暖かな風が吹く五月。IS学園上空の雲に混ざり、
学園のIS中で、あるいは現行型ISとして最も高感度なセンサーを持つデクスター・トリコットが“学園に無断”での対空監視に精を出しているのだ。
「セシリアとリンの試合は終わったみたいだね。同時多角攻撃vs射角無制限砲撃は見応えのある駆け引きだった。いつか参考にしよう」
原作イベントである
それならまだ良いが、実は
「問題の一夏戦は何分後だったか……21分後か。まだ余裕はあるね」
時折地上にも視線を降ろしながら改めて周囲を見渡す。雲が散在する程度で晴れている学園周囲は時折怪しげな人影があったりなかったり押さえられたり捕らえられたり船が囲まれたりする程度の平穏を保っており、これから天災主催の襲撃があるとは思えない。
だが油断は出来ないだろう。遥か空を見上げれば軌道上の衛星は増加しているし、かと思えば幾つかは学園と全く関係のない所にセンサーを向けている、いや
誰の仕業か考えるまでもあるまい。この世界で起こる事の大半はきっと彼女のせいだ。
「来るのはもう確定って見て良いみたいだね。これは皆に伝えるとして後は何処から来るかだけど……ここから見える水平線はだいたい200㎞、上空は問題なく見えている。流石に海中とか地中って言われたら分からないけど、それ以外からなら10分は早く気付ける。どこから来ても捉えてみせるよ」
準備は万全。
「……ってフラグ建てて置けば僕の機体でも感知できない博士の新型ステルス的なものについてデータが取れるかな?あるか知らないけど。見れたら儲けものだね」
◇vs
IS学園第二アリーナ。常ならば空席も見られるというこの会場は現在全席満員、それどころかリアルタイムモニターによる会場外での鑑賞すら盛況だという。
さもありなん。第一試合は学園では珍しい新型専用機持ち代表候補生同士の戦いで、第二試合は男性ISパイロットらの代表、しかも初代ヴァルキリー織斑千冬の弟の試合なのだ。注目するなと言う方が無理である。
ちなみに主な追加勢力は男性ISパイロットの登場に心躍らせる男性軍事関係者やそのOB、対抗して群れを成し一夏の妨害しようとして学園警備に七割方しょっ引かれた女性権利団体、別にそんなのどうでも良いから新型IS見せろという技術屋、初代ヴァルキリーのファンを拗らせて弟にも幻想を抱くヴァルキチの群れ、怪しげなおねぇさんおにぃさん数人である。
ちなみに五組メンバーは特に理由のない限り一ヶ所に固まって観戦するように言われているが、主に女性権利団体のせいだ。確かにいくつかの集団から怪しげな視線が向けられているようなので少数で居れば大変面倒であっただろう。
ここに集まっていないのは対空監視の為に空へと上がったデクスター、新聞部の方にいるスレイマン、ピットで一夏の相手をしているマリアーノ、なぜかこの時間の第二アリーナを受け取り場所に指定して新装備を受領しに行ったAC乗り二人の五人。
ちなみに白旗とレイモンドは予想外にこの場に居る。開発室で裏工作を行うのではないらしい(偏見)。冗談半分で本人に聞くと今回はもう訓練機乗りの出番は無いからなと返された。謎の工作員ホワイトフラグも天災には干渉できないと言う事だろうか。
「おいデリック、考え事か?」
「そんな所だ。だがそういうリチャードも挙動不審だぞ」
「武者震いだ、気にするな。で、何を考えていた?」
「万が一の際にどう動くかと、人員の再確認だ。アリーナの混雑具合が予想以上だからな」
「なるほど。……まぁ混雑の影響が出る前に終わらせれば良い。俺達の火力、それにこれだけの人数が揃えば可能だろう」
「それはそうだ。……だが考えてみろ、謎の乱入者が仰々しく現れた瞬間、何をする暇もなく倒されて終わる。それでは
「了解した」
隣から声を掛けてきたリチャードと認識を合わせる。
ここに来て怖気づくつもりは無いが、今朝から胸騒ぎが止まらないのだ。
『ただ今クラス
放送と共に第二アリーナを歓声が包む。続けて二機のISがアリーナへ姿を現した事で会場は更なる興奮が巻き起こるが、
――遥か天よりの知らせはまだ、無い。
◆◇◆
『いい、ロミー。織斑君の剣の直撃だけは絶対に避けるのよ』
『その為にも絶対に体勢を崩しちゃダメ。それさえ守れば粘り勝ちも行ける』
同じ高さに浮かぶ白銀を前に、三組代表としてこの場に居る私は今日までの訓練を思い出す。
単純故に強力で、しかし強力であるがやはり単純なこの機体に
『げっ、戦う前に見て分かるくらい対策されてるな』
「当然よ。一回くらい勝って皆にイイトコ見せるんだから」
『だからってそっちまで特化しなくても……』
白と相対する緑の
左手は数パターンあるラファールの
そして機体の各ハードポイントには打鉄の
「
『なんて堅牢な装備なんだ……どうやって突破すればっ!』
輝かしいまでのドヤ顔と共に宣言する。有効性は織斑先生にも確認済み、後はそれを証明するだけっ!!!
