ソードアート・オンラインが半分異世界転生ぽくなったら 作:黒天使
「そんな訳ないだろ、ちゃんと探してみたか?」
右手を振ると出現するシステムメニューの一番下に《ログアウト》のコマンドが存在し、本来ならそれを押すことで即ログアウト出来るのだが………。
「ホントだって!お前も見てみろよ」
そんなバカな…と疑いながら右手を振り、俺もクラインと同じシステムメニューを開ける。一番左上に名前の英語表記、その下にアイテムやオプションメニューなどが連なり、その右側には今の自分のステータスが表示されている。そして左側の一番下には《ログアウトボタン》が………
「……………」
無い
「な、無いだろ?」
「確かにな……」
「はぁ〜何かのバグか?キリの字よぉ〜ベータテストの時もこんなのあったのか?」
クラインの言葉を聞き、βテストの時の記憶をほじくり倒してみる。が、しかし幾ら記憶をほじくり倒してもバグのバの字も出てこない。それほどこの《SAO》の基礎プログラムの性能は凄まじい。その証拠にβテストの時点でバグが存在しなかったのだから。
「……いや、俺の知っている限りじゃあバグの一つも聞いたことがないな」
「マジかぁ……ったくよぉ…サービス初日にこんなポカやってたら運営も涙目だわな」
クラインの運営という単語を聞き、ある事をクラインへと聞いてみた。
「GMコールしてみたか?」
GMコールとは非常時にプレイヤーが運営に連絡できる唯一の手段である。今、現在殆どのプレイヤー達が恐らく《ログアウトボタン》が消滅していることに気がついているだろう。運営には今頃コールが殺到し、対応しようとしている筈だ。
「コールしたけど、何も反応無いんだよ」
「そういえば、そんな呑気してて良いのか?ピザ頼んでるんだろ?」
すると、クラインは何とも情けない表情になり
「あ、ああ!そ、そうだった!お、オレ様のピッツァとジンジャーエールがぁぁ!!?」
大袈裟に崩れ去るクラインを内心で合唱してから俺は改めてこの騒ぎが致命傷どころでは無いことについて考えていた。この《SAO》というゲームはVRMMORPGというジャンルの最前線に位置することになるゲームで、運営だって実質のログアウト不可の今の状況を想定していないハズが…
「くっそー!オレ様のピッツァがぁぁぁ!アンチョビがぁぁぁ!!」
俺の隣でアンチョビピッツァとジンジャーエールへと愛のコールを捧げているクラインを横目に俺はある仮定を立てた。
そうだ、こんなバグあり得ない。あってはならないハズなのだ、それにこの世界を創った会社の《アーガス》にはあの天才もいるのだ、こんなバグが発生する訳は無い。
開発者の意志が無ければ
そこまで辿り着いた時決してこの仮想の肉体には流れるはずが無い冷や汗が流れた気がした。いや、もしかしたら現実の俺の体に流れているのかもしれない。
その時だった
突然視界が青く染まり出した。その青い光は俺を囲うように輝き、その光の中には白い粒子が舞っていた。
この現象には覚えがある。βテスト時代に何度も経験した《転移》だ。しかし、俺は今《転移》アイテムを使っていない。クラインの方を振り返るとクラインにも同様の現象が発生していた。だんだんと青い光が濃くなっていき、周りの風の音や景色がシャットアウトされた。
厚い光のヴェールが薄れていくと俺の耳に人の声が聞こえてきた。その声の出どころは先程までクラインといた《はじまりの街》の中央広場だ。
俺たち二人が…いや、一万人のプレイヤーが《転移》された場所はその《はじまりの街》の中央広場だった。円錐を削ったような形をしている《アインクラッド》は勿論、下の層ほど広い設計なため、この第一層の最も広いこの《はじまりの街》がアインクラッドの中で最も大きい街となる。その広さは相変わらずのデカさで、中央広場に一万人がスッポリと入ってしまう。
草原の草では無く、石畳の床に街路樹、《SAO》にありがちな中世的な建物にその奥には巨大な黒光りする宮殿が見える。「どうなっているんだ」「GM出てこーい!」等、GMへの文句を垂れるプレイヤーが多かったが、俺たち二人は、は?と口を開けていた。
転移してから十数秒、突然耳が張り裂けそうになる程の大ボリュームの鐘の音が鳴り響いた。リンゴーン、リンゴーンと鳴り響くその音にプレイヤー達は皆、意識を音に向ける。
その時だった、スカイブルーの色をした仮想の空の色がクリムゾンの色に変わった。それと同時にプレイヤー達の上空、約5メートルあたりに黒い渦巻きが現れた。渦巻きは次第に形を成していき、形成されていく。ボロボロの巨大な赤いローブがまず出現した。しかし、その赤いローブには中身の体が入っておらず、思わずその威圧感に圧倒された。形を成したローブの先に白い手袋が両手分、同時に出現した。
これではまるで赤い死神だ。そして、その死神の口にあたる部分から衝撃的な発言がなされた。
