ソードアート・オンラインが半分異世界転生ぽくなったら 作:黒天使
上を見上げると灰色の巨大な円盤の様で蓋にも見える上の層の地面が自分を見下ろしている。
「………………」
最近、こうして自分の店の屋根の上で空を見上げる日が増えた。
「………」
目を閉じてみると得体の知れない漠然とした何かが襲いかかってくる。
一体自分はいつからこんなに孤独に弱くなったのだろう。
いや、もともと弱かったのかもしれない。
常に自分の周りには二人の義兄と一人の義姉がいた。
緑の義兄はいつも軽く、チャラチャラしているが実は一番頭のキレが良い。
青の義姉はサバサバとあっさりしているがよく自分を甘えさせてくれた。
赤の義兄は……常に無口で無表情でこの《SAO》だった世界でも現実でも変わらず、突然フラッと何処かへと何日も消えて、また突然フラッと帰ってくる。
そのため一緒にいる時間は三人の中でも一番短いはずだが、一緒にいて一番安心して、一番好きな人でもあった。
まだ年がギリギリ一桁の時にそれを緑の義兄に言うと「拾われたヒナかよw」と笑われた。
だが実際、行き場のない《孤独》と言う名の籠から鍵を開けてくれたのはその赤い義兄なのだ。
つい最近、その義兄が帰ってきてくれた時は自分でも恥ずかしくなるぐらいベッタリだった。
最新の情報記事をスライドさせながら見ていた義兄の肩に頭を乗せていた。そして眠気を加速させるように時々頭を撫でてくれていた。
そして眼が覚めると義兄がいたソファーで寝ていて、義兄はまた消えていた。
「…………」
目を開けると薄っすらだが黄金色に近い夕日の光が射し込んでいた。
それがまた孤独の恐怖を煽る。
自分には過去が無い。気付いた時には兄達といて白い家からは《アルビノ》という縛りのせいで出れなかった。
今の名前の《ライキ》もただ自分の横に落ちていたというネックレスから赤い義兄によりつけられたもので、つけられてからもう《4年》がたつ。
なのに……それなのに………
未だ自分が何なのか何も分かっていない。
贅沢すぎるほど救われている自分だが、《今の》自分のパーツの前にある巨大な虚無だけはどうしても埋められない。
前の自分のパーツはどれだけ探しても無い。
怖い、怖い、怖い
膝を情けなく三角に曲げて顔を膝と膝の間に埋める。
《前の自分》
それは今、自分が動かしている体の本来の持ち主。拾われてからその存在を意識しなかった日は無い。
《思い出せ》という上手く言語化できない本能めいた思いに対し、思い出せば《今の自分》が消えて無くなってしまう、《思い出したくない》。この二つの相反する自分の気持ちが一人でいるときに突然、時折襲いかかってくる。
顔を埋めた膝と顔の間に何か暖かい液体の感触が
「………」
なんだこれ?
それが《今の自分》が見た最初の涙ということに気づくのには時間がかかった。
ーーーーー
自分が一桁の年の時からそれは始まった。
《エイズ》
自分の人生を崩したソレは幼い自分の体を急速に蝕み、あっという間に意識を失うレベルなっていった。
気がつけば6つの年から9の年と三回、一年を越してきた。
その間の記憶はボンヤリとしているが、姉が泣きじゃくったことは確かに覚えている。
そして年が10になると頭に何かつけられ、無菌室に移された。
頭につけられた物を通して自分の意識は飛ばされた。
そう、この《仮装世界》に
後で聞いたところによると自分が日本で初めて《仮装世界》に病に侵された人として入ったらしい。
そして、その《仮装世界》に自分は溺れた。
現実にさえも無いその美しい景色に超人的な身体能力。
様々な仮装世界のテストを受けたが、そのどれもが輝いて見えた。
そして年が12になると。
ーーー《奇跡》が起きた。
病から解き放たれ、過酷なリハビリを超え、約半年の時をかけてあの白い無菌室から出ることが出来た。
しかし、退院した後も仮装世界への熱意は冷めることなく、マグマの様に高まっていった。
そして退院から一年も経っていないあの日。
熱意を燃やしていた仮装世界にその先のいくらかの人生を姉と共に囚われた。
しかし、それでも仮装世界への熱意は折れず、その結果
最強の《騎士団》の分隊長にまで登りつめた。
だからこれからも《ボク》は前に走り続ける。この世界を終わらせるまで。
ーーーー
離れた二人が自分を思い返し、自分の記憶に葛藤している時。
一方、その頃
《アインクラッド》の現在最前線の50層迷宮区の最下層。
ここは既にマッピングが完了し、プレイヤー達にとってはあまり用がない場所となったためプレイヤー数はかなり少ない。
