とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した   作:フェルディナント
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第三十五話

 

 「敵艦隊前衛、射程に入りました!」同盟軍艦隊旗艦「リオ・グランデ」に報告が入る。

 「よし、全艦砲撃開始!一分でも早く撃破するのだ!」ビュコックは命令した。

 35000隻以上の艦艇から大小数十万本の光の矢が放たれる。一本一本の矢が集束して束になったかのように見えた。

 すぐに帝国軍も撃ち返す。両軍の砲撃が漆黒の宇宙を明るく照らした。

 「このままでは消耗戦になるな・・・」ビュコックはスクリーンで点滅する光の群れを見て呟いた。

 「右翼軍は前進。敵の砲撃を集中させてその側面より左翼軍で攻撃する」

 右翼はヤン・ウェンリーのイゼルローン駐留艦隊16000が展開している。この部隊を前進させ、敵の砲撃を受けさせ、突出するであろう敵の右翼、あるいは中央をビュコック直率の中央軍16000、パエッタ中将の左翼軍14000で攻撃を加える作戦だった。

 

 「敵艦隊右翼、突出します!」

 「敵の右翼はヤン艦隊か・・・」ジークフリードは悩んだ。

 普通に見れば(ジークフリードからすれば)これは囮で、こちらが右翼軍を敵左翼に向けて突出させたところを右翼が砲撃するつもりだろう。だが、そう思わせることこそが敵の思惑ではないのか?

 判断に迷ったジークフリードは右翼のワーレンには現在位置での待機を、左翼のルッツには後退を命じた。こうすることで敵の右翼を誘い込み、左翼と中央で叩こうとする作戦である。

 

 「敵の左翼、後退します!」ヤン艦隊旗艦「ヒューべリオン」に報告が入った。

 「敵は我が方の誘いに乗らなかったようですな。いかがなさいますか?」ムライが聞く。

 ヤンは暫し考え込んだ。 

 今ここで後退すれば安全ではあるが、先ほどの消耗戦に戻るだけだ。戦いが長く続けば続くほど我々の不利になる。ならいっそ・・・

 「全艦隊、突撃!」

 「突撃ですと!?」ムライが頓狂な声をあげた。パトリチェフも唖然とした表情である。

 「敵の左翼と中央の間隙部に突入し、分断するんだ。そこに正面から攻撃をかける」

 ヤン艦隊は突進した。

 

 「ヤン艦隊、突進します!」

 「何だと?」ルッツは席を立ち上がった。「まずい!今中央と左翼の間ががら空きだ!何としても食い止めろ!」

 「だめです!中央艦隊に当たります!」 

 「ぬぅ・・・」ルッツは歯軋りした。 

 それでも陣形を右に広げてヤン艦隊の突撃を止めようとしたが、さらにヤンは帝国軍の予測を裏切った。

 

 「右翼から援軍を派遣!敵の突出を防ぐ!」ジークフリードも予測し得なかった事態に焦りを感じていた。

 「敵艦隊さらに回頭!左翼中央へ突撃しています!」

 「・・・なっ!」

 ルッツは陣形を広げていたため中央への突進を防ぐだけの兵力はなかった。

 旗艦「スキールニル」にも砲撃が集中し、大破した。

 「もはや本艦もこれまでです!脱出なさってください!」艦長の意見を受け入れ、ルッツは旗艦を放棄して近くの戦艦「バイエルン」に移乗したが、その間ルッツ艦隊の指揮系統は完全に崩壊し、各個に撃破される状況だった。

 急速突破でルッツ艦隊を突破したヤン艦隊は帝国軍の後方に展開するとそこから帝国軍に向けて猛烈な砲撃を浴びせた。

 「各方面で戦線が崩壊しつつあり!」

 「こちら第百五七戦隊!損傷艦の割合が七割を越えた!」 

 「脱落艦が多く、戦線の維持が不可能!」

 「救援を乞う!救援を乞う!」

 通信回路を悲鳴が満たした。

 ジークフリードは無念そうに肩を落とした。だが戦場ロマンチシズムに傾倒して死に場所を探し始める彼ではない。それに彼は生きて変えると約束したのだ。

 「全艦隊一斉回頭!後方の敵艦隊を突破し、離脱する!」

 ヤン艦隊単独よりは帝国軍の方が数が多い。しかも同盟軍艦隊より帝国軍艦隊の方が優速であり、一度射程外に出たら逃げ切れる。

 それを計算しての命令だった。決して破れかぶれで下した特攻命令ではない。

 突撃して離脱と言う単純明快な指示を下された帝国軍は全力でヤン艦隊に向けて突撃した。

 同盟軍艦隊ビュコック艦隊はあっという間に引き離し、ヤン艦隊めがけて突進する。

 このヤン艦隊との砲撃戦がこの戦いのクライマックスであり、両軍ともに手持ちのエネルギーを使い果たさんとの勢いで撃ちまくった。

 ルッツ艦隊の戦艦「ザクセン」など味方の退路を開くため反応炉を暴走させて同盟軍艦隊に突っ込んだ。「ザクセン」は集中砲火を浴びて爆沈したが、その大爆発は周囲の同盟軍を巻き込み、陣形が多いに乱れたところを後続艦隊が突破した。

 同盟軍も負けてはいない。オリビエ・ポプラン、イワン・コーネフの率いる空戦隊は猛獣のごとく帝国軍艦隊に襲いかかり、次々と宇宙の塵に変えていった。

 戦艦「オクシアナ」は帝国軍の戦艦二隻を相手取り、一隻を撃沈してその残骸をもう一隻に命中させて二隻とも撃沈する。

 ジークフリードの旗艦「バルバロッサ」はその大火力を遺憾なく発揮。周囲の同盟軍は接近できなかった。「バルバロッサ」だけで六隻もの同盟軍艦艇を撃沈している。

 ワーレン艦隊旗艦「サラマンドル」は艦首砲を発射して同盟軍の艦列に大穴を開けるとそこから艦隊を突破させた。だが「サラマンドル」はこれでエネルギーを使いきり、砲撃を浴びて大破した。元々シュワルツ・ランツェンレイターにいた二隻の高速戦艦「ザイドリッツ」「フォン・クラウゼヴィッツ」が危険を犯して牽引ビームで曳航し、それを周囲のワーレン艦隊の艦艇が援護した。この勇戦ぶりはビッテンフェルト艦隊の精強さを後生に知らしめた。

 近距離でエネルギーが放射され続けられて飽和状態となり、エネルギー流が発生した。突破しつつあった帝国軍はイゼルローン方向へ、ヤン艦隊はバーラト方向へ弾き飛ばされた。

 もはやジークフリードの艦隊は単独で進撃する力を失い、同盟軍は勝利した。

 エルゴン星系会戦での損害は帝国軍10000、同盟軍7000に上る。

 そして同盟軍は休み暇もなく、最終決戦に備えて首都星ハイネセンに向けて進発したのだった。

 

 ジークフリードはその姿を見送ると、全艦隊の帝国軍本隊との合流を命じた。








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