黄昏博物館へようこそ ー生命の欠片の物語ー 作:zenjima7
地球に生命が誕生してから40億年である、と進化論を提唱したチャールズ・R・ダーウィンは
そもそも《生命》とは何であろうか?
生きているものは生物であり、死んだものはただの物質であるとされる。殆ど同じものの筈なのだが。
生きた物に何か見えないものが宿っている状態、その何かをヒトは魂とか霊と表現しているが、その何か見えないものこそが《生命》の正体なのかも知れない。物質に生命が宿ることで生物になるということか?
《気》は血液や体液の様な物質とは異なるものだが、生物の体内に存在し、常に流れているものなのだという。
そして《気》は地球の、大地の中にも存在し、大きな流れを作っており、それは《龍脈》と表現された。
《気=生命》ならば、地球という星そのものが、巨大な生物であるといえるのではないか?
我々地球上の生物たちが宿す《生命》がどこからきたのか、その大いなる源がどこにあるのか?
何となく概形が見えてくる気がしないだろうか。
古の東洋科学は、こうも言っている。
龍脈の源は太祖山にあり、尾根伝いに流れながら幾つもの支流を作り、その果てに穴を結ぶ。即ち《龍穴》である、と。
龍が穴を結ぶ直前には《父母山》があり、父母山は《玄武》という神獣に例えられる。龍穴の周りには玄武の他に朱雀、青龍、白虎の四体の神獣が存在しているという。
穴、あるいは脈、もしくは父母山に異常があれば、気は乱れ、大地に異常をきたす。異常とは、例えば火山の噴火であったり。
ここで一つの仮説を立てる。
《生命=気=サンドスター》
この説を当てはめるとどうか?
キョウシュウ地方の《神聖な山》の噴火によるサンドスターの噴出。
サンドスターロウの暴走による巨大黒セルリアンの出現。
四神(朱雀、青龍、白虎、玄武)の力によるサンドスターの制御。
上記の事象に関して、符合の一致が感じられる。
地球の中には巨大な生命の源が存在しており、サンドスターは地球から溢れ出てきた《いのちのしずく》である。
《いのちのしずく》と地上で生きる生物が結びついたとき、生まれてくる奇跡が、フレンズ。
地上に生物として生まれた生命は、生を全うした後は再び地球の中の巨大な生命の源へ還っていく。だからサンドスターの中には、かつて地上に存在していた生物たちの情報の断片、《いのちのかけら》が宿っている。
《いのちのかけら》と、かつて生物だった遺物が結びついて生まれてきた奇跡が、絶滅種のフレンズ。
だが、フレンズとは地球にとって実はイレギュラーな存在なのかもしれない。
フレンズは一種類の動物につき一人生まれ、その全てが雌。おそらく繁殖能力がなく一代限りの生命。
そして龍穴の近く、サンドスター濃度の高い所に住み、供給を受け続ける限り歳を取らず寿命は無い。サーベルタイガー・スミロドンの年齢は不詳、本人が歳を数えていない。ただし、何らかの外的要因で死亡したり、サンドスターの供給を断たれるとフレンズ化が解けて元の遺物に戻ってしまい、その遺物は二度とフレンズ化しない。
生物としては、酷く歪で不自然な存在である。
フレンズを補食してサンドスターを奪うセルリアンは、間違って零してしまった《いのちのしずく》を取り返そうとして生み出されているのかもしれない。
黄昏博物館学芸員
ニア女史のメモ
……………
バン、と大きな音を立てて教場の扉が開かれた。そして飛び出してくるかばん。
「かばんちゃん?」
ただならぬ様子にサーバルが声をかけようとしたが、
「こないでっ!」
「え……」
「ごめんサーバルちゃん、一人に、させて……」
かばんの瞳は赤く腫れて、頬を伝う涙の筋が……。
ゴシゴシと涙を拭い、そのままサーバルを置いて走り去っていく。
サーバルはしばらく呆然としていたが、おそるおそる教場を覗いてみた。教壇の椅子に腰を下ろし、憂鬱そうな表情で俯いて深く溜め息をつくニア。
「ニア、どうしたの?かばんちゃんと喧嘩したの?」
サーバルに気が付いたニアはニコリと笑顔を向け、ちょいちょいと手招きしてくる。
神妙な顔をしながらニアの側までいくと、頭を撫でられた。
「ミャ~…」
ニアの優しい手つきが心地よくて目を細めるサーバルだったが、
「ニア、ごまかさないで!かばんちゃんイジメたら許さないんだから!」
「サーバルは本当にかばんちゃんが好きなのね」
「ウミャーッ、なでなでしないでよ、怒ってるんだからっ!」
「サーベルはどうしたの、今日は遊ばないの?」
