溶岩島へ着地したと同時に地面からうだるような暑さが襲ってきた。
クーラードリンクを飲まなかったらどうなるんだ、と考えながらも常に意識はディアブロスに向け、すり足でフキョウの元へと歩いていく。幸い、ディアブロスは俺達に気付いていない。
「とりあえず、いつも通りな感じで行くか?」
「うん、それでいい」
方針を決め、俺とフキョウで今も悠々と歩いているモンスターの元へ武器を構えながら走っていく。あいつは太刀だから俺よりも身軽で、俺の少し先を先行しているが、なんというか、男のプライド的なアレが惚れた女に負けたくねぇと訴えかけてくるから俺はそれに応えるように足に力を込めて突進を繰り出した。
一番槍はランスである俺の役目だ! と言わんばかりにな。
フキョウを追い抜き、ディアブロスまであと数メートルといった所で奴は俺達に気付いたようだ。ゆっくりとその巨体を俺たちに向け、尚も余裕の雰囲気が絶えないその姿はなかなかに腹が立つ。
まぁ、だからこそ、その余裕を後悔させてやる甲斐があるってもんだ。
「っおらぁ!」
突進をそのまま敢行し、ムカつくやつの鼻面を思いっきり突き刺した。
ズブリと深く刺さったランス。左手の盾で更に追撃し、反動を利用してランスを抜き去る。
肉を貫く感触とディアブロスの反応から中々にいい初撃を与えられたように感じる。
「あんま舐めてっと痛い目見るぜ……って、もう手遅れか! まっ、精々足掻いて見せろよ。俺とフキョウのコンビネーション見せてやる!」
そう啖呵切った瞬間、背後から聞こえてきた「まったく……」と言う声を掻き消して、ディアブロスは開戦のゴングを派手に打ち鳴らした。
□
鼓膜どころか大気まで揺れていると錯覚せんばかりの咆哮を耳を塞ぐことでなんとか対処し、続けてそのまま突進をしようとしてくるディアブロスから少し離れた正面で盾を構える。
ちなみにフキョウは遊撃だ。俺が基本ヘイトを稼ぎフキョウは不意打ちメインで徐々に相手の消耗を誘う作戦である。もちろん攻撃しなきゃヘイトはフキョウに集中するから俺も攻撃するし、フキョウだって時には相手の注意を誘う行動もする。要は互いにうまく干渉しあうということだ。いつも通り。互いを信じて武器を振るえばそれでいい。
閑話休題。
俺の役目であるヘイト集め。盾を持っているランスが最適だが、相手の攻撃をもろに受けることも少なくないため、相当な衝撃が襲ってくる。その衝撃に耐え忍ぶ事が出来るか、長期戦になっても立ち向かっていく強い精神力を持っているかが今回の鍵となる。
そんな事を考えていると、ディアブロスが地面を削り高熱を帯びた岩石を飛ばしながら、その恐ろしい双角を正面に構えて迫ってきた。
それに対し、俺は構えていた盾を自分の身体を覆うようにし、右手に持ったランスを身体を捻って弓で矢を振り絞るような体勢で迎え撃つ。
「ッ!!」
数拍の後、途轍もない衝撃が襲い掛かってきた。前方から圧し掛かる圧倒的重量にからがらに耐え、吸収した衝撃を引いていた右手に伝えるようにして奴の胸に渾身の一突きを喰らわせる。
攻撃を受けたディアブロスはかなりの血を出しながら呻き声を上げた。
その隙に納刀して、素早く距離をとる。
元気ドリンコを片手にディアブロスを見ていると、奴は頭を大きく振り、猛々しい声を上げながら、徐々に体の表面に赤く光る筋を浮かび上がらせていく。
胸から吹き出す血の量が増えたことから、恐らく血流が増しているのだろう。
原種と変わらない体色に、頭部や翼、脚部や尻尾は怖気が走るような濃紺に染まっており、そんな身体に赤色の線が走るその姿は、まさしく悪魔。ビシビシと伝わってくる強い憎悪と怨恨の念はそれだけで気を失ってしまいそうになるくらい強烈で、今まで何人のハンターを鏖しにしてきたのだろうかと考えてしまう。加えて、更に危険な状態を残しているなんて、絶望としか言いようがないな。
