とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した   作:フェルディナント

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第三十話

 帝都オーディンにある小さなホテル。フェザーンが運営するこのホテルにアンスバッハ准将とフェルナー中佐はいた。

 アンスバッハもフェルナーも皇帝を誘拐するというこの計画には賛成ではなかったが、フェザーンでの生活権を剥奪されるとあっては、協力せざるを得ないところである。

 アンスバッハはこの状況にたいしては受動的で、フェザーンの指示を受け入れていたが、もう一人の方には別の考えがあった。

 (誘拐ごっこに付き合って人生を無駄にはしたくないからな。アンスバッハには申し訳ないが)

 フェルナーはこの状況を逆用して自分の未来を勝ち取ろうとしていたのである。

 誘拐実行の二日前、フェルナーは誘拐成功のために高等弁務官ボルテックに陽動作戦の依頼、誘拐後の保護を要請した。

 

 「そんな!では、モルト中将は・・・」ラインハルトの宰相府宰相執務室にはラインハルトとジークフリード・フォン・キルヒアイス元帥と僕がいた。

 「彼には申し訳ないことだが、死んでもらうしかない。誰かに責任をとらせなければならないの異だ」ラインハルトは答えた。

 僕らが話しているのは、原作でも出てくる、「フェザーンに皇帝を誘拐させ、責任をモルト中将にとらせる」と言うことだった。この策略はオーベルシュタインが提案したものである。

 「ラインハルト様・・・戦って宇宙を手にいれる以上、敵味方の血が流れるのは仕方ないことです。ですが、戦いと関係ないところで、なんの責任もない部下を殺されるのですか?」

 この計画は効率的であることは僕にもわかる。モルト一人が死ぬことでフェザーン侵攻、同盟侵攻の大義名分がたつし、同盟内部の分裂も期待できる。だからこそ皇帝を誘拐させることは決して反対ではないのだが、それの責任をモルトに押し付け、処断するのはいかがなものだろうか。

 「ラインハルト様。計算の上で無実な部下を死なせるなど、お手を汚されるようなことなどなさいますな。皇帝を誘拐させればよろしいが、モルト中将に責任を押し付け、処断する必要はないでしょう?」

 ラインハルトは首を振った。「だが、モルトが死ななければ誰が責任をとるというのだ。皇帝を誘拐されておきながら誰にも責任を追わせないわけにもいかないだろう」ラインハルトの声には自分自身が自分の今言っていることに納得していないという事実を感じさせるものがあった。「それに、覇者がこれまでひとつの悪行もなさずに覇業を達成したことがあるか?」

 ラインハルトの言葉に、反論はできない。覇者は時には味方を殺さねばならない。だが、僕にはラインハルトにはそうなってほしくないっとい思いがあった。それに、ジークフリードのことがある。二人の仲を引きちぎる要素は僕が排さなくてはならなかった。

 「それにだ、モルトは古風な男だ。たとえ助命したところでそれに甘んじたりはしないだろう」ラインハルトの声にはやりきれない怒りがあった。

 「ですがラインハル・・・」

 「ラインハルト様」僕はあえてジークフリードの発言を遮った。ジークフリードが驚いてこちらを見つめるが、それには構わず、僕は次の言葉を紡ぎだした。「彼らの陰謀を成就させ、なおかつモルト中将に不当な処置をとらずにすむ方法があります」

 ラインハルトの瞳が光を放った。それは光明の、希望の光だった。

 「誘拐の実行日はフェザーンからの情報ですでに明らかになっています。なので、その日の夜にモルトを防衛配置上の相談という形で統帥本部に呼び、その間に誘拐を実行させるのです。彼のいない間は指揮系統が成り立っていないので、誘拐も成功しますし、責任をとるべき人間はモルト中将を呼び寄せた人物という形になります。そこで私が一時的に減給されれば事件の責任問題は解決いたしましょう。ケスラー大将も同様です」

 やや難のある無理矢理な理論だが、責任問題をうやむやにできる。ありがたいことにモルト不在の間は指揮するものがいない状態になる。さすがに配下の指揮官全員を処罰するわけにはいかないので、呼び寄せた僕が減給すればいいのだ。

 「・・・なるほど」ジークフリードが目をやや見開いた。彼もフェザーンの誘拐を成功させてやることには反対ではない。民衆を犠牲にしているわけでもないのだから。

 「わかった。ではそうしよう。だが、ヒルシュフェルトはそれでいいのか?」

 「私はラインハルト様のために尽くすのみです。十年前からずっとそうでした。それに、ただの減給程度、問題ではありません」前半部が僕の思いを物語っていた。

 

 アントン・フェルナーが宰相府に出頭したのは誘拐が実行された夜のことである。

 アンスバッハとともにエルヴィン・ヨーゼフ二世を誘拐した直後、行方をくらましたのだ。

 フェルナーは自分がフェザーンによって誘拐犯になったことを堂々と言い、さらにブラウンシュヴァイク公爵の部下であったことも臆面もなく言い放ち、その上で「配下に加えてほしい」と申し込んだのである。

 「・・・すると、卿はどういう価値基準で行動しているのか?」

 「自分にとって、能力を最大限発揮できる場所です。自分の能力を認められず、使われない場所にいるなど、宝石を泥のなかに放り込むようなもの。社会にとっての損失だとお思いになりませんか」

 ラインハルトはあきれて首を振った。「ぬけぬけと言うやつだ」だが、彼に陰湿さがないことも分かったので、彼にオーベルシュタインの配下に入ることを許した。

 一方でアンスバッハはフェルナーが消えた後一人で皇帝を連れ出し、フェザーン高等弁務官府に保護された。

 ノイエ・サンスーシを守護する役目を果たしていたモルト中将は統帥本部総長ルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト元帥に呼び出され、防衛部隊の配置の相談をしており、彼は事態が手遅れになった段階ですべてを知らされた。彼は愕然として、続いて唖然として事態を飲み込んだ。

 翌日ルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト元帥は首都防衛司令官ウルリッヒ・ケスラー大将とともに宰相府に出頭し、モルトをもっとも大事なタイミングで職場から引きずり出した罪を詫びた。ラインハルトは彼に減給を命じ、ケスラーにも同様の処置をとった。

 こうしてフェザーンの陰謀を成功させつつモルトを救う僕の計画は成功した。だが、モルトは責任を痛感し、拳銃で自殺した。

 僕はそれを聞いて故人の死を惜しんだ。だが、モルトの名誉は、この計画で守られたのである。これだけでも満足すべきかもしれなかった。

 

あとがき

 どうも。YOUTUBEに動画を投稿し始めたフェルディナントです。

 今回のヒルシュフェルトの計画のために、原作から設定を変更してありますが、ご了承下さい。フェザーンからは決行日は伝えられていなかったと言うところです。

 

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