とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した   作:フェルディナント

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第三十七話

ガンダルヴァ星系では激しい艦隊戦が行われていた。

 僕とミッターマイヤーは最初での失敗を活かし、増援が来るまで冒険的な行動にはでないことにした。それはもちろん、同盟軍の指揮官ヤン・ウェンリーにも理解できた。

 「このままでは敵に増援が到着し、こちらが不利になる一方だ」ヤンは幕僚を集めて告げた。

 「それは確かなのですが、閣下にはなにか御思案がおありなのですか?」ムライが聞く。

 「ある。が、それほど自信はない。向こうが消極的になったために、こちらも完全な勝利は望み得ない。だから、出来る限りの戦果を挙げてさっさと撤退しよう」

 「では、どのような作戦を?」

 

 同盟軍がこれまでの消極姿勢を投げ棄てて帝国軍に対し全線に渡って攻勢に出た。

 「ヤンが攻勢に?」僕は頭の辞書をたどり、ヤンの戦史の中で積極的攻勢に出た戦いを探した。

 導き出された語句は「回廊の戦い」だった。あのときと状況は全く違うが、目的が同じである可能性が十分にある。

 即ち、僕と、ミッターマイヤーを倒し、指揮系統を崩壊させることだ。それをされると我が軍の30000の戦力が失われることになる。

 それを裏付けるかのように事態は進展した。

 「敵の少数の艦隊、天底方向へ突進!」

 「敵主力、総攻撃を開始!」

 敵は我が軍よりやや優勢な兵力をもって主力を拘束し、少数の部隊で下から突き上げようというのである。

 それが分かっているなら、対策をとるしかない。

 「直ちに戦線より少数部隊を抽出!敵別動隊に砲火を浴びせろ!」

 主力をもって敵の攻撃を踏みとどめ、戦線が崩壊しない程度の兵力を引き抜いて機動戦力を抽出し、敵別動隊にぶつけるのだ。

 敵の別動隊の意図を読み間違えず、迅速に対応できたことは帝国軍を救った。僕が直率する機動戦力が別動隊の側面を攻撃し、敵の電撃的攻撃の意図は挫かれたのである。

 「なかなか敵もやるじゃないか」ヤンは感嘆して言った。

 「ですが、攻撃部隊は停滞しています。このままですと、消耗戦になります」

 帝国軍より同盟軍は優勢であるが、それはこの戦場に限った話である。戦略レベルでみれば圧倒的に帝国軍の優位にあった。仮にここでミッターマイヤー、ヒルシュフェルト連合艦隊を撃滅してもラインハルト・フォン・ローエングラムの主力軍、加えて未だ強大な戦力を保持するキルヒアイス艦隊が残っているのである。同盟軍にとって消耗戦とは自殺行為と同義語だった。

 だからこそヤンは電撃的攻撃に望みをかけたのだが、それは失敗している。それでもヤンの調子がいつもと変わることはなかった。表情は厳しいが、取り乱したりすることはない。

 「フィッシャー提督に連絡。プランBを発動するように」

 

 同盟軍の一部が今度は天頂方向から信じられないスピードで殺到した。ただでさえ天底の敵に対処するところで手一杯なのである。そこに天頂から敵が殺到したのだ。

 「閣下!旗艦を後退させます!」「レーヴェ」艦長ローザ・フォン・ラウエ大佐が言った。この状況ではさすがに冷静な彼女にも焦りと動揺が感じられる。

 この時「レーヴェ」の周囲にいたのは十隻ばかりの護衛艦のみだった。他の艦艇は全て戦線に投入されていたのだ。

 ミッターマイヤー艦隊から援軍が駆けつけているだろうが、それが敵の恐るべきスピードに対応できるとも思えない。

 「敗北したか・・・!」僕は歯を噛み締めた。

 十年以上前に転生してからこの時まで、金髪の覇王と、赤毛の友のために尽くしてきた。彼らに訪れたであろう不幸な未来から、救うために。

 だが、それの終わりを告げる鐘が鳴ったのか。

 ヴァルハラの門で未来を変えると約束したが、ここまで来て破れ去るのか。もうあと一歩で全て終わろうと言うその時に、僕は・・・

 