何はともあれ、第二ラウンド。ここからは攻撃が更に激化する事が窺えるんだ。気合を入れよう。
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先程よりも恐怖を煽る咆哮が辺りに響き、それに合わしたように地面からもマグマが噴出してきた。それに伴って気温が上昇して、ランスと盾を握る手が汗で濡れ、滴る汗が視界を覆う危険性も出てきた。より一層神経を研ぎ澄ます。
先に動いたのはディアブロスだった。
突進で俺たちの元へ近寄ってくる。そして繰り出したのは角を振り下ろす攻撃。
なんとか回避するが角が地面に刺さったことによって地面が削れ、マグマが襲い掛かってきた。
だが、少し装備がこげたぐらいで留まった。火に強い装備を着てきて正解だった。
……しかし、気をつけるのはこいつの攻撃だけじゃないってわけか。
内心溜め息を吐く。大分めんどくさい。
そこからもディアブロスの攻撃は止まない。
近寄ったら特徴的な尻尾を振り回すことをはじめ、地面に尻尾を叩きつけたり驚異的な回転攻撃を繰り出してきたり、俺達のほうへ向かってダイブしたあと地面から飛び出てきたりと様々な暴威が振り回される。
特に危険なのは咆哮で硬直した隙を突いた突進だ。あれはマジでまずい。耳を塞がなきゃ即死の可能性もある。
もちろん俺達も攻撃をしている。音爆弾で隙を作り袋叩きにして、地面から出たあとも閃光玉で叩き落して追撃。フキョウが奴の角を片方へし折ることにも成功した。
そんなことがあった今、激化した攻撃をかいくぐりながらも、逐一フキョウと視線を交わして行動していた。
俺は一旦武器を研ぐためにフキョウにディアブロスの相手を任せて距離をとる。
素早く研石を取り出して特に先端部分を重点的に研磨した。
研いでいる間、フキョウはディアブロスの攻撃を華麗に回避して弱点に強力な攻撃を食らわせたり、ただ素早く動いて視界を撹乱させるなどしていた。
いつみても、あいつの動きは無駄がなく洗練されている。最短で最適な行動を。蝶のように舞い、蜂のように刺すとはこいつのための言葉だったかとふざけた事が思い浮かんだ。
しかし、あいつの華奢な体のどこからあれだけの力が出てるのだろうか。あれほどの動きを可能にしているのか。
傍から見れば普通の少女だと言うのに……。
――あんな細い腕を振り回して……無防備に俺に背中を晒して……今俺がランスを一突きしたら…………殺してやりてぇ
「――!?」
何を考えてるんだ!? こんな時に、よりにもよってフキョウに対して!
あいつに殺戮衝動を向けるなんて、何をしているんだ、俺は!?
大事な女の子なんだぞ!? 好きな女で、守ってやると心に誓ったフキョウに対して、本人が殺意を向けてどうするんだよ!?
「――ナナシ、集中しろ!」
「……はっ!? あ、あぁ、わかってる」
「大分弱ってるはずだから、もう少し頑張って」
気がつくと、いつの間にか後ろを振り向いていたフキョウに叱咤されていた。
しかし、おかげで戻ってこれた。いまだ燻ぶる殺戮衝動は強引に精神力で押しとどめて。
フキョウと反対側に位置取り挟むような形でディアブロスに攻撃を与える。
それからまたしばらくし、俺が奴の尻尾根元に強突きを食らわしたところで、空気が一変した。
油断していると地面に縫い付けられてしまいそうな威圧感。滾る憎悪は可視化できてしまいそうと勘違いしてしまうほど。
一瞬溶岩島が脈動したかのような幻覚。ドクリと心臓が跳ねる。
悪魔なんかじゃ生ぬるい、そう思えてしまうような濃紺を真っ赤に染めた悪鬼は、体から真っ白な蒸気を吹き上がらせ一番の負の感情が濃縮された咆哮を繰り出した。
――それに伴って、俺の全身も苛烈なまでの熱に包まれ数秒もしないうちに地面に崩折れた。