黄昏博物館へようこそ ー生命の欠片の物語ー 作:zenjima7
申し訳ありません。
独りぼっちて歩いていく、何度も通ったこの道。
知ってる筈の道なのに、何故か解らないけど今日は変だ。
知ってる筈の道なのに、何故か知らない道を歩いているみたい。
この道の先には、友達や大好きだったヒトたちとよく遊んだキャンプ場があった筈。
でも、本当にあるんだろうか?
この道は知ってる道の筈なのに、何故か知らない道だから…
「あいえんきえんいちごいちえ、そですりあうのもたしょうのえん」
さすがにちょっと心細くて、昔よく唄った歌を唄う。
「このよのきせきぎゅっとつめて、きみとであえたんだ」
言葉の意味は難しいのもあって半分くらい解らないけど、友達やヒトと唄ったこの歌は好き。歌詞もリズムもはっきり覚えている。
「あおいはるいつかまくをとじ、さくらとともにまいちっても」
やっぱり歌詞の意味は半分も解らない。
『あおいはる』って何だろう? あおいはるの幕が閉じるってどういうことなんだろう?
桜の花は知ってる。花と一緒に散るんだから、あおいはるも花なんだろうか?
「かならずぼくらまたどこかでであいをはたすだろう」
この道の先で、誰かと会えるのかな?
それともやっぱり独りぼっちかな?
黄昏島は、もう僕一人だけになっちゃったのかな?
「かけがえないぼくとにたきみへ、ひとりでころんできずだらけになったときは、いつでもどこまでもはしるよ」
ダメだ、寂しい、目から何か熱い水が溢れてくる。走ろう、キャンプ場まで走って行こう、誰かいるかも知れない。
ヒトがいるかも知れない。
フレンズがいるかもしれない。
「たまにはけんかしておころう、なきがおみたらなぐさめよう、とびきりのながいおせっきょうはみじかめにして」
早く誰かと会いたい。
誰かと、
誰か……!
「きれいなものをさがしにいこう、おいしいものもたくさんたべよう」
会いたい、教授とも会いたいよ。
優しくていつも僕を可愛がってくれたゲンダイ教授、仲間のフレンズたち、博物館の職員さんたち、皆どこへいっちゃったの?
「つまりはこれからもどうかよろしくね」
「え、あ、フレンズ?」
「まだ、避難して、ないフレンズ、が……」
「む、誰だ?」
……………
ビレッジは正しく戦場だった。
殆どのフレンズたちは港へと避難し、ダイア、ルペラ、シバ、クロの四人のガーディアンがビレッジに残り、追ってきたセルリアンを迎え撃ち、時間を稼いでいる最中であった。
そこに現れたのはフードを被った見慣れないフレンズ。フードはヘビやトカゲなど爬虫類フレンズの特徴であるが、誰も彼女に見覚えのある者はいなかった。というより、今の黄昏島には爬虫類のフレンズはいない筈だったのだが?
「フレンズ、やっぱりフレンズがいた〜!」
無邪気にピョンピョンと跳ねて喜びを表現していた彼女だが、状況は逼迫している。
今この場にはマザーセルリアンから生み出された子セルリアンがウヨウヨしていて、隙あらばフレンズを捕食しようと襲いかかってくる。ガーディアンでも苦戦する黒セルリアンの眷属である奴らを前にして、そのフードのフレンズは余りにも無防備で迂闊に過ぎた。
「危険だから来ないで、早く港へ逃げるのよっ!」
ダイアが強い口調で警告するが間に合わない。フードのフレンズに目を付けた一匹のセルリアンが触手を飛ばし、彼女は捕捉されてしまった。
「あれ〜、セルリアン?」
首やら腕やら腰にセルリアンの触手が絡みついて完全に捕らえられたフードの彼女だが、本人の表情はアッケラカンとして呑気なものだった。
「いけない、何とかあの子をっ!」
絶対絶命、早く触手を彼女から離さないと一気に引き寄せられて捕食されてしまう。
ダイアが助けようと飛び出していくが、次の瞬間、信じられないものを見ることになる。
フードの彼女が自分を捉えている触手を掴み返すと、そのまま片手でグイッと引っ張り込む。セルリアンの巨体がフードの少女の頭上を超え、放物線を描いて宙を舞い、そのまま反対側の地面へ激しく叩きつけられバラバラに飛び散ってしまった。
「えっ!」
その場の全員の視線が、フードの彼女に集まる。まるで時が止まってしまったように、ガーディアンたちもセルリアンたちも動きを止めてただ彼女に注目した。
投げられたセルリアンは叩きつけられた衝撃で身体もろとも石も砕け散ってしまったようで、そのまま蒸発して消えてしまう。
