ソードアート・オンラインが半分異世界転生ぽくなったら 作:黒天使
沈んでどれぐらい経ったのだろう。
ーー何も見えない。
目を開けても映るのは暗闇だけだ。
「……………」
海に溺れたような浮遊感だけが今の俺の意識を繋ぎとめていた。
一体いつまで………
そう思ったその時。
「?」
どこか懐かしい感覚を覚えた。その感覚に惹かれるように体が軌道修正されて滑り込むように沈む。
約100メートル程沈むと、まだ胸当てしかしていない為、インナーの背にヒンヤリとしたガラスのような物に当たる。
「………………」
不思議とこうやって仰向けになって寝転んでいるだけで、先程までの《茅場晶彦》からの理不尽で残酷な啓示に対する怒りや、それに対しての泣きそうになるこの締め付けられるような苦しみが熱を引いて落ち着いていく。
このまま、闇に溶けるのもいいかもしれない。
しかし、そうは問屋かおろさないようで。俺の背についていた透明な床が正体を表すように光輝く。その光り方は花が咲くようだった。
光が収まり、咄嗟に閉じていた仮想の瞼をゆっくりと、目がくらまないように開ける。
立ち上がり、自分が立っている場所が現実性のカケラも無いことに驚いた。
分かりやすく言うならばーー宇宙空間のような暗闇に平行に浮いている蓋が無い筒の上に立っている。と言えばいいのだろうか。
立っている地面はステンドグラスのように光輝いている、半径100メートル程の円形で、仄かな光が暗闇を優しく照らしてくれている。
「………………」
ボーッと立ち尽くしていると突然に俺の前方に緑色の0と1の二つの数字が大量に出現し、何かを形作るようにうごめいた。
「!!」
驚く、俺を他所に0と1が円柱状にまとまり始め、何かを形作った。
それは……ヒトだった。
といっても下顎あたりまであるジッパー付きの大きな黒いコートを体つきを隠すように着込んで、更には同色のフードを深く被っているため顔が全く見えない。
「…………誰だ、アンタ。」
男性か女性かもわからないその《謎の人物》に対して俺の脳内が赤信号のランプをチカチカさせている。
ー何故、お前なんだ。
不思議な感覚だった。その《謎の人物》から発せられたであろう声は、声というより耳を通って伝わるモノでは無く、まるで頭に直接響くようなノイズだった。
男性と女性の声が混じっているようなそのノイズでは、ますます目の前の人物が男か女かわからなくなる。
「………何をいってる。アンタが俺をここに?」
その質問はビンゴらしく
ー……君は知らなければならない
ー……闇を知らなければならなかった
何をいってるんだコイツは、と率直な感想を胸の中に留めているとまたまた突然、目の前の人物の右手が黒い一筋の光が一瞬迸る。そこには黒と紫の二色で彩られた片手剣が握られていた。
そして、今度は剣を握っている右手では無く左手を上げる。
すると、今度は俺の右手に白い閃光がさっきの黒い剣と同じように一瞬の閃光を迸りながらジェネレートされた。
俺は目を見開き、その片手剣を見る。デザインや色の配色の仕方は目の前の人物の剣と全く同じだ。しかし、あの黒い剣とは違い白と青という正反対の明るい色があしらわれている。
あの黒い剣が闇ならこの白い剣は光と言えるくらいの正反対な二本の剣が向かい合う。
ーーー教えてくれ……君が選ばれた訳を
黒コートが腰を下げた、その構えはβテスト時代に散々見せつけさせられた対人戦のデュエルでの構えだった。片手剣の構えは腰を中腰の姿勢に落とし、剣を相手の方へ切っ先を向けるというのが理想だ。
その構えから一気に俺との距離をなくしてくる。
「うっ……」
一瞬、その勢いに怯んでしまったがβテスト時代に何度もデュエルをしていたお陰か半自動的に右腕が動き剣と剣を交差させる。
剣がぶつかり合った瞬間、弾けるような金属音が耳を通り抜ける。
火花が視界を覆い、黒コートの姿を隠す。火花が消えると黒コートは俺の視界から消えていた。
「っ……」
どこだ……。
辺りを見渡しても何処にもあの摩訶不思議な雰囲気は消滅していた。
「…………………」
思わず言葉と思考が停止した。それは何が何だか分からない異常な事態が余りにも多く発生し、うるさく騒いでいたのが突然静けさを取り戻したからだろう。ここまでこの時の事を思い出し、冷静に考える事が出来たのはかなり後の事だ。
……………ト
何処からか声が聞こえた。
耳を澄まして聞いてみる。
………リト……!
