黄昏博物館へようこそ ー生命の欠片の物語ー   作:zenjima7

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 少し改題しました、これからもよろしくお願いします。





おわりのはじまり

 ヒエノドンの頭骨は地面に置かれ、その前に両脚を抱えて座り込むディアトリマのディア。その背後に立つのはグアダルーペカラカラのルペラ。

 二人ともガーディアンで、トリ系フレンズである。

 

 ふと、ルペラは空を仰ぎ、手をかざして手を風に晒す。

 同じタイミングで、立ち上がったディアが、鋭い視線でグルリと辺りを一度見回した。

 

「何かすっごく嫌な感じがするよ!」

「不吉な風が吹いてきました」

 

 野生動物たちは、地震などの異変を事前に察知して異常な行動を取ることがあるという。トリであるこの二人、特に鋭い感覚を持っているのだが……

 

「博物館の方!」

「星城山から」

 

 一瞬キョトンとしてから、お互いに顔を見合わせて、

 

「博物館だってば!」

「星城山です……」

 

 少しの間黙って睨み合う二人。

 突然アハハと笑いとばすディアと、呆れたようにフゥと小さく溜息を吐くルペラ。

 

「やっぱりアタシたちって意見が合わないね、今まで合ったことないね!」

「地を駆ける鳥と、空を翔ける鳥ですから」

「すぐに行かなきゃ!」

「いえ、まずはスミロとニアに知らせましょう」

 

 二人の意見は、とことん噛み合わない。

 実は昔、とても仲が悪くて喧嘩もよくした二人だったが、今は合わないなりにお互いを認めている部分もあった。

 

「うん、知らせるのは任せる。アタシはもう博物館へ行くから!」

「私はスミロたちに報告してから判断します」

「じゃあね、ルペラ!」

「ディア、気をつけて」

 

 笑顔で一度手を降って、ディアはそのまま飛び出していく。疾風を巻き起こし、あっと言う間に見えなくなった。彼女は島のフレンズの中でも屈指の俊足。

 ルペラはディアを見送った後、ニアのコテージを目指して小走り、彼女は地上を走るのは得意じゃないのだ。

 スミロはビレッジ滞在中はニアのコテージにいる筈。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

「解った」

 

 ルペラの報告を受けたスミロは小さく返事を返す。ニアのコテージの前にはダイア、シバ、クロとガーディアンが集まっていた。

 ちなみにコテージにいる筈のニアが出てきていない。

 

「ディアはもう博物館に行ったの? またあの子は突っ走っちゃって!」

 

 ダイアウルフのダイアは、ディアの行動にプリプリと怒りながら愚痴をこぼしていた。

 

「ルペラの風を感じる力は鋭いわ」

「ルペラは冷静だけど、ディアは……おバカだし」

「でも、ディアの直感に救われたこともけっこうあるよ」

「う~ん、確かに」

 

 二人のフレンズ、どちらの勘が正しいのか判断に困って首をかしげるガーディアンたち。

 

「二箇所同時に異変が起こっているのかもしれない?」

「珍しいけど、そういうこともあるかも」

「得策とは言えないが、二手に別れるか」

「そうね、それしかないわね」

 

 意見は纏まり、ガーディアンは2チームに別れてそれぞれ現場へ向かうことになった。

博物館は先行したディアの後をスミロが追う。

 ルペラ、ダイア、シバ、クロ、四人で星城山周辺へと向かう。

 

「私は偵察の為に先行します」

 

 ルペラの頭にある翼がキラキラと輝きを放つと、彼女の身体はフワリと空中に舞い上がった。ある程度高度をとると両手を大きく広げ、目標である星城山の方向へ優雅に滑空していく。

 ダイアたち三人はルペラに続き、縦列を作って規則正しく駆けていった。

 それを見送ってからスミロは憂鬱そうに一度溜息を吐き、コテージの中へ戻る。コテージの中のテーブルの上で突っ伏して顔を伏せているニア。

 

「ニア、非常事態だよ……」

「ふぐぅ、うううぅ……はぁああ……」

 

 呻きながら顔を上げたニア。

 泣き通したらしい瞳は真っ赤に腫れ、いつもは清潔感のあるポニーテールに纏めらた髪は乱れまくってボサボサ。テーブルの上の瓶を掴むと、それを仰ぎ、中のLIQUORをダラダラと零しながらラッパ呑みにする。

 そんな醜態を晒すニアの頭を優しく撫でるスミロ。

 

「私だって……私だって嫌よぉっ! 誰かの犠牲の上でしか維持できないこんな社会なんてっ! だってフレンズたちは、みぃんな家族なんだからぁっ! 死んじゃったらそりゃ悲しいわよ、死んでもいい子なんて一人もいないし! そんなこと言われなくたって解ってるんだもんっ!」

 

 ひどい荒れっぷりだった。

 サーバルの不器用で真っ直ぐで鋭い指摘はニアの精神をグッサグサに抉りまくっていたのだ。

 

「かばんちゃんは、優秀で、良い子で、良い子過ぎて……確かに私の後継者にって思ったわよ。でも私の色に染めるとか……、うぅ、サーバルちゃん的確に例え過ぎでしょ、反論できないし……」

 

 またLIQUORを呑もうと伸ばした手が空を切る。LIQUORの入った瓶はスミロが取り上げてしまっていた。

 

「うぎぃ~、サーベルの意地悪っ!」

「この飲み物は……ヒトでも呑み過ぎるとやっぱり毒になる。それより非常事態なんだからちゃんとしてほしい」

「むぅ、解ったわよ」

「博物館と星城山だ、ディアとルペラがそれぞれ同時に何かを感じたらしい」

「二箇所で?」

 

 コクリ、と小さく頷くスミロ。

 それを受けてニアの表情がサァッと変わっていく。真剣そのもの。

 先程まで晒していた醜態は跡形も無くなっていた。

 

「かばんちゃんたちは?」

「解らない、どこへ向かったのか……」

 

『現在通信途絶中のラッキービースト009から、かばんたちと博物館で接触したらしいと15分前に通信が来てたよ。それと、古代獣脱走の警報も』

 

 ニアに状況を説明するラッキービースト。何故もっと早くそれを言わないのか?