「せっかくフレンズと会えたのに何?喧嘩はそんなに好きじゃないけど邪魔するなら潰しちゃうよ?」
声のトーンを二段階くらい下げ、眉間に皺を寄せながら凄む彼女。
生物には生存本能があり、野生動物なら命の危険を察知する能力は高い。
証拠にこの場にいた四人のフレンズたちは、自分たちに向けられたものではない筈の殺気に全員竦み上がってしまった。フードの彼女の本性が、超強力な肉食の捕食動物であることを本能的に認識したからであろう。
セルリアンというものは、ある一定の行動原理を持って、それに従って行動している(フレンズの捕食による排除)だけで、それ自体は己の意思とは言えないのだろう。存在や行動に原理を持ち、感情を持たず動くもの、つまりロボットや機械と殆ど同じである。彼らはやはり生物とは言い難い。
そんな彼らが原理に従いとった行動とは、突如現れた強力なフレンズを排除するために一斉攻撃を仕掛けるというものだった。
「あーあ、やっぱりか〜」
フードの彼女は面倒臭そうに頭を掻きながら、
「うん、そうだ、確かに僕は一度セルリアンに食べられた」
瞳に野生の光が宿って輝く、グッと手に力を込めて振りかぶる。
「でもそれは、ゲンザイ教授に頼まれたから」
彼女の手が唸りを上げ、その指を食らったセルリアンの身体を引き裂き、引きちぎる。ガーディアンたちは絶句してその光景を呆然と眺めていた。
「その気になれば、ね」
並のセルリアンではない、強力な黒セルリアンである。それを雑草でもむしり取るかのように引きちぎり、体内の石を抉り出しては握り潰し、次々と駆除していった。
セルリアンはおそらく恐怖心を持たず、死を恐れず突進してくる。それは強みでもあるが、逆に弱点でもあるのだ。
セルリアンは全滅するまでフードの少女に襲いかかり、一匹残らず彼女に捻り潰されてしまったのだった。
フードの彼女は固まって動けないガーディアンたちに話しかける。
「ヤッホ〜」
それは明るく陽気な声色だったが、声を掛けられたガーディアンたちの身体をビクッと跳ねさせた。
「僕はティアだよ、ティラノサウルス・レックスのティア。アナタたちもフレンズでしょ。友達になろうよ〜!」
「と、友達?」
「それは良いが、今は」
「でもこれでは……」
ガーディアンたちが戸惑って顔を見合わせている。
彼女らは例え全員力尽きても、殺到するセルリアンを押しとどめようと決死の覚悟でビレッジに残って戦っていたのだが……、戦闘は突然の乱入者によっていともあっさり終了してしまい、どうしたらよいのか解らなくなってしまったのだ。
その中で唯一人、ダイアウルフのダイアがティアの前に出て彼女に応えた。
「ティア、アナタってDinosaurのティア?」
「だいなそー? あー……そう言えばそんな風に呼ばれることもあったっけ?」
「結界の中にいた古代動物よね、スミロから聞いたわ!」
「けっかい? よくわかんないけど、スミロってサーベルタイガー・スミロドンのこと?」
「そう、そのサーベルタイガー。私たちのリーダーで先生で友達のスミロよ!」
「サーベルなら知ってる。アナタたちあの子の友達なの?」
「うん」
「そっか、サーベルは僕の友達の一人だよ。サーベルの友達なら僕の友達でもあるよね」
「うん、友達、友達よ、友達になろ、私はダイアウルフのダイア!」
ティアとダイアはお互いに両手を取り合って、友誼を結んだ。
ティアは機嫌良さげにニコニコしていたが、ダイアの表情は切羽詰まっている。
「お願いティア、助けて!」
「ふえ?」
「黄昏島はもう滅亡するの、そして滅亡は黄昏島から世界中へ広がるかもしれない。スミロたちは滅亡の元を抑えて食い止めようとしてるけど、たぶんまだ力が足りないの、私たちの力でも足りないの、私たちじゃフレンズたちを逃して襲ってくるセルリアンから守るので精一杯なの。でもアナタなら、私たちより桁違いに強い力を持つDinosaurのアナタなら……、ティアの力をスミロたちに貸してあげて!」
瞳に涙を浮かべて懇願するダイア。
ティアは少しだけポカンとしたが、自分より大柄なダイアの身体を引き寄せて抱きとめた。
「ヨシヨシ、頑張ったんだねダイアたちは」
「う……うぇ、うえええええぇん!」
「後は僕に任せなさい!」
「ありがとおぉっ、ありがとおおおぉ、ティアアアアァァッ!」
ダイアの泣き声は廃墟と化したビレッジに響きわたるばかりでなく、その場にいた他のガーディアンたちの心にも、その必死の想いとともに響いていたのであった。