とある青年が銀河英雄伝説の世界に転生した 作:フェルディナント
第十艦隊がその半数を失い、ウランフ中将も戦死していた頃、そこから離れた惑星レーシング上空では。
同盟軍第三艦隊がアウグスト・ザムエル・ワーレン中将の艦隊の猛攻を受け、壊滅していた。
生き残った艦のなかには第三艦隊旗艦「ク・ホリン」もいた。だが、この戦艦も、
「右舷、味方艦!」
「ああっ!」司令官ルフェーブル中将は驚き、対応指示を出せずいる内に、友軍戦艦が衝突した。そのまま両艦は近くの小惑星に打ち付けられ、爆沈した。
ボルソルン星系では、ボロディン中将の第十二艦隊の内わずかな数の艦艇が生き残った他の艦を逃がすため、遅滞戦闘を行っていた。
「味方は、何隻残っている?」ボロディンは聞いた。
「はっ。本艦「ペルーン」以下八隻を残すのみです」副司令官コナリー少将は答えた。
「そうか」そうボロディンが言ったとたん、艦橋内にブラスター音が響いた。
「はっ!ボロディン提督!」コナリーは頭を撃ち抜いて自害したボロディンに駆け寄った。
すでに死んだことのみが確認され、コナリーは立ち上がって、ウランフと並ぶ名将の遺体に敬礼した。
「指揮権を引き継ぐ。全艦機関停止。敵艦隊に降伏する」
「正面敵艦隊!」第十三艦隊旗艦「ヒューべリオン」艦橋に凶報が入った。
「ここは、第七艦隊が駐留していた宙域です」参謀長ムライ少将が言った。
「敵艦隊、我が軍のおよそ四倍!」
「敵の司令官、キルヒアイス中将の名で、降伏を呼び掛けてきています!」
「我々だけなら、それもいいんだがね・・・」司令官ヤン・ウェンリー中将はベレー帽を押さえて言い、背後からの視線に気づいて振り向いた。そこには驚いた表情のムライ、副参謀長フヨードル・パトリチェフ少将、フレデリカ・グリーンヒル中尉がいた。
アルヴィース星系にはアル・サレム中将の第九艦隊がいた。
その旗艦「パラミデュース」の艦橋にいたある士官はふと横を見た。その表情が突然ひきつった。
アル・サレムも横を見た。彼の目に写ったのは、多数の帝国軍艦艇だった。
「うわああ!」
「な、なんと素早い!」
「まるで、疾風のようだ!」
ウォルフガング・ミッターマイヤー艦隊旗艦「ベイオウルフ」のミッターマイヤー中将はこの状況をみてこう言った。「いかんなあ。もう少し速度を落とさんと」
一斉に艦隊は後退し、整然たる砲火を浴びせ始めた。
次々と第九艦隊の艦艇は轟沈し、その火線は「パラミデュース」にも直撃した。
艦橋にも被害がおよび、アル・サレムは後に「殺人ワイヤー」と呼ばれたワイヤーに全身を打たれ、吹っ飛んだ。
「閣下!」参謀長が駆け寄る。「アル・サレム提督!アル・サレム提督!」
アル・サレムは力を振り絞って声を出した。「モートン少将に伝えろ。指揮権を委ねると・・・」言い終わった瞬間、彼は吐血して気を失った。
ヴァンステイト星域ではアップルトン中将の第八艦隊がエルネスト・メックリンガー中将の艦隊に追撃を受けていた。
メックリンガーは長距離からの正確な砲撃を命令し、精密砲撃によって第八艦隊は三割の損害を出した。だが、メックリンガーの追撃が比較的緩かったこともあって撤退に成功した。
ドゥエルグ星系では。
戦艦「バルバロッサ」艦橋のジークフリード・キルヒアイス中将は幕僚のハンス・エドワルド・ベルゲングリューン准将とフォーカー・アクセル・フォン・ビューロー准将に作戦を説明していた。
「我が艦隊だけで敵のおよそ四倍。これを四隊に分け、二時間交代で遠距離からの砲撃を加えます。敵を殲滅する必要はありません。敵の疲労と消耗を誘い、ヒルシュフェルト中将の攻撃をやり易くするのが目的です」
キルヒアイス艦隊の総兵力は艦艇39000 。これと「僕」すなわち隠れて待機しているルートヴィヒ・フォン・ヒルシュフェルト中将の艦隊13500隻を合わせて約52500隻。ヤン艦隊の兵力が約9600隻なのを思うと、圧倒的な数であり、勝利は疑い無いものに見える。だが、相手はあの「ミラクル・ヤン」だ。
旗艦「ルーヴェ」の艦橋から僕は戦況を見守っていた。
今の僕に出番はない。兵士にも休息を命じてある。
「さすがはキルヒアイス提督ですね」参謀長アルフレート・グリルパルツァー准将が言った。
「このままでは、我々の出る幕もないのではありませんか?」
確かにそうかもしれない。だが、ここで僕が求めるのは「敵の方が損害が多い」ではなく、「敵提督戦死」である。そのためには、僕の決戦兵力が不可欠だった。
「まあ、まだ勝ちと決まったわけではない。敵の司令官もなかなかどうしてやるじゃないか。必ず出番は来る、それまで待っていよう」
「はっ!」
僕は知っている。この後ヤンがどういう戦法を取るかを。敵は艦隊陣形をU字型に再編すると。そこを外側からつくのだ。
敵は内側を攻撃する陣形に再編しているため、外側からの攻撃には脆いはずだ。そこを攻撃し、確実にヤンを倒し、その後のアムリッツアでビュコックも倒してしまおう。
僕の頭の中では、すでにそこまでシナリオが用意されていた。だが、けっして「俳優」が思い通りに演じてくれるとは限らない・・・