黄昏博物館へようこそ ー生命の欠片の物語ー 作:zenjima7
「けものプラズム、ですか?」
「そう、けものプラズム。黄昏博物館は研究所が隣接していて、サンドスターとフレンズの研究がヒトによって行われていたのよ。研究は途上のようだったけど、けものプラズムのレポートのデータはいくつか残っていたわ」
星城山の中腹からある場所へと続くアスファルトをニアを先頭にかばん、サーバル、ディア、スミロの五人のフレンズが歩いていた。
アスファルトはヒビ割れだらけ、両サイドから伸び放題の雑草がせまり、未整備のまま放置された長い年月を感じさせる。
「サンドスターが命または命の欠片と結び付くことで発生する謎のエネルギー。このけものプラズムが私たちフレンズを形態を維持させている、とされているわ。形態というのは例えば……サーベル、剣を見せてくれる?」
サーベルタイガー・スミロドンが頷き鞘からゆっくりと剣を抜くと、
「え、何で? 直ってるの?」
サーバルが不思議そうに首を捻った。鋼鉄を寸断する代償にポッキリと折れてしまった剣はスラリと反り立ち、太陽光を反射して白く眩しく輝いていた。
「ヒトに近いフレンズの形態。元動物から受け継いだ耳や尻尾や爪などの特徴。着ている服、サーベルの剣や私の槍と言ったものも全てけものプラズムが変化したものだから、もし服が破れても剣が折れても、本人が怪我をしてしまってもサンドスターを取り込んで回復すれば再生できるのよ」
「へー、そうだったんだ!」
「すっごーい!」
ニアの説明を聞いて、スミロはちょっとだけドヤ顔で剣を鞘に収め、サーバルとディアが無邪気に感心の声をあげている。かばんはじっと自分の両手を見ていた。
「かばんちゃんは、身に覚えがあるようね」
「僕は一度グローブとタイツをなくしちゃったんですけど、いつのまにかまた元に戻っていたんです」
「サンドスターの回復に伴って衣類も再生したのね。で、これからが重要な話……」
歩みを止めることなく、少し間を置いてから再び話し始めるニア。
「実はフレンズによってこのけものプラズムの割合が違っていて、サンドスターの消費率も違っているの」
「え?」
「サーバルのように生きた動物がフレンズ化した子は、形態を維持する為のけものプラズムの割合が少なくて済むみたいで、サンドスターの消費も少ない。反対に私たち絶滅種フレンズのように遺物からフレンズ化した子はこの形態を維持する為に多くのけものプラズムが必要で、必然的にサンドスターの消費率が高くなってしまうの」
かばんは神妙な表情で静かに話を聞いている。スミロは無表情、サーバルとディアはこの時点で話の内容を理解出来ないので聞き流しに入っていたが。
「理論的には、想像上の動物がフレンズ化した空想動物フレンズも有り得るとされているけど、記録上ではその存在は確認されていないみたい」
一瞬、かばんの脳裏にはジャパリパークの地下迷宮で出会ったヘビっぽいフレンズのことが頭に過ぎったが、関係ないかなとすぐに打ち消してしまった。
「空想動物フレンズの中の重要項目に四神というのがあるの、四神とは4匹の神獣のことで、それぞれ白虎、青龍、朱雀、玄武と呼ばれるもの」
「それって」
「知ってるの、かばんちゃん?」
「はい、ジャパリパークでサンドスターの異常噴出を抑えるフィルターを張るのに『重要な宝』が必要で、それは四枚の石板でした。石版にはそれぞれ四神が描かれてました」
「石版! なるほどジャパリパークではそうやって四神の力をプレートにして四神結界を……、でも四神の力をどうやってプレートに?」
かばんの話を聞いたニアは顎に手を当てて少し考え込むが、やがて再び振り向いてかばんを見つめるニア。
「かばんちゃん、黄昏島でもだいたいやり方は同じなの」
「そうですか、僕、少しなら解りますからお手伝いできると思います!」
