黄昏博物館へようこそ ー生命の欠片の物語ー 作:zenjima7
「うわああーっ、た、た、た、食べないでくださいーっ!」
涙目で、全力疾走で逃げ惑うかばん。いつものお約束のセリフだが、いつもとは明らかに様子が違う。
かばんを追いかけているのは……
「ウガウッ!」
牙を剥き出しにして口からは唾液を垂らし、目を血走らせて四本足で疾走する獣。
けものではない本物の獣、冗談ではなく、本気でかばんを捕食しようと追いかけてきている野生(?)の獣、あきらかにフレンズでない獰猛そうなプレデター。
「かばんちゃん!」
「さ、サーバルちゃん!」
横から飛び出してきたサーバルがかばんを抱き抱えてジャンプ。
かばんに飛びかかっていた獣の牙を寸前で交わし、空中に飛び上がる。
サーバルのジャンプ力は折り紙付き、そのままプレハブの屋根に乗っかり、二人でゴロゴロと転がった。
「ハア、ハア、ハア……」
「危なかったね、危機一髪だったよー!」
獣はプレハブの周りをウロウロと歩き、恨めしそうな視線をかばんに向け、立ち去っていく。
「諦めたのかなぁ?」
「取り敢えずは、じゃない?」
この隙にコッソリとプレハブを降りて逃げることも出来なくはないが……実はそれが出来ない理由があった。
かばんの手首に腕時計状に付けられていたラッキービーストが無い。
「何でこんなことに?」
……………
ステラーカイギュウのステラのおかげで港に辿りついたかばんとサーバル。彼女からここがトワイライトミュージアムというところだと教えてもらう。
水生フレンズのステラは陸上を歩くのが苦手なのでこれ以上の案内は無理があり、そこで別れることになった。
「確か、この港の奥の港湾管理棟のどこかにボスがいたはずよ。ミュージアムまでのガイドはボスにしてもらうといいわ」
「わかりました」
「それと、一人以上のフレンズに付き添ってもらうことをお勧めするわ」
「え?」
「私のように海に縄張りがあるか、複数のフレンズがまとまって暮らしているビレッジ以外のところにいるフレンズは、たいてい腕の立つガーディアンだから」
「がーでぃあん?」
「ハンター、みたいなものですか?」
「アナタたちの地方ではハンターっていうの?」
「うん、セルリアンハンターだよ!」
「そうセルリアンが……この島にはね、セルリアン以外にも危険がいくつかあるからセルリアン退治を専門にしてるわけじゃないのよ」
「え!」
セルリアンを狩り、ジャパリパークの治安を守っていたハンターというフレンズたち。
この島にもハンターに相当するガーディアンと呼ばれるフレンズがいるそうなのだが、どうやらこの島にはセルリアン以外にも何かフレンズの脅威となるものがいるらしい。
「大丈夫、私が自慢の爪でやっつけちゃうから!」
元気で力強いサーバルの宣言。
「かばんちゃんのこと、私が守ってあげるね!」
「サーバルちゃん……」
屈託のないサーバルの笑顔は、かばんの胸の不安感を払拭してしまうほど眩しかった。
「サーバルはネコ科のフレンズみたいだし、腕も立ちそうだし、まあ大丈夫かな」
「うん!」
「ハイ!」
「じゃあ気を付けてねー!」
ステラと別れて、取り敢えず港湾管理棟を目指す一向。まずはこの島のラッキービーストと接触することが目的。
ラッキービーストは直ぐに見つかった。
見つかったのだが…
「このボス、何かひどいね」
「うん……バラバラだね」
見つけたラッキービーストは、破損したボディから中の機械パーツが飛び出した無残な姿。
『ちょっと調査するよ。かばん、僕をあのラッキービーストにかざして』
かばんは青ざめた顔で腕に付いたラッキービーストを、発見した破損ラッキービーストに近づける。
破損したラッキービーストのディスプレイに光が灯り、文字が流れていく。ただし、液晶画面もひび割れているので文字の内容は不明瞭だった。
