【凶狼】が闇落ちしたのは間違っているだろうか。   作:ほしぞら

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一週間に一回は更新したいですね(他人事)


呪縛の下僕と、宿の主人と。

薄暗い超硬金属の通路を、魔石灯片手に歩く一つの人影。

固い音を立てる銀の長靴は、核となっている黄玉を沈黙させたまま、ただ、アダマンタイトの床を蹴る。

 

しばらく歩いた青年は、目の前に現れた扉を、手を使うのも面倒だ、と言いたげに、右足で蹴り開けた。

 

中には、たった独り、男がいるだけ。

鎚と杭だけを握りしめ、真っ白な髪と窪んだ瞳が、男の不健康さを表し、同時に日に当たらない地下で長い生活を送ってきたことが窺えた。

 

「…バルカ」

「なんだ、【凶狼】。用件なら、早く済ませろ。話している時間すら惜しいのだ。我々は、永遠を生きることなどできないのだから__」

「クノッソスを使う」

 

振り向くことなく、変わらず鎚を振るい続けていたバルカがピタリと動きを止め、同時に血走った瞳でベートを見返す。

 

「……何故だ」

「【ロキ・ファミリア】が俺らに感付いた。もし、タナトスとこの奴等が殺られれば、もうこの迷宮を作ることなど出来ない。だから、ここで潰すってことだ」

「クノッソスに、傷が入るだろう」

「直せる程度に収めるっての。バラバラになりゃ、彼の【ロキ・ファミリア】とて只の雑魚だ。群れるしか能がねーんだからよ」

 

了承したということか、もう顔を前に向け、二度と止めるものか、とでも言いたげに鬼気迫る様子で鎚を振るう。

その様子に目を一瞬細め、何かを言おうと口を開くも、そのまま閉じ直した。

その口から出るのは、感情ではなく事務連絡。

 

「……【呪武器】も用意しとけってよ。ヴァレッタが使うっつってたからな」

「…わかった」

 

今度は言葉での了承。

それを得ると同時、くるりと方向を変え、気だるげに片耳を伏せながら、退室する。

未だ、コーン、コーン、と高い金属音が、鳴り響く。

男は何かに取り憑かれたように、槌を振るい続けていた。

 

        ▼▼▼

 

__翌朝。

意識が無いまま辿り着いた毛布の中、静かに琥珀の目を開く。

地上に長く取り続けている宿は、もう慣れしたしみ、最初に寝れなかったのが嘘のようだった。

 

「おはよう、ガキンチョ」

「……いい加減、その呼び名を止めろっての、クソババァ」

「無理だね」

「…………」

 

階段を下りれば、猛々しい笑みで自身を迎えるドワーフの女主人の姿。

何時も変わらぬ会話を交わし、最後に溜め息を吐くのは狼の方だ。

 

彼女が持つ大鍋の中に、ドサドサと食材が入れられるのを、何処か懐かしむような目で見ながら、ベートは宿の出口へと向かう。

 

「ちょっと待ちなよ、あと五分で出来るんだからさ」

「それで、出来た例があったか……?」

 

向けられたあきれた視線も豪快に笑い飛ばし、まぁ待ちな、と料理を再開する。

半眼を向ける青年は、あきらめたように置かれた木製の椅子に乱暴に座った。

 

ここは、歓楽街の中でも数少ない【イシュタル・ファミリア】との関係を持たない宿。

それ故か、値段も中々張る。

たが、人はあまり来ず、長期で宿を借りる客などベート以外に殆ど居ない。

彼にとっての条件すべてをクリアしており、それが彼がここに居る理由であった。

 

そして、なんとも情けない話だが__

 

「ほら、出来たよ」

「10分、かかってんぞ」

 

この豪快さが自身が捨てた部族の一人、母親に似ている気がしてならないのだ。

弱い部族に意味はない、そう切り捨てた彼女等を思い出せる、彼にできる数少ない罪滅ぼし。

 

「………」

「いただきますはどうしたんだい?」

「…………………」

「言うまで食べさせないよ」

 

そんなことを一瞬でも思ったが、やはり撤回しよう。

俺の母親は、これ程口煩くはなかった、と。

 

目の前から取り上げられた皿を、上目に見上げながら、小さく、いただきます、と呟いた。

 

「それでよし」

 

満足げに笑って、皿が戻される。

種族故か、豪快に仕立てられた料理は美味しいと確かに言えるが、それ以上に雑味が気になって仕方がない。

もう諦めきってはいるが、それでも気になる独特の味に、二度目の溜め息を吐いた。




やっぱりベートさんは病んでても格好いいと思うんです。
可愛いベートさんも大好きです。


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