黄昏博物館へようこそ ー生命の欠片の物語ー 作:zenjima7
「ウワァアアアアアアアアア、ヒェエエエエエエ、アアアアアアアアアアアアアアアアア……」
ビレッジに悲痛な泣き声が響く。ディアトリマのディアがヒエノドンの頭骨にすがりついて嘆いていた。いつもは陽気なビレッジのフレンズたちも皆、俯いて暗い顔をしている。
ヒエノドンの頭骨の化石は、かばんを守る為にセルリアンに立ち向かって力尽きてしまったガーディアンのフレンズ、ヒエイのもの。ヒエイは以前にセルリアンにやられて元動物に戻っていたのだが実はまだ少し身体にはサンドスターが残っており、今回の戦いでその僅かなサンドスターの力を使いフレンズ化、かばんを守る為に戦ったのだった。
「ディアさん、ごめんなさい、僕のせいで……」
言いかけたかばんの肩に手を置いたのはサーベルタイガー・スミロドンのスミロ。
「かばん、それは違う。ヒエイはフレンズを守る為に危険を顧みず戦う宿命を自分の意志で受け入れていた」
「だからアナタが気に病む必要はないわ」
「私たちガーディアンは、例え遺物を野に晒すことになってもフレンズを守る為に戦うの」
「それがガーディアンの誇り」
「それより褒めてあげてほしい、この子を」
スミロ以下、
ダイアウルフのダイア、
シヴァテリウムのシバ、
グアダルーペカラカラのルペラ、
フクロオオカミのクロ、
ディアトリマのディア、
黄昏島のガーディアンたちが集まっていた。
「ヒエイさんは勇敢で、強くて、優しくて……、立派で、本当に、本当に……ありがとうございます、ありが、とぅ、ござい、ます……」
ヒエイが最後にかばんに残した言葉、最期の瞬間まで優しく微笑んでいた彼女の姿。思い出すと、かばんの瞳からも熱いものが止めようが無くなってしまう。
サーバルが優しくかばんの背中をさすって慰めていたが、彼女の瞳も少し潤んでいた。
哀しみを含みつつも、毅然とした態度を保つガーディアンたちだったが、ヒエイとは親友同士だったというディアだけはいつまでも声を上げて泣き続けていた。
サーバルがスミロに尋ねる。
「ガーディアンは今ここにいるのが全員なの?」
「今ここにいないのはバシロ(バシロサウロス)、ミーア(ミアキス)、メグ(メガテリウム)、レオプー(プロプレオプス)、そしてヒエイ……」
「スミロの呼びかけで名乗りを上げたフレンズは十人よ」
「じゃあ、バシロとヒエイ以外のガーディアンは?」
しばらく開かれる間、やがてガーディアンたちは静かに口を開く。
「生き残っているガーディアンは、ここにいる五人だけだ」
「えっ!」
「メンバーはもう最初の半分になっちゃったの」
「……」
「サーバルたちみたいに元が生きている動物のフレンズはセルリアンに食べられてサンドスターを失ったら、元の動物に戻るんでしょ?」
コクコクと頷くサーバル、かばんも顔を上げてガーディアンたちの言葉に耳を傾ける。
「フレンズとしての死、イコール生物としての死じゃない」
「きっかけがあって、またサンドスターの力を得たらフレンズになれちゃうんだよね」
「私たちは元がとっくに死んでいる、遺物……」
カツンと槍の石突きを地面に立てながら歩いてきて、話に加わってきたのはニア。
「遺物に残っているのは、遥か昔、それがまだ生きていた時に宿していた生命の痕跡、情報、記憶……いのちのかけら。この大地の中にある、いのちのみなもとが零したサンドスターと、いのちのかけらが結びついてフレンズになったのが私たち。
いのちのかけらを失ってしまった遺物は、もうただの物質、二度とフレンズにはなれない。フレンズとしての死は、本当の死、……なのよ」
かばんが、真剣な表情でニアと向き合う。
「生物は、自分が生きる為に、必ず他の生物を犠牲にしてるってニアさんは言いました。僕は今、ヒエイさんの犠牲によってこうして生きています。
そして、ニアさん含めビレッジのフレンズさんたち、その他の島のフレンズさんたちは、ガーディアンの犠牲によって生きているんですね」
「え、何それっ!」
首を立てに振るわけでもなく、ただニコリと微笑みを返すニア。その微笑みは、即ち肯定。
「ガーディアンはこの島で最も勇気があって、優しくて、尊いフレンズたちなの」
「そんなの……っ!」
ガーディアンとはつまり、島の守護という役割を与えられ死ぬことを前提に戦いに臨まなくてはならない……
生贄であった。
サーバルがニアにくってかかろうとしたが、かばんが手を引いてサーバルを制す。
「僕もサーバルちゃんの為になら……」
「かばんちゃんダメだよそんなのっ、納得出来ない!
