【凶狼】が闇落ちしたのは間違っているだろうか。 作:ほしぞら
後書きは見た方が良いですよ!!(黙れ)
真っ白な光が、夢をたゆたう青年の瞼を焼く。
腕を捕まれている、その感覚を確信すると同時、青年はこれが確かに夢であることに気付いた。
そこは、青々とした草木が茂り、狼人達の声が響く、平原だった。
放浪を重ね続けた豊かな大地。
夏になると必ず入る湖が遠くに見えた。
その中で自分は、幼馴染みの少女に見守られる中、修練に打ち込んでいた。
何時間も続けていたのに、少女はくすんだ金髪を風になびかせて、飽きる様子もなく嬉しそうに見詰めてくる。
夕日を反射する汗が、灰の髪をじとりと濡らすが、気にならない。
暑く、熱く、何処までも燃える熱に、衝動に、体を焦がして何度も拳を振るって。
『ベート。そろそろ、帰ろっか』
儚い少女は美しい笑みと一緒に、そう小さく声をかけた。
その一声で自分も微笑み、頷いた。
少女が細く華奢な手を差し出し、自分もそれを掴もうとしたところで__。
少女が、地面に吸い込まれるように消えていく。
美しい緑の平原も、全て黒の渦の中へ、中へと。
必死に手を伸ばしても、もう届くことはない。
声をあげて、少女の名を呼ぶことも出来ないまま。
__夢は、完全に砕けていった。
▼▼▼
「__レーネッ、……ぁ?」
「ベート、さん」
目が覚めたらしい。
誰かの名前と、不機嫌そうな疑問の声を溢した彼に、今尚治癒の光を当てながら、名前を呼んだ。
「……何、やってんだ」
「……直しています。ベートさんの傷を」
「……誰がテメェに頼んだよ」
「……私は、治療師です」
そう言って、魔力を更に籠めた。
寝起きの目には眩しかったのだろうか。
強くなった光にベートは眉を寄せ、寝転んだままの体を起こし手を振り払おうとする。
「もう少しっ、待ってください」
リーネは慌ててそれを押さえ、横になったままでいるよう言葉をかけた。
不機嫌そうに、だが何故か振り払わず、体から力を抜いた青年は、真剣な瞳で己の傷を治す少女を見やった。
確か、リーネと言う治療師だった筈だ。
Lvは人間の青年や黒猫の少女と同じ、Lv.2。
青年からすればまだまだ『雑魚』と毒を吐きたくなる、そんな弱い雛。
その少女の瞳に、夢に出た幼馴染みを重ねた。
傷などつくのが当たり前で、周りは心配と言った心配をしやしなかったが、幼馴染みの少女は、自分の傷に優しく、優しく薬を塗って、怒って、そして笑っていた。
自分の為に強さを求める彼に、嬉しさを感じていたが、それよりも無茶をしないか心配だった故の感情だったが、それを青年が知ることは、もうない。
「終わりました」
「……おー……」
気だるげに返事をし、ごろりと背中を見せるように寝転んだ。
お礼の言葉も無く、馴れ合いは終わりだ、と言うような背中に少女はその眉を軽く跳ねさせ、ようやく疑問を問うた。
「……どうして、そんな傷をつけたんですか」
「……関係、ねぇーだろ……」
ゆっくりと、何かを堪えるような声色にリーネは身体を動かし、手を伸ばした。
「……なんで、『傷』をつけるんですか」
返事は無い。
それをわかっていたかのように、狸寝入りをする青年の、左頬に触れた。
ぴく、と耳を小さく震わせたベートには気付いていたが、そのまま青い雷のような刺青を優しく、なぞる。
オラリオでも、顔に刺青を彫る人間は少ない。
それでも彫る理由は、単なる格好付けか、もしくは__
「……これは、何の『傷』だったんです__ッ!?」
認識は出来た。
だが、動けなかった。
「ッ、べーと、さんッ……!!」
苦しい。
息が、息が出来ない。
首を掴んだ手は、大きく、力強く、そして__震えていた。
「……てめーには、関係ねぇ」
同じ言葉を繰り返し、ぱっ、とベートは手を離した。
リーネは何度も咳き込み、涙の膜が張り滲んだ視界で青年を見上げた。
今度は背を向けずに上を向いて寝転ぶ彼は、たった一言、溢した。
「……始まりの『傷』だ」
「……ありがとう、ございます」
なんで礼を言うんだ、と言いたくなった。
こんな一言で全てが理解出来る訳がないのに。
「……俺は寝るから、さっさと部屋から出ろ」
「……、はい。ぁ、ここに資料、置いておきます」
返事は無い。
その事実に何故か満足して、失礼しました、と部屋から出る。
最後に見えた、胸を押さえる青年の姿を、見えないことにして。
リーネたんが首閉められましたごめんなさい(ズザァアア※スライディング土下座の音)
そしてオマケです↓
▼▼▼
次の日。
食堂でいつも通り【デメテル・ファミリア】の野菜をふんだんに使ったセットを選ぶ。
いただきます、と極東の文化に乗っとり手を合わすと、箸を掴む前に襟首を掴まれた。
「ひゃあっ!?」
「……飯、食い終わったら俺の部屋に来い。良いな」
唐突に耳元で囁かれた低い声に、擽ったさを覚えながらもコクコクと頷く。
それを確認すると狼の青年は不機嫌そうに鼻を鳴らし、そのまま食事の席に付いていた。
「ちょっ、リーネっ?何言われたの?」
黒髪の猫人が慌てたように話しかけて来るも、リーネは返事をしない。
否、出来なかった。
あの声が、昨日のような粗暴さがない声で。
そして、何より__横暴な命令のような口調だったのに、何故か不安を隠していたから。
「早く、食べなきゃ……!」
「ぇ、と?リーネぇ……?」
何かを隠すようにサラダをシャクシャクシャクッ!!と食べ進めるおさげの少女に、黒猫の少女や周りが若干引いては居たが。
そんなことに気付けない程に煩い心臓が、彼に聞こえないようにただサラダの音で掻き消そうとしていた。
△△△
続きは次回です(へらり)
本編に書く予定が無いので此方で進めていく後日談なのです。
閲覧ありがとうございましたー!