黄昏博物館へようこそ ー生命の欠片の物語ー   作:zenjima7

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このしまのおさなので

「マザーセルリアン……」

 

 ダイアウルフのダイアから良くない報告を受けたニア、その声には驚きが混じっていた。

 

「ニア、奴はたぶんこっちを目指してきているよ、あまり時間に余裕はないけど、どうする?」

「ガーディアン全員でかかれば撃退できそう?」

「んー……、敵の力は未知数だけど、今までの経験上、黒いセルリアンは手強くて、実際彼奴の子セルリアンは結構強かったわ。消耗の激しいクロはしばらく戦えないし、残り五人で戦ったとしても誰か犠牲になるのは覚悟しなくちゃね」

 

 またガーディアンが減る、と予測するダイアの話し口調は軽い。

 ダイアの性格なのか、ガーディアンだからと割り切っているのかはわからないが、このあたりどこか乾いた性質が現れている。

 

「スミロとディアは?」

「まだ戻らないわ」

「そっか……」

 

 難しい顔で思案するニア、その指示を待つダイア。

 

「四神結界が経年劣化で弱くなって、サンドスターが暴走を始めているのね。新たに結界を張ろうにも、今の黄昏島には青龍が……」

「ニア?」

「あ、ごめん。ダイア、ビレッジの全てのフレンズを私の家の前に集めてくれるかしら」

「わかったわ」

 

 コテージから出て行くダイアを見送り、深く溜め息を吐くニア。その瞳には、諦めの色が滲んでいた。

 

「私たちは何処から来たのか?

 私たちは何者なのか?

 私たちは何処へ行くのか……」

 

 

 少し潤んだ瞳で天井を見上げ、

 

「私は、何処にも行くことが出来ない。私には為さなくてはならないことがある……」

 

 自分自身に言い聞かせるように言葉を紡ぐと、槍の石突きでコツンと床を一度叩き、コテージのドアを開き、外へ出た。

 

 コテージの前にはビレッジ中のフレンズたちがもう集まっている。何か只事ではない雰囲気を察知して、ダイアが集合をかける前にもう集まっていたようだった。

 

「皆、聞いてほしい」

 

 全員雑談を止め、ニアの言葉に耳を傾ける。

 

「黒セルリアンが現れたわ。今までもそうだったけど、黒セルリアンと戦えばだいたいガーディアンに犠牲が出てしまう……

 しかも今度のセルリアンは大きくて、今まで以上に強力みたいなの、もしかしたらガーディアン全員でも防ぎきれないかもしれないわ……」

 

 黄昏島のフレンズたち。

 それは博物館の展示物、古代に絶滅した動物の遺物にサンドスターが宿り、フレンズ化したものばかり。

 彼女らは一度は死に絶え、地上から完全に姿を消してしまったものたちの残滓、

 

 ……《生命の欠片》たち。

 

 それ故に、

 

「いよいよ、終わりの時かもしれないんだね」

 

 誰かが口を開き、皆が続いて話始めた。

 

「そっかぁ、私たちまた死に絶えちゃうんだぁ」

「ま~、しょうがないよね~」

「フレンズになって、ビレッジでわりと楽しく暮してこれたかな」

「ちょっと寂しいけど終わりはいつかくるものだしね」

 

 彼女らの言葉は場違いに軽くて明るくて悲壮感が感じられなかったが、どこか諦めと達観があった。

 

「皆ゴメンね、長なのに何もできなくて…」

「ううん、ニアは今までよくやってきたと思うよ」

「ガーディアンたちも、今まで本当にありがとう」

「あなたたちのおかげで、楽しかったよ」

 

 俯き気味に、暗い顔で謝罪するニアを慰めるフレンズたち。

 

「海にいる連中はどうする?」

「トリの子たち、悪いけど海の子たちに状況だけ知らせてあげて、セルリアンは基本的には海に入ってこないから大丈夫だと思うけど……」

「ん、わかった~」

 

 おそらく、サンドスターの暴走を抑える手段はなく、黒セルリアンは次々と生み出され、もう島のフレンズたちが助かる見込みはない。

 それは誰のせいということではなく、ニアの仮説(セルリアンがいのちのかけらの回収者である)によれば、死滅、絶滅はただの自然の流れに過ぎない。太古から繰り返してきた生命のサイクルの一つに過ぎないということである。

 

「ちょっと待ってください!」

 

 集合するフレンズたちの後ろから声がかかり、皆の注目が集まる。

 声をかけたのはビレッジを去っていったはずのかばん、そしてサーベルタイガー・スミロドンのスミロ、ディアトリマのディア、そしてサーバルキャットのサーバル。

 フレンズたちが二手に別れて道を作り、かばんがフレンズたちにありがとうとお礼を述べつつ、四人はニアの元へとやってきた。

 

「かばんちゃん……」

「ニアさん、話は聞かせてもらいました」

「黄昏島のフレンズではないかばんちゃんとサーバルを巻き込むわけにはいかないわ、早く島から脱出して……」

「ニアの、バカッ!」

 

