とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した 作:フェルディナント
ガイエスブルグ要塞にこもった反乱軍は惑星ヴェスターラントから物資の支援を得て生き抜いている。
だが、そのヴェスターラントで反乱が発生した。
「なにい!?」オフレッサーは顔を真っ赤にした。
「はい。ヴェスターラントで反乱が発生し、駐留軍は壊滅。占領軍司令官カルンボルン男爵は死亡した模様です」
オフレッサーは机を拳で叩きつけ、机にひび割れを作った。
「直ちに熱核融合弾を使ってヴェスターラントを攻撃せよ!」
「ですが」アダム子爵は抗議した。「ヴェスターラントには多くの民がおります。そこを攻撃しては・・・」
「うるさい!黙っておれ!」オフレッサーはアダム子爵を殴り付けた。
子爵は部屋の外まで吹っ飛ばされ、廊下の壁に叩きつけられた。
子爵は顔を青くし、司令官の命令を伝達するためというより司令官から逃れるために走った。
ヴェスターラントに核攻撃が行われようとしているという知らせはガイエスブルグ内部の工作員から総旗艦「ブリュンヒルト」に伝えられた。
その時、ちょうど僕は戦果の報告のために艦橋にいた。
「それは阻止しなければなるまい。直ちに艦隊を派遣して阻止しよう」ラインハルトは言った。
僕は背筋に寒いものを感じた。もしかしてこれは・・・
「閣下。お待ち下さい」オーベルシュタイン参謀長が止めた。
ヤバイ!このままじゃ・・・
早く行動を起こさなければ!
「閣下!オーベルシュタイン参謀長の提案は小官にもわかります。参謀長はいっそ奴らに核攻撃を行わせ、もって反乱軍、ひいてはリヒテンラーデ公爵を断罪せんというのです。それをすれば確かに陰謀の成就は楽になりますが、多くの民を損ね、将来的に閣下の名誉を損ねることになります!どうかここは、小官の艦隊だけでも、ヴェスターラントの防衛にお回しください!」
「ですが、ここで奴らの残虐性をアピールしておけば、後でリヒテンラーデを処断するのに最良の口実ができます。確かに多くの民を死なせますが、ここで彼らが犠牲になっても、より多くの民衆が救われることになります。閣下。統治者というのは、全体の幸福のために、一部の犠牲も容認しなければならないのです」
ここの会話は外には聞こえていない。特殊なシールドが張ってある。
「・・・覇者足るためには、手を汚さねばならないということか・・・」ラインハルトは苦しい声を出した。
「閣下!」僕は叫んだ。あなたはこれを実行したら、最大の友を失うことになるのですよ!?それでもよいのですか!?
そんなことは僕には許せない。この世界に転生した時からそんなことはさせまいと誓ったのだ。
「ヒルシュフェルト。艦隊をヴェスターラントへ向かわせろ」
「閣下!」オーベルシュタインが抗議しようとした。
「わかっている。一応のためだ。最終的な決定はギリギリまで待つ」
「・・・はっ」僕は何も言えなくなった。
・・・さて、何をすべきか。僕は必死にそれを考えた。
旗艦「ルーヴェ」の司令官席に腰を下ろして、僕は悩み続けた。
僕はオーベルシュタインの策にも一定の理があることを認めざるを得なかった。
そして、ヴェスターラントの一件で子供が生まれることになったのも事実だ。
だが、ジークフリードとラインハルトの仲が悪化するのはなんとしても避けたい。そのために何ができるか。
「・・・よし」僕は立ち上がった。「ミュラー中将。敵艦が惑星ヴェスターラントへと迫っている。これを迎撃すべく我々は出撃する。補給を急げ」
「はっ!」ミュラーは敬礼したが、その表情は納得できないことを示していた。「ですが閣下。補給には時間がかかります。今すぐ少数の艦艇を急行させるべきだと小官には思われますが」
ミュラーの言っていることに何ら間違いはない。もし僕がミュラーの立場だったらそう主張しただろう。
だが、この案件はそう簡単に解決できない。わざと艦隊を遅らせ、攻撃を成功させるという悪役を僕は誰にも知られず演じなければならないのだ。
「ミュラー中将。敵は全滅したと思うか?」
ミュラーは頷いた。「もちろんです」
「いや、私はそう思えない。多分敵はもう一個艦隊を待機させているはずだ。そうでもなければ核攻撃というバレバレの作戦を実行することはできないはずだ。
もし少数の艦隊で出撃し、結果艦隊が全滅したらどうする?救援は失敗し、無用の損害を生ずることになる。それはなんとしても避けたい。
確かに間に合わない可能性もある。だが、情報では攻撃が行われるのは4日後らしい。それまでには間に合うだろう」
「なるほど」ミュラーは納得してくれた。
僕は心の痛みを感じた。
だが、ジークフリードを救うためには、「大規模な艦隊を向かわせたものの、間に合わなかった。すぐ発進した偵察艦は間に合ったものの、艦隊は補給が遅れ、到着できなかった」という状況を作る必要があったのだ。
そして、そうすればジークフリードは助かり、ラインハルトが無用の憎悪を買うこともない。それに、仮に救援に成功すればオーベルシュタインに後で睨まれる。
緑溢れる惑星は、熱核兵器の業火に焼かれた。300万の罪なき命が失われた。
惑星ヴェスターラントは荒廃した砂漠同然の惑星になった。そこに生命は一人も残っていない。
僕は映像を見ていた。
涙が流れ出た。艦橋だが気にしない。
映像には少女らしき遺体が写っていた。もし、援軍が間に合っていれば彼女はこれから待っているであろう幸福な人生を全うできたはずだ。
新婚夫婦らしい遺体も見えた。彼らはこれから人生で最も幸せな時間を妻、夫と共に過ごせたはずだ。援軍が間に合っていれば。
援軍が間に合っていれば、友人と再会できた。
援軍が間に合っていれば、学校に行けた。
援軍が間に合っていれば、平和を享受できた。
援軍が間に合っていれば、愛するものの暖かさを感じられたはずだ。
援軍が間に合っていれば、援軍が間に合っていれば・・・
僕は目の前が真っ暗になるのを感じた。
罪なき人が大勢死んだ。こんな罪深き僕が、どうして幸福を味わうことができようか?
僕が独りよがりの考えで動き、あえて遅く出発することで、絶対に核攻撃を成功させることができるようにしたのだ。そんな僕が、そんな僕が、そんな僕が!
・・・ここに居ても、良いのか?・・・
「はっ!軍医!」ミュラーは倒れたヒルシュフェルトを見て命じた。