黄昏博物館へようこそ ー生命の欠片の物語ー 作:zenjima7
「これは!」
スミロドンのスミロ。
ディアトリマのディア。
ダイアウルフのダイア。
三人のガーディアンが見つけたのは、破られた結界。
壁は崩れて大穴が空き、鉄線は引き千切られて垂れ下がっている。
「結界の中から外に向かって壁の破片が飛び散ってる。中から何かが無理矢理出てきたみたい」
「ダイアすごーい、よくそんなことがわかるね!」
ダイアの冷静な推測に関心するディアだが、ダイア本人は少し眉をひそめて引き気味だった。
「スミロは結界の中に何がいたのか知ってるんじゃないの?」
「知っている。この中のものを閉じ込めたのは、かつて博物館にいたヒトたちだ。私もヒトに協力した」
「ええーっ、この中に何か閉じ込められていたの?」
大袈裟に驚くディアにスミロはウンと頷いていたが、ダイアはどこまでも能天気なディアに少しイラッときていた。
「おバカッ、ただ何となく結界があるわけないでしょ! 私たちと、ナニか。分けておきたいものがあったから、その為にこんな厳重な結界が作られたに決まってるじゃないの!」
「あーそっかー、ダイアって本当に頭が良いよね、尊敬しちゃう」
ニッコリと無邪気な笑顔を向けてくるディアに、呆れのあまり力が抜けてしまう。
(はぁ、ディアって戦いはスミロの次くらいに強いのに、超おバカ、能天気、本当に残念な子)
ディアのおかげで空気が緩みそうになるが、スミロの真面目な口調が場を再びシリアスに戻す。
「それが出てきたという確信がまだ無い。推測で適当なことは言えないから、もっと調べなきゃいけない」
「確かにそうね」
「ダイア、君の鼻が頼りだ。匂いを辿れるか?」
「解った、やってみる」
クンクンと壊された壁の周辺の匂いを嗅いでまわるダイア。ピクリ、と反応して、
「スミロ、見て」
大量の血が溢れた跡と、白い体毛、それと……
「これは蹄だな」
「血の跡があるし毛もある、この匂いは山羊ね。ここで殺されたみたいだけど、死体が無いのはどうして?」
ダイアとスミロ、黙って考えていたが、そこにディアが自分の考えを述べた。
「山羊は食べられちゃったんじゃない? 一口で、パックンって感じで」
「ディアのおバカ、山羊を一口で食べられるような獣なんて地上にいるわけないでしょ!」
「ご、ゴメン、そうだよねー」
「いや、たぶんディアが正しい。山羊を一口で食べてしまう獣を、一つだけ知っている」
「え?」
二人はスミロに注目して、次の言葉を待った。
「ここに閉じ込められていた獣が脱走した。今、それを確信した」
「じゃあ」
「ここに閉じ込められていたのは、Dinosaurと言われる古代獣で象より大きい肉食獣だ。名前はティア、元フレンズだ」
……………
かばんはズルズルと引きづられて、青いセルリアンに補食されようとしていた。言葉も無く静かに、たいした抵抗もしていなかった。
この時に、
「食べないでください!」
「助けてサーバルちゃん!」
と、何でもいいから叫んでいれば、耳を澄ませ必死にかばんの消息を探っているサーバルが気が付いて駆けつけてきたのだろうが、
「僕なんて食べられても仕方がないよね、ヒトだから。謝っても許されないかもだけど、ごめんなさい皆さん。サーバルちゃん、元気でね……」
恐怖と寂しさで瞳から涙が溢れていたが、強い罪悪感と自己嫌悪に精神を支配されていたかばんは、半ば自殺同然にセルリアンによる補食を受け入れていた。
セルリアンの身体にポッカリと穴が空いたのは、かばんを飲み込もうと大口を開けたのか?
