黄昏博物館へようこそ ー生命の欠片の物語ー   作:zenjima7

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たとえきばがおれても

「やった、かばんっ!」

「かばんっ!」

 

 サーバルがかばんを強く抱きしめる。

 スミロとディアも、蘇生して意識を取り戻したかばんに気が付いて笑顔を見せた。

 

「さあ逃げよう。サーバルはかばんを、ディアはラッキービーストを頼む!」

「うん!」

「わかった!」

 

 ディアがラッキービーストを脇に抱え、サーバルがかばんを肩に担ぎ上げ、逃走開始。

 

「奥だ、このまま博物館の大ホールの奥の通路へ入れば身体の大きなティラノサウルスは動き辛く、なかなか追ってこれない筈だ」

 

 博物館内を熟知するスミロが指示を出し、入り口ホールから展示物が散乱する大ホールに入り、更に奥の通路に向かって一向は走って逃げ込む。

 追ってくるティラノサウルスに向かって、スミロが展示物を投げつけたり、巨大な動物の化石を引き倒したりしながら上手く殿を引き受けていたが、

 

「あれ、スミロ……?」

 

 サーバルとディアが通過の奥へ入って行ったのを確認してから、スミロは別の場所へと走っていってしまった。ティラノサウルスは当然狭い通路に逃げ込んだサーバルたちを無視して、目前の獲物であるスミロを追いかける。

 この瞬間、サーバルの頭によぎる《死を前提にしてもフレンズを守る為に戦う》というガーディアンの宿命。

 

「スミロが囮になった、スミロが、死んじゃう!」

 

 蒼白になって通路の途中で立ち止まってしまうサーバル。

 そんなサーバルに助け舟を出したのは、肩に担がれていたかばんだった。

 

「サーバルちゃん、僕は大丈夫だよ」

「かばんちゃん?」

「もう、一人で走って逃げられるから」

 

 かばんを一旦降ろし、二人は向き合って視線を合わせる。

 まだ少し迷いのあるサーバルを促すように、かばんがウンと頷いた。

 

「スミロォーッ!」

 

 サーバル、通路を逆走。大ホールを目指して走っていく。

 

 サーベルタイガー・スミロドンのスミロとは、まだ出会って間もなく、何日も一緒にいるわけじゃないけど……

 出会っていきなり「サーベルとサーバルが似てるから姉妹になろう。私が姉だ」と勝手に妹にされてしまったけど……

 普段はクールなのに、ニアに甘える時は変なテンションになっちゃう変わった猫だけど……

 

 でも、たくさん可愛がられた。

 本当の妹同然に可愛いがってくれた。

 ジャパリパークには猫科のフレンズもたくさんいるけど、これほど仲良くしてくれたフレンズはいない。

 そんなスミロを放って、先に逃げることなんて出来ない!

 

 しかし、スミロがわざわざ囮になって大ホールに残った意図を理解した時、激しい絶望を感じて一気に血の気が引いていく。

 

 通路から大ホールに抜ける境目には、鋼鉄の格子が降ろされ大ホールへは戻れなくなってしまっていたのだ。鉄格子に捕まってガタンガタンと揺らしてみるも、頑丈そうでビクともしない。

 

「スミロのバカッ、何でこんな……いや、私たちを確実に逃す為だろうけど……」

 

 見れば向こう側の大ホールの入り口も同じように格子が降ろされている。スミロは一人で大ホールに残り、囮になってサーバルたちを逃しつつシャッターを操作して大ホールを完全に封鎖してしまったのだ。

 

 ティラノサウルスが雄叫びを上げながら展示物を破壊して回る喧騒が聞こえる。

 つまり、スミロは封鎖されたホールに残ったままであり、まだティラノサウルスに追われている可能性が高い。

 

「これじゃスミロ自身も逃げられない! スミロが食べられちゃう! そんなのヤダ、ヤダよ、スミロぉ……」

 

 鉄格子に縋り付き、崩れ落ちるように膝を付いて俯くサーバル。

 瞳から零れた涙が床にポタポタと降りかかるが……

 

「こんなところで何しているんだサーバル?」

「えっ!」

 

 鉄格子の向こうにスミロが立っている。

 

「ちょっと下がってくれないか、危ないから」

「スミロ?」

 

 その顔は死を覚悟した悲壮に満ちたものではなく、確実に助かる自信有り気なものだった。取り敢えずスミロに従って、サーバルは後ろ下がる。

 

 ティラノサウルスの雄叫びと足音が聞こえていた。

 

「スミロ、すぐに来るよ。ティラノサウルス!」

「うん、わかってる。一時的に弱体化するからあまりやりたくないけど、餌になるつもりもない」

 

 スラッと、鞘から剣を抜いた。

 

 キンシコウやサイやクマの仲間みたいに固有の武具を携帯しているフレンズはけっこういる。サーベルタイガーのサーベルたる所以、それは腰のベルトから下がった鞘に収まっている剣。

 反りがある片刃の刀身、短めの柄は片手で持つ事を前提にされており、手や指をガードする覆うような鍔が付いている。

 

「野生、解放!」

 

 刀身を顏前に掲げ、カッと開かれたスミロの瞳に野生の光が宿る。同時に刀身も同様の輝きを放つ。

 

「ハアアアァァァッ!」

 

 光が疾り抜け、空間に《Z》字が浮かび上がった。

 遅れて一本の鉄格子が通路側に向かってゆっくりと倒れる。

 

「すごぉいっ!」

 

 鉄格子は上下に寸断され、切り口には一切の乱れもない。鮮やかな剣技だった。

 

 だが、パキーンと乾いた音を立てて、剣が折れて刀身が床に落ちる。

 

「折れ……折れちゃった……

ウワアアアアァァァァァンッ!

