お客さま第一号の昔語り
時は7月後半。あの剣虎騒動から一週間が経つ。
今の何でも屋稼業に変化があるかと言われると、あまり無い。
あるとすれば、依頼人に良識を持つ人が増えたことか。
どうにも剣虎騒動に巻き込んでしまったホークアイさんが、自分のギルドメンバーに今回の一件の顛末を話したらしい。
翌日の昼にメンバー全員が涼風亭にやってきた時は何事かと思ったよ。
ぜひともお礼がしたい、と言ってきたので食材が余ってたら店に提供してもらうという形となった。
はずなんだが、知り合いの人達に緑の何でも屋は悪人ではないと触れ回ってもいるらしい。
鼠のアルゴにも確認をとったから間違いない。やれやれ、これじゃ俺もあちらに何かお礼をしなきゃならないな。
さて、俺は今49層リンダースを歩いている。ここに来た理由は武器の新調だ。剣虎とやり合った際に愛用していた槍はへし折られちまったからな。
槍が折れたのをキリトとアスナさんに話したら知り合いに腕のいい鍛冶師がリンダースにいると聞かされ、今に至る。
ついでに刀も新調してもらうつもりだ。
60層より上となると今の刀も少し心もとない。
使う素材はもちろん剣虎の素材だ。運良く腕剣はドロップして、爪はキリトさんがドロップしたものをもらった。キリトさんまじ太っ腹だぜ。鉱石もレビンクロスの手伝いがてら、クエスト報酬でもらっているものがあるのでだいじょぶだぜ。。
教えてもらったポイントを地図を見て再確認。水車のある少し大きめの建物。間違いない、ここだな。
ドアプレートを確認。ん、どうやらやっているようだ。あとは店主がいてくれれば、だな。
からんころん。
「失礼しまーす...あれ?」
カウンターに受付の人が見えないな。工房の方に引っ込んでるのか?とりあえず飾ってある武器でも眺めるか。
「...へぇ、これはなかなか。」
さすがに性能まではわからないけど、どれもそれなりに強そうな物だってのはわかる。どうやら腕は信用できそうだな。
今度は壁に掛けてあるのもみるかと思ったところで、受付後ろの扉が開く音がした。
「お待たせしてすみませんでした!リズベット武具店へようこ...そ...?」
「あぁ、構わないよ。大体こんな時間に来るこっちも問題なわけ、だ...し?」
現れたのはメイド服を連想させるような赤い服、頬にはそばかす、髪はピンクでショートな女の子だ。まぁアスナの知り合いなんだから女の子という予想はしてました。していたが..,。
「あ、アンタ...。」
顔を俯かせて表情が見えないままこちらに歩いてくる店主。
そして俺の目の前で立ち止まった店主は、
「今の今まで、どこほっつき歩いてたのよぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「がふっ!?」
顎にとてつもない衝撃を感じた瞬間、俺は浮遊感を感じていた。あれおかしいな。このゲームで空を飛ぶ感覚を味わえるとは。人類も、やれば空を飛ぶことも不可能じゃないんだね。ネバーキブアごふっ。
「ん、んぅ?」
「あ、起きた?」
目を開けたらそこは見知らぬ天井でした。声が聞こえたほうを見ると、一年前の知り合いの顔が。
あぁ、会ってそうそう殴られたんだったか。よいしょっと。
「俺どれくらい寝てた?」
「5分ぐらいよ。その、いきなり殴ったりしてごめん。」
「謝んなくていいさ。それに連絡しなかったこっちの責だ...久しぶりだな、リズ。」
「そうね、アンタが姿を消してから丸一年かしら。早いものねぇ。」
そう、店主リズベットは俺の知り合いの一人だ。まだリズが駆け出しの鍛治師で、露天で作った武器を売っていた所で出会い、俺は並べてあったリズの武器を購入。そして、あの日が来るまで俺はリズに武器防具のメンテを頼んでいたのだ。
「しかしまぁ、随分と雰囲気変わったわね?前と大違いよ?というか別人?」
近くのテーブルにカップと飲み物を用意しながらリズは俺に話しかける。
「よく言われる...そっちこそ、最後に会った時よりも、あーなんだ。憑き物が落ちたってのか、そんな感じに見えるね。」
「...そうね。あの時に無かったものが、今のあたしの中にはあるから。今なら最高の武器を作れる自信があるわよ?」
ものすごくいい笑顔で答えてくれるリズ。何か吹っ切れたような、俺には少し眩しく見えた。
「さ、こっち座って。お茶でも飲みながら、お話しましょ?」
「いや、店どうすんのさ。開店中だろ?」
「アンタが寝てる間に閉めたわよ。店の中に倒れてるプレイヤーなんて客に見せらんないっての。」
