黄昏博物館へようこそ ー生命の欠片の物語ー 作:zenjima7
太祖山を源とする大地に流れる気は山脈を伝い流れ、父母山の麓で吹き出し、その場所は『龍穴』と呼ばれる、気が溢れる特別な地になるのだが……気は風が吹くと散らされてしまうものなので、龍穴を守るように山脈が二股になって囲っているのが理想的である。
この龍穴を覆う二つの壁を『
正面は開いていて、気がゆっくりと広がっていく『明堂』と呼ばれる。
不幸にも砂が無い場所に龍が穴を結んでしまった場合、吹き出す大地の気は乱され、最悪の場合『凶穴』となってしまう。
しかし凶穴はヒトが手を加えることにより龍穴へと変えることもできる。その最もな好例が『
穢土はそのまま穢れた土地という意味で、実際にはただ荒れ果てた湿地が広がるばかり、古代に国造りを行なった神々にさえ見捨てられた、最果ての土地であった。
永い年月、穢土は荒れ果てた不吉な地として放置されたままであったのだが、一人のヒトがこの大地に立ち、街を作り始めた。彼を中心に多くのヒトが懸命に穢土に手を加え、街は少しずつ大きくなり、穢土は『江戸』と改名、更に数百年後に『東京』と呼ばれる大都市へと変貌を遂げ、繁栄することになる。
単純なことである、凶穴を龍穴に変えるには、大地の乱れた気を整える青龍と白虎がいれば良いのである。
……………
蒼空に巻き起こる風。
風に身体を遊ばせ、滑空するフレンズ。
両手を大きく左右に広げながら、身を翻し……一気にダイブ!
スカイダイバーを自称するグアダルーペカラカラのルペラ。その視線の先には大きい翼を羽ばたかせる黒いモノ。
黒いモノの本体はただの球体。手足も無く、尻尾も無く、頭と胴の区別も無く、球体の中心にある巨大な丸い目と、左右一対の翼だけが生物的な特徴と言えたが、全体的には生物と言っていいのか疑問符がつく。
ルペラとその黒いモノが空中で衝突。ルペラの翼の羽根が飛び散り、バランスを失ったルペラと黒いモノは同時に失速して落下を開始するが、ルペラは黒いモノを踏み台にして飛び上がり、宙へ舞い戻った。
黒いモノはそのまま落下、地面に叩きつけられた。かなりの衝撃だったにもかかわらず、まだ動いている。
「石よ、石を壊さないとっ!」
ダイアウルフのダイアが黒いモノを指差し声を張り上げ、近くにいたフレンズが角を模した三叉槍を振りかざして迫っていく。
「我の名はシバテリウムなり、ガーディアンの一人、シヴァのケモノ!」
名乗りと同時に鋭い突きが放たれ、槍穂は丸い目を突き抜けて反対側からセルリアンのコアたる石をえぐり出した。
そう、翼を持つ黒いモノ。飛行型のセルリアンである。石を失った黒セルリアンはパカーンと音を立てながら飛び散って消滅。フゥと深呼吸しながら残心を解き姿勢を正すシバの元に、ダイアとフクロオオカミのクロが駆け寄り、ルペラも舞い降りてくる。
「空飛ぶ、のが二匹、普通、のが、二匹……」
「全部やっつけちゃった?」
「否」
「不吉な風は、未だ止みません」
ズーンと重い音を立てて、地響きが聞こえる。それはゆっくりと接近してくる驚異の存在を示していた。
真っ黒い巨大は森の木々をなぎ倒しながら、のっそりとガーディアン達の前に姿を現す。
「大きいですね」
「デカイわね」
「巨体なり」
「……大きい」
四者四様の反応だが共通しているのは、相手が『巨大』であるという認識。
巨大な黒い球体の中心に大きな丸い目。長い六本の足は折れ曲がって本体をぶら下げ、その有様はさながら巨大な昆虫のよう。無機質な目玉がギョロリと動いてガーディアンたちに視線をむけてきた。
殺意があるわけでもなく。
怒りがあるわけでもなく。
憎しみがあるわけでもない。
ひたすら無機質で何の感情も読み取れない、それが返って気色悪い……そんな目でフレンズ達を見つめる黒セルリアン。
「ダイア」
「何?」
「ビレッジまで後退してスミロとディアと合流し、改めて迎え討ってはどうか?」
シバからの意見具申を聞いてウーンと唸って考え込むダイア。
「案外と見かけ倒しかもしれないわよ?」
「それも、無きにしも非ずだが……」
シバとダイアが方針を話しあっていたその時に、黒セルリアンの方に変化があった。
ギュオオオオオォォォォォーッ
それは声といってもよいのだろうか?
およそ生物の声帯から発する音声とは程遠い、臓腑に響く、重たい耳障り極まりない大騒音。黒いセルリアンが発した不気味な音にガーディアンたちは反射的に耳を塞いでしまった。
「ひ、ひどい……、これ鳴き声なの?」
騒音だけでなく、さらなる異変が起こっている。
本体であろう球体だったものがブルブルと激しく波打ち変形し、プクリと餅の様に一部が膨らんで本体から千切れて地面に落ちた。
「な、何だ?」
黒セルリアンから切り離されたそれは、グニャグニャとしばらく地面で蠢いていたが、やがて動きが落ちつき、徐々に球体へと変化し、その中心に丸い目がボコッと現れた。
つまり……
「ぶ、分裂した!」
「と、言うより、は……産んだ?」
「マザーセルリアンですか」
「うむ、先程まで戦っていた奴らはアレから生み出された眷属だったのだな」
ギュオオオオオォォォォォーッ
再び辺りに響く黒セルリアンの騒音。そしてボコボコと蠢き始める本体……、分裂は繰り返されるようだ。
「ぶ、ぶき、み……」
「今まであんなセルリアンは見たことがありません」
「ダイア、迷える時間はもう無い」
肩を竦めて手のひらを上に向け、フリフリと首を横に降るダイア。
「ちょっと手に負えそうにないわね。一旦ビレッジまで引いて、スミロとニアの意見も聞きましょ」
「今は逃げるのですね」
「善かろう」
「ちょっと、急ぐ、必要、ある……」
クロが皆の前に出て、大きく息を吸い込んで胸を膨らませた。もともとハイライトオフの瞳だったが、今は野生の光が宿って輝いている。
「大きな声でっ!
ワオォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!」
クロが大きな雄叫びを上げると、ダイア、シバ、ルペラ、三人のサンドスターが活性化されキラキラとエフェクトが発生し仄かに輝き始めた。
反対に、クロの瞳に宿っていた野生の光が失せて、彼女はその場に両膝をついてへたり込んでしまう。ルペラが消耗したクロを抱えて空へ舞い上がり、ダイアとシバは移動を開始。退却するガーディアンたちの移動速度は、来た時よりも格段に早かった。
「クロ、大丈夫ですか?」
「うん、サンドスターの、力、少しだけ、強くなってる、から……」
心配させまいと気丈に振る舞っているクロだが、ルペラに抱えられる彼女は野生解放、能力発動の疲労が色濃かった。だがクロの言う通り、全てのフレンズたちがパワーアップしているのも事実で、それはガーディアンたちも感じていた。
もっとも、それはセルリアンにも同じことが言えるのだが……。
黄昏島を覆うサンドスターは、かつてない濃度であった。
それはサーバルキャットに奇跡をもたらし、
恐竜は獣からフレンズへと変化し、
そして、巨大で獰猛なセルリアンを出現させてしまう。
星城山の麓から溢れる
龍は正く穴を結ばず
乱れて凶穴と為す
四神、何れにあらんや……