わだじのげんがあああああぁっ!」

 

 イキナリ大声で泣き喚き始めるスミロ。いつも凛々しく、冷静で、落ち着きがあり、如何にもリーダーといった感じのスミロが、小娘のように大泣きする。

 余りの豹変ぶりに理解が追い付かずに目が点になってしまったが、すぐ後ろから大口を上げたティラノサウルスが迫ってくるのが見えた。

 

 呆けている場合ではない、状況は切羽詰まっている!

 

「来てるっ! スミロ、早くこっちに!」

 

 鉄格子が一本抜けた為、フレンズ一人なら通れる隙間ができていた。

 サーバルはその隙間からスミロの手を取って通路側へと引っ張り込むと、彼女はそのまま膝を付いて床に座り込み、アンアンと子供のような声を上げて泣き続ける。

 

「もうっ、弱体化するにも程があるんだからっ!」

 

 本人が言った弱体化とは、肉体的、サンドスター的にばかりではなく、精神にも及ぶものらしい。半ば呆れつつ、自分から動きそうにないスミロを肩に担いで通路の奥へと逃げた。

 

 奥棟は博物館ではなく、研究所跡。何やら大小の沢山の小部屋があったが全て素通りして突き当たりの非常口ドアを開けて外に出ると、かばんとディアとラッキービーストが待っていた。

 

「サーバルちゃん!」

「ディア、スミロをお願い」

「え、ええっ、えええぇーっ?」

 

 サーバルから急にスミロを渡されディアは戸惑いながらもお姫様抱っこで受け止める。

 

 お互いを求めて、駆け寄る二人のフレンズ。サーバルがジャンプして、かばんに飛びかかった。

 

「わっ」

 

 勢いよく飛んできたサーバルの身体を受け止めきれなかったかばんが倒れて、かばんの上にサーバルがのしかかる格好になる。

 

 かばんは嬉しそうな笑顔で、

 

「食べないでください」

 

 サーバルも同じ笑顔で、

 

「食べない……、ううん、食べちゃうぞ~!」

 

「きゃー!」

 

 サーバルがかばんの首筋を優しく甘噛みすると、かばんはそれを受け入れつつ足をバタバタさせる。

 

 戯れ合うヒトとネコを見て目を細めつつ微笑みを浮かべるディア。

 

「本当、ヒトとネコって戯れ合うのが好きだよねぇ」

 

 チラリと、視線を自分の腕で収まっているものに向けると、まだ少し涙目で親指をしゃぶりながら愚図るスミロと目が合った。

 

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 

 完全に閉じ込められてしまった。鉄格子で出入り口を塞がれ、獲物たちには完全に逃げられてしまったようだ。

 試しに一度頭で突いて見るが、なかなか頑丈で簡単には壊れそうにない。まあ壊せないことはなさそうだが、時間がかかりそうだ。

 やっぱりこの巨体、狭い室内で身体能力をフルに発揮することはできなかった。あの獲物たちはそれをわかっていて自分を誘い込んだんだな、と彼女は改めて思う。

 獲物に逃げらてしまったところで、興奮していた頭が冷静になっていた。

 

 周りを見回してみると、ある事に気がつく。

 彼女はこの博物館の大ホールに見覚えがあったのだ。

 

 覚え?

 

 記憶?

 

 そう、ティラノサウルスという動物では普通ならあり得ないことが彼女の身に起こりつつあった。

 

 本能のまま獲物を襲い、食らう筈のティラノサウルスが、思考し、しかも古い記憶を呼び起こそうとしていたのだ。

 

「た、たそがれ、はくぶつ……かん?」

 

ついにティラノサウルスの口から、言葉が……。

 

 長い年月、黄昏島の特定の場所に居続けた。

 少しづつサンドスターが体内に蓄積し続け、そもそもサンドスターの消費が少ない形態であり続けてきた。

 特に最近、星城山から博物館一帯のサンドスターの濃度が高くなっていた。

 

 様々な偶然と要因が重なり、一つの奇跡を彼女にもたらそうとしついた。

 

 ティラノサウルスの瞳に、野生解放のような光が宿る。

 光は全身から放ちはじめて、彼女は不可思議な現象に戸惑うしかなかったが、光はより強くなり、彼女の身体に変化が……。

 巨体が縮みながら、形を変えていく。徐々にヒトの形に……

 

「んん、ふあぁ!」

 

 ティラノサウルスがの姿は跡形もなくなり、そこにはフードを被った一人のフレンズがちょこんと座っていた。

 彼女は一度眠そうにゴシゴシと瞳を擦り、不思議そうに辺りを見回す。

 

「ありゃ、誰もいないし? なんだか博物館がめちゃくちゃになってる?」

 

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