 かばんの横からサーバルが激しい剣幕でニアを罵りつつ前に出てきた。いきなりのことでビックリして目を白黒させるニア。

 どうどうとサーバルを抑えつつも、かばんがニアを見つめる瞳にも僅かに批難の色が含まれていた。

 

「僕もサーバルちゃんに同意です。ニアさんはおバカさんです」

「えっ、か、かばんちゃん?」

 

 ニアはかばんにまで馬鹿扱いされて、流石にショックと戸惑いを隠しきれない。

 

「トワイライトミュージアムのとか、ジャパリパークのとか、フレンズを勝手に分類しないでください」

「そうだよ、戦ってもダメで島がもうダメなら逃げちゃえばいいでしょ、皆で!」

「ジャパリパークに来ればいいんです。ジャパリパークは広いし、皆さんと同じ絶滅種のフレンズさんたちだっています。諦めて死滅を受け入れる必要なんてこれっぽっちもありません!」

 

 顔を見合わせるフレンズたち。かばんは振り返り、戸惑うフレンズたちと向かい合い、声を張り上げた。

 

「生命は、死ぬために生まれてきたんじゃない。元々死滅した動物だったとかは関係ないんです。死滅した皆さんが、何故またフレンズとしてここにいるんですか?

 生命の最後は……死、なのかも知れないけど、それでも!

 今生きている限りは一生懸命、生きていかなくちゃいけないんです!

 かつて、世界は絶望的な状況に何度も晒されてきました。地上の殆どの生命が死滅してしまうなんてざらにあったんです。

 その度に、ほんの少しの生命が生き残り復活を遂げてきたんです。

 思い出してください、皆さんだって絶望的な環境の中で生き残ろうと必死に足掻いていた筈です。足掻いて、足掻いて、しぶとく生き残って……

 そして困難を耐え抜いた生命が、進化という奇跡を起こし、また新たな世界を作っていくんです!

 生命が生きることを否定したら、世界はそこで終わってしまうんです。だから、生きましょう。迫ってくる死に、全力で抵抗しましょう。

 私たちに皆が生き残るための手伝いをさせてください!」

 

 かばんが発した熱のこもった言葉に当てられて、フレンズたちはしばらく言葉を失った。しばらく沈黙。しかし、フレンズたちの中では、かばんが火を付けた熱い思いは確実に膨らんでいた。

 

「まだ生きててもいいの?」

 

 誰かがポツリと漏らした言葉。大きな声ではなかったが、皆の耳にはちゃんと聞こえた。これがキッカケ。

 

「まだ死にたくない」

「ジャパリパーク、行ってみたいよ」

「生きよう、生き残ろう!」

 

 一気に広がっていく、生きようとする強い意志。フレンズたちに宿るサンドスターが活性化して僅かに輝きを放ちはじめた。

 サンドスターの輝きは、生命の煌めき。

 生きようとする強い意志こそが、生命の雫たるサンドスターのチカラを強くする、

 

 ……のかも知れない?

 

 スミロがニアに近づいて、肩に手を置いて静かな口調で尋ねた。

 

「ニアはどうする?」

「わ、私は……」

 

 かばんがニアの元に寄り手を取る。向けられた瞳には強い意志と想いが宿っていた。

 

「ニアさん、一緒にジャパリパークへ行きましょう。僕は、まだニアさんから色々なことを学びたいです」

「私は……」

 

 その表情には、明らかな戸惑いがあった。

 ニアの本心ではかばんと一緒にジャパリパークに行きたい。しかし、それには躊躇があった。彼女に黄昏島からの脱出を戸惑わせるものとは……?

 

「黒セルリアンのことですか?」

「え、ええ……」

「黒セルリアンなら、以前にジャパリパークにも出現しました。黒セルリアンそのものも大変だけど、それよりも黒セルリアンが出現してしまった原因が一番の問題なんですよね?」

 

 瞳を大きく見開いてかばんに注目するニア。ニアにとって初めて出会ったヒト、初めての教え子は、彼女の予想を越えて聡明であり、

 

「四神、の力でサンドスターの暴走を抑えるフィルターを張らなくちゃいけない。それをやって大元さえ絶ってしまえばセルリアンを放って逃げたって構わない、ですよね」

 

 かばんは知識や学識ではニアに遠く及ばないが、ニアにはない実戦経験があり、危険な修羅場を潜り抜けてきた経験があった。

 ジャパリパーク暫定ガイドという肩書きは伊達ではないのだ。

 

「うん、私にはサンドスターの暴走を抑えて調停する使命があるの」

「僕にも、お手伝いさせてください」

「かばんちゃんがやるなら、私も手伝うよ!」

 

 かばんとサーバルの真っ直ぐな瞳で見つめられて苦笑するニア。

 

「ありがとう、かばんちゃん、サーバル。私たちを助けてくれる?」

「もちろんです!」

「ウミャア、任せてよ!」

 

 元気よく返事するかばんとサーバル。それは頼もしい、百人力といえる助っ人である。

 その姿を見つめるニアの微笑みは……

 

 どこか、寂し気だった。

 

 かばんとサーバルはまだ知らない。

 黄昏島における四神の力とはなんであるのか。

 

 そしてニアに背負っていた使命の重さを……。

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