「うん、ただ黄昏島ではプレートを使わずに柱を使うの」
「はしら、ですか?」
怪訝な表情になるかばん。頭の中では、柱は所定の場所まで運べるものなのだろうか? という疑問が浮かんでいたのだが、大きくても小さくてもそれがただの柱であったならどれだけ良かったか……。
ニアがスミロの肩をポンと叩いて、かばんとサーバルに向かって静かに語りかける。
「白虎」
「え?」
「ふえ?」
次にディアの肩を、
「朱雀」
「あ……」
「え、何っ?」
最後に自分の胸に手を当てて、
「玄武」
「二、ニアさん、まさか……」
「何、一体どうしたの?」
かばんは全てを悟って顔面蒼白になり、話を理解していないサーバルは困惑するだけ。
「四神の柱とはヒトバシラのこと、四神結界を張ってサンドスターの暴走を抑えるには、四人のフレンズの『いのちのかけら』を捧げることなの」
「そ、そんなの、そんなのって……」
「か、かばんちゃん? ニアは何を言ってるの?」
かばんの目尻に涙がじわっと浮かび、堰き止められずにつうっと垂れてくる、どんどんどんどん溢れてくる。ニアの胸にすがりつき、消え入りそうな声で、泣き声で……。
「イヤです、そんなの僕は、イヤですぅ……」
「かばんちゃ「サーバルっ!」
急に泣き出したかばんを心配したサーバルに、勢いよく抱きついてきたのはディアトリマのディア。
「ディア?」
「えへへ、サーバルとかばんと一緒に旅ができて楽しかったよ、一緒に料理を食べたり、サッカーも教えてもらったっけ!」
急に抱きしめられて困惑するサーバルだったが、その頭を優しく撫でてきたのはスミロ。柔らかく微笑んではいるがどこか寂しげな、そんな表情で何度も何度もサーバルの頭を撫でる。
「皆、どうしちゃったの? かばんちゃんはどうして泣いてるの?」
この後に及んでまだ事情を察知できないサーバルだったが、
「サーバル、今この島で唯一の生きた動物のフレンズのアナタはサンドスターの強い影響を受けて最も強いチカラを持っている筈です。黒いマザーセルリアンと戦えるチカラがあるのはたぶんサーバルだけ。お願い、マザーセルリアンを倒してください。でも、無理だったら逃げてくださいね。かばんちゃんの為にも、アナタは絶対死んではいけません!」
ニアの頼みを、胸を叩いて受け止めるサーバル。前向きで明るくて元気な、いつもの、いつもと変わらないサーバル。
「うみゃあっ、任せて!」
瞳に野生の光を灯して、やる気は充分。
「ニアさん、僕は……?」
未だ涙がまだ止まらないかばんの頭を優しく撫でながら、
「かばんちゃん、アナタを黄昏島の最後の長に指名します。今から私たちのやることを見届け、その後に長としての権限を引き継ぎます。以後、この島のラッキービーストは全てアナタに従います。そして生き残って島を脱出するフレンズたちを導いてください」
「ニアさん!」
「学芸員になるには定められた課程を履修して、更に検定試験が必要なので、残念ながらそちらは私の一存では引き継ぎ出来ないんですけど大丈夫です、ラッキービーストに残りの教育課程を引き継がせますから」
「ううう……」
「四神のうち青龍が欠けているので、完全な四神結界は張れないと思います……、それでも何とかしてサンドスターの暴走を止めなくてはいけません。だから、私たちの最後をしっかりと見て学んでください。いつかはアナタが調停者となり、完全な四神結界を張らなくてはいけないのだから」
「僕は、もっとニアさんに教えてもらいたくて、もっとたくさん色んなことを学びたくて、もっと一緒にいたくて……!」
「なら、私の頼みを聞いてくれる?」
「え?」
そっと耳打ちして、かばんに何事かを伝えるニア。かばんは少し間をおいてから、ウンとうなずいて何かを了承していた。
「私の命は、アナタの命の中で生き続けます」