黄昏博物館へようこそ ー生命の欠片の物語ー   作:zenjima7

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がーでぃあん(挿絵有)

 

【挿絵表示】

 

 

「ボス、もう終わったかな?」

 

 プレハブ小屋の上、サーバルが寝転がって空を眺めながら呟く。

 

「そうだね……、あっ!」

 

 サーバルの言葉に反応するかばん。何かに気付いたのか蒼ざめた顔で、

 

「サーバルちゃん、あの壊れてたラッキーさんどうして壊れたのかな?」

「えーと、わかんない?」

「セルリアンて本当にラッキーさんたちを襲ったりするの?」

「え? え……?」

「もしかして、さっきのあの子がラッキーさんを食べようとして襲ったとか?」

「えええ、じゃあじゃあ……」

「ラッキーさん、復活して倉庫から出てきて、もしさっきの子と会っちゃったら?」

「ヤバイよヤバイよ、助けに行かなきゃ!」

 

 しまった、とかばんは口を噤む。

 サーバルは性格的にお人好しで仲間思い、そしてやや直情径行、こういう場合の行動は……。

 

「あ、サーバルちゃん……」

「待っててかばんちゃん、ボス助けてくるから!」

 

 プレハブ小屋から飛び降りて一気に管理棟倉庫へと向かって走っていく。

 

「あーあ、やっぱり。仕方ないなぁ、ここで待ってよう」

 

 余計な事を言って残されてしまった。一人で下に降りるのは危険だし、サーバルとラッキービーストが来るのをこのまま待つしかない。

 

 しかし、実のところかばんは三つの勘違いを犯していた。

 

「あ……」

 

 再び姿を見せた獣。

 

 一つ目の勘違い、獣はかばんを諦めて立ち去ったのではなく、姿を隠し、執念深くかばんたちが油断するのを待っていた。

 

「やっぱり、狙いは僕……」

 

 二つ目の勘違い、獣はロボットであるラッキービーストが食べられないのを知っていてそれを襲うことはない。

 

 獲物を狙う捕食獣の視線。強烈な殺気。かばんの身体は恐怖で竦み上がりそうになる。

 

「だ、大丈夫だよね、ここには登ってこれない……筈」

 

 そして、三つ目の勘違い……

 

 獣はスタスタと一度後ろに下がり、かばんのいるプレハブ小屋に向き直ると身を屈めて睨みつけ……

 

 猛ダッシュ!

 

 十分な加速を保ってジャンプ!

 

 ダーンと激しい衝撃音を立てながら前足が軒に掛かり、半身が屋根に乗っかった。

 

「うわあああああああぁっ!」

 

 獣が一旦引き下がったのは、屋根の上に登ってこれないからなどではなく、サーバルが一緒だったからに過ぎなかった。

 身体を引っ張りあげて完全に屋根の上に登ってきた獣。

 

「ガルルルルル」

「あわわわわ」

 

 ポタリポタリと、涎が滴り落ちる。

 

「グワゥッ!」

「わああぁっ」

 

 獣は唸り声と共にかばんに飛びかかってくる。

 かばんは身を伏せて体勢を低くして、そのまま屋根の上を転がって下に落ちた。獣の一撃は外れ、足場が悪い屋根の上で着地を失敗し転んでいる。

 地面に叩きつけられ、衝撃で目から火花を飛ばしていたが今は悶絶している暇はない。

 すぐに立ち上がって、サーバルやボスがいるであろう倉庫を目指して走って逃げていく。

 

 ズタン、と後ろで音がするが振り返る暇すらない。獣がかばんを追って地面に着地してきた音に違いないから。

 

「た、たすけて、サーバルちゃん、た、食べられちゃうっ!」

 

 泣きながら必死に逃げるかばんだが、後ろから追ってくる獣の気配は確実に近づいてきている。

 

 とても用心深く、賢い、優秀な捕食動物(プレデター)だった。もう獲物(かばん)が獣から逃れる手段は無い。

 

「グワアァァッ!」

「いやあぁぁああああっ!」

 

 大きな口を開け、牙を剥き出し、一気にかばんに迫る獣。

 

 ……が、獣の牙はかばんに届かなかった。

 獣の前に立ち塞がり、その顎を手で掴んで受け止めて、動きを止めた者がいた。

 

「また悪さして!フレンズを襲ったら許さないって言ったよね!」

 

 言い放つと、強烈なキックを獣にお見舞いする。

 

「ギャウン!」

 

 空中でクルクルと回転する程派手にぶっ飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられた獣は悲鳴を上げて逃げていった。

 

「ふぅ、間一髪、危なかったね~」

 

 まだ瞳からは涙が溢れ、腰を抜かし、恐怖で竦み上がって震えるかばん。

 

「た、た、た……」

「うんうん、助かったよ、もう大丈夫だから」

「食べないでください!」

「えええ、食べないってば!」

 

 

 

 ……………

 

 

 

「あの、すいませんでした」

「いいのいいの、気が動転してたんだもんね、気にしないで!」

 

