ちゃんと話さないと。友達が家に泊まってバカやってるってーー。

お休み、相棒に姉ちゃんーー。

ーーお休み、有栖。

重くなる瞼と、眠りに落ちていく浮遊感に身を任せながら俺は意識を手放したのだった。

 

 

 

 

 

『もしかしたらまだ何処かに居るんじゃないか、ふとした時にそう考えてしまう』

 

 

 

『そんな事は無いってわかっていても…そう思わせるものがあの人にはあった』

 

 

 

 

『わたしがそう思っているとしたら、あの人はなんて言うかな?』

 

 

 

『もう、仕方ないんだから。笑ってそんなことを言うのかな…?けどもういないんだから言う訳が無い』

 

 

 

『私がこうなんだから、じゃあ和真は……』

 

 

 

『気にしているのは当たり前で、だから今もこうして傍にいる』

 

 

 

『こうなるしか、こうするしか無かった。そうでもしないと、きっと壊れてしまう』

 

 

 

『だからわかってる、和真ーー私はこうするしかないんだよね』






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