『ローカルリンク、OK。機能90%喪失、起動不可……、センターアクセス、エラー……、メモリリンク、OK。メモリ70%喪失、ダウンロード開始……』
「この子、セルリアンにやられたのかな?」
「セルリアンって、フレンズやヒト以外のものも襲うことがあるの?」
「うーん、ちょっとわかんない!」
『ダウンロード完了』
「あ、終わったみたいだよ!」
「ラッキーさん、何かわかりました?」
『彼の機能は殆どが破壊されていて動くことは出来ないよ。記憶データは70%が喪失していたけど、メモリにリンクできたから生き残っていたデータをダウンロードしたよ。センターへのアクセス機能も破壊されていたからセンターコンピュータへのリンクは出来なかったけど、データをダウンロードして面白いことがわかったよ』
「面白いこと?」
『管理棟の倉庫に彼のスペアボディが保管してあるみたい。そのボディに僕のメモリを移譲すればこのミュージアムのガイドロボットとして再起動できそうだよ』
「何言ってるのかさっぱり!」
「え、それってもしかして……」
『新しいカラダと機能を付加して、僕は復活できるよ』
かばんとサーバル、二人の瞳が大きく開かれ、瞳がキラキラと輝き、お互い顔を見合わせて、
「やったー!」
「ウミャアー!」
パチンとハイタッチで喜びを分かち合った。
また三人が揃って旅ができる!
かばんの正体を探す為にジャパリパークを旅したあの頃と同じように。
あれは懐かしくも楽しいが、決して楽な旅ではなく、かばんは一度黒セルリアンに捕食され、ラッキービーストはボディを失なってしまった。
それでもパークで出会ったフレンズたちと困難を乗り越えてきたのだ。
ラッキービーストとは会話こそできるのだが、やっぱりボディが復活するとなると嬉しい。
「じゃあ早く行こうよ!」
「待ってよサーバルちゃん」
『かばん、倉庫があるのはその道を左だよ』
「え、サーバルちゃん、反対だよ〜」
そんな三人の後を静かに付けていく影があった。
風上に立ち、サーバルの良く効く鼻を誤魔化す。浮かれてしまったサーバルは、この影の静かな足音を聞き漏らしてしまう……。
……………
倉庫の中にスペアボディはあった。壊れた方のラッキービーストからダウンロードしたメモリの中にパスコードが含まれていたため、倉庫のドアロックは難なく開かれる。
『メモリとメインシステムの移譲、それから起動処理に時間がかかるから、ジャパリマンでも食べて待っていて』
「外に東屋があったよね、そこで食べようか?」
「うん、いいよ!」
揚々と倉庫から外に出た二人の前に姿を現したのが……四本足の獣。
ハアハアと舌を出して荒い息遣い、尻尾を立ててウロウロと動き回っている。
「イヌ科の子かな、ハイエナに似てるけど頭がやけに大きいね?」
サーバルは特に警戒もせずに、獣へと近づいていく。
「さ、サーバルちゃん!」
「大丈夫だか……」
と言いかけたところで、獣はサーバルへ飛びかかってきた。
「ウミャッ!」
サーバル、殺気に気が付いてジャンプ。獣の牙はサーバルを掠めてガチッと歯音を立てる。
「な、何すんの!」
獣は直ぐに身を翻し、再びサーバルへと襲いかかっていくがサーバルは手を振りかざして迎え撃つ。
「ギャウッ」
鋭い爪が獣の鼻先を引っ掻き、思わぬ反撃に驚いて悲鳴をあげる。
「フーッ! 乱暴するなら容赦しないよ!」
瞳が輝きを放つ、野生解放状態。
その迫力にたじろぐ獣。フレンズとはいえ、もとがネコ科の肉食獣であるサーバルが一筋縄ではいかない手強い相手だと認識し、獣は引き下がろうとしたが……。
「え……」
位置がよくなかった。
この攻防で、かばんー獣ーサーバル、と一直線に並んでしまっていたのだ。
手強いサーバルとは違う、ひ弱そうなかばんの存在に気が付いてしまった。
「かばんちゃん、逃げてっ!」
「ヒエッ!」
かばん、逃げる。
獣は身を翻し、かばん目掛けて走る。
サーバルは慌ててその後を追った。