かばん、絶体絶命……
――ドカッ
衝撃でセルリアンがよろめき、ブルブルと不定形な身体を震わせている。
「え、何が……?」
セルリアンに一撃を加えひるませた者、灰色の毛並み、四本足の獣、ヒエイ。
ヒエイは素早い動きで回り込み、かばんに巻きついているセルリアンの触手を噛みちぎっていく。
「ヒエイさん?」
「クゥ〜ン」
ヒエイはペロッとかばんの頬を舐めた。
そして、
「か、ば、ん、にげ、て……」
カタコトの言葉でかばんに話しかけてきた。
セルリアンの触手が、今度はヒエイの身体に巻きついてくる。動き回って激しく抵抗するヒエイ。
「あ、ああ……」
ヒエイの姿が獣から人型に……、キラキラと輝きを放つフレンズの姿に変化していく。そして今度はカタコトではない、ハッキリした口調でかばんに言い放った。
「早く逃げて! ボクの中のサンドスターは殆ど残ってない。この姿になってしまったら、そんなに長くは保たない!」
「どうして、ヒエイさん、何で!」
絡みついたセルリアンの触手を引きちぎり、素早く飛び回りながら爪でセルリアンを攻撃。
その合間にチラッとかばんを見つめたヒエイの瞳は優しかった。
「かばん、ボクは嬉しかった。ただの獣になって、しかも君を食べようと襲ったボクのことをフレンズだと言ってくれて、ジャパリマンまで分けてくれた。
そんな君を守らなくちゃならない! ボクは
そう言ってまたセルリアンに立ち向かっていくヒエイ。
戦いは互角だが、ヒエイには余り時間が残されていないらしい。
ヒトはこんな時、無力で非力だ。この土壇場でヒエイを助ける良いアイディアも浮かばない、
……一つを除いては。
「サーバルちゃん、助けてっ!」
かばんができる唯一のこと、
精一杯声を張り上げて、最も頼りになって、最も信頼しているフレンズに助けを求めること。
「ウッミャアアアァーッ!」
瞳に強い光を宿し、構えた爪がキラキラとエフェクトを放ち、あり得ないジャンプ力を発揮して、
サーバルキャットはすぐに飛んで来た!
「かばんちゃんイジメたら、許さないんだからぁーっ!」
空中でクルリと体を回転させ、そのまま真上から爪で一撃。
いつもの数倍の脚力でジャンプして、いつもの数倍の鋭さを持つ爪から繰り出された一撃はセルリアンを真っ二つに切り裂き、そのまま地面を砕いてクレーターを作り上げる威力を発揮した。
セルリアンの真っ二つになった身体はそのままパッカーンとバラバラになって、やがて消滅。
「サーバルちゃん!」
「かばんちゃん!」
かばんがサーバルに抱きつき、サーバルは嬉しそうに受け止める。
そして側に立つフレンズに気が付いて、
「かばんちゃんを守ってくれてありがとう、アナタはビレッジにはいなかったフレンズだよね?」
「サーバルちゃん、この子はヒエイさんだよ」
「えっ、ヒエイってあのヒエイ?」
ニコリと二人に微笑むヒエイは体からキラキラと輝きを放っていたが、その光はもうだいぶ弱々しい。
「かばん、ボクが思うにヒトが何をしたかじゃないよ。大事なのはかばん自身が何を思い、何をして、何をするか、だと思うよ」
「ヒエイさん……」
「君が今まで何をしてきたのか、それはサーバルをはじめ、今まで君がかかわってきたフレンズたちが答えを示してきたんじゃないかな?」
「……」
「かばん、短い間だけどキミとフレンズになれて良かった」
「え?」
「ボクたちは絶滅種フレンズ。儚い幻のような仮初めの生命。それでも、ボクのことを忘れないでくれたら、嬉しい、な……」
「ああ、そんなっ、やだっ!」
最期のサンドスターの力を使い、無理矢理再フレンズ化して戦ったヒエイ。
それは遺物に宿っていた《いのちのかけら》を燃やしつくし、消滅していくことを意味していた。
フレンズの姿が消え、跡には茶色くくすんだ色の獣の頭骨が遺されていた。おそらく、ヒエノドンの化石。
一度サンドスターの力を失ってしまった遺物は、もう二度とフレンズにはならない。
かばんはその頭骨を拾い上げ、胸に抱く。ポタポタと、頭骨に涙が降りかかった。
「ボクはヒエイさんのこと、絶対に忘れません……」
サーバルも涙ぐみながら、かばんの肩にそっと手を置くのだった。