「そりゃそうだ。だが、俺は今日、客として来てるんだが。」
「そんなことわかってるわよ。ただ、前払い金として、アンタの話を聞かせてもらうわ。じゃなきゃ作らない。」
「えー。」
「えー。じゃないわよ!突然フレンド欄から名前が消えて、どんだけ心配したと思ってんのよ!何回、生命の碑に名前を確認したと思ってんの!」
生命の碑というのは一層の黒鉄球エリアにある、SAOに参加したプレーヤー一万人の名前が記された石碑のことだ。
そして、体力が0になり、ゲームオーバーとなったプレーヤー名には赤いラインが引かれる。
だからフレンド登録していないプレーヤーの生存安否を確認したい場合は、皆ここにくることになる。のだが、そうか。
「俺のこと、心配してくれてたのか?」
「あ、う...そうよ!当たり前じゃない!アンタはアタシのお客第一号でお得意様なのよ!?アタシの武器の不備で何かあったらって思ったら、居ても立ってもいらんなかったのよ!」
リズの剣幕に思わず怯む俺。悪鬼羅刹と呼ばれた頃なら気づくこともしなかった、いや、忘れていた人の優しさ、暖かさ、温もりを今さらながら再認識することになり、
「アンタ何笑ってんの?」
「ん?俺は笑ってたのか?」
「えぇ、ちょっと気持ち悪いぐらいには。」
「...さすがにちょっと傷つくぞ。」
まぁ怒られてるのに笑いだしたら、そりゃ不気味がられてもしょうがないか。
「でもま、ありがとよ。」
「...ほんとにアンタ大丈夫?さっきのアッパー決まりすぎた?」
「さて、話をしろとは言われたけどな。しょーじきあんまり話せることは無いなぁ。」
「は?それどういうことよ?」
「一応確認するが、25層で何があったかは知ってるんだろう?」
「えぇまぁ。それでアンタの師匠が...死んだっていうのも。それが原因でアンタが姿を消したのも予想は付くわ。」
ズズーッと自分の入れたお茶を一飲みして一拍。そしてリズはまた口を開く。
「私が気になるのは、その後。一年間どこで何をしてたか。特にフレンド切った理由だけは絶対に聞かせてもらいたいところね。」
「そうだなぁ...25層攻略の後の半年は、ずっとレべリングしてたな。ダンジョンに籠ったり、経験値が大量にもらえるクエスト片っ端からクリアしたり、効率のいい狩場を占有したり、それでどっかのパーティとぶつかったり、ぐらいか。」
ちょっと自分の行いを振り替えってみる。パーティとぶつかった時は確か、デュエルで全員を開幕一閃でのしたんだっけ。自分でやっといてあれだが酷いな。
「ぐらいか、じゃないわよ。特に後半はプレイヤーとして最悪じゃない。まるで知り合いに聞いた悪鬼羅刹ね。」
「...ま、まぁなー。」(棒読み)
「なんで棒読み...まぁいいわ。その半年の後は?」
「レビンクロスの副団長に拉致されて、ギルドのお手伝い兼、緑の何でも屋にジョブチェンジした。」
「ごめん、言ってる意味がよくわからないわ。」
「安心しろ。自分でも言ってて何でこうなったと思っている。」
「...とりあえず。今のアンタは、あの緑の何でも屋ってわけね?」
「そういうことだ...あのって部分が物凄く気になるけど。だから必要な鉱石とか欲しかったら協力してもいいぞ?前払い金はちゃんともらうけどな。」
「必要になったら依頼させてもらうわよ。それじゃ本題に入るわ。フレンドが切れたのは最初の半年のちょうど真ん中辺りだけど、何があったのかしら?」
「...言っても怒らない?」
「内容によるわ。でも話さないは許さないわよ?」
これ絶対ダメなパターンのやつだ。二択なのにゴールは同じってやつ。しかたないか、自業自得だし。
「あのな...喧嘩みたいなもんをしたんだよ。」
「喧嘩?だれと?」
「俺にソードスキルを教えてくれた、ダチさ。」
「師匠って人じゃなくて?」
「違うね、師匠はモンスターとの戦い方、間合いの取り方とか、そういうのを教えてくれた。喧嘩したダチは、はじまりの街をでたばかりの俺にスキルの出し方とかの基本的な知識を教えてくれた人さ。」
懐かしいもんだな。思えばあの時も二人だったか。ホント、誰かと一緒じゃないと俺は弱くてダメな奴だ。
「それで、喧嘩して、ついカッとなってやっちゃった。て言うの?」
「その通りでございます。」
「つまり、アタシは巻き込まれただけ?」
「...その通りでございます。」
「...。」
俺は、この時のリズの笑顔を一生忘れないだろう。笑顔って人を暖かくするもののはずなのに、どうしてこんなに怖くなるのかな?
