黄昏博物館へようこそ ー生命の欠片の物語ー   作:zenjima7

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いのちをつなぐさんぷんかん

 博物館でティラノサウルスと遭遇してしまったかばんとサーバル。

 かばんの作戦と、パワーアップしたサーバルの力でティラノサウルスを翻弄したかに見えたが……、かばんがティラノサウルスの尻尾の一撃をくらってしまう。

 かばんは意識不明、心肺停止の重体。危機的状況に陥ってしまったのだった。

 

 

 

……………

 

 

 

「かばんちゃんが目を開けない、息をしてない。死んじゃう、かばんちゃんが死んじゃうよ! ヤダ、そんなのヤダよ、どうしたらいいの?」

『3分以内にBLSを行えば生存確率は50%と言われているよ、すぐに開始しよう』

「びーえるえすって何? どうしたらいいの? わかんないよボス!」

『Basic Life Supportの略、特殊な器具や薬品を使わないで行う一次救命措置だよ。主にCPRのことを指すよ。30秒経過……、サーバル急ごうか、生命を繋ぐ3分間はそんなに長くないよ』

「しーぴーあーる? わかんないよ……」

『CPRは心肺蘇生法のことだけど、確かに今のサーバルのパワーではCPRは不適切かもしれない。かばんの身体を壊してしまう可能性があるね。検索中、検索中……!

 サーバル、博物館内にAEDがあるよ、これを使おう』

「えーいーでぃー?」

『大きさはボクくらいでオレンジ色。こんなマークがあったらそこにAEDはあるよ』

 

 ラッキービーストのディスプレイに赤いマークが浮かび上がる。ハートに心電図の波の印、口頭説明より遥かに解り易かった。

 サーバルは解ったと頷き、立ち上がってキョロキョロ辺りを見渡すと、印は直ぐに見つかる。公共施設の出入り口近くには大概AEDが設置されている。特殊施設である黄昏博物館も例には漏れていなかったようだ。

 

「あった、この中にオレンジ色の箱、えーいーでぃーだね!」

 

 設置ケースを開けてAEDを取り出し、すぐさまかばんの元へと戻る。

 

「次はどうしたら良い?」

『ケースを開けると音声ガイダンスが流れるから、後はそれに従って作業するんだよ』

「開けばいいんだね!」

 

 AEDには電源を入れるタイプと、ケースを開けると自動で起動するものがあるが、これは後者のタイプだった。

 

『電極パッドを指定の位置へ貼り付けてください』

「うわああっ、喋……って、やってる場合じゃないよね。指定の位置ってこの絵に描いてある場所?」

『かばんの服を脱がせて。パッドは肌に直接貼るんだよ』

「うん、わかった」

 

 かばんのシャツをぐいっと捲り上げると小ぶりな胸が露わになった。

 鎖骨の下あたり右胸の上と、脇の下左胸の下、二つのパッドをペタペタと貼り付けていく。本来ならこの間にも胸部圧迫を行うのだが、今のパワーアップしたサーバルが胸部圧迫を行うと、かばんの身体を傷つけてしまう可能性があるのでやらない。

 

『身体に触れないでください。心電図を解析します。離れてください……』

 

 ピョンと一歩下がって距離を取るラッキービースト。

 サーバルも立ち上がって一歩下がって様子を伺う。

 

 ーーバキバキ、ガシャンッ!

 

 招かれざる客が入り口ドアを破壊して、ヌウッと巨大な顔を覗かせてきた。

 

「グギャアアアアアアァッ!」

 

 サーバルとかばん、二匹の獲物を確認して嬉しそうな雄叫びを上げている。

 そのまま強引に身体を博物館の中へ入れようともがくティラノサウルス。しかし、硬い鉄骨が大きな身体に引っかかって侵入を阻んでいた。

 

 ……今のところは。

 

 ティラノサウルスの怪力で鉄骨がギシギシと悲鳴を上げている、これが完全に破壊されるのも時間の問題だった。

 

「こんな時にぃっ!」

 

 サーバルの髪がフワッと逆立ち、瞳に宿る野生の光には怒気さえ含まれている。

 ティラノサウルスはかばんをこんな目に遭わせた仇、すぐにでも飛び掛かっていきそうなところをラッキービーストが諌めた。

 

『サーバル、ダメだよ。まだ救命措置の途中だよ、かばんを放置して行ってはいけない』

「だって、でも!」

 

 ティラノサウルスは鉄骨に引っかかってすぐには侵入してこれそうにない。攻撃を加えるなら今。身動きが取れない今こそティラノサウルスを叩きのめすチャンスであった。

 鉄骨を完全に破壊され、身体が自由になってしまったら真面に戦っても勝てる相手ではない。

 

『電気ショックが必要です、ショックボタンを押してください』

 

『サーバル、ボクにはショックボタンが押せない。キミしかかばんを助けられないんだよ』

「ううううううぅ……」

 

 ロボットであるラッキービーストは、電気ショックの放電でダメージを受ける可能性があるので一定の距離を取らなくてはならず、ショックボタンを押すことができない。

 

「アイツは許せないけど……、かばんちゃんの生命が優先だよねっ!」

 

 ピョンとAED本体の側に座り込み、大きな楕円形のショックボタンを強めに指で叩いた。

 

『充填しています、離れてください』

 

 音声警告と、ピーと警報が鳴り……

 

 ーーバコンッ

 

 AEDの電気ショックでかばんの身体が一度ビクンと跳ねたが、

 

