とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した   作:フェルディナント
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第十九話

 ついにラインハルトは帝国を、宇宙の半分を手にいれた。

 だが、もう半分の宇宙を手に入れなくてはならない。

 そう、同盟領である。

 まずは、その準備だった。

 ラインハルトが宰相に就任して2日後、僕は統帥本部総長、ジークフリードは軍務尚書に就任した。宇宙艦隊司令長官の座はラインハルトがそのまま引き継いだ。

 統帥本部総長とは言っても、実質的な作戦立案権はラインハルトにある。別に僕にはラインハルトほどの才能はないので、不満はないが、名前だけの仕事だった。

 とは言っても暇なわけではない。決して統帥本部総長は作戦立案だけが仕事なわけではない。連日の激務は、僕に計り知れないほどの負担を与えてきた。もっとも、ラインハルトの計らいでロイエンタールが統帥本部次長として手伝ってくれるようになってからは負担も大きく減ったが。

 軍務次官はオーベルシュタインがその職に就き、ジークフリードを補佐した。その仕事ぶりは完璧で、事務仕事になれていないジークフリードを良く支えている。

 僕は中尉のころ軍務省にいたことがあったが、これほど大変ではなかった。

 大量の紙の山と格闘し、様々な決定を下す。そんな力が僕にあるのか?

 それでもせっかくラインハルトが指名してくれたんだ。投げ出すわけにはいかない。

 そう思って僕は砂糖のたっぷり入った紅茶を飲んで事務仕事に明け暮れるのだった。

 

 僕はラインハルトに許可を得てアムリッツア方面軍を解体した。

 もともと貴族に艦艇がいかぬようにするための処置である。貴族がその権力を失った今、アムリッツア方面軍の存在価値は減少していた。

 メルカッツは上級大将に、ファーレンハイトは大将に昇進した上で帝都オーディンに帰還した。

 「閣下。お久しぶりです」僕は執務室にメルカッツを呼んでいった。

 「私がオーディンを起ってからずいぶんと変わりましたな」メルカッツは非難とも感慨ともとれることを言った。

「そうですね。ローエングラム公が実権を握られてから、ずいぶん変わりました」僕は平凡な答えを返した。

 「それで、閣下は私に何を望まれるのです?」

 僕は頷いた。「もうすぐ、イゼルローン奪回作戦が発令されます。閣下には、その遠征軍司令官になっていただきたく存じます」

 メルカッツにはいささか衝撃だったようだ。「私がですか?」

 「閣下です」

 僕がメルカッツに出撃を命じたのは、ここでヤンを攻撃することで、同盟軍との縁(この世界ではないけど)を完全に絶ちきって貰うためだった。

 また、戦術的に考えても、経験豊富なメルカッツならイゼルローンを攻略してくれるだろうという期待もあった。

 「わかりました。直ちに、準備にかからせていただきます」

 僕は机の上のプリントを手に取った。「閣下。これはまだ一部の者しか知らない極秘事項です。くれぐれも、外部に漏れないようお願い致します」メルカッツに渡す。

 メルカッツは読んで目を丸くした。「これは・・・!」

 「はい。ガイエスブルグを移動要塞として利用するのです。科学技術総監シャフト大将の提案です」

 「これを用いて、ということですか?}

 「その通りです。機動要塞ガイエスブルグと16000隻の艦艇を用いてイゼルローン要塞の攻略をしていただきます。現場での判断は全て閣下にお任せいたします」

 メルカッツは敬礼した。「わかりました。この老体の出来る限り、全力で任に当たらせていただきましょう」

 

 その夜、ジークフリードが僕の私室を訪ねてきた。

 「どうしたんだ?こんな時間に」僕は聞いた。

 ジークフリードの目は、いつになく真剣だった。「相談が・・・あるんだ」青い瞳の奥に写る、決意の塊を僕は見た。

 「そうか。じゃあそこに座ってくれ。まだ帰って来たばかりで、軍服も脱いでいないんだ」

 僕はそう言ってマントを脱ぎ、しっかりと畳んでクローゼットにしまった。

 数分後、着替え終わった僕はジークフリードの座る椅子の前に座った。「で、話って?」

 ジークフリードは伏し目がちだった。こんなジークフリードは初めて見たぞ。「ルートは・・・姉上のことが好きかい?」

 そんなこと決まっているじゃないか。「もちろん好きさ」

 「それは、ただ親友として好きなのか、それとも・・・」ジークフリードは口ごもった。

 そこまで聞いて、僕は全てを悟った。

 

 

 

 ジークフリードは、アンネローゼと結婚するつもりなんだ。

 

 

 

 「つまり、ジークフリードは結婚したいんだろ?アンネローゼ様と」僕はジークフリードの言葉を待たず、聞いた。

 ジークフリードは髪の毛と見分けがつかないくらい顔を真っ赤にした。「・・・うん」

 僕にそれを止める権利はない。確かにアンネローゼと結婚したくないという人はいない。僕もその一人だ。この世界に来て、幾度となくアンネローゼと結婚した世界を想像した。だが、僕以上にアンネローゼの新たな夫にふさわしく、彼女を愛しているジークフリードから奪う権利など、僕には存在しない。

 「ジーク。僕に君を止めるつもりはない。君は、アンネローゼ様と結婚して、幸せな家庭を持つ権利がある」僕はゆっくりと、文節ごとに区切って伝えた。頭のどこかがジークフリードとアンネローゼが結ばれることを認めようとしない。それが、涙を出そうとして来る。だが、僕はそれに抵抗した。

 「アンネローゼ様は、あの皇帝に連れさらわれ、不幸な10年間を送られた。あの方が、不幸せであって良い訳がない。ジークフリード、君こそが、アンネローゼ様をお支えし、共に幸せになる権利がある唯一の人物だ。君がアンネローゼ様と結婚するのに、僕は何の依存もない」

 「でも・・・!」

 「それ以上は言わないでくれジークフリード。君は幸せになるんだ。それこそが、僕の幸せだ。それに、僕はこれからも君とラインハルト様とアンネローゼ様と共に歩めるだけで十分だ」

 「そうか・・・ありがとう!」ジークフリードの顔は明るくなった。彼がはじめて見せる、心からの喜びの顔だった。

 

 ジークフリードが去ると、僕は戸棚から一本のワインを出した。410年物の、貴重なワインである。

 僕はそれをワイングラスに注いだ。深紅の液体が波立つ。

 それを持ち、僕は窓の方へと歩いていった。

 外には夜景が見える。

 

 

 「ジークフリード。アンネローゼ様。末永く、お幸せに」

 

 

 僕はさっき言えなかった言葉を発し、ワインをぐいっと飲み干した。

 これが、僕なりの区切りの付け方だ。いいんだ。これで・・・みんな・・・幸せになれた・・・

 

 一筋の涙が、僕の頬を濡らした。








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