そんじゃ、昔話をしようか。俺はSAOがデスゲームとして始まったときは、はじまりの街に引きこもっていたプレイヤーの一人だった。
日が出てる内は広場のベンチに座り、夜が来ると宿屋に入る。金が尽きたら路地で寝るようになった。そんな日々を俺は過ごしていた。
今のアンタからは想像つかない姿ね。
人の回想にさらりと入ってくんなよ。
いいじゃない、聞いてるのアタシだし。
まったく、続けるぞ。そんな生活とオサラバする転機が来た。第一層の攻略、第二層の開放だ。それまでゲームクリアなんて無理と諦めたプレイヤー達に希望を与え、引きこもっていたプレイヤーの何割かが、街の外へとでるようになった。
また一人、また一人、街の門へと歩いていく姿を俺はベンチから眺めていたんだ。
「俺もでたいなぁ。」
また一人、意気揚々と一人のプレイヤーが外へと歩いてくのを見て、思わず口からでた言葉だった。ん?ならなんで一人で行かなかったのかって?一人じゃ怖いからだよ。死ぬのが怖い、当たり前のことじゃないか。だから外に行くなら誰かと、って決めてたんだ。
なら探せばよかったんじゃないの?
...そうなんだが、俺はコミュ障でもあったんでね。声をかける選択を俺はできなかったんだ。
意外ねぇ。アタシが知ってるアンタならズバッと言っちゃいそうなのに。
リズの言いたい時期の俺だったら、足手まといはいらない、とか平気で言うと思うぞ?
というか、とっくに一人でモンスターに突っ込んでるな。
たしかに。
今の俺が異常なんだよ。突然変異って言われても納得できる。
そこんところも聞きたいんだけど?
...気が向いたらな。話を戻そう。一歩を踏み出せない俺、口からでた言葉。それを聞いてたやつがいたんだな。
「なら、俺と一緒に行かないか?こんな街の中で籠っててもつまらないだろ?」
ものすごくいい笑顔でソイツはそんなことを言ってきた。まさに渡りに舟ってやつだな。クラスにいたなら間違いなくムードメーカーだなぁ。とか思いつつ、差し出してきた手を俺は掴み、俺は街の外にでたんだ。
それが、ミッタンだったわけね。
そう、俺の最初の相棒”だった”やつだ。
二人で外にでたら他のプレイヤー達の姿が見えた。複数人で固まりながら、フレンジーボアとかいう猪を倒そうと躍起になっている。
「俺達も猪を探そうぜ?」
「うん...じゃあ向こう側にいく?」
「おう!」
門の近くはプレイヤー達でいっぱいだったから、少し離れた位置に移動することにして、歩き出す。そしたら後ろから、
「あ、ちょっと待ったぁ!」
声が聞こえて、振りかえる。そしたら一人のプレイヤーがこっちに手を振りながら走ってきた。
逆立った赤い髪、趣味の悪そうなバンダナに、髭を生やした顔、なんだか野武士みたいな人だな。
「いきなり呼び止めてわりぃな。お前さんらも街からでたばかりだろう?」
「あぁ、そうだけど?」
出鼻を挫かれたような形になり、少し不機嫌を表にだしながらミッタンは返事をした。
「そっちは猪以外にもモンスターが湧くから、戦闘に慣れない内は行かないほうがいい。」
「そうだったのか、すまない助かった。いきなり二人揃って死ぬところだったかもしれない。俺はミッタンだ、よろしくな!」
「俺はクラインってもんだ、よろしくな。アンタは...。」
「あ、マナスです。よろしくお願いします!」
じゃあ、そのクラインってのが?
ああ。ソードスキルを教えてくれたダチだな。まぁ今更ダチなんて思っちゃいないだろうけど。
そのあと、これも何かの縁だって言ってソードスキルの使い方を教えてくれてな。後から聞いた話だと、第一層攻略で街を飛び出すニュービーがでてくるのを予期してクラインとその仲間達はあの場にいたらしい。
助けてくれたのは嬉しいけど、わざわざニュービーの人のために動くなんて、優しいというか、すごいお人好しな人なんだなぁって思うよ。
ふーん、そういうことしてる人達もいたのね...。でも、そのクラインってのと喧嘩したわけよね?