………キリト……!
「!クライン!」
この世界に来て初めて出来た友の名前を叫ぶと俺の意識は暖かいひかりに包まれ、急速に飛翔した。
…………ト
………リト
………キリト…!
胃がかき混ぜられるような不快な感覚で意識が無理矢理起こされた。
14年間生きていて最悪の覚醒だった。
不快な感覚のせいだろうか目を開けてもどうにも視界がぼやけてしまう。
「おい!キリト!お前いい加減に起きろ!」
そのヤケにデカイ声と一緒にぼやけていた視界が晴れていく。
無精髭が生えた山賊のような顔ーークラインの顔だった。
「クライン!」
俺は思わず感極まって思い切り体を起こし上げた。
後々思い出すとまるで漫画の様に俺とクラインは頭を思い切りーー
「へぶわぁ!!」
「ぶっ!!」
ーーぶつけた。
「いっつ……」
ポリゴンで出来たアバターは石頭なのだろうか?頭の芯を貫く様な衝撃が先程まで残っていた不快な感覚が吹き飛んだ。
「ってぇ………キリトてめぇ……めっちゃ元気じゃねぇか……」
「悪かったな……。!クライン、茅場は!?」
「まぁまぁ、落ち着けよ…説明してやっから」
クラインから語られたのは驚きを与える話というより摩訶不思議、という話だった。
茅場晶彦を名乗る死神のアバターによる《ソードアート・オンライン》の正式チュートリアル終了が宣言された際にこの《アインクラッド》を襲った後に《侵食》と呼ばれる現象。その《侵食》はこの世界に存在している一万人の全てのプレイヤーを襲った。
一万人のプレイヤーは全員揃って気を失っていたらしい。クラインは他のプレイヤーより起きるのが遅かった俺をひたすらさっきまで起こし続けてくれてたらしい。
プレイヤー達の意識が戻った時には死神アバターは既に消えていたらしい。
「…………………」
周りを見回すと多くのプレイヤー達が茅場晶彦に対する怒りや『ここから出せ!』などの大声が山彦の様に響いている。
……………何か大事な事を忘れている気がした。しかし、今はそれどころでは無いと、自分に言い聞かせた。
「……………クライン、俺は今から次の街に行く。お前はどうする?」
「お、俺は…………」
まだ状況に頭が混乱しているクライン。さっきから目の焦点や手がメチャメチャに動いている。
…………俺も混乱しているはずなのだが自分でも怖いくらいに冷静だ。不思議と冷静な事に感謝し、俺は慌てふためくクラインの肩に手を置いた。
「…落ち着いて聞いてくれ、MMOってのはプレイヤー同士のリソースの奪い合いなんだ、もしも、茅場の話が全てが本当なら直ぐに他のプレイヤーがリソースを奪おうとそこらじゅうのモブを狩ろうとするだろう。だから俺と一緒に来い。」
「………俺にゃあ徹夜まで一緒にしてナーヴギアとゲームを買った、ダチがいるんだ…さっきアイテム買いに行く時にいったろ……」
「……………そっか……」
このクラインというプレイヤーと何時間か接していて分かった。この男は初対面の俺にとても人懐っこく話しかけ、優しく接してくれた。彼は面倒見が良く人ができている。
本音はもちろんクラインの友人達も一緒にこの街から連れ出してやりたかった。しかし、いくらβテスターだからといってこの数をカバーして次の街へ連れて行くのはいくらなんでも無理がある。
そんな俺の心中を察してくれたのだろう。クラインはニッと笑いながら優しく言ってくれた。
