とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した 作:フェルディナント
僕がアムリッツアから帰ると、すぐにジークフリード・キルヒアイスとアンネローゼ・フォン・グリューネワルト伯爵夫人の結婚式が執り行われた。
ジークフリード・キルヒアイスは長身の美男子、知性鋭利でしかもまだ二十代前半で元帥、軍務尚書の座を占める。それでいてラインハルト・フォン・ローエングラムに勝るとも劣らない美貌を有したアンネローゼ・フォン・グリューネワルトと結婚できたのだ。これを見てジークフリードは神に愛されたのだと言えない人がいるだろうか。言えないのは運命や神を否定する一部の人間だけだろう。
式は結婚する人の地位からは想像もできない質素さで行われた。何よりも新婚夫婦がそれを望んだのである。そして式には希望者のみが出席し、ウォルフガング・ミッターマイヤーは妻をつれて、ロイエンタールも親友と共にやって来た。オーベルシュタインは参列しなかった。それ以外にも用事で出れない提督を除いてほとんどの提督たちが参加した。
「ジークフリード・キルヒアイスが結婚したとはな。まぁ当然と言えば当然か」フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトが言った。
「夫婦共に素晴らしい方です。もしお子さまがお生まれになったらどれだけの御子のなられることか」隣にいたナイトハルト・ミュラーが言う。
「そうだな。もし子供が生まれたらローエングラム王朝はローエングラム公が結婚なされずとも続くことができる」
「問題は、あのオーベルシュタイン総参謀長がどう思うかです。地位を利用して政治に口出しするのではないかと疑うのではないですか?」ミュラーの疑問は荒唐無稽のものではない。
これまでの王朝で皇帝の母、あるいは姉が国政に介入し、国を窮地に陥れた例はいくらでもある。もっともアンネローゼがそのようなことをするとは思えないが、あのオーベルシュタインのことだ。もしかしたらアンネローゼを疑ってキルヒアイスを要職から更迭するようラインハルトに進言するかもしれないが・・・
「まぁ、ありえないか」
これほど有能で、勇敢な副将、しかも幼馴染をラインハルトが捨てるとはまず考えられない。よほど関係を悪化させるなにかがない限り・・・
一生の愛を誓うアンネローゼとジークフリードの姿は限りなく輝かしく見えた。だが、この会場にいた人の殆どは知らなかったであろう。
この瞬間に、アンネローゼは10年以上の呪縛から、真の意味で解放されたことを感じていたことに・・・
「おめでとう」僕はジークフリードに言った。
「ありがとう」やや頬を赤く染めながらジークフリードが答える。
「僕たちの誓いが、果たされたんだな」
ジークフリードは頷いた。「アンネローゼ様は自由だ。これからは、僕がアンネローゼ様をお守りする」
「ラインハルト様も守り、アンネローゼ様も守るのか。大変だな」
「だからこそ、ルートにも頑張ってほしいな」
「勿論だ。お二人を守ることは、僕の責務のひとつだから。ジークフリードも、これからもよろしく頼む」
式が終わると、新婚夫婦は自然豊かな惑星アースガルズに旅行に出掛けた。
僕は統帥本部総長として国内の防衛、外征の準備に専念していた。
それにしても、なんと理想的な形で物語は進行しているのだろう。オーベルシュタインが独裁的に権力をふるえる状況は到来せず、アンネローゼはジークフリードと結婚し、まだ一人としてローエングラム元帥府からの戦死者はいない。
「だからこそ、これまで以上に注意しないといけないか」
ここまで歴史が原作から変われば、この先何が起きるかわからない。これからは原作の知識だけではどうにもならないこともあるだろう。
「頑張らないとな・・・」
一人のうら若い女性があるいていた。律動的な歩調もち、男のような服装をし、くすんだ色調の金髪を短くしているので、美貌の少年のようにも見えるが、ごくわずかな化粧と、襟元からのぞくオレンジ色のスカーフとが、彼女が女性であることを証明しているようだった。
帝国宰相首席秘書官、ヒルダことヒルデガルド・フォン・マリーンドルフがラインハルトの執務室の前にたつと、衛兵が敬礼し、うやうやしくドアを開いた。彼らに無条件でそうさせるだけの立場を、ヒルダは既に獲得していた。
気さくに礼を言って広い室内にはいったヒルダは、建物の主人であるラインハルトの姿を求めて視線を動かした。帝国宰相にして帝国軍最高司令官を勤める金髪の若者は窓際に佇んで外を眺めていたが、豪奢な黄金の髪を揺らして振り返った。
「お邪魔だったでしょうか、宰相閣下」
「いや、かまわない。用件をうかがおう、フロイライン」
「憲兵総監ケスラー大将から面会願いが届いております。それも至急に、と」
「ほう、ケスラーがそれほど急いでいるか。会おう。連れてきてくれ」
彼は地位に伴う責任を回避したことは一度もなかった。それは彼の敵対者でさえ否定できない事実だった。
「ご多忙のところ恐縮です」帝都防衛司令官であり憲兵総監でもあるウルリッヒ・ケスラー大将は若い主君に敬礼した。
「実は先日、旧大貴族の残党二名が帝都に潜入いたしました。」
「どうやってそれを知ったのだ?」
「実は、密告がありまして・・・」
「密告?」ラインハルトは不快そうな顔になったが、ケスラーの用件はまだ終わってはいない。彼はコンピュータースクリーンに二人の人物の顔を写し出した。
一人は黒髪の壮年の男、もう一人は銀色の髪を持った若い士官である。
「どちらも元々ブラウンシュヴァイク公の部下でした。一人はアンスバッハ准将、もう一人はフェルナー中佐と言います」
この世界では、アントン・フェルナーはフェザーンに亡命していた。
「ほう。アンスバッハは知っている。悪い印象は受けなかったが・・・このフェルナーと言うものは初めてみるな」
とにかくにも、貴族の残党が潜入したことは事実である。しかも、身分証明書がフェザーン発行である以上、何らかの形でフェザーンが関わっていることは事実である。
・・・こうして、オーディンにおいて陰謀戦が繰り広げることになった。そしてそれは、更なる戦いの発火点でもあったのである・・・
あとがき
どうも。フェルディナントです。
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