ハイパーセンサーで拡張された視界の端に、半端な予想を覆されてか一斉に飲み物を吹き出して大変な事になっている五組の男子が見える。織斑君を含めた男子の反応を見るに、有効な戦術であったと確信を深める。
『さて、両者位置に着きましたね。……それでは両者、試合を開始してください』
開戦を告げるブザーが響き、
こちらは堅牢な四枚盾を前面に押し出したシールドチャージ、向こうは堅牢な盾の僅かな隙間を狙ってか一点突破の突きを繰り出す。
だがこの初撃は予測、いや覚悟済み。最大出力で突進する。
――引き伸ばされた数瞬の後、乙女の
クラスメイトとの訓練では終ぞ感じる事の無かった程の衝撃が盾越しに伝わり、そしてそれ以上のダメージを向こうへと返す。
織斑君の苦痛を孕む悔しそうな顔、そして
織斑君はもんどりうって弾き飛ばされ、アリーナの地面ギリギリで立て直す。もちろん逃がす気は無い私は更なる攻勢を掛けに突撃、苦し紛れに繰り出された逆袈裟の一刀の手元をサブアームのシールドでパリィ、がら空きのお腹にキツイシールドバッシュをお見舞いする。
『ぐッ…やり辛い…』
「まだまだ!アナタの為の数週間、たっぷり味わってもらうんだからね!」
そう、これが三組の立てた対
対戦相手が判明して以来、私たちは兎に角彼だけは倒して見せようという気概に沸いた。何せ唯一勝ち目が見えるだけでなく、彼との一戦は確実に千冬様の注目を浴びる。つまり織斑君と戦って勝つと言う事は即ち千冬様の目に華々しく焼き付くと言う事に他ならないのだ!この機を逃す選択肢は無い!!
その妄想を現実とすべく私たちは学園に残る織斑君の戦闘の記録を擦り切れるほどに見返した。経験で勝る彼の欠点を少しでも突く事が出来れば、専用機があろうと同時期にISに乗り始めたこちらで有利を取る事が出来ると考えた末である。
彼の戦闘の記録を見返し、比較し、それでも足りないと彼らの訓練を覗き見、記録し、数人がコピーを持ち出し自室での研究()に励み、遂に有効な戦術への糸口を掴んだ。
まず検討したのは対近接機の鉄板、射撃機による遠距離戦。これはセシリア戦を見終わった瞬間選択肢から捨てた。そもそも射撃型の専用機を持つセシリアでさえ追い詰められるのだ。同じ相手に劣化版で挑むのは無策を通り越した愚策である。
次に考えたのがラファールのバススロットを生かした弾幕戦。命中させるよりもばら撒くことに主眼を置いたこの戦術、リチャード戦を見れば五分に持ち込めそうではあるが、訓練機グレードのラファールで同様の弾幕を張ろうとすると
そして遡るレイモンド戦。織斑一夏の初戦たるこの戦いにこそ私の勝ち筋へのヒントが残っていた。何故ならばこの試合は唯一、
特に重要なのは劣勢になる瞬間、つまり大技をユートピアの防御されたときの動揺と隙、次いでユートピアからの攻勢を凌いだ方法だ。
その後の訓練でも治っていない事を確認済みだが、彼は気合を込めて放った一刀を
そして一見見事な逆転である最後の一撃。零落白夜の初披露と言う事もありその輝きに目を奪われるが、この一刀はかなり破れかぶれで繰り出している事が確認された。つまり、彼は純近接型の機体に乗りながら近接戦闘でラッシュを仕掛けられると反撃できなくなるのである。
彼を研究する事で得られた戦術に従いとにかく距離を詰めては殴り、距離を詰めては盾を叩きつける。一撃一撃のダメージは彼の輝く一刀の何分の一かすら分からないほど少ないが、それは彼から有効打を貰わない限り無駄な計算である。
白刃が輝き盾の表面を裂く。絶対に防がなければならない一撃を難なく受けるも、大きく距離を離される。
だが問題ない。傷ついた盾を無傷の予備と交換し、再び開戦の焼き直しに入る。後は私が集中を切らさず、彼がまた良く分からない新技に目覚める隙を与えないだけ!
