とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した   作:フェルディナント
<< 前の話 次の話 >>

22 / 40
第二十一話

 ガイエスブルグ機動要塞が移動可能になり、「ヨルムンガンド」作戦が開始された。

 ヨルムンガンドは、北欧神話に登場する巨大な龍。

 雷神「トール」と3度戦った「ヨルムンガンド」は、最後は「ラグナロック」の戦争で相討ちになる。

 トールはイゼルローン主砲トールハンマー。

 ヨルムンガンドは今回の作戦名。

 ラグナロックは同盟領侵攻作戦。

 

 メルカッツ上級大将率いる28000隻の艦隊とガイエスブルグは一路イゼルローン回廊へと向かった。

 そのイゼルローン要塞では、一人の人物が陰謀に巻き込まれていた。

 

 「ヤン・ウェンリー大将に命ずる。直ちに惑星ハイネセンに出頭せよ」

 との命令文を見て、イゼルローン要塞の司令部のメンバーは不快感をぬぐいようもなかった。

 「だが、仕方ない。民主主義の軍人は、政府の命令には従わないといけない」ヤン・ウェンリー大将はそう言い、巡航艦「レダⅡ」に乗って副官フレデリカ・グリーンヒルをつれて首都へと向かった。

 査問の内容は「救国軍事会議クーデターにおいてなぜ惑星ハイネセン防衛の要である「アルテミスの首飾り」を破壊したのか」と「ドーリア星域会戦直前にヤンが行った演説で、政府を軽んじる発言をした。お前は政府に反抗しようとしているのか」の二つだった。

 そもそも民主主義国家で国民よりも政府の方が重んじられるのか。それでは民主主義ではなく、社会主義、全体主義ではないか。民主主義を高らかに謳う自由惑星同盟が、国民の利益より政府の意見を重視するのか。

 ヤンはそう主張したが、国防委員長ネクロポンティは「人間は一人では生きていけない。だから国家が必要なのだ。したがって、国家の利益はすなわち国民の利益に直結する。よって国家の利益が重視されるのは当然である」と言いはなった。

 ヤンはこれに対して、「別に人間の集合体は必ずしも国家でないといけないというわけではない。それ以外の共同体でも構わない。国家というのは共同体の一つの形にしか過ぎない」と言った。

 このように、国防委員会の建物のなかで不毛な論戦が繰り広げられ、本来正しいはずのヤンが不当に閉じ込められている状況をどうにかしようと

動いたのがフレデリカだった。

 宇宙艦隊司令長官アレクサンドル・ビュコック大将やジョアン・レベロに協力を要請し、ヤンを解放しようと働いた。

 だが、皮肉なことにヤンが解放された直接の原因は以下の情報だった。

 「帝国軍の大軍がイゼルローンに侵攻せり」

 この事態を受け、国防委員会は査問会の中止を決定。ヤンに、イゼルローンに赴くよう命じた。

 その頃には既に、戦闘が開始されていた。

 

 「全艦後退せよ。敵をガイエスハーケンの主砲射程に引きずり込む」旗艦「ネルトリンゲン」艦橋で、メルカッツは命じた。

 既にメルカッツ、ファーレンハイト艦隊の内12000隻が敵のアッテンボロー、フィッシャー分艦隊と交戦し、両軍の要塞主砲射程外で激しい艦隊戦が繰り広げられていた。

 「よし。後退しろ!」旗艦「アースグリム」艦橋のファーレンハイト大将はメルカッツにしたがった。

 「敵軍、後退します!」アッテンボロー少将の副官ラオ少佐が報告した。

 「くっそ。敵は手練れすぎる。俺達はこの状態じゃ下がることもろくにできゃしないじゃないか!」アッテンボローは戦況を見て毒づいた。

 メルカッツ艦隊は後退しながらも激しく、的確な攻撃を加え、同盟軍が後退すればすぐさま逆進して攻撃できる体制を崩さなかった。

 「アッテンボロー。聞こえるか?」要塞司令官アレックス・キャゼルヌ少将が通信を入れた。

 「こちとら激戦の中にあり!」アッテンボローはモニターに向かって叫んだ。

 「一旦後退しろ!敵の動向がわからん以上、むやみに追跡するな!」

 「ですが先輩!口でおっしゃるのは簡単ですが、この戦況じゃ後退することもできやしませんよ!下手をしたら平行追撃戦になってしまいます!」

 「それは分かっているが、他に手の打ちようもあるまい!フィッシャー少将が艦隊運動の指揮を執るから、お前は敵の反撃を封じ込めるんだ!」

 キャゼルヌの言うことにも一理あった。フィッシャーの艦隊運動で

後退するなら、それほどの混乱は生じるまい。「了解しました!せいぜい派手に攻撃して見せましょう!」

 

 「ほう。さすがだな同盟軍は。噂のヤン・ウェンリーの指揮能力は、伊達ではないと言うことか」メルカッツは呟いた。

 「ですが、このまま交戦を続けていては、やがてこちらがトールハンマーの射程に入ることになるかもしれません」副官ベルンハルト・フォン・シュナイダー中佐が意見を述べた。

 メルカッツは頷いた。「その通りだシュナイダー中佐。こちらはガイエスブルグを前進させ、ミュラー艦隊も投入することにしよう」

 