「わあってるよ。どっからどう見ても年下のお前にそこまで頼る訳にはいかねぇよ。これでも昔はギルドの頭張ってたんだ、お前から教わったテクだけでどうにでもしてみせらぁ。だからお前は一人で次の街に行ってくれ」
「………わかった。何かあればメッセージ飛ばしてくれ、すぐ行く」
「おう、色々ありがとな。………ほら早く行け、またな」
「ああ……」
この世界での唯一の友に背を向けて俺は街の出口ーー《圏外》への道を歩き出す。
「……!キリト!」
呼ばれて振り返る
「お前案外カワイイ顔してんのな!俺の好みだ!」
「っ!お前もその山賊顔の方が100倍似合ってるよ!」
腕を振り上げ、別れを告げると俺は今度こそ出口へ向けて足を早めに運んだ。
街を出て直ぐに俺の眼前で狼型のモンスターがポップした。青黒い毛色のその狼は俺へと《ヘイト》を向けて牙を向けてくる。
………あの白銀のように輝く鋭い牙に噛み付かれ、ポリゴンでできているこの仮初めの体が砕けたその瞬間俺の命は終わる?
………ふざけやがって…!
今更込み上げてきた怒りを背中に背負っている《スモールソード》と駆け出すための右足にこめる。
それと同時に狼型モンスターがこちらに向かって疾走してくる。
「…!!」
俺と狼型モンスターの距離がゼロに近づいてくる。
その距離が10メートル辺りに迫ったその時、勢い良く《スモールソード》を火花を散らしながら引き抜く。
後5メートル
剣を握っている右手のフォームを整える。白色の刀身が水色に輝き出す。
「……っ!!!」
狼型のモンスター《ワーウルフ》の急所である喉元に向けて片手剣ソードスキル《スラント》を叩き込む。
右斜めに振り下ろされた水色の閃光が《ワーウルフ》喉をすれ違い様に切り裂く。
それと同時に攻撃されたのか鈍い痛みが俺をーーーー
痛み……?
それに気づいた時だった
やけに耳障りで明らかに1オクターブ高い声が響いてきた。聞いた瞬間にわかる。これは断末魔だ。β時代からこのモンスターの断末魔なんて何度も聞いている、だからこそ俺はこの違和感を覚えることが出来た。《リアリティが高すぎる》そんな気がしたのだ。
違和感を確かめようと振り向いた時、剣を持っていた右手がやけに暖かく感じた。
生暖かい右手に視線をやる。そこにはダメージエフェクトとして発生する赤いポリゴンの液体が被っていた。が、一部分だけがどこからどう見てもーーーー紛れも無い本物の血液が付着していた。
思わず地面に勢いよく尻餅をつくように後ろに倒れ込む。
が、血液だった部分はすぐにポリゴンの液体に変化していき、そして右手に残った生暖かい感触が消えた。
「………………」
クラインと一緒に《ゲームだった》この世界で狩りをしていた時と変わらない夕日が俺の体を照らし始める。
その夕日は美しいというよりはプレイヤー達を見下すように見えた。
首筋を冷や汗が流れる。冷や汗など仮想世界では決して流れることは無い。それらの事から俺はこの世界が最早《茅場晶彦》の想定の範囲外で、何かもっと大きな意思のようなものが《茅場晶彦》さえも見下しているような気がした。
2022年11月6日、この世界はただの《仮想世界》でも《茅場晶彦》が作ろうとしたデスゲームでもない。一万人のプレイヤーたちの《新たな現実》となった。
遅れてしまい申し訳ございません。さまざまな事情でかなり遅れてしまいました。今後はこのようなことが無いように努力したいと思います。