 ……と突っ込みたくもなるが、ラッキービーストはヒトへの危害が差し迫らない限りはこんなものなのだ。

 

「古代獣って……」

「恐竜だ、結界を破った恐竜が博物館に現れたんだ!かばんとサーバルが危ない!」

「サーベル、行って!」

 

 ニアが言うや否や、スミロはコテージを飛び出して博物館へと急いで駆けて行った。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

「グワアアァァアアアアッ!」

 

 ティラノサウルスは巨体でありながら恐ろしく素早く、かばんたちにその巨大な顎を広げて一気に襲いかかる。

 

「危ない、かばんちゃん、ボスっ!」

 

 サーバルがかばんとラッキービーストを抱えて、間一髪攻撃を交わす。ティラノサウルスの身体を飛び越える程の大ジャンプだった。

 

「すごいジャンプ……!」

 

 いつもの数倍のジャンプ力を発揮していたお陰で難を逃れた。予想外に交わされたティラノサウルスはバランスを大きく崩し、ド派手に転倒している。

 サーバルたちも芝生の上に堕ちて、ゴロゴロと転がった。

 

「い、いつまでも交わしきれないよ!」

 

 ティラノサウルスが首を持ち上げ、ブンブンと頭を振っている。

 

「身体が大きいから、野外じゃなくて狭い博物館の中に誘い込めば動きを鈍らせられるかも?」

「そっか、まずは博物館の中へ逃げ込むんだね。でもどうやって?」

 

 態勢を立て直して、立ちはだかるティラノサウルス。

 博物館の入り口はティラノサウルスのすぐ後ろにあった。

 

「あの動き、そんなに賢い子じゃなさそう。翻弄できるかも?」

「どうするの?」

 

 そっと耳打ちして作戦の内容を伝えるかばんだが、聞いて眉をしかめるサーバル。

 

「かばんちゃん。それ、作戦って言わないよね。ポンチ? パンチ?」

博打(ばくち)だよ、サーバルちゃん」

 

 ティラノサウルスは先程のように一気に飛び掛かってこない。慎重に、様子を伺うようにジッとこちらを見ている。

 

「サーバルちゃんのこと信頼してるから」

「解ったよじゃあ!」

 

 二人、同時に正面からティラノサウルスに向かってダッシュ。

 小さな獲物の意外な行動に多少は面食らったが、すぐにグワッと声を上げて二人を迎え撃つ態勢になる。

 

「ウッ、ミャアーッ!」

 

 サーバル、一瞬屈んでからティラノサウルスの目の前で、再び大ジャンプ。

 しかし二回目になるとティラノサウルスは慣れており、しっかりと飛び上がるサーバルを視線で捉えている。

 

 ……が、

 

「こっちですっ!」

 

 上方に気を取られた瞬間に、かばんがティラノサウルスの顎の下から股の間へと走り抜け、下から声をかけた。

 

「グワァアッ!」

 

 殆ど反射的な反応である。ティラノサウルスは特に考え無しに、その都度気が付いたものにただ襲いかかっているだけなのだ。

 かばんに気を取られて頭を下げ、自分の股間へ首を伸ばし、ちょうどお辞儀するような格好になった。飛んでいたサーバルが、そのまま上から蹴り。ボールを破裂させてしまう程の強烈なキック!

 ティラノサウルスは頭頂から勢い良く地面に叩きつけられて、そのまま巨体が前方へ一回転。

 

「やった、作戦通り!」

 

 後はかばんが転倒する巨体に巻き込まれないようにすれば作戦は完璧なのだが、

 

 ……そうはいかなかった。

 

 それは偶然だったのか、それとも苦し紛れにそうしたのか?

 ティラノサウルスの長い尻尾が、鞭のようにしなって、

 

「うあっ!」

 

 尻尾の先端を勢いよく腹部にくらったかばんが吹き飛ばされ、そのまま博物館の入り口ドアに叩きつけられてしまった。

 

「ああっ!」

 

 衝突の勢いは凄まじく、入り口ドアのガラスが割れて辺りに飛び散る。地面に倒れたかばんも、そのままピクリとも動かなくなった。

 

「しっかりして、かばんちゃん!」

 

 昏倒するティラノサウルスを飛び越えてかばんの側までやってきたサーバル。しかし、呼びかけに反応はない。

 とにかくティラノサウルスが立ち上がってくる前に避難しなくてはならない。かばんの身体を抱き抱えて、半壊した入り口ドアを開けて博物館の中へ入った。

 

「かばんちゃん! お願いだから目を開けて、かばんちゃんっ!」

 

 肩を叩いたり頬を叩いたりして何度も呼びかけるが、やっぱりかばんに反応はない……。

 

「そんな、こんなことってウソだよね?

もっと色々なところに一緒に行きたいのに! 一緒にやりたかったこともたくさんあるのに! これからまだまだ一緒に……。こんな終わり方なんて……

 

 嫌だよぉっ!」

 

 遅れて博物館の中へ入ってきたラッキービーストの瞳が赤く点滅していた。

 

『意識無し、呼吸停止。心停止の恐れ有り。カーラー救命曲線の基準に則り、3分以内に救命措置を施せば生存確率50%。直ちに人工呼吸、心肺蘇生法を開始してください。

 

 若しくは……」

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