とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した   作:フェルディナント

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第二十七話

 「で、何のお話ですか」自分より遥かに若い来客を家にいれ、アンスバッハは聞いた。

 「閣下はこれまでゴールデンバウム王朝を支える貴族のなかでも最大のブラウンシュヴァイク公に仕えておいででした。今、再び歴史をゴールデンバウム家に取り戻す好機です。ゴールデンバウム家の重臣としての義務を果たされる機会なのです」ルパート・ケッセルリンクは扇動するように言ったが、壮年の元帝国軍准将は動じなかった。

 「お帰りください。私は今新たに人生をやり直そうとしているのです。過去に回帰する余裕はありません」

 ケッセルリンクも決して諦めない。「過去は捨ててよろしいでしょう。ですが、未来もお捨てになるおつもりですか?」

 ケッセルリンクはさらにフェザーン自治領政府の権力を使って介入できると脅し、アンスバッハは渋々承諾せざるを得なかった。

 「で、私に何をしろというのです。ローエングラム公の暗殺でもせよと?」

「フェザーンは流血を好みません。平和こそが真の発展に繋がると思っていますから」ケッセルリンクの言葉にアンスバッハは顔をしかめたが、口では何も言わなかった。

 

 銀河帝国首都星オーディン宇宙港を一隻の戦艦が飛び立った。流線型の船体に入った緑のライン。

 統帥本部総長ルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト元帥の旗艦、「ルーヴェ」だった。

 僕は艦橋の指揮シートに座って視界から去ってゆく地上の風景を眺めていた。大雨が降り、良くは見えないが。

 これからアムリッツア星系に建設されつつある「アースガルズ要塞」の視察に出発するのだ。 

 ガイエスブルグ要塞を使ってのイゼルローン要塞攻略作戦が失敗して2ヶ月。同盟軍が進行してこないとも限らない(その確率は限りなく低いが)ので、アムリッツアには小型の要塞が数個建設されているのだ。

「周回軌道に到達。まもなくワープに入ります」「ルーヴェ」艦長のローザ・フォン・ラウエ中佐が報告した。

 彼女は今年28歳。(今の僕が)22歳なので、6歳の差がある。

 いつかやった銀河英雄伝説のゲームで出てきた気がしたので採用したが、想像以上に有能で、艦長として十分な能力を持っていた。

「直ちにワープに入ってくれ」僕は命じた。

 「了解しました」ローザは敬礼し、いくつかのスイッチをいれた。

 それを見ながら僕は今後のことを考えていた。

 この視察が終わったら帝都に帰還する。そして・・・

 

 

 雨はいっそうひどくなり、雷すら落ち始めた。それをラインハルトは芸術品でも観賞するかのように見物していたが、後ろでドアが叩かれるのに気づくと振り向いた。書類の整理をしていた首席秘書官ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフもドアの方を向く。

 入ってきたのはジークフリード・キルヒアイス元帥だった。赤いマントが、さらに赤い髪で際立って見える。

 「閣下。先日の件ですが・・・」

 「すでに決裁した。フロイライン」

 ヒルダが立ち上がり、数枚の書類をジークフリードに手渡した。

 「ありがとうございます」礼儀正しくジークフリードは礼を言うと、紙にさっと目を通した。

 ヒルダはそのまま部屋を出た。トイレと言ったが、二人に配慮したということに気づいたのは残された二人のうち一人だけだった。

 ラインハルトは外を見た。「ヒルシュフェルトが帰ったら、いよいよだな」

 ジークフリードは頷いた。「はい、ラインハルト様」

 「お前が本当に俺たちの家族になるんだ」

 それは十二年前からのことであった。だが、血縁上でもジークフリードはラインハルトと人生を共有できる存在になったのだ。オーベルシュタインが眉をひそめるだろうが、ラインハルトにジークフリードと僕は互いに欠けてはならない存在だった。


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