「うん、スミロは用事ができたとかって、ディアとダイアと一緒に出ていったよ」
「ディアとダイア?」
ディアトリマのディア、ダイアウルフのダイア、二人とも島のフレンズの中でもかなり屈強なガーディアンだが、スミロがその二人を連れて出ていったということは何か異常事態が起こった可能性がある。
「サーバル、すぐにかばんちゃんを見つけてビレッジに戻ってくれる?」
「え、ビレッジに?」
「ガーディアンが三人も出ていくなんて嫌な予感がする。もしかしたらセルリアンが出てきたのかもしれないわ、かばんちゃん一人だと危険よ!」
「解った、私行ってくる!」
サーバルは走る、が、一度止まって耳に手を当てた。かばんがどこへ行ってしまったのか、耳を頼りに探す。
まだそれ程遠くには行ってないかも知れないが、ニアの言う通りセルリアンが出たのであるなら、少しの時間でも一人でいるのは危険だった。
「落ち着いて、落ち着かなきゃ、かばんちゃんどこ?」
自分自身に言い聞かせ、聴覚に神経を集中するサーバル。
先日、ヒエノドンのヒエイに襲われた時、港湾管理棟で先走ってしまった為にかばんの身を危険に晒してしまったことを実は強く後悔していたのだ。
「かばんちゃん、かばんちゃんっ!」
解らない、いろいろな音が聞こえ過ぎてどれがかばんの立てた音なのか解らない、判断するのが難しい。
もし間違えたら、今度こそかばんの命が危険かも知れない。
……………
「僕、もう皆のところには帰れない……」
かばんは今日、ニアからヒトと動物たちとの関係について聞かされた。
古代に五回もあった大量絶滅の話を聞いた時も衝撃的だったが、今日の話はそれよりもっと強いショックを受けた。
マンモス、
食用に数多く狩られ絶滅。
群を一網打尽にする為に、まずリーダーから殺された。リーダーを失った個体はその場で狩りから逃れても生き残ることは難しくなる。
ジャイアントモア、
食用に狩られ絶滅した。ジャイアントモアが砂嚢に小石を溜める習性を利用し、焼けた石を呑まされたりなど残虐な方法で殺された。
ドードー、
マダガスカル沖モーリシャス島固有種。肉が不味くて食用にはならなかったが、島に持ち込まれた猫や犬、鼠などに卵や雛を補食され絶滅した。
クアッガ、
食用に狩られた上に、土地の開発などで生息地を追われ絶滅した。
リョコウバト、
畑を荒らす害鳥として駆除された。食用としても美味だったらしく、積極的に乱獲されて絶滅した。
ステラーカイギュウ、
その肉が美味で食用とされた上に、良質な油が大量に取れ、更には皮が靴や鞄になった為に乱獲され絶滅。
仲間が傷つくと寄ってくる優しい性格を利用され、最初の一頭は殺されずに深傷を負わされて囮に使われた。
「皆、僕とサーバルちゃんに親切にしてくれたこの島のフレンズさんたち……」
手のひらを覗くと、その手に真っ赤な血が滴り落ちる幻覚が見えて、
「いやああああああぁっ!」
血を振り払おうと必死に手を振った。
「うううぅっ……、僕は、バカで無知だった。食べないでください、どころじゃなかった。僕たちヒトの方が……
皆を殺ろして、食べて、殺して、食べて、殺して、食べて、殺して、殺して、殺して、殺して、殺して、殺しまくって、食べ尽くして、食べ尽くすまで殺して!
あぁあああああああああああああああああああああああああああっ!」
絶望のあまり、頭を抱えて
「ニアさんの言った通り知らない方が良かった。知識って、本当に禁断の果実で、やっぱり猛毒だった」
苦悩に打ち
その様子をジッと見つめる瞳があった。黒く、丸く、無機質な目、無感情な視線。
シュルシュルと無数の触手を蠢かせながら、ジリッ、ジリッっと、ゆっくり、静かに、かばんに近づいていく……。
フレンズではない、けものでもない、そもそも生物かどうかも怪しい無機質で冷酷で獰猛なアレ。
「あっ、せるりあんっ……!」
かばんがその存在に気が付いた時、もう触手の届く範囲に入っていた。一気に飛んでくる触手、振り返って走って逃げようとしたが、一本の触手が左腕に巻きついてきて、逃げられなかった。
「やだ、やだ……」
右手、両足、首、次々と触手が巻きついてきて、もう脱出は不可能。グイッと強い力で引きずり倒され、ズリズリと引き寄せられる。
「僕、セルリアンに食べられちゃうんだ……」
セルリアンは何の感情も籠らない丸くて大きな瞳でかばんを見つめていたが、セルリアンを見つめるかばんの瞳も、虚ろで何の感情も籠らないものだった。