「え……、それだけ?」

 

 かばんの様子に変化が見られない、一度目の電気ショックでは蘇生がならなかったようだ。

 

「ダメなの? かばんちゃん、やっぱりもう……?」

『まだだよ、二度目の電気ショックがあるよ。でも電気ショックだけじゃかばんは蘇生しそうにないみたいだね。やっぱり、CPRが必要だよ』

 

 ゴクリと唾を飲み込んでから、パチンと両手で自分の頬を叩いて気合いを入れる。

 

「かばんちゃんの為なら、なんでもやるよっ!」

『サーバル、そんなに力まないで。今のサーバルの力だと、かばんの肋骨を折ってしまいかねないから、腕力の加減が大切だよ』

 

 一時は怒りに我を忘れそうになったサーバルだが、今は苦笑いが零れる程落ち着いている。

 

『まずは立て膝の格好でかばんの右側面に付いて』

「こう?」

『左右の乳頭を結ぶ線の中心から、指二本下の辺り。ここに右手を置いて』

「ここ?」

『そこを片手で強く押す、叩くんじゃないよ、掌の部分で一定のリズムで繰り返し押すんだ。両手は使わないでね、今のサーバルは力が強すぎるから。リズムは僕が合図するから合わせて』

「うん!」

 

 ラッキービーストがピッピッと合図の音を鳴らし、それに合わせてサーバルがかばんの胸を押す。1分間に100回のペースで、30回。

 

『サーバル、一旦止めて』

「えっ」

『左手を額、右手の指を顎に引っ掛けて、かばんの顔を上向きにして』

「ハイ」

『気道確保したらサーバルの口でかばんの口を塞ぎ、そのまま息を吹き込むよ』

「ふえっ!」

『恥ずかしがるのは後、今は躊躇してる場合じゃない』

「そ、そうだね……」

 

 一度大きく息を吸い込み、

 

『勢いよくやっちゃダメだよ、かばんの肺が破裂しちゃうからね』

 

 コクコクと頷く。唇を合わせてかばんの口を塞ぎ、フゥッと息を吹き込むと、かばんの肺に空気が充填されて胸が膨らんだ。

 

『一度口を離し、もう一度……』

 

 メリメリ、

 ベキベキベキベキ……

 バキンッ!

 

 ティラノサウルスの侵入を阻んでいた鉄骨がとうとうへし折られ、完全に入り口は破壊されてしまった。

 ドシドシ、と重い足音を立てながらティラノサウルスが博物館の中へと入ってくる。

 

「と、とうとう来たよ、どうしよう……」

『サーバル、まだだよ、人口呼吸をもう一度』

「うう、うううっ」

 

 ティラノサウルスがこっちを見ている。もう阻むものはない、後は好きなタイミングで食らいつくだけ。

 状況は最悪、BLSはまだ途中……。

 

「かばんちゃん!」

 

 サーバルは逃げなかった。

 かばんを置いて逃げればサーバルの身体能力ならティラノサウルスから逃げられるが、それは問題外。

 BLSを止めて、ティラノサウルスの牙からかばんを守るために戦うという選択肢もあったが、それも選ばなかった。

 

 ただ唇を重ねた。

 最期の別れのキスのつもりだったのか?

 それともまだかばんの蘇生を諦めきれず、人口呼吸を続けたのか?

 

 ティラノサウルスは大口を開けて、二人へと迫る、巨大な足が床を蹴って、一気に距離を縮める。

 サーバルはその場を動かない。優しく、丁寧にかばんの肺にへ息を吹き込んでいた。

 

(結局、スミロやニアに、謝れなかったな……。

 ガーディアンの子たち、こういう気持ちだったんだね。死ぬ為に戦うなんて、おかしいって言っちゃったけど、ぜんぜんおかしいことじゃなかった。

 私も、かばんちゃんの為なら……。

 

 かばんちゃんと一緒なら……)

 

「うわあああああああっ!」

 

 ティラノサウルスに飛びかかり、そのまま頭にしがみついて目隠ししてしまった者がいた。

 

「ディア!」

「アタシの友達に何してんのよぉっ!」

 

 ティラノサウルスはディアを振り払おうと激しく首を振るが、今度はそのまま床に倒れてしまった。

 

「かばん、サーバル、大丈夫か!」

「スミロも」

 

 スミロがティラノサウルスの脚を抑えて、バランスを崩して転ばせたようだった。

 

「サーバル、逃げられる?」

 

 ディアの問いにサーバルの返答は首を横に振る。

 

「ダメなの。かばんちゃんに、びーえるえすをしてるから、動けないの」

「そうか、びーえるえすは時間がかかるか?」

「わかんない……」

 

 スミロとディア、二人のガーディアンはお互いに目を合わせ、一度頷きあう。

 そして……

 

友達(フレンズ)を守るのがアタシたちの役目だから!」

「時間を稼ぐ、なるべく早く頼む」

 

 ノッソリと立ち上がってくる暴君竜(ティラノサウルス)。ケタ違いのタフネス、倒しても倒しても一向に弱る様子を見せていない。牙を喰らえば即死は間逃れず、長くてよくしなる尻尾の一撃も侮れない。

 だが、それでも守護者(ガーディアン)たちは怯まない。友達(フレンズ)を守る為に、その身を盾にして彼女らたちは戦いに臨むのだった。

 

 




細々と書いてきましたが、UA5000超えられました。自身初です。
いつも読んでくださり、ありがとうございます。
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