春の日和、曇天は『永訣』に雨を落とす   作:シガライ

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やる気とは裏腹に

 

 翌日、俺は再び例の研究所へと来ていた。

 出掛ける前にフキョウが「今日は一緒に狩り行く?」と聞いてきたのだが、その申し出を俺は断った。

 できるだけ一緒に過ごしたいなんて考えは早々に切り捨てるべきなんだ。その考えは俺を堕落させる。現状維持は退化だというように、それは悪い方向にしか繋がらない。あいつを助ける手段が何一つ無かったら……一緒に過ごさなかったことを後悔しないために……なんて最悪の考えだ。

 

 俺はフキョウを死なせなんてしない。全身全霊救う手立てが見つかるまで、手が折れようと足が砕けようと、目が潰れることになったとしても生きている限り俺という全てを投げ打って必ず足掻き続ける。

 

 不退転の意志だ。一歩でも下がってしまえば俺の思考はどん底へと沈んでいく。進むしかないのだ。全力であらゆる障害を突破し続けるのみ。

 そうすれば、その先の未来ずっと、今以上に近い距離で一緒に過ごす事が出来るのだから。

 だから、今だけはお前に悲しい顔をさせてしまうことを許してくれ……。

 

 

 昨日読んだ内容を踏まえていくつか解決策を考えてみる。

 一つ、フキョウに他のモンスターの遺伝子を更に投与して、その遺伝子とナルガクルガ希少種とで共存させる。

 同種の遺伝子は潰しあうが、他種であった場合は共存が可能と書かれていた。それを踏まえて思いついた案だが、こいつはだめだな。まず、破壊された遺伝子や細胞はそう簡単に元通りになったりなんかしない。それに更に期限が迫る可能性だってあるのだ。何事も試してみないとわからないということはわかっているが、たった一つ試しただけで何もかもが水の泡になる可能性だってある。いくら助けるためとはいえ、積極的に危ない橋を渡るのは時間がまだ少しある現状、悪手だろう。研究所等で確実な証拠と安全性を見つける事が出来た場合のみ、この案は機能するのだ。

 二つ、どうにか遺伝子を取り出す、もしくは上書きする。

 正直、この案は現実的ではない気がする。そもそも俺はハンターという肉体的な仕事ばかりしてきた。ろくな教育は受けてない俺の案なんて自分の願望が現れただけの、ただの理想だ。

 三つ、これは全ての案に当てはめる事が出来ることだが、数の力を以って情報をかき集めそこから解決策を導き出す。つまり、今までに関わってきた人たちに協力を仰いで、思いついた案を片っ端から取り上げ吟味する。各地に人員を散らせてどんなに小さな情報でも希望に繋げるという案だ。

 だが、この案には欠陥がある。欠陥がある、といっても全て俺が原因なんだがな……。

 前提として、この案は俺かフキョウが協力を仰がなければならない。しかし、フキョウに寿命のことを知られるのはとてもまずい気がするのだ。あいつは最近では大分前向きになってきてはいるが、少し前は自分の命をあまり重要視していないように思えた。おそらく、今でもあいつの深い部分ではあのような思いが根付いているだろう。そんなあいつに、お前は20歳になったら死ぬなんてことを伝えたら、「しょうがないね……」なんて寂しげに呟きながら自分の生を諦めるに違いない。そして、残された時間を、自惚れだが俺と過ごすことに費やしてそのまま人生を締めくくるだろう。それはそれで幸せだと思う。

 だが! それではだめなんだ! 俺はたった一年ちょっとフキョウと過ごしただけじゃあ満足できないくらいあいつに惹かれているんだ! いくらその一年が濃密だろうと、俺は傲慢にも更に幸せを求めてしまう。これから先もずっと、俺が死ぬまでずっと一緒にいて傍で笑って欲しいと、そう願っちまうんだよ……。だから、あいつに寿命の件を伝えるのは、全てが解決した時に「お前実は20歳で死ぬとこだったんだぜ」って笑い話にでもすればいいんだ。それでいいんだ。

 

 もう一つの理由に、俺の現状がある。

 俺は少し前に死にかけた。なんとかフキョウによって助かった俺だが、ギルド内では俺は死亡扱いになっている。そのおかげで今まで集めた金やら装備やら素材やらが全て売却されてしまったが、今はそれはいい。問題なのは、俺が公に存在していてはならない人間だということだ。モンスターの遺伝子によって蘇生した事がバレた日には、どうなるか想像がつかない。だが、一ついえるのは事情聴取的な拘束によって自由に活動ができなくなるということだ。ギルドに所属していない、身元不明のハンターが実は死んでいたはずの俺だった、ってのは俺がほとぼりが冷めるまで隠し通さなければならない事実なのだ。だから俺は身元を隠していかなければならない以上、不特定多数に協力を頼むなんて不可能なのだ。

 

 

 いくら考えても様々な事情が即座に案を打ち消し、そのことに頭を振っていると、いつの間にか研究所に着いていた。

 気分を切り替え、気合を入れて研究所内へと進んでいく。今回は勝手に開く扉で無様な姿を晒すことはなかった。

 

 前回調べていなかった部屋を重点的に調べていく。落ちている書類には細部まで目を通し、手記なども片っ端から読んでいく。それでも、やはり有益そうな情報は見つからない。

 だが、そこで諦めるなんてありえない。前回奇妙な音声が流れた部屋へと足を向ける。前のように足を踏み出すと、またもや謎の音声が流れ自動的に扉が開いたので、俺は遠慮無しに室内へと進んでいった。

 この前は調べる事が出来なかったカプセル類を調べてみるが、謎の物体や生き物が浮かんでいるだけで特に何かわかるといった様子はない。

 

「……はぁ」

 

 ここもはずれかと、落胆の溜め息が出る。一日をつかってこの研究所内を隅々まで調べたというのに、得られた情報は何一つ無い。

 

 ――こんな調子で俺はあいつを助けられるのか? 今からでも一緒の時間を過ごす方向に変更したほうがいいんじゃないか?

 

 俺の中のあまい部分が、ニヤニヤと性格悪い笑みを浮かべながら唆かしてくるのをどうにか振り払う。

 

「……まだ、探していない所があるはずだ。見落としている情報が、きっとある」

 

 やれるべきことを全てやっていない俺が甘えるなんて許されない。俺は最後の最後まで藻掻いてあいつを助ける。

 鼓舞した精神で前を向き、もう少し探してみるかとやる気を出した所で、外が暗くなり始めているのに気付く。

 

「しょうがねぇ、今日はもう帰るか……」

 

 フキョウに今日中に帰るっていっちまったからな。約束は守らないと。

 

 俺はまた後日ここに来ることを決め、俺の帰りを待っている(希望)少女の元へと帰るのだった。

 






調べても調べても情報は出てこない。
何一つ進まないフキョウを救おうとする動きに対し、非情にも時間は進んでいく。

段々と焦りが見えてきたナナシ。

そして、一切の情報を掴むことなく、彼は少女の19歳の誕生日を祝うことに――


次回 『誕生日と銀雪』
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