 落ち着いたかばんは、そのフレンズに頭を下げていた。助けてもらったのに大変失礼なことを口走ってしまったことを心から恥じる。

 彼女は鮮やかな赤と水色の羽が美しく、ボリュームのある前髪が大きな嘴のような形をしていた。

 

「トリのフレンズさんですか?」

「うん、アタシはディアトリマのディア。ガーディアンやってるの、よろしくね!」

「ガーディアン……」

 

 ステラが言っていたガーディアンのフレンズと会えた。噂に違わずかなりの強者らしいが、とっても気さくでフレンドリーな性格のフレンズらしい。

 しかし、

 

(やっぱり、彼女の瞳も)

 

 ディアの黄色の瞳にハイライトは無く、やはり陰が……

 

「かばんちゃーん!」

「サーバルちゃん」

「あ、仲間がいたのね」

「誰ー?」

 

 サーバルの隣からひょっこり現れたのは、スペアボディを手に入れ復活を果たしたラッキービースト。

 

「ラッキーさん」

「あ、ボスが直ってる?」

 

『ディアトリマ、ツル目ガストルニス属ディアトリマ科。

ディアトリマの翼は退化して空は飛べないけど、堂々とした体格とそれを支える強靭な脚、大きな嘴を持ち、生態系の頂点に君臨していたよ。ディアトリマの仲間は恐鳥類と呼ばれるよ』

 

「ガイド機能も復活したんですね」

「ディアトリマっていうんだ。私はサーバルキャットのサーバル、よろしくね!」

「あ、僕はかばん、ヒトです」

「……」

「あれ、ディアさん?」

「どうしたの?」

 

「うわあああああああっ!ボスが喋ってるぅうううっ?」

 

 ……お約束のリアクションだった。

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

「えっ、さっきの子がまたかばんちゃんを襲ってきたの!」

「うん、もう少しで食べられるところだったけど、ディアさんが助けてくれたの」

「そっかぁ、かばんちゃんを助けてくれてありがとうね、ディア」

 

 感心したように頷いてかばんとサーバルの両方を見るディア。

 

「サーバルにとってかばんは大切なフレンズなんだ?」

「当たり前だよー、かばんちゃんはフレンズの中のフレンズなんだから!」

「えへへ」

 

 サーバルの遠慮のない評価に思わず赤面するかばん。ディアは微笑みを浮かべるが、その後はちょっとだけ寂しそうに俯いた。

 

「フレンズの中のフレンズか……」

「どうしたんですか?」

「な、何でもないわ!」

「それよりジャパリマン食べよ、ディアも一緒に!」

「何それ、美味しそう」

 

 東屋のベンチに三人並んで腰掛けて、かばんの鞄から出してきたジャパリマンをモグモグと食べ始める。

 

「美味しいー」

「うん、そうでしょそうでしょ!」

 

 野外で食べるお弁当は何故かいつもよりも美味しく感じる。遠足気分というのだが、三人のフレンズたちにはよくわからない。

 

「ミャ!」

 

 並外れた聴覚を持つサーバルの耳が反応、三度姿を現わしたあの獣。

 

「まだかばんちゃんを諦めてなかったの! 今度は私が相手になるんだから!」

 

 珍しくプリプリと怒りながらサーバルが立ち上がって身構えるが、ディアがそれを制しながら立ち上がる。

 

「待ってサーバル。あの子、お腹が減ってるのよ」

「え?」

「かばん、ジャパリマンまだある?」

「あ、ハイ」

「ディア、危ないよ!」

 

 ジャパリマンを持って獣へ近づいていくディア。かばんとサーバルはディアの身を案じるが、

 

「クゥーン」

 

 獣は先程とは打って変わって大人しく、ディアがジャパリマンを地面に置くと素直にそれを咥えて持っていく。

 

「アレ?」

「これってどういう?」

「本当は悪い子じゃないの、普段はフレンズを襲わないし。お腹が空いていたのと、アナタたちが見慣れないフレンズだったから野生の本能でね……。私が謝るから、あの子を許してあげて」

「どうしてディアが謝るの?」

 

 サーバルの頭上に疑問符が浮かび上がっていたが、かばんは何となく事情を察知する。

 

「ディアさん、もしかしてあの子って……」

 

 ディアの表情は哀しみに満ち、しかし獣を見つめる瞳には優しさを含んでいる。

 

『ヒエノドン、肉歯目ヒエノドン科。食肉目と同じ裂肉歯を備える。素早い動きと群れを成してチームプレーで狩りを行なったと考えられ、ネコ、イヌ、クマの仲間が台頭してくる前に繁栄し、生態系の頂点に君臨していた肉食哺乳類の仲間だよ』

 

「ボスの言う通り、彼女はヒエノドンのヒエイ、もともとフレンズだったの」

「ええっ!」

「やっぱり…」

「最初はたくさんいたガーディアンの仲間たち。皆強くて勇敢で、明るくて優しい子ばかりで、大切なフレンズだったけど、もうだいぶ少なくなっちゃったんだ……」

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