 「ファイエル!」

 青白い光の壁が形成され、殺到した。

 同盟軍の緑色に塗装された艦隊を光が包み込む。装甲を融解させ、中の人間を蒸発させ、艦もろとも宇宙を構成する一元素まで分解され、還元して行く。

 同盟軍別動隊司令官、エドウィン・フィッシャー中将は青白い光に包まれ、自覚もできない内に肉体もろとも蒸発した。

 光とエネルギーの暴風が漆黒の闇に溶けきったとき、そこに残っていたのはバラバラになり、原型をとどめない残骸たちだった。

 

 「援軍です!キルヒアイス、ロイエンタール艦隊が来援しました!」その声が僕を死の淵から現実へと引き戻した。

 「全艦隊、突撃!」意識もしない内に命令が口から飛び出た。

 司令官の命令が簡潔で、誤解のしようもない。

 「突撃だ!全艦隊、総攻撃に出るぞ!」

 「撃ち方始め!全門斉射!」

 「撃て、撃てー!」

 自分たちの旗艦に接近され、胆を氷点下まで冷やされた帝国軍の復讐心は半端なものではなかった。

 怒りで滾り、さながら活火山の火口のごとく沸騰するエネルギーが帝国軍を恐怖から猛撃へと突き動かした。

 もはや陣形も秩序もなく、手持ちの全てのエネルギーを砲口に込め、沸騰した思いがそれを放たせた。

 立ち直った帝国軍が無形の刃を引き抜き、同盟に斬りかかった。その強力かつ渾身の斬撃が同盟軍の中枢神経まで一瞬にして切り裂いた。

 僅かな間に同盟軍は攻める立場から一方的に打撃される立場へと変わった。体勢を崩し、倒れ行く同盟軍艦隊に帝国軍艦隊は情け容赦のない猛烈な攻撃を浴びせかけた。

 濁流の如きエネルギーの流れが同盟軍を押し流す。飲み込まれる同盟軍にさらなる一撃が叩き込まれ、部品を撒き散らして消滅した。

 最初爆発の光は点であったが、まばたきせぬ間に線となり、面となり、三次元になった。

 もはや戦場の全てを爆発の光が支配していた。その中で同盟軍の艦は悶え、のたうち回り、ビームの斬撃を食らって先発の後を追う。

 同盟軍に勝利と言う文字は消え失せ、バラバラになって敗走した。その混乱ぶりは、ヤン・ウェンリーの統制すら受け付けない前例をみないものであった。

 

 ようやく星系外縁部に到着し、艦隊秩序を回復したときには同盟軍艦隊は17000隻まで撃ち減らされていた。それもほとんど破壊されたような艦まで含めてのことである。

 同盟軍首脳部は戦慄した。僅か一時間で5000もの艦艇が消滅したのである。歴史上、始めての大惨事であり、帝国軍にとっては奇跡としか思えない現象であった。

 人的資源からみても補いようのない損害を受けていた。

 ヤン艦隊副司令官フィッシャー中将、第二艦隊司令官パエッタ中将、第十五艦隊司令官モートン中将。

 彼ら同盟軍の最後の希望を背負った指揮官たちが永久に去ったのである。

 報告書をみながら、何度もヤンは溜め息を着いた。もはや希望は失せたかのように思えた。

 ヤン・ウェンリーすらも敗北したのである。「不敗の魔術師」の異名は過去のものとなってしまった。

 この報を聞いた同盟政府、市民はどう思うだろうか。ヤンを非難することは置いておくとして、降伏するかもしれない。

 暗雲立ち込める空気のなか、同盟軍は首都へと向かった。

 

 一方の帝国軍では状況は正反対だった。

 あちこちでシャンペンが抜かれ、歓喜の声が響き渡る。

 ついに、宿敵ヤン・ウェンリーを打ち負かしたのだ。喜ばずにいられようか。

 その功績は、僕、ミッターマイヤー、救援に駆けつけたロイエンタール、ジークフリード、ルッツ、ワーレンの全員に平等に与えられて然るべきだ。

 帝国軍はガンダルヴァ星系に集結しつつあり、これを撃滅することは同盟軍の兵力では不可能であった。

 

 あとがき

 どうも。フェルディナントです。

 最近はYOUTUBEにも忙しく、充実した毎日を送っています。

 今は、別のサイトに「日本機動部隊、続」、こちらハーメルン様に本作と「とある艦隊司令官の日常」という小説を投稿させていただいております。毎週この中でどれかひとつを更新するつもりでおりますので、是非ご覧になってください。


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