『諸君、私の世界へようこそ』
その言葉の意味は少なくとも俺は直ぐには分からなかった。どういうことだ、と内心で呟き続ける。
『私の名前は茅場晶彦、この世界をコントロール出来る唯一の人物だ』
それを聞き、ここにいるほぼ全てのプレイヤー達が驚愕した。
茅場晶彦ーー数多く存在する弱小ゲーム会社の《アーガス》を最大手まで大きくのし上らせた若き天才ゲームプログラマーであり、《ナーヴギア》の基礎設計者、《SAO》の開発ディレクターでもある。
俺は一人のゲーマーとして茅場晶彦には密かな憧れを抱いていた。茅場が出ている番組は現在までずっと録画してあるし、雑誌の中のインタビューなどは暗記するほど繰り返し読んだ。
そんな男がーーこの《SAO》の創始者がどうしてーー
『まずは、ここにいるプレイヤー達に告げる。諸君らはもうすでにメインメニューから《ログアウトボタン》が消滅している事に気がついている事だろう。しかし、それはこの《ソードアート・オンライン》の仕様である。繰り返す、《ソードアート・オンライン》の本来の仕様である。』
そこでようやくどよめきの声が上がる。横にいるクラインも
「し、仕様だと……」と開けていた口をどうにか動かして発していた。
滑らかなその低音アナウンスの声は淡々と驚く事を口にしていく。
『諸君は今後、この城の頂を極め、攻略するまではログアウトできない。』
頂ーーその言葉を聞いて俺は辺りを見回した。城なんて何処にも無いじゃないか……。
『また、外部からのナーヴギアの停止などもあり得ない。もし、外部からの干渉を受けた場合。または諸君のヒットポイントが0になった時ーー』
その次の言葉が一番プレイヤー達を絶望へと落とし込んだ。
『ナーヴギアの信号素子から放たれる高出力マイクロウェーブにより、諸君らの脳を破壊するーーー』
クラインと俺は思わず情けなく開けた口を気にせず向かい合った。
その言葉には最早狂気…などという言葉では当てはまらないほどの何処か金属的な冷たさを帯びていた。
「は、はは…何言ってんだ……そんなことできる筈ねぇだろ……ナーヴギアはただのゲーム機だ!そうだろ……キリの字……」
後半は掠れた声だった。クラインは縋るような目で俺を見てきた。が、クラインの望むような答えを出すことは出来なさそうだ。ナーヴギアは信号素子から発せられる微弱な電磁波で脳細胞そのものに擬似的感覚を与えるというウルトラテクノロジーなのだ。それだけを聞くとナーヴギアを凄いと感じるが、実際にはナーヴギアは身近にあるモノのある原理が元になっている。
それは電子レンジだ。つまり充分な出力さえあればナーヴギアは俺たちの脳細胞中の水分を利用し、摩擦熱により脳を蒸し焼きにして焼き殺すことはできる。
「原理的には出来ないことも無い……けど、あり得ない。ナーヴギアの電源コードを引き抜けばそんな高出力のマイクロウェーブなんて出せない筈だ……大容量のバッテリーでも無い…限り…」
クラインと同じ、掠れた声で俺も必死にこれがハッタリだと言い切ろうとしたが、自分の言葉で気づいたことに今日何度目か、再び絶句した。
「内臓……してるぜ…!ナーヴギアの重さの三割型はバッテリセルだってナーヴギアの取説に書いてた……でも、でもよう!なんで、なんでこんな……」
全プレイヤーが思っているだろう疑問に対し、茅場晶彦を名乗る赤い死神は即答した。
『諸君らは今、こう考えている。茅場晶彦は何故こんなことをするのだろうと。身代金目当ての凶悪なテロか、何かなのかと。』
一拍間を置いて、その軋んだような低い声で死神は言い切った。
『それは、違う。私は自ら創造したこの世界を観察するためにナーヴギアを創り、《SAO》を創り上げた……よって、私の目的は既に達せられている。』
「観察だと………」
思わず呟いてしまう。そんな事の為にあの男は仮想世界を創り上げたというのか………。これまで抱いていた茅場晶彦への憧れと尊敬が音を立てて崩れ、チリとなって消えた。
『諸君らの脳の破壊プログラムの具体的な条件は、二時間以上のネットワーク回路の切断。十分以上の外部電源切断、ナーヴギアのロック解除、及び、ナーヴギアの本体の分解、破壊。そして、諸君らのヒットポイントが0になる。以上の条件の内、いずれかでも当てはまった時。破壊シークエンスは執行される。』
『そして、よく覚えておいてほしい。これはもうただのゲームでは無い。諸君らにとってこの《ソードアート・オンライン》はもう一つの現実である。』
---------現実
先程、茅場晶彦が言った『この城の頂ーー』というのは間違いなく百層あるこのアインクラッドのことだ。五、六時間前まで、母の作った昼飯を食べて、妹と短い会話をし、母と妹二人に「行ってらっしゃい」と言われてこの世界に来た。
その二人ともう会えない?
この城を極めるまで?