 「敵の要塞、動き出しました!」艦隊を有機的な運動で後退させていたエドウィン・フィッシャー少将の元に新たな報告がもたらされた。

 「敵要塞の主砲射程が分からない。敵艦隊を盾にしつつ後退する」フィッシャーは命じた。

 

帝国軍は逆に同盟軍艦隊をトールハンマーからの盾としつつ要塞をイゼルローンに接近させる作戦に出た。

 両軍が平行追撃戦を行っているかのような状況となったのである。

 イゼルローン回廊内を青白いビームが飛び交い、被弾した艦艇の爆発光が二つの要塞の表面に反射する。

 

 後に「要塞対要塞」とも言われた第八次イゼルローン攻防戦はまだ始まったばかりである・・・

 

 その頃、同盟首都ハイネセンではヤンがイゼルローン増援艦隊の準備に精を出していた。

 イゼルローン要塞が陥落するということは再び同盟領が戦場になるということであるし、ヤンにとっての家が喪われるということであった。

 イゼルローンを救援するために用意できそうな兵力は少なかった。

 パエッタ中将の第一艦隊は本土から出撃できなかった。

 「アスターテでの恩を返したい」とパエッタは国防委員会に艦隊の出撃を要請したというが、却下されたようである。

 ビュコック直率の第五艦隊も出撃を許されず、辺境星区に配備されていた艦隊で独立艦隊を編成し、それをイゼルローンに送り込まざるを得なかった。

 だが、独立艦隊の数は多く見積もっても5500隻ほどしかいなかった。イゼルローンにいる艦隊は今のところ14000隻。敵は28000隻。仮に独立艦隊が無傷のままのイゼルローン駐留艦隊に合流しても数は19500隻。帝国軍に遠く及ばなかった。

 それでも、イゼルローンを救援するしかなく、ヤンはわずかばかりの戦力をもってハイネセンを出撃したのである。

 

 「敵要塞、接近!」

 「トールハンマー発射用意!」キャゼルヌは立ち上がった。

 「最強の砲をもって最強の装甲を攻撃する。世の人、これを矛盾という」オリビエ・ポプラン少佐が軽口を叩いた。

 「お前なぁ・・・」イワン・コーネフ少佐が呆れて頭を押さえる。

 「敵要塞、射程内に入りました!」

 「撃てぇ!」キャゼルヌは手を振り下ろした。

 イゼルローン要塞主砲「トールハンマー」が発射された。吸い込まれるようにガイエスブルグ要塞に向かい、命中した。

 「命中を確認!」

 入れ替わりにガイエスハーケンがイゼルローンに直撃し、イゼルローンの人間はこれまで味わったことのない衝撃に襲われた。

 「第5ブロック損壊!生存者、無し!」

 「バカな!あそこには、4000の人間が詰めていたのだぞ!?」ムライ参謀長が唖然としていった。

 「戦死した模様!」

 「撃ち返せ!」キャゼルヌは命じた。

 再びトールハンマーが発射される。ガイエスブルグにもこちらが受けたのと同等、いやそれ以上の損害を期待するしかない。

 「駐留艦隊はどうした!?」キャゼルヌは聞いた。

 「敵艦隊多数と交戦中。後退は困難!」要塞防御指揮官ワルター・フォン・シェーンコップ少将が報告する。

 「耐えろ!ヤンが戻ってくるまで、ここを陥落させられてはいかん!」

 「敵弾、来ます!」

 激しい振動が司令室を襲った。

 「第七ブロック被弾!」

 「ブロックを放棄しろ!」

 「第三工場に流体装甲が流入!」

 「第三工場を含めたブロック全体を閉鎖!兵員の退避が終わったらすぐにやれ!」

 報告と対処指示が飛び交う。その間にも外では艦隊戦が続いている。

 「イゼルローンが砲撃されています!」

 「そうか。それがどうした!俺たちの家が吹っ飛ばされたわけではない!今は正面の艦隊にのみ集中しろ!」アッテンボローは激を飛ばした。

 

 「さすがはヤン・ウェンリーだ。この猛攻撃を見事に跳ね返している」メルカッツは称賛したが、実際のところヤンはイゼルローンにいない。

 「閣下。ミュラー提督より入電です」

 「つなげ」

 モニターにナイトハルト・ミュラー大将の顔が写し出された。メルカッツは敬礼した。

 「閣下。先ほど敵艦隊の残骸のなかに生存者を発見し、事情を聴いたところ、要塞にヤン・ウェンリーはいないといっていました。無視してもよろしいかもしれませんが、敵の行動があまりに消極的にすぎることの説明にはなります」

 「とすると卿はヤン・ウェンリーはここにはおらず、他の者が指揮しているというのか?」メルカッツは聞いた。

 ミュラーは頷いた。「はい。その可能性は十分にあります」その顔の右半分が、ガイエスハーケンの光に照らされた。

 「ううむ・・・」メルカッツは考え込んだ。「確かに卿の意見にも一理ある。もう少し敵の出方をうかがって考えよう」

 「はっ!」ミュラーは敬礼し、モニターから消えた。

 

 第八次イゼルローン攻防戦は、その激しさを増していた。








※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。