◆◇◆
「なんつぅかコレは…一夏頑張っちゃいるんだが、それでも手も足も抑えられてやがらぁ」
「一夏の距離になったかと思えば更に一歩踏み込んでくる。距離を離しても初めの焼き直し。奇策も堅実に対応。一夏サイドでなければベンサムさんの胆力と集中力を褒め称える処だが、この後の事を考えると頼むからもう少し自重してくれと言わざるを得ない」
「盾だけであそこまでと言うか、あそこまで盾だけとか考えてなかったからなー。それっぽい事してるけど
第二試合開始から12分。二機のISによる交錯と離脱、模索と対抗は会場を大いに盛り上げ、同時に
彼らは直後の激戦を想定した訓練に的を絞っており、よもや訓練機からここまで一方的な劣勢に立たされるなど考えもしなかったのだ。当然の帰結であるとも言える。
何度目になるか、一夏の離脱を図る。白式に目立った物理ダメージこそ無いものの、シールドエネルギーは元の燃費の悪さも相まって半分以下。
一方のロミー機、これでもかと言うほど盾を前面に押し出した彼女の機体は数多の反撃を越えて無傷に等しく、目立つ消耗と言えば後付武装の追加シールドが一枚、アリーナの地面に弾き飛ばされた程度。突き詰めて得た相性の良さをまざまざと見せつけている。
勿論一夏もただ圧倒され続けた訳では無い。有効打にこそならなかったがイグニッション・ブーストを絡めた抜き胴、零落白夜発動による刃渡り・取り回しの変化を利用した変形突きなどは観客に逆転を確信させ、一枚とはいえ盾を剥がす事に成功した現在はロミーに更なる集中を強いている。
二機の距離が離れ、流石に精神の方が音を上げたのかロミーの追撃が止む。
『やっと……逃げ切れた………流石に集中が……切れたのか?最初ほどキレが無いぜ』
『そっちこそいい加減……奇策が尽きたみたいね。さっきから反撃に勢いが…足りてないんじゃない?』
体調そのものはISの補助でさほど崩れていないが、流石に十分以上も集中し続けるのは初心者であるどちらにとっても負担が大きかったようだ。
ロミーは数度深呼吸して精神の仕切り直しを試み、対する一夏は図星なのか息を飲んで表情が硬くなる。
そしていざ後半戦と二人が意気込んだタイミングに、転生者共の
『皆、オゾン層辺りに学園へ超高速で接近する物体を見つけた。………
デクスターからの報告。受け取った何人かの顔色が喜色に染まるが、警告に続けて伝えられる情報に揃って蒼白に変わる。
『アリーナ衝突まであと
聞き取れた全員が天頂を見上げ、国際法や学園規則すら忘れてISを起動する。周囲の観客が驚きに言葉を失うが関係ない。どうせ直後には更なる危機で言葉以外も失いかねないのだから。
――デクスターの一報から八秒。第二アリーナに三つの光条が降り注ぎ、次いで学園は大きな振動に見舞われた。
ロミー機はドヤ顔セクスタプルシールドな猪ラファールでした。初心者近接機ならこれで行けるという浅知恵。
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リアルの都合と作者の力量の為次話対無人機戦 その1の更新はしばらくお待ちください。