そう認識した途端、自分の現実世界がどんどん遠くなっていくような浮遊感に襲われた。
『最後に、私から諸君らにプレゼントをしよう。これはこのよう世界が現実だということを実感させてくれるだろう。』
茅場の言葉が終わると同時に俺は無意識に右手を振っていた。周りのプレイヤー達、クラインも同じのようで。一万人分のサウンド音が鳴り響く。メインメニューが開き、見慣れたウインドウが目に入る。
そして、その無意識のまま……いや、これはこの世界の神たる茅場晶彦がアバターを操っているため無意識ではないのだが。
その右手が《アイテムウインドウ》の所へと運ばれ、タップする。
「?なんだこれ」
その中には、先程クラインと狩りをしていた《フレンジーボア》の肉と皮。そしてポーションなどの戦闘アイテムなどが並んでいるが、その一番上に《手鏡》という謎のアイテムが出現していた。
その《手鏡》をオブジェクト化させる。そこには紫色の縁で囲まれたシンプルな丸型の鏡だった。
「…………」
おそるおそる鏡を覗き込んでみる。そこに映るのは俺が必死で考えぬいた美青年アバターの顔だけだ。
「?」
何も起こらないかと思い、横のクラインに話しかけようとした、するとその隣のクラインを鏡から発せられた光が包んだ。
慌てて、クラインに声をかけようとしたが俺も鏡の光に包まれた。
一万人もの光が《はじまりの街》の中央広場を埋め尽くし、晴れていくと再び鏡と顔が向き合う。その時俺が目にしたのは、先程までの俺のアバターの超美青年………ではなかった。
齢14の俺が未だに姉妹に間違われ、コンプレックスの一つである中性的な顔が写り込んで来た。
「うお、俺じゃん……」
それは紛れも無い、現実世界の《桐ヶ谷和人》の顔だった。
《ボイスエフェクト》が無くなり、自分の声まで先程とは大きく違ったがそれに気付か無いほど驚愕していた。
手から《手鏡》が滑り落ち、ポリゴンの粒子となって消えた。
周りを見回すとそこに居たのは、美男美女だらけのアバター達ではなかった。平均的な横幅が広くなり、何と男女比まで大きく変化していた。
「……!クライン!どこだ!」
「……!キリト!どこだー!」
綺麗にハモったその声の主である俺とクラインは声の相方の方へと首を向ける。
そこに居たクラインはバンダナがさっきより似合ってるんじゃないかと思うぐらいの山賊じみた顔をしていた。
「お前がクラインか!?」 「オメェがキリトか!?」
お互いを見合い、驚愕した。
それにしても信じられないほどの再現度である。まるでスキャンにでもかけたような……
スキャンーー
「!そうか……《ナーヴギア》は頭を丸々覆ってるからこんなことが……」
俺がこの再現度の理由に気づくと、今度はクラインがまた一つ疑問を出してきた。
「で、でもよう……体つきとかはどうすんだよ。」
虚を突かれた。確かに顔の再現には納得できるが、体つきに関してはどうしようもできないはずだ。
そんな疑問を解決したのは意外にも、疑問を投げつけたクラインだった。
「ん?まてよ……オレェ《ナーヴギア》買ったの最近だから覚えてる……最初にダイブする時…き、キャリブレーション?だっけ?それでやたら体をベタベタ触らされた……もしかして、アレか?」
「ああ……なるほど。」
《キャリブレーション》とはつまり《どれだけ手を動かしたら体に触れるのか》を測る設定のこと。その設定は《現実の体の体格をデータ化する》ことに等しい。
「現実……」
わざわざ現実の顔や体格を再現したのは茅場晶彦からの啓示だ。
《この世界は既にゲームでは無く。もう一つの現実である》という
残酷な啓示
『………以上で《ソードアート・オンライン》の正式チュートリアルを終了すr……』
その時だった。
突然、《はじまりの街》の風景が色とりどりのポリゴンのカケラへと変わり始めた。
「なっ!」
信じられないほどの速さでカケラとなり、朽ちていく。
《はじまりの街》どころか空までがバラバラとガラスのように砕け散り、残った闇へと消えていく。
その闇は俺たちプレイヤーがいる《中央広場》をジワジワと追い込むようにして迫っている。
「……くそっ……」
悪態を一つ吐く。寧ろ悪態一つで閉じた自分の口を褒めたい。
プレイヤー達はこの突然発生した現象に恐れ、悲鳴と怒号、泣き声をあげている。
隣にいるクラインは口と目をこれでもかと開けて、絶望していた。
そして等々、闇がプレイヤー達のいる所の空間を侵略して来た。
次々とプレイヤー達が巨大な大落とし穴のような闇に溺れていく。
そして、俺も……………
溺れる寸前、クラインが必死に伸ばしていた手に掴まろうとしたが。
まるで神様に「終わりだよ」と言われたように俺の手は、虚しく空を切った。
ーーーー消えていく。
投稿遅れてごめんなさいm(_ _)m
理由は新しい生活になって諸々忙しかった為です。
これからはこんなこと無いようにします。
次回、オリ主がでます。多分。
誤字脱字報告、感想よろしくお願いいたします。