ジャパリパークにもハンターがいたけど、この島のガーディアンみたく自分が死ぬ為になんて戦ってなかったよ!
私、頭が悪いから、何て言ったらいいのかよくわからないけど、この島は変だよ、おかしい、絶対におかしいよっ!」
「サーバルちゃ「かばんちゃんちょっと黙ってて!
ニア、許さないよ。ニアと出会って勉強を始めてから、かばんちゃんもちょっと変になってきたんだから。セルリアンに襲われた時、どうしてかばんちゃんはすぐに私に助けを求めなかったの? ヒエイは犠牲にならずに済んだ筈だよ!
ニアの色にかばんちゃんを染めないでよ、かばんちゃんはかばんちゃんなんだからっ「もういいからっ!」
しがみついてサーバルを制止するかばん。
サーバルは完全に頭に血が上り、髪が逆立ち、手先の指からは鋭い爪まで飛び出していた。
フーと一度深呼吸してから、
「もう行こ、島を出よ、ジャパリパークへ帰ろ!」
「え、でも……」
「かばんちゃんはここにいちゃいけないよ!」
怒り心頭のサーバル、かばんの手を強引に引いてビレッジを出て行こうとする。
サーバルの言葉が響いたのか、ニアは哀しげな瞳を下げて俯いていたが、スミロは、
「サーバル、また遊びにきなよ」
いつも通りの軽い言葉をかける。
「ウミャアッ、もう来ないよっ! 私、すっごく怒ってるんだからっ!」
「可愛い妹よ、お姉ちゃんはいつでも待ってるからな」
「スミロのバカーッ!」
スミロにあっかんべーをするサーバル。
かばんは一度立ち止まり、ペコリと丁寧に頭を下げて、サーバルに続いていった。
……………
「ボスは、博物館にいるのかな?」
「うん、博物館の充電装置を使ってボートの電池を充電していたみたいだから」
「ん、じゃあ早くボスを見つけて、電池を持って、港まで戻ろーっ!」
「……」
サーバルが音頭を取るが、今日はかばんが乗ってこない。
「か、かばんちゃん?」
「サーバルちゃん、何だかケンカ別れみたいになっちゃったけど……」
「ウミャ」
「昔、ヒトはね、考え方の違いからよく
「……」
「この島のフレンズさんたちは、確かにジャパリパークのフレンズさんたちとは考え方が違うんだけど……」
「わかってるよぅ、皆、いい子たちだったよぅ」
「ディアさんも、スミロさんも、ニアさんも」
「ウミャー、わかったから! ちゃんとサヨナラを言いに行くから! でもボスを見つけてからね!」
「うん」
『警告、警告!』
「あ、ボス!」
博物館の前にラッキービーストはいた。
いたのだが……、警報を鳴らし、瞳を赤く点滅させ、忙しなくピョンピョンと跳ねている。
『警告、結界の破損を確認、修復は不可。巨大古代獣脱走の恐れあり、直ちに島から脱出してください。博物館からの最短ルートは……』
「え、一体何が……?」
「きょだいこだいじゅう?」
メキメキと音が鳴って木が倒されていく。ズシンズシンと、足音が響く。
「え、今、あっちの森の方に……?」
それは、生い茂る樹間の上からヌゥっと巨大な頭を出し、クンクンとしきりに辺りの匂いを嗅ぎ、やがてこちらに気がついて視線を向けてきた。
見定めるように、目を細めてこちらを見ている。
「あわ、あわわわ……」
「何アレ、大っき過ぎない?」
『竜盤目獣脚類ティラノサウルス科ティラノサウルス・レックス。約6850万年前白亜紀末期に出現した大型獣脚類の一種。現在知られている限り、地上では最大の肉食動物。
獰猛で大変危険ですので、決して近づいてはいけません!』
ティラノサウルスは、かばんとサーバルに向けて大きな雄叫びを上げ、一直線に疾走を開始。
「来てる来てる、こっちに来てるよ!」
「逃げなきゃ、あんなの戦えないよ!」