...まぁな。途中過程は飛ばそう。ミッタンが死んだのもリズは知ってるしな。
25層の時点でミッタンは死んで、俺の隣には師匠がいた。でも25層のボス戦で師匠も死んで。こんなデスゲームの中でできた、心の拠り所ってのか?それが2回も無くなって。あの時に俺の心は一度壊れたんだよ。
ボス戦が終わったあと、しばらくは放心状態でな。誰も見つけられないような場所でずっと一人でいたんだ。
時間の感覚なんて忘れちまったけど、たぶん数日経った時かな。師匠との時間を振り返るようになって、師匠の言葉を思い出したんだ。
「強く生きろよ、マナス。」
今だからこそ自分は間違った解釈をしていたと理解できるが、俺は、その言葉を受けてSAO内で最強になろうとした。そこからはもう話した通りだ。迷宮区のモンスターを狩りつくして、クエストも討伐系をメインに引き受けてひたすらレべリングの毎日。他のパーティがいようが横取りとか関係ない。ただひたすらに強さを、レベルを求めたんだ。
結果、俺の悪評はすぐに広まって、とうとう俺の前に噂を聞いたクラインがやってきたんだ。
「マナスよぅ、俺らのギルドに入らねぇか?」
「...。」
「ギルドに入ればモンスターからの経験値に補正が入る。クエストや狩り場の情報集めたりするのも一人よりも効率は上がる。な?」
「...いらない。余計なお世話。」
「一人じゃできることの範囲なんて限られてくるだろう?」
「他人に助けられても意味がない。俺が強くならなきゃいけないんだ。話がそれだけならもう行くぞ。」
「待ってくれ!...あぁもうわかった正直に言う!見てらんねぇんだ!そんな状態のお前が!この状態が続いたら、おめぇいつかホントに死んじまうぞ!?もうダチが死ぬのは嫌なんだよ!」
「うるさいな、ほっといてくれよ。俺の命だ、使い方も俺の自由だろ。」
「でもよっ!!!」
「...俺がアンタのダチだから構うってんなら、ダチじゃなきゃ構わねぇでくれるんだろ?ならこうすれば。」
「は?おめぇ一体何を?」
「フレンドリストを削除したわ。これでもうダチじゃねぇ。」
「なっ!?」
「じゃあな。」
「...マナスっ!!」
「後ろから聞こえるクラインの声を無視して、俺はまた迷宮区に潜るのでした。おしまい。」
「なるほどね...。」
「まぁその、なんだ。ホントにすまん。許してくれとは言わないけど謝る。」
「...。」
少し考え込む素振りをするリズ。次に来る言葉はなんだろう。罵倒だろうか、呆れだろうか。何か言われるのは間違いないから覚悟して身構える俺。
すると、リズは右手を振った。おそらくウィンドウを呼び出したのだろう。通常、自分のウィンドウは自分しか見えないようになっているからな。
リズが操作を終えると俺の目の前に一つのメッセージが現れた。その文章を見て俺は目を見開いく。
「フレンド申請しただけで何をそんなに驚いてるのよ?」
俺が、こんなにも動揺するとは思わなかったのか、少し苦笑しながら話してくる。
「喧嘩した後は仲直りするのが普通でしょ?ほら、さっさとしないと取り消すわよ?」
「あ、あぁ!」
慌ててyesボタンを押す俺。そしてフレンド一覧の名前に新たにリズの名前が登録されていた。
向こうも一覧の名前に俺の名前が確認できたようで、安堵した表情を見せたあと、
「今度は間違えて消すんじゃないわよ?」
と念を押してきた。返事なんて決まってる。
「あぁ、約束だ。」
お互い微笑み会う。やっと一つ、心の中にあったしこりが無くなって、安堵した所で、
カランコロン
「リズ、いるー...っ!?」
ノックもせずにプレイヤーが入ってきた。白地に赤のラインが入ったコートを着た女性プレイヤー、つまりはココを紹介してくれたアスナさんだ。店に入ってきて俺たちを見るなり動きが止まったわけだが。
「こんにちはです、アスナさん。」
「いらっしゃい、もー入るときはノックぐらいしないよね。」
「...え、あ、うん、ごめんね。えっと、一つ確認してもいい?」
急なアスナさんの質問に顔を合わせる俺たち。なんだろうか?
「なんでマナスさんは正座してるの?」
「...。」
「...。」
そういや、ずっと正座したままだったな。
さて、やっと名前がでてきたクラインさん。ちなみに自分はSAOの中で一番好きな男キャラはクラインさんです。できたら男前なところを書きたい...んだけどなぁ。