しかし、今現在この人の気配が薄い場所にある集団が緊張した顔で突入した。
《血盟騎士団》
プレイヤー達に知らないものは居ない最強ギルド。
その中の最精鋭のプレイヤー11名。さらにそれを従えているのは、《血盟騎士団》に二人いる分隊長の片割れの《剣姫ラン》というこれ以上は無いであろう布陣がある場所を目指し慎重に足を進めて居た。
しばらく暗い通路を歩いて行くとある行き止まりに当たった。
「……行きますよ」
ランが一声かけると行き止まりの壁に手を伸ばし、ある一点を押す。
押すとその壁がポリゴンとなって消え、その奥には更に下へと向かう階段が現れた。
その階段を下ると更に暗い空間に出た。
その空間に足を置いた瞬間。
「…………っ!…」
尋常じゃない何かを感じた。殺気、悪寒、憎悪をぐちゃまぜにしたような不快なものだった。
思わず探索スキルで《目標》を確認した。
「え……?」
が、《目標》のオレンジ色のカーソルは一つもなく代わりにグリーンのカーソルが一つ立っていた。
その時、足を踏み入れたことを部屋が認識し、壁にかかっていた灯篭に青い火が次々と道を作るようにともっていく。
グリーンカーソルがあった場所にも火がともる。そこにいたのは青い火とは相反するようなプレイヤーが立っていた。
下半身の服を隠すように全身を覆っている真っ黒なフード付きのロングコート。
そのフードの下の顔に青い火の光が重なる。
その中性的な顔に思わず女性かと勘違いしてしまいそうだが放っている威圧感はとても女性には放てないほどの物だったため男だと早く認識できた。
男にしては少し小さい顔に神が考えた理想的な場所に顔のパーツがあり、それは神が作り上げた何かに見えてしまうほどのものだった。
長いまつ毛の下の目が最もランの印象に残った。それは何百カラットのルビーのように透明な《赤》だった。その目を際立たせるようなダークレッドの髪。
そこにいたのはどこからどう見ても日本人離れ…というかどこか人間離れした容姿の青年だった。
「………………………」
こちらに気づいた青年が鋭い眼光を向けてくる。そこでランは思い出す。
《赤い死神》《オレンジプレイヤーを狩るギルド》《目が合うと確実に潰される》《残酷冷徹》
さまざまな言葉と情報がランの頭を駆け巡り、理解した。目の前の青年こそがアインクラッドを騒がせている《死神》なのだと。
「っ…………ここにいたギルドをどうしたんですか…」
いつもより自然と小さくなる言葉で問いかける。
ゆっくりと青年の口が開く
「…………さぁ…」
あっけらんとどこか機械的な言葉にランの思考に怒りがともる。
「……確かに彼らは犯罪行為を犯した悪人です。それでもあなたのやっていることはただの暴力です!」
「………興味ないね」
その冷徹な答えにラン以外のプレイヤー達が後ずさりすると同時にランが手を震わせながら剣を抜き、突進した。
何故彼女がここまで激昂するのか。
今まで彼女は目の前の青年に潰された人たちを見てきた。その人たちは自分がしてきた事を確かに懺悔し、悔いていた。しかし、それと同時に青年の恐怖が残っていたのか手足を抑えて叫んでいた。
一体どれほどの事をすればああなるのか、その姿はどれも悲惨だった。
少なくともあそこまでの事をやれるのは人間ではない、と思うほどに。
その悲惨さがランの心に住み着き、今それが彼女の体を動かした。
「分隊長!!」
団員のその叫びは届かず目の前の死神に向かい、《剣姫》は風のように走り出し、剣を抜いた。
ーーーーー
その突然の突進にも皮肉かと思うほど《死神》、レッドは冷静だった。
迫り来るその青いライトエフェクトを浴びた片手剣を剣で迎え撃つのでは無く
「…!」
右手の人差し指と中指でその光を断ち切った。
「っ!そんな…」
一瞬、あまりの事態に驚いたランは剣を指と指の間から抜こうと引くが
その剣はまるで巨大な岩石が乗っているかのように重かった。
そしてレッドの方を睨んだランだが
「………あ…」
ランか見たのは自分を見下す赤い双眼だった。
そしてその双眼にはどこか機械的な虚ろなナニカが宿っていた。
そして、一言死神が呟いた
「…………………つまらない…」
思わず足の力が抜けた、その一瞬を死神は逃さずランを持っている剣ごと突進してきた方へと投げ飛ばす。
壁に激突し、ランのヒットポイントか僅かに減る。
ランが体の痛みを無理やり振り切り顔をあげると
「あ…」
死神は青い《転移》の光を纏い消えていた。
それが《機関》と《攻略組》を結びつけたキッカケだった。
そして、帰ったレッドが《攻略組》に見つかったことに対して文句を《機関》全員に言われたのは言うまでもない。