とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した   作:フェルディナント

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第三十二話

 キルヒアイス艦隊が要塞を砲撃し初めてから七時間後。

 要塞表面の砲台は破壊されるか、内部に撤退するかして抵抗は全くなかった。

 数の差があるため、ヤン艦隊もそう簡単に要塞から出てくることはできない。下手をすれば出てきたところを三倍近い兵力差で長距離砲撃を受け、イゼルローン回廊の死骸の山の一部になることもある。

 それがわかっていたから、ヤンは艦隊を出撃させなかった。ジークフリードは平凡ながら重厚な陣形を敷いており、兵力も固まっているため、付け入る隙が全くない。

 「敵の火力集中ポイントの流体装甲、あと六時間で貫通します」

 「閣下。このまま戦局を眺めているだけでは、いずれ装甲が貫通されてこの要塞も破壊されます!」ムライ少将が言う。

 「分かっている」ヤンは自分が座っているコンソールを蹴飛ばしたい気持ちだった。ムライの言うことがわからないヤンではない。イゼルローンの鉄壁の防御はトールハンマーと厚い装甲の上になりたっているのだ。敵がトールハンマーの射程外から砲撃している以上駐留艦隊でどうにかするしかないが、艦隊が出たタイミングを狙って敵将ジークフリード・キルヒアイスは攻撃を集中させ、掃射で殲滅されるだろう。だからといってこのまま待っているだけではいずれは装甲が破れ、そこに砲撃が集中して艦砲でイゼルローンは大損害を被るだろう。

 普通であれば艦砲射撃程度ではイゼルローンの外壁を打ち破ることはできない。だが、この時ジークフリードがイゼルローンのただ一点に集中させた火力は尋常なものではなかった。三万を越える艦艇の全ての主砲がイゼルローンの一点、半径二キロメートル程度の圏内に集中しているのである。普通それだけ撃ちまくれば兵站面での負担は並のものではないが、帝国軍の数的優位が可能にした輸送艦の大量展開とジークフリードの綿密な補給計画はこれだけの火力集中を可能にしていた。

 「閣下!」ムライがヤンに脅迫するかのように声をあげた。

 「分かっている!」ヤンは怒声一歩手前の声で返した。

 イゼルローン、同盟を守る最大の関門を守るヤンの心労は半端なものではなかった。しかも市民が司令部に押し掛け、警備の兵士たちがそれに対応している状況である。市民の声が司令部まで入ってくる。ヤンは何度も「心配ない」と繰り返したが、市民は毎日押し掛けようとしていた。

 そしてヤンは人生初めてのことをやってのけることにした。「勝算の完全にない戦い」である。

 

 「敵艦隊が港を出ました!」

 「数は?」ジークフリードは聞いた。

 「およそ、1000!」

 「陽動でしょうか?」参謀長ベルゲングリューンが聞く。

 「だとしても、ここで’倒すメリットはあるはずです。ワーレン提督の艦隊は敵の1000隻の艦隊を砲撃せよ!」

 すぐさまワーレンは指示を実行した。敵艦隊を砲撃したのである。

 だが、射程ギリギリでの砲撃は同盟軍にさほどの損害を与えなかった。十倍以上の差があるため同盟軍艦艇は次々と轟沈していくが、かなり時間がかかった。

 「くっ!あの程度の敵に何をてこずるか!」ワーレンは歯軋りしたが、トールハンマーの射程内に入るわけにもいかない。砲撃が続いた。

 だが、今度は、先ほどと反対側から1000隻の艦隊が出てきたのである。

 「ルッツ艦隊をもって砲撃!」ジークフリードはワーレンが排除にあれだけてこずっていることをみても自分自身の艦隊にはイゼルローンの砲撃をやめさせなかった。少しの間でも停止すれば、再び流体装甲は元に戻ってしまう。

 ルッツ艦隊がやはり同盟軍の排除にてこずっているとき、

 「敵艦隊およそ1500隻!同盟領方面に向けて離脱していきます!」

 「どう言うことでしょうか、閣下?」ベルゲングリューンが聞いた。

 「どう思いますか、ビューロー中将?」

 ジークフリードに問われたフォルカー・アクセル・フォン・ビューロー中将は少し考え込んだ。「恐らく、VIPが脱出しているものかと。先ほどの敵艦隊は離脱の間我々を拘束する囮でしょう。ですが、意外にも速く排除が終わり、我々は追撃できる状態にあります。いかがなさいますか、司令官?」

 ジークフリードは少し考え込んだ。

 今あれを捕まえることができれば、それを取引材料にイゼルローンに開城を迫ることもできる。そもそも敵を減らしておくことは、今後のためとなる。

 「ワーレン艦隊に伝達。要塞から離脱しつつある敵艦隊を捕捉、撃滅或いは捕虜とせよ!」

 この時ジークフリードはこれらがすべて敵の罠であるという発想に至らなかった。偶然ではあったが、これはヤンにとって救いだった。

 

 「敵艦隊、囮部隊を追撃します!」

 「他の艦隊に動きはありません!」

 司令部が久し振りに明るい雰囲気に包まれた。ヤンはベレー帽をとってくるくると回し、安堵のため息をついた。

 「うまく行きそうですな、閣下」副参謀長パトリチェフ准将が言う。

 「そうだね」ヤンは同意したが、気を抜くことはしなかった。ベレー帽を被り直し、報告に耳を傾け始めた。

 

 「敵艦隊を捕捉!」

 ワーレンは頷いた。「よし、艦隊を二分する!ザウケンの部隊を敵の前方に進出させ、包囲せよ!」

 ワーレンの思惑通り、同盟軍の脱出艦艇は包囲された。

 「停船せよ。しからざれば攻撃す」との通信を飛ばしながらゆっくりとワーレンは同盟軍艦隊に近付く。

 そして、互いに接近して、接舷せんばかりまで近づいたとき、

 「な、何だ!」

 同盟軍1500隻の艦艇が一斉に爆発した。爆光に巻き込まれて帝国軍艦艇が消滅していく。この一撃はワーレン艦隊に物的被害以上に指揮統制の面での被害を与えた。

 そこに同盟軍アッテンボロー、フィッシャー艦隊が襲いかかったのである。この部隊はキルヒアイス艦隊攻撃範囲外で要塞の外に出て待機していたのだ。

 「撤退!撤退しろ!」ワーレンは指示したが、通信網がめちゃくちゃになっており、味方に通信が届いたかどうかすら判別できなかった。陣形も乱れに乱れ、復讐心と闘争意欲に溢れた同盟軍艦隊の猛烈な砲撃になぎ倒された。

 ようやく指揮を回復し、撤退したとき、ワーレンは2000を越える艦艇を失っていた。

 「くっ!ヤン・ウェンリーにしてやられたわ!」ワーレンは屈辱に歯を噛み締めた。

 

 あとがき

 どうも。フェルディナントです。

 YOUTUBE動画を作るのと視聴者を確保するって大変だね。まぁ頑張っていきます。

 先週は風邪で寝てこんでしまい、小説を投稿できず申し訳ございませんでした。また日曜日に投稿していきます。

 みなさん、STAR WARSエピソード8は観られましたか?私は昨日観てきましたが、とても良かったですよ!予想を次々と裏切ってきて!そして最後には感動のシーン!あれは映画史に残せる一作でした1是非見に行ってみてください!

 

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